東京高等裁判所 昭和61年(う)305号 判決
違法な別件逮捕,勾留に関する所論につき検討すると,被告人は昭和60年9月20日に恐喝未遂罪で通常逮捕され,引き続き勾留されたものであるが,その捜査の端緒は,被害者である小柳信一が交番を訪ねて被害事実を申告し,相談をしたため,交番勤務の警察官から刑事防犯課暴力犯捜査係の平井警部補に報告したことによるものであることが窺われ,結果的に公訴提起に至らなかつたとはいえ,その罪質,法定刑に照らして見ても,また,勾留期間中に被疑者調書が少くとも3通作成されていること(司法警察員に対する同月21日付,同月29日付,検察官に対する同月27日付各供述調書謄本が原審に提出されている。)に徴しても,捜査官において,令状主義を潜脱し,当初から本件覚せい剤使用事実の捜査を行う目的で,取り調べる意図もない恐喝未遂事実による身柄拘束を利用したものとは到底認め得ないことは,原判決の指摘するとおりである。そして,本件覚せい剤使用事実に関する被疑者調書は,すべて本件覚せい剤使用事実による再逮捕のなされた同年10月11日以降において作成されたものであつて,恐喝未遂事実による身柄拘束中になされたのは,被告人の尿の任意提出のみである(これに引き続く鑑定嘱託や鑑定,法定の除外事由の有無に関する照会などは,捜査機関側の行為であつて,被疑者の取調べとは関係がない。)。たしかに,平井警部補は,恐喝未遂事実による逮捕当日である同月20日に被告人に尿の提出を促し,翌21日朝にその提出を得ているのであるが,これは,時日を経過すれば採尿しても覚せい剤の検出が不可能になるという証拠方法の特異性によるものであつて,当初から採尿の目的で逮捕したとか,恐喝未遂事実については取調べの意図がなかつたということの証左とはなり得ない。そして,逮捕した時点で,被告人に尿の提出を求める合理性,必要性のあつたことは,被告人の顔色が青白く,目がやつれており,左右の腕に新しい注射痕が認められた事実によつて裏付けられている。してみれば,本件尿の提出は任意捜査として適法になされたものであり,これに基づく領置,鑑定嘱託,鑑定など一連の手続及びその結果が違法収集証拠となるものではないことはいうまでもない。