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東京高等裁判所 昭和61年(う)1678号 判決 1987年2月26日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人脇田輝次が提出した控訴趣意書に、これに対する答弁は、東京高等検察庁検察官検事伊藤實が提出した答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これを引用する。

一  事実誤認の主張について

論旨は、原判決第一の道路交通法違反の事実につき、被告人が毎時一六八キロメートルの速度で自動車を運転して進行したことはないから、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があるというのである。

そこで検討するに、関係証拠によれば、原判示第一の、被告人が制限速度を八八キロメートル超える毎時一六八キロメートルの速度で自動車を運転して進行した事実を優に認めることができる。所論は、この点に関する被告人の自白は真意に基づくものではないと主張するが、被告人は捜査段階においてのみならず、原審公判廷においても右速度違反の事実を認めていたのであるから、自白は真意に基づくものであつて、その内容が虚偽のものであるとは認められないし、仮に被告人の右自白を除いても、右速度違反の事実はその余の証拠で十分認められるので、所論は理由がない(なお、弁護人は、被告人が、捜査段階で自白したのは、争えば量刑上不利になることを恐れ、なんとか略式手続で罰金にしてもらおうと考えて敢えて争わなかつたものであり、原審公判廷で認めたのも、量刑上有利に参酌してもらうほうが得策であると考えていたためであるところ、原判決の量刑が懲役三月の実刑であつたため、被告人は控訴して真実は毎時一六八キロメートルで自動車を運転して進行したことはない旨の新たな供述をするに至つたものであるから、右被告人の新たな供述は刑訴法三八二条の二所定の「やむを得ない事由によつて第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかつた証拠」に該当すると主張するが、仮に所論の主張するような事情があつたとしても、そのような事情は刑訴法三八二条の二にいう「やむを得ない事由」に当たらない。)。その他、被告人の当時の走行速度が毎時一六八キロメートルであつたことは計算上ありえないとの主張は、独自の理論を展開するものであつて、採用の限りでない。

二  量刑不当の主張について

本件の罪質、態様、動機、被告人の前料、本件がいずれも前刑の執行猶予期間中に行われていること等に照らすと、被告人の交通法規に対する規範意識の乏しさは顕著であるというのほかなく、被告人の家庭状況等、所論指摘の諸事情を十分考慮しても、被告人を懲役三月に処した原判決の量刑は相当であつて、これが重すぎて不当であるとは到底言えない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

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