東京高等裁判所 昭和61年(ネ)2342号 判決 1987年4月08日
控訴人
三橋延平
控訴人
栗原義夫
控訴人
栗原久治
右三名訴訟代理人弁護士
中村直介
被控訴人
株式会社本八幡自動車教習所
右代表者代表取締役
生田房男
右訴訟代理人弁護士
笠原克美
主文
原判決を次のとおり変更する。
被控訴人の昭和五八年五月一〇日開催の臨時株主総会における生田房男、生田浩、糸岐茂徳及び稲波清一を各取締役に、長岡章二を監査役にそれぞれ選任する旨の決議、被控訴人の同年三月二五日開催の定時株主総会における生田房男、生田浩、糸岐茂徳及び稲波清一を各取締役に、長岡章二を監査役にそれぞれ選任する旨の決議並びに被控訴人の同年六月一五日開催の定時株主総会における中田裕を取締役に選任する旨及び会社の所有地を一括売却する旨の決議の各不存在確認を求める訴えをいずれも却下する。
控訴人らのその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも控訴人らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
原判決を取り消す。
被控訴人の昭和五八年五月一〇日開催の臨時株主総会における生田房男、生田浩、糸岐茂徳及び稲波清一を各取締役に、長岡章二を監査役にそれぞれ選任する旨の決議(以下、「五・一〇決議」という。)が存在しないことを確認する。
被控訴人の同年三月二五日開催の定時株主総会における生田房男、生田浩、糸岐茂徳及び稲波清一を各取締役に、長岡章二を監査役にそれぞれ選任する旨の決議(以下、「三・二五決議」という。)が存在しないことを確認する。
被控訴人の同年六月一五日開催の定時株主総会における中田裕を取締役に選任する旨、会社が発行する株式の総数を一六万株とする旨及び会社の所有地を一括売却して他に移転する旨の決議(以下、「六・一五決議」という。)が存在しないことを確認する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決
二 被控訴人
控訴棄却の判決
第二 当事者双方の主張及び証拠関係
次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示及び当審記録中の書証目録の記載と同一であるから、これを引用する。
(控訴人らの主張)
一 株主総会決議があつたとするためには、少なくとも、株主の審理議決権を侵害しないように、①案件の提出、②理由説明、③質疑の催告と応答、④採決、⑤採決の確認と可否の宣言が必要であるところ、本件役員改選の審議においては、右②、③、⑤が欠落しており、④の採決段階において、質問の申出と一部株主の起立が同時になされているので、右のような場合には採決は行われず、③の質疑が行われたに過ぎないというべきであり、本件役員改選の議決は存在しない。
二 本件定時株主総会は、会社創設以来の大変動をきたす役員改選であり、株主の利害に影響するところが極めて大きいものであつた。被控訴人は、北川派の株主が控訴人三橋の意見に影響されることをおそれ、故意に控訴人三橋に対する株主総会招集の通知をしなかつたものであり、そのかしは大きい。
三 北川派以外の株主に役員改選の議事を通知しなかつたことは重大なかしに当たる。
四 株主総会の招集通知及び議題の通知が欠落していることを総合して考えると、本件定時株主総会のかしは重大である。
(被控訴人)
控訴人らの主張を争う。
理由
当裁判所は、控訴人らの本件訴えのうち、五・一〇決議、三・二五決議並びに六・一五決議のうち中田裕を取締役に選任する旨の決議及び被控訴会社の所有地を一括売却する旨の決議の各不存在確認を求める部分はいずれも訴えの利益を欠き不適法であり、その余の請求は理由がないと判断するが、その理由は次のとおり付加、訂正、削除するほかは原判決理由と同一であるから、これを引用する。
一 原判決九枚目裏八行目「そうすると、」の次に「前記」を、原判決一〇枚目表三行目「原告栗原」、同行「原告井上」の次にそれぞれ「(後記採用しない部分を除く。)」を、同四行目「認めることができ、」の次に「原審における控訴人栗原義夫、原告井上輝雄の各供述中、その認定に反する部分は採用することができず、」を、同七行目「北川は、」の次に「前記定時株主総会において、」をそれぞれ加える。
二 原判決一〇枚目裏六行目「そのほかの者」を「石井、牧野、今井及び染谷」と、同一〇行目「(四)」を「(三)」と、同一一行目「陳述した。」から同末行「反論を述べ、」までを「陳述し、」とそれぞれ改め、同八、九行目を削除する。
三 原判決一一枚目表四行目末尾に「なお、控訴人らは、右株主総会決議においては、提出案件の理由説明、質疑の催告と応答、採決の確認と可否の宣言がなかつたから、決議は存在しないと主張するが、右各事項のいずれも決議の成立要件と解することはできないので控訴人らの右主張を採用することはできない。また、控訴人らは、右株主総会の採決段階において、質問の申出と一部株主の起立が同時になされたので採決が行われたということはできないと主張するが、右主張は前記認定事実に照らし採用することができない。」を加える。
四 原判決一二枚目表二行目「照らせば、」の次に「前記役員改選に賛成した」を加える。
五 原判決一三枚目表末行「白井貞」を「石井貞」と改める。
六 原判決一四枚目裏一一行目末尾に「また、被控訴人がアンプロジェクトサプライに譲渡した不動産についてはさらにその転売先である訴外協和建業協同組合に対し被控訴人から直接所有権移転登記が経由された。」を加える。
七 原判決一五枚目裏一〇行目「以上の次第であるから、」から原判決一六枚目裏四行目末尾までを次のとおり改める。
以上によれば、三・二五決議及び六・一五決議はいずれも有効なものとして存在するが、五・一〇決議は存在しないことが明らかである。
ところで、総会決議が不存在である場合には、総会決議に取消原因がある場合と異なり、その決議の不存在確認判決を得るまでもなく、その決議不存在を前提又は理由とする現在の法律関係の効力を争う訴訟によつて、その救済を図ることができるものである。したがつて、取締役、監査役などの選任決議の不存在確認の訴えは、当該選任決議に基づき選任された取締役、監査役などが無権限の行為を繰り返すことにより損害の生じるおそれがある場合、あるいは当該選任決議の不存在を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないなどの特別の事情がある場合でなければ許されないというべきである。
かかる見地から、本件訴えの適否について検討するに、<証拠>によれば、控訴人ら主張の五・一〇決議に基づき昭和五八年五月一〇日生田房男、生田浩、糸岐茂徳、稲波清一がそれぞれ取締役に、長岡章二が監査役に就任し(同年同月一四日登記)、控訴人ら主張の六・一五決議に基づき同年六月一五日中田裕が取締役に就任し(同年同月二七日登記)たが、稲波清一は同年六月一五日取締役を辞任し(同日登記)、その余の生田房男、生田浩、糸岐茂徳、長岡章二、中田裕は任期満了後、改めて再任決議を受け、昭和六〇年四月二日改めて前同様被控訴会社の取締役、監査役に就任したこと(同年六月一二日登記。なお、右重任の登記に伴い、それ以前の役員に関する登記用紙は登記簿から除却された。)が認められ、右事実によれば、控訴人ら主張の前記各決議に基づき選任された取締役、監査役はいずれも辞任または任期満了により退任したものであるから、右各選任決議の不存在確認を求める利益は存在しないというべきである。もつとも生田房男、生田浩、糸岐茂徳、長岡章二、中田裕らは重任されているものであり、前記選任(新任)決議のかしが右再任決議に承継される場合もあり得るが、そうであるとしても、控訴人らとしては前記選任決議の不存在を前提として右再任決議の取消あるいは不存在確認を請求することができるのであつて、前記選任(新任)決議不存在の確認請求を維持すべき利益は存在しない。
なお、控訴人らは三・二五決議(前記認定事実に照らすと、昭和五八年五月一四日登記に係る前記生田房男、生田浩、糸岐茂徳、稲波清一(いずれも取締役)、長岡章二(監査役)らの各就任は実質上は三・二五決議に基づくものである。)の不存在確認を求めているが、右認定事実に照らすと、右同様、右決議の不存在確認を求める利益が存在しないというべきである。
次に、控訴人らは、六・一五決議のうち被控訴人所有地を一括売却する旨の決議の不存在確認を求めているが、前述したように、決議の不存在確認の訴えは、当該決議が存在することによつて損害の生じるおそれがある場合、あるいは当該決議の不存在を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないなどの特別の事情がある場合でなければ許されないものであるところ、前記認定事実によれば、被控訴人は右決議に係る土地を既にアンプロジェクトサプライに譲渡し、さらにその転売先である訴外協和建業協同組合に対し被控訴人から直接所有権移転登記が経由されていることが認められ、かかる場合には、特別の事情のない限り右決議の不存在確認を求める法律上の利益がないというべきである(本件全証拠によるも、控訴人らが右不存在確認を求めるにつき法律上の利益を有するものと認めるに足りる事情を認めることができない。)。
以上によれば、控訴人らの本件訴えのうち、五・一〇決議、三・二五決議並びに六・一五決議のうち中田裕を取締役に選任する旨及び被控訴会社の所有地を一括売却する旨の決議の各不存在確認を求める訴えはいずれも不適法であるから、これを却下すべきであり、六・一五決議のうち被控訴会社が発行する株式の総数を一六万株とする旨及び教習所を他に移転する旨(控訴の趣旨は明確ではないが、前掲甲第一七号証の二によれば教習所を他に移転するとの趣旨であることが明らかである。)の決議の不存在確認を求める部分は理由がないから、これを棄却すべきである。
したがつて、原判決は右結論と異なる限度で失当であるから、控訴人らの利益のため、原判決を本判決主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官森 綱郎 裁判官高橋正 裁判官清水信之)