大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和61年(う)372号 判決 1987年1月19日

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

一弁護人の控訴趣意第一点について

所論は、被告人は何が何か分からないという心理状態で本件水道栓開閉用ハンドルを父Aの頭上に振りおろしたもので、その際同人を殺害する意思を有していたものではないから、被告人の殺意を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある、というのである。

よつて、関係証拠に照らして判断するに、先づ、被告人が本件所為に及ぶまでの経緯については、原判決も詳細に判示するとおりであつて、大要次の事実が認められる。

被告人は、父Aのもとで出生してから、東京で大学生活を送つた時期を除き、就職、婚姻、三子出生を経て、終始同人と同居生活をしてきたものであるが、Aは、酒を好み、終戦後復員して間もないころから、酔余しばしば些細なことに立腹して被告人やAの妻B(被告人の義母)ら家族の者に対し、殴つたり蹴つたりするなどの暴力をふるい、あるいは、刃物を示しながら「殺してやる。」などといつて脅すことがあつた。Aの右の所業は、被告人の結婚後はその妻Cに対しても向けられたため、同女は難を避けて近所の家に逃げ込み、あるいは、新潟県白根市の実家に逃げ帰つたりすることがあり、被告人に対しAとの別居を迫つたりしたこともあつたけれども、被告人は身体の不自由なBをAのもとに残して別居することに不安を感ずるなどの理由から別居することに踏み切れないまま、ひたすら忍従の生活を過していた。昭和六〇年五月二二日、Aは、原判示の経緯で、被告人の出張留守中にCを家から追い出し、同女はやむなく三子と共に実家に帰り、Aは、間もなく帰宅した被告人に対し、同月二四日までの間、原判示のように、「Cが子供を連れて出て行つた。」「嫁が悪いのはお前の教育が悪いからだ。」「こうなつたのはお前が悪い。殺してやる。」「下の子はいらない。長男だけ連れて来い。」「長男を連れに行かないのか。おれが白根に行つて全部解決してくる。」「会社に行く必要はない。長男を迎えに行け」などと怒鳴りちらし、この間Bに対しても殴る蹴るの暴力をふるうなどして、強度の興奮ぶりを示した。

同月二五日、Aは、早朝から酒に酔つて被告人を呼び起こし、原判示のような経緯で、被告人に対し、「おれが白根に行き、Cを殺して長男を連れてくる。」「お前は家庭のこともまとめられないのだから、会社なんか辞めてしまえ。」「どうせ会社を辞めるのだから電話なんかしなくていい。」などと怒鳴り、自ら被告人の勤務先会社の社長宅に電話をかけようとして被告人に制止されるということがあり、さらに、「会社を辞めろ。長男を今から車で迎えに行け。」「Cは悪い奴だが、お前が一番悪い。」「お前には親の資格がない。」などと云つてなじり、被告人は、憤激の余り、Aに対し「俺だつて逢いたいのを我慢しているんだ。」と怒鳴り返したこともあつた。その後、被告人は、朝食を済ませたAから、「お前がすべての元凶だ。お前から先に殺してやる。」といいつつ強くにらみつけられ、いつたん台所に行つたものの間もなく居間にいる同人の様子を窺つたところ、同人が異様な形相で座椅子の前に立ち、ペティナイフ(刃渡り約一二センチメートル)を右手に持つて肩を小さく回すようにしているのを見、同人が気が狂つてそのナイフで被告人を攻撃してくるのではないかと考えて恐ろしくなり、台所に戻つて、風呂釜の脇に置いてあつた鉄製の水道栓開閉ハンドル(当庁昭和六一年押第一一九号の1。長さ約六四・五センチメートル、直経約三・八センチメートル、重量約一・九キログラムのもの。以下単にハンドルという。)を、Aからの攻撃があつた場合にはこれで防ぎ、見とがめられた場合は水道の水の出を良くする仕事をするところである旨告げて同人の気をそらそうという気持で、手に持ち、その後間もない同日午前九時二〇分ころ、同人から呼ばれて右ハンドルを持つたまま居間の入口まで行き中をのぞくと、同人が前にも増して異様な形相で、目をぎらつかせ座椅子に座つていたので、もはや同人に水道修理の話をしてもその気をそらすことはできないと考えたものの、同人から「こつちに来い。」と命じられるまま、右のハンドルを右後ろ手に持つて背中に隠して同人の前に進み、「そこに座れ。」と云われたのに対し座らずにいたところ、同人が、いきなり、「お前から先に殺してやる。」と鋭い口調で云いながら座椅子から腰を浮かして立ち上つてこようとしたのを認め、とつさに、右ハンドルを両手で振りあげざま、これを同人の頭部に振りおろし、このため同人は、ほぼそのころ、同所で、脳挫傷及びクモ膜下出血により死亡するに至つた。同人の受傷状況は、左前頭部から頭頂部にかけて長さ約八・七センチメートル、幅約〇・七ないし〇・八センチメートルに哆開した創傷があり、頭蓋冠において右創傷に一致してほぼ正中を前後に走る骨折線を中心として左右一一センチメートル前後一四センチメートルの範囲にわたつて陥没骨折となり、大小不同の数個の骨片に粉砕状に骨折しており、この陥没骨折部から放射線状に左右側頭部にかけて骨折が数条走り、頭蓋底において前頭部の骨折と連続して前頭蓋窩のほぼ正中に骨折があり、左右前頭から頭頂にかけて一二・〇×一三・五センチメートルの範囲に、所々に脳挫傷を伴うクモ膜下出血がある、というものである。

以上の事実については、被告人が、捜査及び公判段階を通して、自認し、ないしは、争つていないところであり、関係証拠に照らして明らかにこれを肯認することができる。

所論は、被告人がAの頭上にハンドルを振りおろした際同人を殺害する意思はなかつた旨を主張するので、関係証拠に照らして判断するに、前示のような兇器の性状、Aの受傷の部位・程度・被告人の攻撃態様、犯行に至る経過等の諸情況がいずれも優に被告人の殺意を示す徴憑であるほか、右ハンドルを振りおろした際の気持に関する被告人の捜査段階における供述を検討してみると、表現に若干の変遷はあるが、要するに、① Aに呼びつけられてその面前に進み出た際同人が被告人に対し「お前から先に殺してやる。」と語気鋭く申し向けながら、ナイフを右手に持つて(このナイフを右手に持つたとの点は、自首調書における供述中には存しない。)、座椅子から身を起こして立ち向つて来ようとしたのを認め、自分が殺される前に同人を殺そうという気持で、とつさにハンドルを同人の頭上に振りおろしたこと、② その際の被告人の気持の中には、それまでの、Aに対する恨みつらみが一度にふき出したような感じとか父を殺して家庭の平和を取り戻したいという気持も存したこと、③ その際の被告人は、かなりの興奮状態にあつたこと、などを具体的にかつ率直に述べていることが認められ、これらの諸点は、相互に排斥し合う文脈において述べられているわけではないことを考慮すると、被告人は捜査段階において犯行時に殺意があつた点についてはほぼ一貫してこれらを認めていたとする原判示は相当であるというべきところ、右供述は、前示のような、本件犯行の直前における情況を含む犯行に至る経緯の大筋、並びに、兇器の性状及びAの受傷の部位・程度ともよく符合していて、(後示のとおりAがナイフを手に持つているのを認めたとする部分を除き、)その信用性を十分肯認することができる。そして、被告人は、ハンドルをAの頭上に振りおろしたのち、同人が座椅子に座り込むように倒れたのを認めながら同人の身体になんら手を触れることなく、医者を呼ぶなどの措置もとらないまま、同人をその場に放置して立ち去るという行動をとっていること、被告人が本件当日の午後再び自宅に戻つてAの死を確認した際同人に対する真しな謝罪の態度を示したと認められることは、必ずしも所論の指摘するように本件所為の当時における被告人の殺意を否定するに足りる事情であるとはいえないことなどを併せ勘案すると、本件所為当時、被告人にはAを殺害する意思があつたものと認めざるをえない。

被告人の原審及び当審における所論に沿う供述部分は、叙上の証拠ないし事実関係と対比して、これを措信することができない。

以上によれば、被告人の殺意を認めた原判決に所論の事実誤認は認められず、論旨は理由がない。

二検察官の控訴趣意第一点及び弁護人の控訴趣意第二点について

検察官は、被告人の本件殴打行為はなんらAの急迫不正の侵害から自己の生命身体を防衛するために出たものではなく、また、急迫不正の侵害があると誤想したことによるものでもないから、右行為につき誤想に基づく過剰防衛の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があり、仮に、被告人が急迫不正の侵害があると誤想錯覚したとしても、当時の客観的事情に照らすとそのように誤想したこと自体が極めて軽率な判断であつて、誤想したことに相当性がなく、このような場合は誤想防衛が成立しないと解すべきであるから、これを認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用の誤りがある、といい、弁護人は、被告人の右所為は、Aが被告人に対し「お前から先に殺してやる。」と云つてナイフを持つて立ち向つてきたため、右急迫不正の侵害から自己の生命、身体を防衛するためやむをえず行つた正当防衛行為であるから、これを誤想に基づく過剰防衛にすぎないものと認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある、というのである。

よつて、被告人の本件所為につき正当防衛ないし過剰防衛の成否について判断するに、先ず、Aが前示のように座椅子から腰を浮かして立ち上がろうとした際すでに所論ナイフを握持していたかどうかの点については、関係証拠により認められる、同人が被告人に殴打されて転倒した際の姿勢、これと被告人の捜査及び公判段階における供述により推認されるAの立ち上がろうとする際の姿勢、これと現場に残された右ナイフの位置・刃先の方向、とくに右転倒時におけるAの右手と右ナイフの位置・刃先の方向との関係、間隔等を併せ検討すると、同人は、立ち上がろうとする際いまだ右ナイフを握持するに至つていなかつた高度の蓋然性があり、しかも原審で取り調べた関係証拠のほか、当審における現場の明るさを含む情況についての検証結果、並びに、Dの当審証言によると、被告人は、犯行の翌日自首して初めて警察官に対し供述した際、被告人が犯行直前にAのいる居間に入つたときはナイフがテーブル上に置いてあつた旨、及び、その後同人が立ち上ろうとした際ナイフを手に持つていたかどうかは気持が動揺していたため記憶していない旨を供述していたものと認められることに照らせば、被告人が、Aにおいて右ナイフを握持していないのにこれを握持しているものと錯覚したとの主張を認めることには証拠上かなりの無理が伴うといわざるをえない。

しかし、翻つて検討するに、Aは、前示のとおり、本件の数日前から従前にない異様な興奮ぶりを示していたうえ、本件当日も被告人による本件所為の前、被告人に対し、「お前がすべての元兇だ。お前から先に殺してやる」旨申し向け、その後座椅子の前に立ち、異様な形相でナイフ(前示のとおり、刃渡り約一二センチメートルのもの)を右手に持つて肩を小さく回すという、被告人をして気が狂つたものと思わせるような動作をしていること、その後間もなく被告人を居間に呼びつけた際も、Aは、前にも増して異様な形相で目をぎらつかせて座椅子に座つていたが、被告人がAに座れと云われても座らずにいたのに対し、いきなり、「お前から先に殺してやる」旨語気鋭く申し向けて座椅子から立ち上がろうとしたものであること、Aは、当時相当酩酊していたものの、そのころまでの同人の言動に照らしても、いまだ他人に危害を加えるに足りる体力を保有していたものと認められることなどを考慮すると、Aのその際の挙動は、もはや被告人を威迫するという域に止まるものでなく、その言辞のとおり被告人に危害を加える意思でなされたものと認める余地があり、してみると、Aが右のように申し向けて立ち上がろうとした際にはいまだナイフを握持していなかつたとしても、瞬時の間に傍らのテーブル上に鞘を払つた状態で置いてある右ナイフを手にして被告人に対し切りつけ又は突きかかる等の挙に出る勢いのある態勢にあり、その危険が現在する情況にあつたものと認めることができるから、Aの右挙動は、すでに被告人の生命身体に対する急迫且つ不正の侵害を開始するものであり、被告人は、Aの右の言動及びその勢いを目前に認め、やむなく自己の生命身体を防衛するためもあつて、本件所為に及んだものと認める合理的な疑いを容れるべき情況が存在するといわなければならない。

もつとも、被告人が本件所為に及んだのは、Aの被告人やその家族に対するそれまでの数々の仕打ちに対する恨み、憤激等の気持がうつ積し、被告人自身緊張した心理状態にあつたところ、これがAによる前示の挙動に触発されて一時に発したことにもよると認められることは、その旨をいう被告人の捜査官に対する供述が、前示のような本件所為に至るまでの経緯とよく符合していて十分信用しうること、及び、被告人が、前示のとおり、父であるAに対しその頭部に前示鉄製ハンドルを振りおろすという、後示のように防衛行為としては過剰な反撃の挙に出ている事実に照らして明らかであるといわなければならないが、このように被告人が本件所為に出た際Aに対する憤激等の気持を併せ有していたことが同所為の防衛行為性を否定するものでないことは原判決も指摘するとおりと解される。

また、被告人が前示のとおり犯行直前にAに呼びつけられ、ハンドルを後ろ手に隠し持つたうえ居間に入つて行つた時点においては、被告人としては必ずしもAがその後いかなる言動に出るかを明確に予想したわけのものではないのであり、被告人の、その際の心境に関する捜査官に対する供述等にも照らすと、被告人に、Aの本件におけるような挙動を利用して同人に対し積極的に害を加えようとする意思があつたとまで認定することができないことは、原判決も判示するとおりであるから、この点においても、本件被告人の所為の防衛行為性(Aによる侵害の急迫性)を否定することはできない。

以上によれば、被告人の本件所為は、刑法三六条所定の、急迫不正の侵害に対し自己の生命身体を防衛するためやむを得ず出た行為にあたる情況が存在すると認めるのが相当である。

しかしながら、原判決も適切に判示するとおり、Aの年令、被告人との体力差、当時の被害者の酩酊度、対面する両者の位置・姿勢関係、使用され、また、使用されようとした双方の兇器の各性質・形状、被告人としては、前示ハンドルを使用するとしても、これでAの手、腰などを払う等の挙に出れば防衛するに足りたものと認められることなどにかんがみると、右ハンドルをAの頭部に振りおろして同人を殺害した被告人の本件所為が、防衛の程度を超えた、いわゆる過剰防衛にあたることも、また、明らかであるといわなければならない。

以上によれば、本件所為につき被告人の誤想に基づく過剰防衛を認めた原判断は、単に被告人がAによる急迫不正の侵害があると誤想したことに基づく防衛行為と認めた点において首肯し難い点があるものの、本件犯行前後の情況および当審が急迫不正の侵害の存在を肯定した諸状況事実につき基本的に当審判断と同様の事実認定に基づき結論として被告人の本件行為につき過剰防衛の成立を認めた点において相当であり、右の点の誤認は本件においてはいまだ判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。

よつて、検察官及び弁護人の各所論は、以上に認定した限度で採用することができず、論旨はいずれも理由がない。

三検察官の控訴趣意第二点及び弁護人の控訴趣意第三点について

検察官は、原判決の量刑は不当に軽い、といい、弁護人は、右量刑が不当に重い、というのである。

よつて、関係証拠に照らして判断する。

本件は、前示のとおり、被告人が実父Aによる前示のような攻撃から自己の生命、身体を防衛するため、防衛の程度を超えて前示鉄製のハンドルをAの頭部に振りおろして同人を殺害したという過剰防衛による殺人の事案であるが、前示のような、被告人の本件所為が防衛の程度を超えたものと認めた理由として挙示した諸事情にかんがみると、右過剰の程度は相当に大きいものと認めざるをえず、また、右所為は、前示のとおり、Aの被告人やその家族に対するそれまでの数々の仕打ちに対する恨み、憤激の気持が一時に発したことにもよるもので、防衛意思のみによるものでないことを考慮すると、本件所為が防衛行為にあたるという点を被告人にとり決定的に有利な事情として斟酌することは相当でないというべきであること、本件の罪質が重いこと、態様、結果が残虐であること、原判決も指摘するとおり、Aが長年にわたって被告人を養育し、大学教育まで受けさせたのちも手元におき、それなりに被告人のことを考え、被告人を頼りにしていたと思われる老令の実父であることなどにかんがみれば、犯情は芳しくなく、その刑責には相当に重いものがあるといわなければならない。

しかしながら、一方において、被告人の本件所為は、前示のとおり、防衛の程度を超えたとはいえ、Aによる急迫不正の攻撃から自己の生命、身体を防衛するために出た防衛行為であること、本件犯行は、Aが、従前から酔余些細なことに立腹して被告人ら家族の者に暴力をふるい続け、とくに本件発生の三日前からは、被告人の妻子を追い出してしまい、被告人に対し長男だけを引き取つて離婚するように迫つたり、会社を辞めるよう申しつけて社長宅に電話をかけようとするなど得手勝手な言動をし、被告人の妻子との家庭生活を破壊しかねない気勢、態度を示したうえ、遂には前示のように被告人に対する直接的な攻撃の挙に出たことにより誘発されたものであつて、これらは被害者の落度として重視せざるをえないこと、被告人は、Aの右のような横暴に耐え、前示のとおり義母BをAのもとに残して自分と妻子のみが別居することに踏み切れないままひたすら忍従の生活を続けていたものであり、本件犯行は、この間にうつ積したAに対する恨み、憤激の気持が前示のような同人からの攻撃に触発されて一気に発したことによるものであつて、右事情は被告人のために有利に斟酌することができること、関係証拠により認められるAや被告人の性格、両者の関係、Aの年令等にかんがみると、被告人が本件に至るまでにAをなんらかの治療ないし矯正施設に収容しなかつたことをもつて強い非難の対象とすることもやや酷に失するものと考えられること、被告人は犯罪の前科がなく、勤務先、地域社会において相応の役割を果たすとともに、家庭においては前示のような事情のもとでAやBによく仕え、その面倒をみてきたものであること、本件犯行の翌日に自首していること、犯行後罪の大きさを自覚し、今後反省の日々を送ることにより一生をかけて贖罪に努めたい旨誓つていること、前示Bが病臥入院中であり、家庭には妻及び六歳を頭とする三子を抱えていることなど被告人に有利な、ないしは、被告人のために酌むべき事情も認められるので、これらの諸事情を彼比勘案して本件の情状を検討し、被告に対する量刑につき判断してみると、被告人を懲役二年六月に処した原判決の量刑は、刑の執行を猶予しなかつた点においても、また、その刑期の点においても、相当であるものと思料され、原判決に量刑不当のかどがあると認められない。

したがつて、検察官及び弁護人の各論旨はいずれも理由がない。

四よつて、本件各控訴はいずれも理由がないので、刑訴法三九六条によりこれを棄却し、当審における訴訟費用を負担させることにつき同法一八一条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岡田光了 裁判官礒邊衛 裁判官坂井 智)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例