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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)2041号 判決 1987年1月27日

控訴人 附帯被控訴人(被告) 日本国有鉄道

被控訴人 附帯控訴人(原告) 国鉄労働組合

主文

本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。

控訴に関する費用は控訴人の、附帯控訴に関する費用は被控訴人の各負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決、及び附帯控訴として「原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。控訴人は被控訴人に対し金五〇〇万円及びこれに対する昭和五八年一〇月二八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。」との判決を求めた。

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほかは原判決事実摘示のとおり(ただし、原判決四枚目表二行目の「九月一七日」を「九月一四日」に改める。)であり、証拠は、記録中の原審における証拠関係目録のとおりであるから、これらを引用する。

(控訴人の当審における主張)

原判決別紙目録記載の各事項につき、被控訴人が控訴人に対し団体交渉を求める法律上の地位があることの確認は、すなわち、被控訴人には団体交渉を求める私法上の権利があり、控訴人にはこれに応ずべき義務があることの確認にほかならないところ、右団交応諾義務は、単に控訴人が交渉の場に出席することのみをもつて満足するものでない以上、どのような程度、内容の団体交渉を行えば、その義務の履行があつたといえるのか、義務内容が不明確、不特定であつて、とうてい法律上の義務と観念することはできない。のみならず、実際上問題とされるべき点は、当該具体的事情の下でなお団体交渉をすべきか否かということであつて、一般的かつ抽象的に団体交渉事項とされるべきことは何かという問題ではない。既に交渉の余地のない事項等について、一般的、抽象的に団体交渉を求める地位を有する旨の確認をすることは、何ら具体的事件の解決に役立たず、確認の利益がないことは明らかである。

(被控訴人の当審における主張)

乗車証制度の改廃が団体交渉事項であるか否かは、昭和四四年の効績章表彰の基準改正のときにも問題となり、被控訴人が提起した団交義務確認訴訟において、東京地裁は、特に基準規程に効績章授与者には臨時乗車証の交付がなされる旨定めていることを挙げて、右基準の改正は職員の待遇に関するものであり団体交渉事項であることを明確に判示したのであつて、控訴人は、乗車証制度が労働条件に関するものであり団交事項であることを十分に承知していた。それにもかかわらず、控訴人は、今回敢えて再び団体交渉を拒否して被控訴人を窮地に立たせる挙に出たものであつて、これは条理を無視して組合の弱体化を図つたものといわれてもやむをえない措置であり、その違法性は顕著である。また、被控訴人は、あくまで過去における団交拒否という不法行為に基づき損害賠償を求めているのであるから、乗車証制度改廃問題が団交対象事項であることが本件訴訟において確認されたからといつて、これにより既発の損害が回復されるということは論理的にあり得ない。

理由

当裁判所もまた、控訴人の本案前の主張はいずれも失当であり、被控訴人の本訴請求中、控訴人に対して原判決別紙目録記載の各事項について団体交渉を求める地位にあることの確認を求める部分は理由があり認容すべきであるが、不法行為に基づく損害賠償を求める部分は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほかは原判決理由中に説示するとおり(ただし、二〇枚目表五行目の「団体交渉は」から八、九行目の「そうであるとすると、」までを「団体交渉は、対等な交渉主体としての労働組合と使用者との間で行われるものであるから、およそ団体交渉に関する権利義務関係が存在するとすれば、それはまず交渉の当事者である労働組合と使用者との間に存在するものとみるのが自然であり、前記のように憲法及び労働組合法が労働組合の団体交渉権を保障していることの私法関係への投影としての権利義務関係がそこに存するものと解すべきである。右とは逆に、」と、二四枚目表六、七行目の「法律解釈」を「解釈適用」とそれぞれ改め、二五枚目裏五行目の「以前」の前に「昭和二四年」を、二七枚目裏二行目の「用務」の前に「私的な」を、三九枚目裏三行目から四行目にかけての「夕刊」の次に「各紙」をそれぞれ加える。)であるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張に対する判断)

先に引用した原判決理由中で説示してあるとおり、労働組合法一条一項等によって示される団体交渉の性質、同法七条の規定に違反する法律行為の効力、同法六条及び二七条等の関連規定や労働委員会規則三五条及び四〇条に規定する審問手続の当事者主義的構造、更に労働組合法と憲法二八条との密接な関係を総合的に考慮すると、労働組合法七条の規定は、単に労働委員会における不当労働行為救済命令を発するための要件を定めたものであるにとどまらず、労働組合と使用者との間でも私法上の効力を有するもの、すなわち、労働組合が使用者に対して団体交渉を求める法律上の地位を有し、使用者はこれに応ずべき法律上の地位にあることを意味するものと解すべきであつて、団体交渉をめぐる労働組合と使用者との間の関係は、右の限りにおいて一種の私法上の法律関係であるというべきである。そして、本件で争われているのは、労働組合が使用者に対して一定の事項について団体交渉に応ずべきことを裁判上請求することができるような具体的団体交渉請求権の存在ではなくて、原判決別紙目録記載の事項が当事者間の団体交渉の対象となるか否かということ、すなわち、被控訴人が控訴人に対して右事項につき団体交渉を求める地位を有するか否かということであるから、これについて判決により判断を下すことによつて確定される控訴人の地位の内容が不明確、不特定であるということはできない。また、被控訴人と控訴人との間で前記目録記載の事項が団体交渉の対象事項であるかどうかが争われており、この点が判決をもつて確定されれば、その限りで当事者間の紛争が解決されることになるのであるから、確認の利益が認められるものというべきである。確かに、右のような点の確認をしても、それによつて直ちに本件の団体交渉事項そのものについての紛争が解決されるわけではないが、これによつて被控訴人が右のような団体交渉を求めることのできる地位にあるものであることが確定し、控訴人がこれに反するような主張をすることは許されなくなるのであるから、なお紛争解決の実効性があるというに妨げず、したがつて、それが具体的事件の解決に何ら役立たず、確認の利益がないとする控訴人の主張を採用することはできない。

(被控訴人の当審における主張に対する判断)

昭和四四年に効績章表彰の基準に関する事項について控訴人と被控訴人間で本件と同様にこれが団体交渉事項であるかどうかについて紛争が生じて訴訟となり、第一審の東京地裁判決において、効績章表彰では特典として国鉄全線にわたる臨時乗車証の交付がされることを理由に、これが職員の待遇の一つとして行われるものであるとして団体交渉の対象事項であるとの判断がされ、控訴審で係争中に訴訟外の和解が成立して「効績章表彰に関する覚書」が作成され、以後右覚書が協定あるいはこれに準じたものとして取り扱われてきたことは、先に引用した原判決理由中(三六枚目表二行目から同裏一行目)に説示してあるとおりである。右の事実からすれば、控訴人は、効績章表彰の基準の改正に関しては事実上これを団体交渉事項として取り扱つたものと推認することができるが、右の判決は第一審のものであつてしかも確定しているわけではなく、右のような経過があるからといつて、控訴人が乗車証制度の改廃についてこれが労働条件に関するものであり団体交渉事項であることを十分承知していたということはできない。なお、本件における控訴人の団体交渉拒否が被控訴人を窮地に立たせる結果となり、これが条理を無視して組合の弱体化を図つたものと認めるに足る証拠はない。結局、控訴人の団体交渉拒否の違法性の程度はそれほど強いものということはできない。また、被控訴人が本訴において賠償を求めている損害は、被控訴人が控訴人の団体交渉拒否により組合員の信頼を失うとともに労働組合としての社会的評価も著しく毀損されることとなつたことによる損害であるが、右損害は、単に一定時点において一定事項に関する団体交渉が拒否されたという事実のみに基づいて生ずるものというよりは、右拒否の結果、団体交渉を行うことが事実上不可能で、かつ、それが相手方の不当な交渉拒絶によるものであるか否かが客観的に明らかでない状態が継続することによつて生ずるものとみることができるから、本訴において乗車証制度の改廃が団体交渉事項であることが確認されることによつて、相当程度損害が回復されたとみるべきであることは、原判決理由中で説示してあるとおりである。被控訴人の主張を採用することはできない。

以上の次第で、右と同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴及び附帯控訴は理由がないから、いずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中島一郎 加茂紀久男 梶村太市)

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