東京高等裁判所 昭和61年(く)9号 決定 1986年1月27日
少年 B・R(昭41.5.12生)
主文
原決定を取り消す。
本件を横浜家庭裁判所小田原支部に差し戻す。
理由
本件抗告の趣旨は、少年の法定代理人親権者父が提出した抗告申立書に記載されたとおりであり、要するに原決定は処分が著しく不当であるから取り消すべきであるというのである。
そこで、所論にかんがみ関係記録及び当審事実取調の結果をもあわせて検討するに、本件非行事実は、少年がA外2名と共謀のうえ、昭和60年7月4日、平塚市内の事務所内において、現金5,000円を窃取した事案であるところ、その犯行動機は所持金を使い果し、小遣銭に窮したためで、犯行態様も右事務所の窓ガラスを破壊したうえでの侵入盗であること、加えて、少年は昭和59年6月、道路交通法違反等の非行により保護観察に付された前歴を有していることなどの諸点に照らすと本件犯情は必ずしも軽視し難いものであり、少年を中等少年院に送致した原審の措置もあながち首肯し得ないわけではない。
しかしながら、さらに検討すると、本件窃盗の被害金額が比較的少額であるうえ、すでにこれと窓ガラスの破損費の弁償がなされたこと、少年が刑法犯で審判を受けたのは本件が最初であること、少年は前歴の非行で保護観察決定を受けたあとである昭和60年4月に神奈川県立○○商業高校(定時制)に再入学し、同年6月成績良好のため保護観察解除になり、同年10月には同県内の定時制・通信制高校生徒の生活体験発表大会で優秀賞を獲得し、同年11月には同県の殊算大会に学校代表として参加するなど学習意欲も旺盛であり(成績はクラスで1位、無欠席)、少年の今後の復学については学校側でも積極的に望んでいること、少年のもともとの非行化の原因は、母親と離婚した父親に対する反発にあつたと思われるが、その点は現在少年自身心の整理ができ父親と協調的になつていること、少年の年齢が成人に近く自らを律する能力及び自己を向上させていこうとする意欲も相当高まつており、入院後約1か月経過した少年院における少年の現在の生活態度も良好と認められることなどの諸事情を斟酌すれば、少年に対してはなお保護観察などの社会内処遇によつてその更生を期待することも十分に可能であると認められ、少年を中等少年院(一般短期)に送致した原審の処分は著しく不当であるといわなければならない。
よつて、本件抗告は理由があるので、少年法33条2項により原決定を取り消し、本件を横浜家庭裁判所小田原支部に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 高木典雄 裁判官 小林充 奥田保)
抗告申立書<省略>
〔参照1〕 送致命令
昭和61年(く)第9号
決 定
本籍神奈川県中郡○○町○○×××番地住居同県平塚市○○×丁目××番××号(静岡少年院在院中)無職(商業高校定時制1年)B・R昭和41年5月12日生右の者に対する窃盗保護事件について、横浜家庭裁判所小田原支部が昭和60年12月26日になした中等少年院送致決定に対して、少年の親権者父から抗告の申立があり、これに対し当裁判所は昭和61年1月27日原決定を取消し、事件を横浜家庭裁判所小田原支部に差し戻す旨の決定をしたので、さらに少年審判規則51条に従い、次のとおり決定する。
主文
静岡少年院長はB・Rを横浜家庭裁判所小田原支部に送致しなければならない。
昭和61年1月27日
(東京高等裁判所第7刑事部裁判長裁判官 高木典雄 裁判官 小林充 奥田保)
〔参照2〕原審(横浜家小田原支 昭60(少)2512号 昭60.12.26決定)
主文
少年を中等少年院に送致する。(一般短期処遇)
理由
(非行事実)
司法警察員作成の昭和60年11月28日付少年事件送致書記載の犯罪事実のとおりであるから、これをここに引用する。
(適用法令)
刑法235条、60条
(保護事由)
当裁判所の審判の席における少年及び保護者並びに出席者Bの各陳述及び家庭裁判所調査官作成の少年に関する少年調査記録(少年鑑別所作成の鑑別結果通知書等同記録に編綴されている関係書類一切を含む。)によつて明らかな本件非行の動機、態様、少年の行動歴、保護者の保護能力の程度、家庭環境及び少年の資質等諸般の事情を総合して考慮すると、社会内処遇によつて少年の再非行を抑止することは困難であり、少年の健全な育成を期するためには、この際、少年を中等少年院に収容して、規律正しい生活のもとに矯正教育を施し、社会生活の基本的問題についての指導を行い、その生活態度の改善を図る必要があるものと認められる。
よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条に則り、主文のとおり決定する。
参考1 司法警察員作成の少年事件送致書の犯罪事実
被疑者は、A他2名と共謀のうえ、昭和60年7月4日午前5時ころ、神奈川県平塚市○○×番××号所在の○○石材西営業所において、C所有の現金5,000円を窃盗したものである。
〔編注〕受差戻し審(横浜家小田原支昭61(少)60号昭60.2.10保護観察決定)抗告申立書は省略した。