大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(う)758号 判決

被告人 上田徹

〔抄 録〕

所論に対する検討に先立ち、職権をもって調査するに、原判決には、判示第一の相続税法違反の事実につき、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがあり、量刑不当の論旨につき判断するまでもなく原判決中被告人に関する部分は破棄を免れない。以下、その理由を説明する。

原判決は、判示第一の事実として、「被告人及び原審相被告人亀山輝雄は、分離前の原審相被告人青山吉彦から同人の実父青山藤吉郎の死亡により同人の財産を他の相続人と共同相続したことに伴う右青山の相続税等を免れることについて相談を受けていた者であるが、青山は、昭和五八年八月二六日、東京都町田市中町三丁目三番六号所在の所轄町田税務署において、同税務署長に対し、正規の相続税額一億八九五九万二〇〇円を大幅に下回る九八〇四万三六〇〇円の納税義務を認める相続税申告書を提出した(以下、この申告行為を「当初申告」という。)が、右申告書に計上した株式会社広洋からの借入金二億円の債務の存在につき他の共同相続人から疑いを持たれたので、同債務をその後共同相続人九名で均等に負担することに改め、青山の課税価格は四億四一七七万三〇〇〇円で、これに対する相続税額は一億六三八六万一〇〇〇円である旨の修正申告書を前記町田税務署長に対して提出したものであるところ、被告人は、青山、分離前の原審相被告人清水文平、同松崎繁昭及び原審相被告人亀山輝雄と共謀のうえ、青山の相続税を免れようと企て、昭和五八年一二月二二日、前記町田税務署において、同税務署長大西啓夫に対し、真実はそのような事実がないのにかかわらず、前記藤吉郎の借入金二億円は共同相続人九名で均等に負担するのではなく、右青山が単独で負担することとなったうえ、右藤吉郎には被告人に対して借入金三億円の債務があり、このうち二億五〇〇〇万円を青山が負担すべきこととなったので、これら借入金合計四億五〇〇〇万円等を控除すると、同人の課税価格は一三九九万五〇〇〇円でこれに対する相続税額は四三〇万七七〇〇円となる旨の内容虚偽の相続税の更正の請求書を内容真実なるもののように装って提出して右相続税の減額更正を求め、更に、同日、同所において、右更正の請求書を受理した同税務署総務課長剱持哲司に対し、亀山及び被告人において、こもごも同請求書の記載と同様の詐言を申し向けたり、「上田はんはいろいろ事業をやってて金持ちなんですわ。」、「それ位貸す金持ってますわ。」、「間違いありまへん、そやからはよう決定を出したってや。」などと虚偽の事実を申し向け、もって不正の行為により右修正申告にかかる相続税額と右更正請求書記載の税額との差額(ただし、当初申告により成立した相続税ほ脱罪と評価が重複する六五八一万七四〇〇円、当初申告の際に相続税本税分として納付した四万三六〇〇円及び右修正申告の際に同じく納付した一万七四〇〇円を控除)九三六七万四九〇〇円を免れた」旨の事実を認定し、これに刑法六〇条、六五条一項、相続税法六八条一項を適用している。

すなわち、原判決は、原判示の修正申告後、被告人が青山、清水、松崎、亀山と共謀のうえ、青山の相続税を免れようと企て、内容虚偽の相続税の更正の請求書を税務署長あてに提出して相続税の減額更正を求めたという事実関係において、本件が相続税法六八条一項にいう「相続税を免れた」場合に当たるとし、その理由を「補足説明」の項において、「このような場合には、被告人らと共謀のうえ右青山において未納付の相続税につき、更正請求書において納税義務の存在を認める部分を越える税額について、これを納付しない態度を表明しているのであるから、法の期待する正しい納税義務を履行しない意思が確定的に表現されたものとして、税務署長による更正処分のいかんにかかわらず相続税ほ脱犯(既遂)が成立するものというべきである」と説明しているのである。

しかし、相続税法六八条一項は、偽りその他不正の行為により、相続税等を免れるという結果が発生した場合を処罰するのであるから、同条項違反の罪が成立するためには、単に納税義務者の相続税を納付しない意思が確定的に表明されているだけでは足りず、「相続税を免れる」結果が発生していることを要するのである。もし、原判決のいうところが、納税義務者の相続税を納付しない意思が確定的に表明されることにより相続税を免れるという結果が発生するという趣旨であるとすれば、それは本件の場合にあてはまらないというべきである。すなわち、本件のように、当初申告又は修正申告によりいったん具体的租税債権の確定をみている場合については、更正請求自体は、なんら右租税債権を減少又は消滅させる効果を生ぜず、税務署長の更正処分によって始めてそのような効果が発生するのであるから、このような場合については税務署長の更正処分があって始めて「相続税を免れる」結果が発生するものと解すべきである。しかるに、原判決は、修正申告によりいったん具体的租税債権の確定をみている場合につき、いまだ税務署長の更正処分もなされていないのに、相続税法六八条一項にいう「相続税を免れた」場合に当たるとしているのは、右法令の解釈・適用を誤ったものというべきであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

(海老原 朝岡 小田)

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