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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)2679号 判決 1987年12月24日

控訴人 附帯被控訴人(被告) 日産自動車株式会社

被控訴人 附帯控訴人(原告) 相古晃次 外六名

主文

一  原判決中控訴人(附帯被控訴人)敗訴の部分を取り消す。

被控訴人(附帯控訴人)らの請求をいずれも棄却する。

二  被控訴人(附帯控訴人)らの附帯控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

(以下においては控訴人(附帯被控訴人)を「控訴人」と、被控訴人(附帯控訴人)らを「被控訴人ら」と表示する。)

一  控訴人

1  控訴につき主文第一、第三項同旨

2  附帯控訴につき第一次的に附帯控訴却下、第二次的に主文第二、第三項同旨

二  被控訴人ら

1  控訴につき控訴棄却

2  附帯控訴につき

(一) 原判決を次のとおり変更する。

被控訴人らが控訴人の村山工場を就労場所とする機械工の地位にあることを確認する。

控訴人は、被控訴人らに対し、各金三六〇万円及びこれに対する昭和六〇年八月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

(三) 仮執行の宣言

第二当事者の主張

次に付加するほか、原判決の事実摘示と同一である(但し、原判決一五枚目裏一〇行目の「例え」を「たとえ」に改める。)から、これを引用する。

一  控訴人の主張

1  本件訴は不適法である。

村山工場には被控訴人らが就労することのできる機械工の仕事がないことは原審で主張したとおりであるが、原判決のように被控訴人らが配転先で就労しなくてもよいとすると、被控訴人らには就労すべき職場がないことになる。また、被控訴人らは、現実には本件配転命令に服し配転先で就労しているのであるから、控訴人との間には、救済を必要とする程度の権利利益の侵害をめぐる実質的な紛争が存在しない。したがつて、本件訴は不適法というべきである。

2  控訴人と被控訴人らとの雇用契約はいわゆる職種特定契約ではない。

職種特定契約とは、使用者が労働者を特定の職種以外の仕事には絶対に就労させないことを約する契約であり、もし使用者の業務上の都合により労働者を就労させるべき当該特定職種の仕事がなくなれば雇用関係を終了させる意思をもつて締結したものでなければならない。被控訴人らのように、単に当該職種の募集に応じて採用され、長期間その職種で就労してきたというだけで右の職種特定契約が成立するものではない。しかも、控訴人の就業規則四八条には、「業務上必要があるときは、従業員に対し、職種変更又は勤務地変更を命ずることができる。従業員は、正当な理由がなければ前項の命令を拒むことができない。」との規定があり、これが被控訴人らにも適用される以上、右のような職種特定契約が成立する余地はない。

3  本件配転命令は権利の濫用には当たらない。

村山工場で被控訴人らと同時期に職種変更の対象とされた機械工は、被控訴人らを含め合計二二四名に達した。他方、右職種変更に伴い、その後に村山工場及び周辺の荻窪、三鷹の各工場に在籍することになる機械工の数は三〇五名になると推定されたが、職種変更対象機械工二二四名の中から被控訴人らについてのみ他の機械工職場への配置を検討するなどということはもとよりできないことであつたし、また、右二二四名全員について在籍機械工三〇五名と経験、経歴、技能を比較して入替えを行うことも実際上不可能であつた。すなわち、機械工は大体経験年数五、六年で一人前と評価できるものであるところ、職種変更対象機械工二二四名中一人前と評価できる者は約八〇パーセントの一九〇名(被控訴人らを含む。)であり、他方、在籍機械工三〇五名中一人前と評価できない者は約二〇パーセントの六〇名であつて、もし入替えの公平を期するとすれば、右一九〇名の中から六〇名を選ばなければならないが、それには相当の手数がかかるうえ、選にもれた一三〇名には不満を残すことになり、業務運営上好ましくない結果となるので、このような入替えを実行することはできなかつた。このようなわけで、被控訴人らの経験、経歴、技能を十分生かせる新職場は現実には存在しなかつたのである。

また、配転先への適応性という点についても、被控訴人らが新たに配転されたプレス加工やコンベアーライン作業は特別な適応性を必要とする職場ではなく、被控訴人らに適応しない事情は何もなかつた。従前の機械工職場と配転先職場とを比較しても、過去の経験、経歴、技能を満足のいくように生かせない点はともかく、その他の労働条件に関しては特に後者のほうが劣悪ということはない。

本件配転命令は、業務上の必要に基づいて行われたものであり、不当労働行為その他の不当な動機又は目的をもつたものではなく、被控訴人らに対して通常受忍すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものではないから、これを配転命令権の濫用とするのは誤りである。

二  被控訴人らの認否及び主張

1  控訴人の右主張はすべて争う。

2  雇用契約によつて労働者の職種が特定されている場合に、無効な配転命令を争う訴訟形式として、配転前の旧職場において就労すべき地位にあることの確認を請求するか、又は配転後の新職場において就労すべき地位にないことの確認を請求するかは、いずれでも差し支えなく許されるべきものである。村山工場には機械工の職場が現存し、多数の機械工が就労しているのであるから、被控訴人らが復帰すべき機械工の仕事がないということはできない。また、旧職場において就労すべき地位にあることの確認請求の許否と就労請求権の有無とは無関係な問題であり、本件配転が無効である以上は、従前と同じく村山工場において機械工として就労すべき地位にあることの確認を求める本件請求は当然認容されるべきものである。

3  被控訴人らがプリンス自工に勤務していた当時の就業規則には職種変更に関する規定はなく、プリンス自工と控訴人との合併時及びその後の数次の控訴人の就業規則の改定に際しても、被控訴人らは意見の聴取すら受けていないのであるから、控訴人の就業規則に前記のような職種変更に関する規定があるからといつて、それが無条件に被控訴人らにも適用があるとすることはできない。本件配転に当たり、控訴人は、十分な説明をすることなく一方的に通告をし、他の機械工職場への配転可能性等について協議、検討を行おうとしなかつたばかりか、各人の個別的事情についても一切考慮せず、それぞれの経験、経歴、技能を生かすような配慮なども全くしないで、機械工としての経験、経歴、技能とは無関係な重筋労働その他の著しい不利益をもたらす職場にアトランダムに被控訴人らを配転したものであり、このような控訴人の措置が労使関係における信義則に反し、権利の濫用と判断されることは当然である。

4  控訴人は、無効な配転命令に基づき、被控訴人らの従前の機械工職を奪つたものである。したがつて、仮に控訴人が被控訴人らに苦痛を与える目的までを有していないとしても、故意又は過失によつて被控訴人らの権利利益を侵害したことになり、被控訴人らに対する不法行為が成立する。

第三証拠関係<省略>

理由

一  控訴人の本案前の抗弁について

1  控訴人は、村山工場には被控訴人らが就労することのできる機械工の仕事が存在せず、また、被控訴人らは本件配転先の職場で就労しているから、村山工場における機械工としての地位の確認を求める本件訴は不適法である旨主張する。

2  成立に争いのない乙第一三号証及び原審における証人砂子昌重の証言によると、自動車の製造工程には、プレス加工、車体組立、塗装及び艤装の四工程があるが、村山工場においては、これらの工程のほか、自動車に取り付ける車軸を製造する機械加工、熔接、熱処理及び機械組立をも行つており、この車軸の機械加工部門に就労する従業員の職種を通常「機械工」と呼称していることが認められる。しかるところ、村山工場においては、後記の生産体制の変更により、被控訴人らがそれまで機械工として就労していた車軸製造部門が大幅に他工場に移転され、従前と同じ仕事はなくなつたが、右生産体制の変更後にもなお機械加工の職場が一部残存し、同職場で就労している機械工が少なからずいることは後記認定のとおりであつて、もし本件配転が無効であるとされた場合に、被控訴人らが復帰すべき村山工場における機械工の地位そのものが存在しなくなつたわけではない。したがつて、被控訴人らが、本件配転の無効を前提として、村山工場を就労場所とする機械工の地位にあることの確認を請求することが無意味なものであるということはできない。また、被控訴人らは現在本件配転先の新職場において就労しているが、原審における被控訴人ら各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨に徴すれば、被控訴人らは、右就労によつて本件配転を争わないこととしたものではなく、本件配転に異議を留め、機械工職場に復帰することを求める意思を放棄することなく新職場で就労しているものであることが認められるから、右就労の事実によつて控訴人と被控訴人らとの間に救済を必要とする実質的紛争がなくなつたとか、被控訴人らにおいて本件配転の効力を争う利益が失われたということはできない。

控訴人の本案前の抗弁は採用することができない。

二  地位確認請求について

1  控訴人及び被控訴人らの地位(被控訴人らが機械工として採用されたものであるとの点を除く請求原因1の事実)並びに被控訴人らに対して本件配転が行われた事実(請求原因2の事実)については、いずれも当事者間に争いがない。

2  雇用契約違反の主張について

(一)  被控訴人らの採用から本件配転に至るまでの間の経歴についての当裁判所の認定は、原判決三五枚目裏六行目から同四七枚目表末行までの説示と同一である(但し、原判決三八枚目表二行目の「所属し、」の次に「その後村山工場第三製造部第二車軸課に配属され、」を加える。)から、これを引用する。

(二)  右引用に係る認定事実によると、被控訴人らは、富士精密又はプリンス自工に機械工として採用され、控訴人による合併の前後を通じ十数年間から二十数年間ほぼ継続して機械工として就労してきたものであることは明らかであるが、右事実のみから直ちに、被控訴人らと富士精密若しくはプリンス自工又は控訴人との間において、被控訴人らを機械工以外の職種には一切就かせないという趣旨の職種限定の合意が明示又は黙示に成立したものとまでは認めることができない。

かえつて、成立に争いがない甲第八六号証、乙第一号証、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第八五号証、原審における証人今井栄久の証言により成立が認められる乙第三号証の一、二及び同証言によると、富士精密の就業規則(昭和三三年当時のもの)四二条には、「業務上必要あるときは従業員に対し転任又は職場の変更を命ずることがある。」との規定があり、控訴人の就業規則にも、昭和四六年当時の五三条には「業務の都合により、従業員に対し、転勤、転属もしくは駐在又は出向を命ずることがある。従業員は、正当の事由がなければ、前項の命令を拒むことができない。」との規定が、昭和五六年当時の四八条には「業務上必要があるときは、従業員に対し、転勤、転属、出向、駐在、又は応援を命じることができる。前項に定める異動のほかに、業務上必要があるときは、従業員に対し、職種変更又は勤務地変更を命じることができる。従業員は、正当な事由がなければ第一項及び第二項の命令を拒むことができない。」との規定があり、本件配転前にも機械工を含めて職種間の異動が行われた例のあることが認められること、並びに我が国の経済の伸展及び産業構造の変化等に伴い、多くの分野で職種変更を含めた配転を必要とする機会が増加し、配転の対象及び範囲等も拡張するのが時代の一般的趨勢であることなどに鑑みると、被控訴人らについても、業務運営上必要がある場合には、その必要に応じ、個別的同意なしに職種の変更等を命令する権限が控訴人に留保されていたとみるのが、雇用契約における当事者の合理的意思に沿うものというべきである。原審における証人坂ノ下征稔及び被控訴人ら本人の各供述中これに反する部分はたやすく採用できず、他に被控訴人らの職種変更につき当該本人の同意を得ることが雇用契約上の要件とされていたことを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、本件配転が雇用契約に違反して無効であるとの被控訴人らの主張は採用することができない。

3  労働協約ないし労使慣行違反の主張及び不当労働行為の主張について

当裁判所も、右各主張はいずれも採用することができないものであると判断する。その理由は、原判決五一枚目表二行目から同五三枚目裏六行目までの説示と同一である(但し、原判決五二枚目表九行目の「一九日」の次に「及び二〇日」を加え、同裏二行目の「一六日」を「二六日」に改める。)から、これを引用する。

4  配転命令権濫用の主張について

(一)  前示のように、控訴人は、業務運営上必要がある場合には、その必要に応じ、被控訴人らに対してその個別的同意なしに職種の変更を命令する権限を有するものと認めるべきである。もとより、労働者にとつて、職種の如何は就労場所等とともに重要な労働条件をなすものであり、殊に本件のように長年従事してきた職種を変更するときは労働者の利益に重大な影響を与えることになるから、職種変更の命令権は安易に行使すべきものではなく、これを濫用することが許されないことはいうまでもないところであるが、雇用契約において職種変更命令権が留保された趣旨に照らせば、職種変更を行うことが企業の合理的運営に寄与するなど当該職種変更命令を発するについて業務上の必要性が存在し、かつ、その命令が他の不当な動機、目的をもつてなされたとか、又は労働者に対して通常受忍すべき程度を著しく超える不利益を負わせることになるなどの特段の事情がない限りは、当該職種変更命令は権利の濫用になるものではないというべきである。そこで、右の見地から本件について検討する。

(二)  業務上の必要性の有無

次の(1)の事実は当事者間に争いがなく、前掲乙第三号証の一、二、第一三号証、成立に争いがない乙第一五号証、第三六号証、前掲証人今井栄久の証言により成立が認められる乙第五、第六号証、前掲証人砂子昌重の証言により成立が認められる乙第一五、第一六号証、原審における証人岡崎宏徳の証言により成立が認められる乙第一九、第二〇号証の各一、二、第二一号証、当審における証人竜田健の証言により成立が認められる乙第三一ないし第三五号証及び右各証言を総合すると、次の(2)ないし(7)の各事実を認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 本件配転当時、村山工場には、総務部、工務部、検査部、第一ないし第三製造部があり、第一製造部は自動車の塗装及び艤装の工程を、第二製造部は自動車のプレス加工及び車体組立の工程を担当し、第三製造部は自動車に取り付ける車軸を製造する第一、第二車軸課、熱処理課及びフオークリフト課から構成されていた。その当時村山工場で生産されていた自動車の車種はローレル及びスカイラインであつたが、第三製造部の第一、第二車軸課及び熱処理課では、ローレル及びスカイラインの車軸のほか、サニー、バイオレツト、オースター及び小型トラツクの車軸の製造を行つていた。

(2) 控訴人は、世界の自動車業界の趨勢が車両の小型化と駆動方式のFF化にあつたため、これに対応して自社で生産する自動車の多くをFF化する計画を立て、昭和五五年四月ころ、村山工場において車軸を製造していたサニー、バイオレツト及びオースターの三車種につき従来のFR車からFF車に切り替えることにした。そして、FF化の時期については、国内向けバイオレツト、オースターは昭和五六年五月、輸出向けバイオレツト、オースターは同年七月、国内向けサニーは同年一〇月、輸出向けサニーは同年一二月とした。

(3) 右三車種のFF化計画に伴う工場の整備等について検討したところ、村山工場の第一、第二製造部で担当していた塗装、艤装、プレス加工及び車体組立の各部門では、従来のFR車用の設備を若干改造すればFR車製造中止の翌日からすぐFF車の製造工程に使用することが可能であつたが、第三製造部で担当していた車軸製造部門においては、FF車用車軸の製造のためには大幅に設備を新しくしなければならないうえ、計画どおりにFR車の製造中止の翌日からFF車を製造するためには、切替日の前七か月間はFR車用の車軸とFF車用の車軸の双方を併行して製造しなければならず、それに伴う工場建家を確保する必要が生じ、村山工場のスペースでは不足することが判明した。

そこで、控訴人は、FF化しないローレル及びスカイラインの製造部門は引き続き村山工場に残すが、FF化するサニー、バイオレツト及びオースター並びに小型トラツクの車軸製造部門を、広いスペースがあり設備等も整つている栃木工場(一部は横浜工場)に移転することにするとともに、右移転後の村山工場において、ローレル、スカイラインとは車格が異なり輸出にも振り向けることのできる新型小型車マーチを製造することにし(但し、その車軸は他工場で製造されたものを使用する。)、これによつてローレル、スカイラインとマーチという車格及びモデルチエンジの時期が異なる車両の生産を組み合わせて、村山工場の生産体制の平均化を図ることにした。

(4) 右のように村山工場の車軸製造部門を大幅に他工場に移転するのに伴い、同工場の第三製造部で就労していた機械工ら約五〇〇名余りが仕事を失うことになつたが、他方、同工場で新たに生産を開始することになつたマーチのプレス加工、車体組立、塗装、艤装の各工程の要員として約八〇〇名の従業員が必要になつた。そこで、控訴人は、第三製造部所属の右五〇〇名余りの機械工らのうち、高齢又は病弱のため他職場での仕事に不向きであると判断された九名を除いた残り四九五名(その内訳はサニー、バイオレツト、オースターの車軸製造部門からは機械工一四二名、熔接工一〇〇名、機械組立工一一三名、小型トラツクの車軸製造部門からは機械工八二名、機械組立工五八名)全員を第一、第二製造部に異動させ、マーチのプレス加工、車体組立、塗装、艤装の仕事に当たらせることにし、マーチ製造要員としてなお不足する約三〇〇名については、当時売行き不振のため仕事に余裕のあつたローレル及びスカイラインの製造部門の従業員をもつて充当することにした。

(5) 以上の計画に基づき、控訴人は、昭和五六年から昭和五七年にかけてサニー、バイオレツト、オースター及び小型トラツクの車軸製造部門を村山工場から栃木工場等に移転し、村山工場におけるサニー等のFR車の車軸の製造を中止するとともに、村山工場でマーチの製造を開始したが、これと併行して、昭和五六年六月一日から昭和五七年三月一六日までの間に前記計画のとおりの従業員の異動を実施し(前記四九五名に対する異動発令の内訳は原判決添付の別表のとおりである。)、被控訴人らに対する本件配転も右の一環として行われた。

(6) 控訴人は、右の異動を実施するに当たり、従来から従業員の転居を伴う転勤には組合の反対が強かつたことなどを考慮し、村山工場から車軸製造部門の移転先である栃木工場等への転勤は一切行わないことにした。また、右異動の実施後である昭和五七年四月現在の在籍機械工の配置状況をみると、村山工場においては、工務部工務課に一五名、工務部工具管理課に一三名、第三製造部機械課(第三製造部第一、第二車軸課及びフオークリフト課を統合したもの)に一〇四名が在籍し、そのほか、村山工場内にある工機工場第三工機部第五工機製作課に六八名、村山工場とほぼ同じ通勤圏内にある荻窪工場の総務部施設課に一一名、宇宙航空事業部製作課に七〇名、三鷹工場の繊維機械事業部製作課に二四名、以上合計三〇五名の機械工が在籍しており、本件配転当時においても配転後はこれとほぼ同様の配置状況になることが見込まれていたが、これらの職場からは機械工の増員配置を求める要請はなく、もし第三製造部の異動対象機械工をこれらの職場に配置するとすれば、その代わりに従来の在籍機械工を異動させることを検討しなければならない状況であつた。また、異動後に在籍することになると見込まれた機械工右三〇五名のうち、控訴人が一人前の機械工として取り扱つている経験五年以上の者は二四六名、経験五年未満の者は五九名であつたため、右経験不足者五九名を異動対象機械工のうちの経験五年以上の者一八四名と入れ替えるとしても、相当の手数がかかるうえ、人員比等からみて公平で不満を残さない人選を行うことは容易でないと考えられた。

このため、控訴人は、前記九名の高齢者及び病弱者を除き、他の異動対象者四九五名全員について、各人の経験、経歴、技能や個人的希望等を個別的に考慮することなく、いわば機械的にマーチ製造部門に異動させることにした。この結果、異動対象者全員について職種変更を生じ、うち機械工二二四名の中で被控訴人らと同様にコンベアーライン作業に配置された者は二〇九名である。

(7) 控訴人は、右一連の異動及びその前提となる前記生産体制の変更計画について、日産労組及び全金支部に対し事前に基本的内容を示し、何回かの説明や団体交渉を行つた。そして、日産労組はこれを了承し異動に応じたが、全金支部はこれを争うことになつた。

(三)  不当な動機又は目的の有無

右(二)の認定事実によると、本件配転が全金支部の組織を弱体化させ、あるいは全金支部所属の組合員を日産労組所属の組合員と差別待遇する意思で行われたものであると認めることはできず、他に本件配転が何らかの不当な動機又は目的をもつて行われたものであることを認めるに足りる証拠はない。

(四)  本件配転後の被控訴人らの就労状況

右の点に関する当裁判所の認定は、原判決五七枚目表九行目から同六二枚目表一〇行目までの説示と同一である(但し、認定に供する証拠として、被控訴人ら全員に共通する部分及び被控訴人相川辰榮に関する部分につき当審における同被控訴人本人尋問の結果を、被控訴人相古晃次に関する部分につき弁論の全趣旨により成立が認められる甲第九七号証を、被控訴人栗原光之に関する部分につき右同様成立が認められる甲第九二号証を、被控訴人塩谷一利に関する部分につき右同様成立が認められる甲第九三号証を、被控訴人大野良男に関する部分につき右同様成立が認められる甲第九四号証を、被控訴人長塩征生に関する部分につき右同様成立が認められる甲第九五号証を、被控訴人磯貝啓吉に関する部分につき右同様成立が認められる甲第九六号証を加える。)から、これを引用する。

(五)  右(一)ないし(四)に判示したところに基づいて考えると、本件配転を含めて昭和五六年六月から昭和五七年三月までの間に行われた一連の異動は、従来村山工場で担当していた自動車の車軸製造部門を栃木工場等に移転し、新たに村山工場で新型車を製造することにした生産体制変更計画に基づく村山工場内の従業員の大幅な配置替えであるところ、控訴人がかかる生産体制の変更を計画したのは、世界の自動車業界における車両の小型化及び駆動装置のFF化に対応するためであり、国の内外において競争の激しい自動車業界にその地位を占める控訴人としては、経営上必要な措置であつたと認めることができる。したがつて、これに伴う従業員の右異動も企業の合理的運営に寄与するものということができるが、既にみたように、村山工場の車軸製造部門の縮小による異動対象者が五〇〇名近くの多数にのぼり、通勤可能圏内の他の職場でこれを受け入れる余裕がなく、一部の者のみについて他の職場の従業員との入替えを行うことも、手数がかかるだけでなく公平確保上の理由から困難であるとされる一方で、村山工場における新型車の生産要員として異動対象人員を超える数の従業員を必要とすることになつたなどの諸事情を考慮すると、控訴人が右異動を行うに当たり、対象者全員についてそれぞれの経験、経歴、技能等を各別に斟酌することなく全員を一斉に村山工場の新型車生産部門へ配置替えすることとしたのは、企業経営上の判断としてあながち不合理なものとはいいがたく、その異動対象者中に被控訴人らのように長年他の職種に従事してきた者がいることを考慮してもなお、労働力配置の効率化及び企業運営の円滑化等の見地からやむを得ない措置として是認しうるものである。そして、異動対象者の中で被控訴人らについてのみ、その経験、経歴、技能が他と異なる特別のものであつたとか、あるいは特段の配慮を必要とする何らかの個人的事情があつたとかの事実を認めるべき証拠は全くないから、被控訴人らのみを他の機械工職場へ配置する等の特例措置をとることは、公平上もとより許されることではない。

また、前記(四)の引用に係る認定事実からみると、被控訴人らが右異動後に第一、第二製造部で担当している作業は、機械工としての経験、経歴、技能等を満足に生かせず、機械加工の仕事より身体的にも厳しいものがあることは否定できないが、前掲乙第二一号証及び弁論の全趣旨によれば、右作業は特別の適応性を必要とするほどのものではなく、被控訴人らと同じ職場で同種作業に従事している従業員は他にも相当数いることが明らかであつて、被控訴人らだけが特に苛酷な作業環境に置かれているものとは認められず、その他、右異動の結果被控訴人らにおいて控訴人の従業員として通常受忍すべき程度を著しく超える不利益を負わされていると認めるに足りる証拠はない。

以上の諸点から判断すると、本件配転命令が控訴人の配転命令権の濫用に当たるものであると認めることはできないというべきである。

三  損害賠償請求について

右損害賠償請求は、本件配転が無効であることを前提とするものであるところ、本件配転が無効と認められないことは前項で判示したとおりである。したがつて、右請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

四  結論

以上の次第で、被控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく、棄却を免れないものというべきであるから、これと結論を異にする原判決は不当であつて、控訴人の本件控訴は理由があるが、被控訴人らの附帯控訴は理由がない(なお、控訴人は、右附帯控訴の却下を求めるが、不適法な附帯控訴とは認められない。)。

よつて、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消して被控訴人らの請求を棄却し、また、被控訴人らの附帯控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村岡二郎 佐藤繁 鈴木敏之)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 原告相古晃次は被告村山工場第二製造部圧造課において就労すべき義務のないことを確認する。

二 原告栗原光之は被告村山工場第一製造部第一組立課において就労すべき義務のないことを確認する。

三 原告塩谷一利は被告村山工場第一製造部第二組立課において就労すべき義務のないことを確認する。

四 原告大野良男は被告村山工場第二製造部第一車体課において就労すべき義務のないことを確認する。

五 原告長塩征生は被告村山工場第二製造部圧造課において就労すべき義務のないことを確認する。

六 原告相川辰榮は被告村山工場第二製造部第二車体課において就労すべき義務のないことを確認する。

七 原告磯貝啓吉は被告村山工場第二製造部第一車体課において就労すべき義務のないことを確認する。

八 原告らのその余の請求を棄却する。

九 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 原告ら

1 原告らが被告村山工場を就労場所とする機械工の地位にあることを確認する。

2 被告は原告ら各自に対し、各金三六〇万円及び右各金員に対する昭和六〇年八月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 第2項につき仮執行の宣言

二 被告

(本案前の答弁)

1 本件訴はいずれもこれを却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案の答弁)

1 原告らの請求はいずれもこれを棄却する

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一 請求の原因

1 (当事者)

(一) 被告は、肩書地に本社を、東京都内の荻窪、三鷹、村山をはじめとして全国九か所に工場をもち、昭和五六年六月時点で従業員数約六万五〇〇名を擁する乗用車、トラツク等の製造販売を業とする株式会社である。被告は、昭和四一年八月プリンス自動車工業株式会社(以下「プリンス自工」という。)を吸収合併したもので、プリンス自工の前身は富士精密工業株式会社(以下「富士精密」という。)である。

(二) 原告相古晃次は、同三三年四月一日、富士精密に機械工として雇われ、同五六年六月三〇日まで機械工として就労してきたのであるが、同日当時被告村山工場第三製造部第二車軸課の機械工の地位にあつたもので、被告の従業員で組織する総評全国金属労働組合日産自動車支部(以下「全金支部」という。)の組合員である。

(三) 原告栗原光之は、同二八年四月一日、富士精密に機械工として雇われ、同五六年九月三〇日まで機械工として就労してきたのであるが同日当時被告村山工場第三製造部第二車軸課の機械工の地位にあつたもので、全金支部の組合員である。

(四) 原告塩谷一利は、同三一年四月一日富士精密に機械工として雇われ、同五六年九月三〇日まで機械工として就労してきたのであるが、同日当時被告村山工場第三製造部第一車軸課の機械工の地位にあつたもので、全金支部の組合員である。

(五) 原告大野良男は、同三七年三月プリンス自工に機械工として雇われ、同五六年九月三〇日まで機械工として就労してきたのであるが、同日当時被告村山工場第三製造部第一車軸課の機械工の地位にあつたもので、全金支部の組合員である。

(六) 原告長塩征生は、同二八年四月一日富士精密に機械工として雇われ、同五六年一一月三〇日まで機械工として就労してきたのであるが、同日当時被告村山工場第三製造部第一車軸課の機械工の地位にあつたもので、全金支部の組合員である。

(七) 原告相川辰榮は、同二八年二月一六日富士精密に機械工として雇われ、同五六年一二月三一日まで機械工として就労してきたのであるが、同日当時被告村山工場第三製造部第一車軸課の機械工の地位にあつたもので、全金支部の組合員である。

(八) 原告磯貝啓吉は、同三九年四月一三日プリンス自工に機械工として雇われ、同五七年二月二八日まで機械工として就労してきたのであるが、同四二年九月以降は被告村山工場第三製造部第二車軸課の機械工の地位にあつたもので、全金支部の組合員である。

2 (配置転換の意思表示)

(一) 被告は、同五六年六月三〇日、原告相古に対し、村山工場第三製造部第二車軸課長中村勝信を通じ口頭で、同年七月一日付をもつて、同工場第二製造部圧造課勤務を命ずる旨の配置転換の意思表示をなした。

(二) 被告は、同年九月三〇日、原告栗原、同塩谷及び同大野に対し、原告栗原に対しては右中村を通じ、原告塩谷及び同大野に対しては同工場第三製造部第一車軸課長飯島孝を通じいずれも書面で、同年一〇月一日付をもつて、原告栗原に対しては同工場第一製造部第一組立課勤務を命ずる旨の、原告塩谷に対しては同工場第一製造部第二組立課勤務を命ずる旨の、原告大野に対しては同工場第二製造部第一車体課勤務を命ずる旨の配置転換の意思表示をそれぞれなした。

(三) 被告は、同年一一月三〇日、原告長塩に対し、右飯島を通じ口頭で、同年一二月一日付をもつて、同工場第二製造部圧造課勤務を命ずる旨の配置転換の意思表示をなした。

(四) 被告は、同年一二月一五日、原告相川に対し、右飯島を通じ口頭で、同五七年一月一日付をもつて、同工場第二製造部第二車体課勤務を命ずる旨の配置転換の意思表示をなした。

(五) 被告は、同五七年二月二六日、原告磯貝に対し、右中村を通じ口頭で、同年三月一日付をもつて、同工場第二製造部第一車体課勤務を命ずる旨の配置転換の意思表示をなした(以下、被告の原告らに対する右配置転換の意思表示を「本件配転」という。)。

3 (雇用契約違反による本件配転の無効)

(一)(1) 原告相古は、中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募し同三三年四月一日機械工として富士精密に採用され、同年七月一日から同四二年八月三一日まで荻窪工場工作一課に、同年九月一日から同四三年九月ころまで村山工場機関組立課に、同年一〇月ころから同五〇年八月ころまで同工場機関課に、同年九月ころから本件配転に至るまで同工場第三製造部第二車軸課にそれぞれ所属し、自動車のエンジン及びミツシヨンの歯車の機械加工作業、歯切盤・研削盤の機械作業、シリンダーヘツドのラツピングマシンの機械作業、クランクシヤフトの研削盤等の機械作業、デフケースの自動旋盤・研削盤等の機械作業に従事する機械工として就労してきた(但し、同四二年九月一日から同四三年三月末日までの間の車体課コンベアー作業の応援を除く。)。

(2) 原告栗原は、中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募し同二八年四月一日機械工として富士精密に採用され、荻窪工場工作一課に配属され課名は変わつたが一貫して同一職場に所属し、同四一年一一月ころから本件配転に至るまで村山工場第三製造部第二車軸課に所属し、クランクシヤフト及びドライブシヤフトの旋盤加工研削加工作業、ナツクルスピンドルの旋盤加工作業、キヤリアのキヤツプのフライス盤加工作業等の機械作業に従事する機械工として就労してきた(但し、約一か月間の組立課コンベア作業の応援を除く。)。

(3) 原告塩谷は、中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募し同三一年四月一日機械工として富士精密に採用され、同年六月荻窪工場工作一課に配属され、課名は変わつたが一貫して同一職場に所属し、同四三年一〇月ころから村山工場機関課に、同五〇年九月から本件配転に至るまで同工場第三製造部第一車軸課にそれぞれ所属し、ミツシヨンギアの旋盤加工作業、同ボール盤加工作業、同フライス盤加工作業、同歯切盤加工作業、シリンダーブロツクのフライス盤加工作業、ハイホイドギアの旋盤加工作業等の機械作業に従事する機械工として就労してきた(但し、同四二年九月一日から同四三年三月末日までの間の車体課サブ作業の応援を除く。)。

(4) 原告大野は、中学卒業後しばらくしてプリンス自工による機械工募集の求人申込みに応募し同三七年三月機械工としてプリンス自工に採用され、荻窪工場シヤシー課に、同三八年八月ころ同工場ミツシヨン課に、同四一年九月ころ再び同工場シヤシー課に、同年一一月ころから本件配転に至るまで村山工場第三製造部第一車軸課にそれぞれ所属し、クラウンギアの歯切盤加工作業、ミツシヨンギアの研削盤加工作業、キヤリアのキヤツプのフライス盤及びボール盤加工作業等に従事する機械工として就労してきた(但し、同五五年一二月一一日から同五六年二月六日までの間の第一車体課コンベア作業の応援を除く。)。

(5) 原告長塩は、中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募し同二八年四月一日機械工として富士精密に採用され、同年七月一日から同四一年一一月ころまで荻窪工場工作課に、同月ころから本件配転に至るまで村山工場第三製造部第一車軸課にそれぞれ所属し、荻窪工場においてはクラツチハウジング、シリンダーヘツド等のフライス盤加工作業、ボール盤加工作業、リングギアの歯切盤機械作業、村山工場においてはアクスルセンター専用機械作業、スピンドルナツクルのブローチ盤、ボーリング盤、ボール盤、フライス盤機械作業等に従事する機械工として就労してきた。

(6) 原告相川は、東京都中央公共職業補導所修了の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募し、同二八年二月一六日機械工として富士精密に採用され、同四二年八月三一日まで荻窪工場工作課に、同年九月一日から本件配転に至るまで村山工場第三製造部第一車軸課にそれぞれ所属し、二サイクルエンジン、シリンダーブロツク、ミツシヨンケース、同オートマチツク、リアーアクスルシヤフト、シリンダーヘツド等のボール盤、旋盤、フライス盤、ボーリング盤、歯切盤及びGF倣い旋盤による加工作業に従事する機械工として就労してきた。

(7) 原告磯貝は、プリンス自工による機械経験工募集の新聞求人申込みに応募し、同三九年四月一三日機械経験工(経験年数一五年)としてプリンス自工に採用され、同四二年八月三一日まで荻窪工場エンジン課及び同工場ミツシヨン課に、同年九月一日から本件配転に至るまで村山工場機関課及び同工場第三製造部第二車軸課にそれぞれ所属し、荻窪工場においてはシリンダーブロツク、シリンダーヘツド等のフライス盤加工作業、ボール盤加工作業、ミツシヨンギアの旋盤機械作業、村山工場においてはコネクチングロツドの研削盤作業、リヤーアクスルシヤフトの多軸ボール盤、研削盤、GF倣い旋盤、高周波焼入れ機等の作業に従事する機械工として就労してきた。

(二) 右のとおり、原告相古、栗原、塩谷、長塩及び相川と富士精密との間並びに原告大野及び磯貝とプリンス自工との間の各雇用契約は、入社時において労働者の従事する職務(職種)が機械工と明確に合意されているのであるから、このような場合、使用者が職種変更を伴う配置転換を行うには当該労働者の同意を得なければならず、右同意を得ることなく職種変更を伴う配置転換をなすことはできないものというべきである。しかるに、被告は原告らの同意なくして原告らを機械工以外の職務に従事させる旨の本件配転をなしたのであるから、本件配転は雇用契約違反としてその効力を生じない。

(三) 仮に、原告らの入社時における雇用契約において原告らが従事する職務が機械工であると明確に合意されていなかつたとしても、原告らはいずれも入社以来本件配転に至るまで一貫して機械工として就労してきており、被告も異議なく原告らの機械工としての就労を受け入れてきたものであるから、少なくとも本件配転時までには原告らが村山工場の機械工として就労することが原告らと被告との間の雇用契約の内容になつたものというべきである。しかるに、被告は原告らの同意なくして本件配転をなしたのであるから、本件配転は雇用契約違反としてその効力を生じない。

4 (労働協約ないし労使慣行違反による本件配転の無効)

(一) 全金支部と富士精密、プリンス自工及び被告との間には、使用者が組合員を配置転換や応援をさせる場合には、全金支部と協議し、当該組合員の同意を得なければ、その人事権を行使しない旨の合意がなされており、右合意は同四二年八月二九日付の覚書以外は文書化されなかつたが、全金支部と被告との間の「労働者の待遇に関する基準」の口頭による合意として労働協約の性格を有する。したがつて、全金支部との協議並びに原告らの同意を得るという手続を経ることなくしてなされた本件配転は、労組法一六条の労働協約の規範的効力に違反するものとしてその効力を生じない。

(二) 仮に、全金支部と被告との間の右合意が労組法上の労働協約として認められないか、もしくは規範的効力を認められないとしても、全金支部と被告との間には、職種変更を伴う配置転換のように労働者に重大な労働条件の変更を生ずる人事権を行使する際には、全金支部と協議しかつ当該組合員個人の同意を得てこれを実施する旨の労使慣行が確立し、これが被告における規範として確立している。したがつて、右手続を経ることなくしてなされた本件配転は、労使慣行違反としてその効力を生じない。

5 (不当労働行為による本件配転の無効)

原告らはいずれも全金支部の組合員であるところ、被告は、同四一年八月プリンス自工を吸収合併した後、全金支部の活動を嫌悪し、その組織を弱体化させるため、被告に協調的な多数派である日産労組に所属する組合員と全金支部所属の組合員とを、賃金、仕事内容、昇給、昇格等の労働条件の面においてのみならず、組合事務所、組合掲示板の貸与等の便宜供与並びに団体交渉実施の面においても、ことごとく差別して処遇してきた。原告らに対する本件配転も、右一連の差別処遇の中の一つとして永年にわたつて機械工としての技能、経験を積んできた原告らを、村山工場もしくは荻窪工場の機械職場に容易に配転しえたにもかかわらず、敢えて肉体的にも精神的にも大きな苦痛を伴う過酷なコンベアライン作業等に一方的に配転したものである。右のとおり、本件配転は、全金支部の組織を弱体化させ、かつ全金支部所属の原告らに対し日産労組に所属する組合員と差別して処遇する意思の下になされた行為であつて労組法七条一号、三号に該当する不当労働行為としてその効力を生じない。

6 (配転命令権濫用による本件配転の無効)

本件配転は、被告が、原告らが就労する機械工場を他所へ移転する必要がないのに敢えて移転し、かつ、職種転換を伴う配転についてはこれを回避するためできる限りの努力をなすべき義務があるのにこれを尽さず、さらには人選にあたつて原告らの永年にわたる機械工としての技能、経験を一切考慮することなく専ら原告らに苦痛を与えることを目的としてなした配転命令権濫用の配転命令であつて無効である。

すなわち

(一) 工場移転の必要性はない。

被告は、サニー関係のFF化並びにFF部品生産工場の栃木、横浜移転により村山工場で七一名の機械工が余剰となつたと主張するが、FF機械工場を村山工場敷地内に建築することは可能であり、敢えて栃木、横浜工場へ移す必要性はなかつた。

(二) 職種転換配転回避義務を尽くしていない。

例えFF機械工場を栃木等へ移転し、村山工場のサニー関係の製造部門を廃止するにしても、外注に出しているローレル、フオークリフト車軸部品の内製化、日産厚木部品で加工しているマーチ車軸部品の機械加工、工場内の他の機械職場の増員、退職者の補充等村山工場内で七一名の機械工の職場を確保することは容易であるのに、被告はかかる努力を尽くさなかつた。

(三) 人選の合理性を欠いている。

原告らは前述のとおり入社以来機械工として永年の間技能を研き経験を積んできたのであるから、配転をなす場合においてはその技能、経験を十分考慮し村山工場内において機械工の職場が残存する場合においてはでき得る限り機械職場に就労させるべきものである。しかるところ、村山工場においては、スカイライン及びローレルのシヤシー部品の機械加工工程、フオークリフトの機械加工工程があり、右以外にも工務部工具管理課及び工務課に計四五名位の機械職場と工機工場第三工機部製作課に数十名の機械職場がある。しかるに被告は、永年にわたつて機械工としての技能、経験を積んできた原告らを、その技能、経験を一切考慮することなく、一方的に肉体的にも精神的にも大きな苦痛を伴うラインコンベア作業等に職種変更した。

原告らの個別の事情は、以下のとおりである。

(1) 原告相古

原告相古は、入社以来本件配転に至るまで二三年もの間一貫して自動旋盤、研削盤等の工作機械を使用して機械加工作業に従事してきた熟練工である。しかるに原告相古は、本件配転によつて、村山工場第二製造部圧造課に配転され、ローレル関係のプレス工の仕事に従事している。右プレス工の仕事はベルトコンベアに追いかけられる単純作業であつて、原告相古は自己の持つ技術的能力の発揮を否定され、精神的、肉体的苦痛は極めて強いものがある。

(2) 原告栗原

原告栗原は、入社以来本件配転に至るまで一貫して機械工として旋盤、研磨盤、フライス盤、ボール盤、ブローチ盤等の工作機械を使用した機械加工作業に従事してきた熟練工である。しかるに、原告栗原は、本件配転によつて、村山工場第一製造部第一組立課に配転され、スカイライン、ローレルのタイヤ及びステアリングケージ取付けのコンベアライン作業に従事している。右の仕事は、何ら技術的熟練を必要とせず、ただ体力のみを要求される作業であつて、原告栗原は、同五六年一〇月一二日に労務災害によつて左手首切創、右手首打撲の傷害を負つたうえ、同月末ころより右肘、右腕、右肩、右肩甲部等に痛みを覚えるようになり、同年一一月二四日頸肩腕障害と診断され、同日以降同年一二月末まで休業を余儀なくされたため、同五七年一月以降プロペラシヤフトボルト差し等の単純な軽作業に従事している。なお、原告栗原は、右傷病につき業務上災害の認定を受けた。

(3) 原告塩谷

原告塩谷は、入社以来本件配転に至るまで一貫して機械工として旋盤、ボール盤、フライス盤、歯切盤等の工作機械を使用した機械加工作業に従事してきた熟練工である。しかるに、原告塩谷は、本件配転によつて、村山工場第一製造部第二組立課に配転され、スカイラインのガソリン給油のコンベアライン作業に従事している。右の仕事は全くの単純作業であつて、原告塩谷は本件配転直後から鼻に痛みを覚えて鼻血が出るようになり、体重は当初の一週間で二・五キログラム、一か月で六キログラム減少し、食欲がなくなり慢性的に足腰の痛みを覚えるようになつた。

(4) 原告大野

原告大野は、入社以来本件配転に至るまで一貫して機械工として旋盤、ボール盤、歯切盤、フライス盤等の工作機械を使用した機械加工作業に従事してきた熟練工である。しかるに、原告大野は、本件配転によつて、村山工場第二製造部第一車体課に配転され、ローレルのサンダー掛けのコンベアライン作業に従事している。右の仕事は全く熟練を必要としない単純作業であつて、原告大野は、本件配転直後から食欲が落ち手指がしびれるようになり、同五六年一〇月一九日から同月二二日までと同月二六日午後から同月三〇日まで休業を余儀なくされ、その後指、手首、腕、肩と痛みが拡がりかつ慢性的になり、握力が落ち、茶碗を落すこともしばしばあるという状態である。

(5) 原告長塩

原告長塩は、入社以来本件配転に至るまで一貫して機械工としてフライス盤、ボール盤、歯切盤等の工作機械を使用した機械加工作業に従事してきた熟練工であり、本件配転前には被告が重要保安部品に指定しているナツクル・スピンドルの加工作業に従事していた。しかるに、原告長塩は、本件配転によつて、村山工場第二製造部圧造課に配転され、プレスのコンベアライン作業に従事している。右の仕事は、コンベアによつて流れてくる鉄板を型に入れ両手で押ボタンのスイツチを押すことと加工された品物を台車に積む仕事で、全く熟練を必要としない単純作業である。原告長塩は、本件配転直後から手首、肩、足腰の疲労が激しく、耳に異常音を生ずるに至つている。

(6) 原告相川

原告相川は、入社以来本件配転に至るまで一貫して機械工としてボール盤、フライス盤、ボーリング盤、歯切盤、GF倣い旋盤等の工作機械を使用した機械加工作業に従事してきた熟練工であり、本件配転前には被告が重要保安部品に指定しているリヤーアクスルシヤフトの加工作業に従事していた。しかるに、原告相川は、本件配転によつて、村山工場第二製造部第二車体課に配転され、コンベアライン上での鉄板投入作業に従事し、同五七年九月一三日以降はエツクス・ガンによる鉄板のスポツト溶接作業に従事している。右の仕事はいずれも全く熟練を要しない単純作業であつて、原告相川は、現在毎朝両手の五本の指を一本ずつ起こさなければならないほどの指の筋肉の硬直化に苦しんでいる。

(7) 原告磯貝

原告磯貝は、入社以来本件配転に至るまで一貫して機械工としてフライス盤、ボール盤、旋盤、研削盤、多軸ボール盤、GF倣い旋盤、高周波焼入れ機等の工作機械を使用した機械加工作業に従事してきた熟練工であつて、本件配転前には被告が重要保安部品に指定しているアクスルシヤフトの加工作業に従事していた。しかるに、原告磯貝は、本件配転によつて、村山工場第二製造部第一車体課に配転され、コンベアライン上での車体ピラー溶接後の作業に従事している。右の仕事は全く熟練を必要としない単純作業であつて、原告磯貝は高血圧が持続し、腰痛、肩こり、疲労、手足のしびれ、むくみ等の異常を生じ、毎月の定休日以外の日にも休養のため休暇をとらざるを得ない状態で、同五七年五月中旬ころからは頭痛が持続するようになつている。

7 (不法行為)

原告らに対する本件配転は、前述のとおり、専ら原告らに苦痛を与える目的を以つてなされた不当労働行為であり、これにより原告らは永年にわたつて就労してきた機械工としての職場を奪われるものであるから原告らに対する不法行為をも構成する。原告らは本件配転以降永年働き慣れた機械工の仕事を奪われ、肉体的にも精神的にも大きな苦痛を伴うコンベアライン作業等に従事させられている。この苦痛による損害を金銭に換算すれば原告ら各自につき月額金一〇万円が相当である。

8 よつて、原告らは被告に対し、本件配転が無効であるから、原告らが被告村山工場を就労場所とする機械工の地位にあることの確認を求めるとともに、原告ら各自右不法行為に基づく損害金のうち同五七年八月一日から同六〇年七月末日までの分合計金三六〇万円及び右金員に対する不法行為の後である同年八月一日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二 本案前の答弁の理由

本訴における原告らの請求の趣旨第1項は、村山工場を就労場所とする機械工の地位にあることの確認を求めるものであるところ、これは被告村山工場に原告らが就労することのできる機械工の仕事が存在することを前提要件とするものである。しかるところ、村山工場には右のような仕事は存在しないのであるから、本訴は訴の利益を欠き却下を免れない。

三 請求の原因に対する認否

1 請求の原因1(一)の事実は認める。

2 同1の(二)ないし(八)のうち原告らが機械工として採用されたことは否認し、その余の事実は認める。

3 同2の事実は認める。

4 (一) (1) 同3(一)(1)のうち、原告相古がその主張のような経過で富士精密に採用(但し、機械工として採用されたことは除く。)され、本件配転に至るまでその主張のような課に所属し、機械工として就労してきたことは認めるが、原告相古が従事していた具体的作業内容は不知、その余の事実は否認する。原告相古は技能員として採用されたものである。

(2) 同3(一)(2)のうち、原告栗原がその主張のような経過で富士精密に採用(但し、機械工として採用されたことは除く。)され、本件配転に至るまでその主張のような課に所属し(但し、村山工場に配属されたのは同四二年一月である。)、機械工として就労してきたことは認めるが、原告栗原の具体的作業内容は不知、その余の事実は否認する。原告栗原は技能員として採用されたものである。

(3) 同3(一)(3)のうち、原告塩谷がその主張のような経過で富士精密に採用(但し、機械工として採用されたことは除く。)され、本件配転に至るまでその主張のような課に所属し(但し、荻窪工場工作一課に配属されたのは同三一年九月である。)、機械工として就労してきたことは認めるが、原告塩谷の具体的作業内容は不知、その余の事実は否認する。原告塩谷は技能員として採用されたものである。

(4) 同3(一)(4)のうち、原告大野がその主張のような経過でプリンス自工に採用(但し、機械工として採用されたことは除く。)され、本件配転に至るまでその主張のような課に所属し(但し、村山工場第三製造部第一車軸課に配属されたのは同四二年一月である。)、機械工として就労してきたことは認めるが、原告大野の具体的作業内容は不知、その余の事実は否認する。原告大野は技能員として採用されたものである。

(5) 同3(一)(5)のうち、原告長塩がその主張のような経過で富士精密に採用(但し、機械工として採用されたことは除く。)され、本件配転に至るまでその主張のような課に所属し(但し、荻窪工場工作課に所属していたのは同二八年四月一日から同四一年一二月末日まで、村山工場第三製造部第一車軸課に配属されたのは同四二年一月一日からである。)、機械工として就労してきたことは認めるが、原告長塩の具体的作業内容は不知、その余の事実は否認する。原告長塩は技能員として採用されたものである。

(6) 同3(一)(6)のうち、原告相川がその主張のような経過で富士精密に採用(但し、機械工として採用されたことは除く。)され、本件配転に至るまでその主張のような課に所属し、機械工として就労してきたことは認めるが、原告相川の具体的作業内容は不知、その余の事実は否認する。原告相川は技能員として採用されたものである。

(7) 同3(一)(7)のうち、原告磯貝がその主張のような経過でプリンス自工に採用(但し、機械工として採用されたことは除く。)され、本件配転に至るまでその主張のような課に所属し、機械工として就労してきたことは認めるが、原告磯貝の具体的作業内容は不知、その余の事実は否認する。原告磯貝は技能員として採用されたものである。

(二) 同3(二)は争う。

被告における原告らの担当職務は被告において決定、命令し、原告らはこれに服することになつている。このことは富士精密、プリンス自工及び被告を通じて何ら異なることはない。被告が原告らに対し職種変更を業務命令で行つたのは被告従業員規則四八条の「1、業務上の必要があるときは、従業員に対し、転勤、転属、出向、駐在又は応援を命じることができる。2、前項に定める異動のほかに、業務上の必要があるときは、従業員に対し職種変更又は勤務地変更を命じることができる。3、従業員は、正当な事由がなければ第一項及び第二項の命令を拒むことができない。」との定めに基づくものである。

(三) 同3(三)のうち、原告らが入社以来本件配転に至るまで機械工として就労してきたこと、被告が異議なく原告らの機械工としての就労を受け入れてきたことは認めるが、その余は争う。

5(一) 同4(一)のうち、昭和四二年八月二九日付の覚書が存在することは認めるが、その余の事実は否認する。右覚書は、その記載文言からも明らかなように、単に応援が終了した後は応援前の職場に復帰させることを謳つているに過ぎない。

(二) 同4(二)の事実は否認する。全金支部は被告に対し同五六年六月一一日付要求書第四項で「やむを得ず職務転換する場合には、事前に当支部に提案し、支部及び本人の同意を得ること。」を要求している。これは原告らが主張するような労働契約、労働協約及び労使慣行が存在しないことの何よりの証拠である。

6 同5の事実のうち原告らが全金支部組合員であること及び被告が昭和四一年八月プリンス自工を吸収合併したことは認めるが、その余の事実は否認する。

7(一) 同6の冒頭の事実並びに(一)及び(二)の事実はすべて否認する。

工場移転の必要性は後述するが、原告ら就労の機械職場が栃木工場に移る以上原告らを配転せざるを得ないのであるが、村山工場内の他の機械職場には他の機械工が就労しているから同工場内で原告らを機械工に配転できる余地はない。むしろ、被告は、解雇を避けるため原告らを含め同職場の機械工の配転を行つたのである。

(二) 同6(三)の冒頭の事実のうち原告らが機械工として就労していたこと及び村山工場に原告ら主張の機械職場のあることは認めるが、その余の事実は否認する。

原告ら主張の職場には他の機械工が就労しておりこれを排して原告らを配置することはできないことは前述のとおりである。また、原告らと同じ機械工であつた者が原告らと同じ職種に配転になつているのであつて原告らのみを機械工として残置せしむべき理由もない。

(三) 同6(三)(1)のうち、原告相古が機械加工作業に従事してきたこと、同原告が本件配転後プレスの仕事に従事していることは認めるが、その余の事実は否認する。

(四) 同6(三)(2)のうち、原告栗原が機械加工作業に従事してきたこと、同原告が本件配転後タイヤ及びステアリングケージ取付け並びにプロペラシヤフトボルト差し等の仕事に従事していること、同原告がその主張の傷病につき業務上災害の認定を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(五) 同6(三)(3)のうち、原告塩谷が機械加工作業に従事してきたこと、同原告が本件配転後ガソリン給油の仕事に従事していることは認めるが、同原告の配転後の健康状態は不知、その余の事実は否認する。

(六) 同6(三)(4)のうち、原告大野が機械加工作業に従事してきたこと、同原告が本件配転後サンダー掛けの仕事に従事していること、同原告がその主張の日に休業したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(七) 同6(三)(5)のうち、原告長塩が機械加工作業に従事し、重要保安部品であるナツクル・スピンドルの加工作業を行つていたこと、同原告が本件配転後プレスの仕事に従事していること、右の仕事がその主張のような作業手順によつて行われることは認めるが、同原告の配転後の健康状態は不知、その余の事実は否認する。

(八) 同6(三)(6)のうち、原告相川が機械加工作業に従事し、重要保安部品であるリヤーアクスルシヤフトの加工作業を行つていたこと、同原告が本件配転後鉄板投入、スポツト溶接の仕事に従事していることは認めるが、同原告の配転後の健康状態は不知、その余の事実は否認する。

(九) 同6(三)(7)のうち、原告磯貝が機械加工作業に従事し、重要保安部品であるアクスルシヤフトの加工作業を行つていたこと、同原告が本件配転後車体ピラー溶接後の作業に従事していることは認めるが、同原告の配転後の健康状態は不知、その余の事実は否認する。

8 同7の事実は否認する。

四 被告の主張

被告が本件配転をなすに至つた経緯は、以下のとおりである。

1 本件配転当時被告村山工場は、総務部、工務部、検査部、第一ないし第三製造部により組織され、第一製造部は自動車の塗装及び艤装の工程を、第二製造部は自動車のプレス及び組立の工程をそれぞれ担当し、第三製造部は自動車の艤装工程に使用される車軸を製造する第一、第二車軸課、熱処理課及びフオークリフト課から構成されていた。なお、当時村山工場で製造していた自動車の車種はローレル及びスカイラインであつたが、第一、第二車軸課及び熱処理課においてはサニー、バイオレツト、オースター及び小型トラツクの車軸をも製造していた。

2 被告は、昭和五五年、サニー、バイオレツト及びオースターの車軸機構を後輪駆動(以下「FR」という。)から前輪駆動(以下「FF」という。)に変更することとし、右三車種のFF化に当つて、従来のFR車の製造を中止するとともに、中止の翌日からFF車を製造する方法をとることにした。そしてFF化の時期については、国内向バイオレツト、オースターは同五六年五月、国内向サニーは同年一〇月、輸出向バイオレツト、オースターは同年七月、輸出向サニーは同年一二月とした。

3 そこで被告においては右三車種のFF化に伴い工場の整備、人員の再配置等の検討をなしたが、第一、第二製造部において担当している前記プレス、組立、塗装及び艤装の各工程は、FR車用の設備を若干改造すればFR車製造中止の翌日からFF車の製造工程に使用することが可能であつたが、右艤装工程で取り付けられる車軸については、FF化によつてその機構が著しく異なることとなり、FF車の車軸部品を製造するため機械を新たに用意し、そのための建家を確保する必要があつた。しかも、FR車製造中止の翌日からFF車を製造するためには、切替日の六か月前からFF車用車軸の製造部署を準備し、一か月前から車軸部品の製造を開始しなければならず、結局七か月間はFR車用車軸とFF車用車軸を併行して製造しなければならないことになつた。

4 ところで、FF車の車軸は、エンジンに近い前輪を駆動させるため、FR車より部品の点数が少なくなり、FF化によつて車軸の製造を担当する機械工、溶接工及び機械組立工の約半数が余剰人員となる。被告としては右余剰人員を解雇しなければならないのであるが、被告は、右解雇を回避するため、当時新たに製造を開始することにしていたマーチを村山工場において製造し、これに要するプレス、組立、塗装及び艤装の各工程の要員約八〇〇名を右FF化によつて生ずる余剰人員をもつて充てることを計画した。

5 しかしながら、村山工場においてマーチを製造することになると車軸工場のスペースがなくなるため、被告は、サニーの車軸製造を栃木工場に移管することにしたが、そうなれば村山工場において右車軸の製造を担当していた従業員三五五名(機械工一四二名、溶接工一〇〇名、機械組立工一一三名)が仕事を失う結果になるが、この人員はマーチの製造工程の要員に充当し、さらに、村山工場における小型トラツク用車軸の製造を中止し、右車軸の製造を担当していた従業員一四〇名(機械工八二名、機械組立工五八名)をもマーチの製造工程の要員に充当することとした。しかしなおマーチの製造工程に約三〇〇名の要員が不足するが、村山工場における主要な製造車種であるローレル及びスカイラインが売れ行き不振のため仕事が閑散であつたので、不足分は同工場の現有在籍人員でやりくりすることになつた。

6 被告は、右の計画に従つて、栃木工場において同五六年九月サニーのFF車国内向の車軸製造を、同年一一月同輸出向の車軸製造をそれぞれ開始し、同年一〇月から同五七年三月にかけて村山工場におけるサニー、バイオレツト及びオースターのFR車の車軸製造を中止した。

7 被告は、以上のような理由から、同五六年六月一日以降同五七年三月一六日までの間、別表記載のとおり合計四九五名の配置転換を行つたもので、本件配転はこの一部である。

ただ被告は、本件配転に当り、原告らの経歴、技能等の特性、配転先の適否等を考慮することなく、原告らを適宜余裕のある職場に充当した。

8 以上のとおり本件配転は、被告の製造する自動車の三車種のFF化に伴い村山工場の担当業務を大幅に変更したことによるものであつて、就業規則四八条二項及び三項の「会社は業務上必要があるときは従業員に対し職種変更又は勤務地変更を命ずることができる。従業員は正当な事由がなければ右命令を拒むことはできない。」との規定に基づいてなされたものであり、正当な業務命令である。

五 被告の主張に対する認否

1 被告の主張1の事実は認める。

2 同2ないし7の各事実は否認する。

本件配転は、車格の異なる車種の導入によつて村山工場の生産体制の平均化と車軸部品の生産を栃木工場へ集中することによつて収益の向上を狙つたもの、すなわち会社の利益の増大だけを判断基準としたものである。FF化によつて仕事がなくなつたので解雇を避けるため配転したのではなく、マーチの生産人員を創出確保するため機械工の仕事をなくしたに過ぎない。本件配転は、会社の利潤追求のみを目的として労働者にだけ犠牲を押しつける典型的かつ大規模な「合理化」であつて、決して「余つた人を救うため」のものではない。

3 同8のうち被告主張の就業規則が存在することは認めるが、その余の事実は否認する。

第三証拠<省略>

理由

一 被告の本案前の答弁について

被告は、被告村山工場には原告らが就労することのできる機械工の仕事が存在しないのであるから、本件訴は訴の利益を欠き却下を免れない旨主張する。確かに原告らは、本訴請求の趣旨においては被告村山工場を就労場所とする機械工の地位にあることの確認を求めるとしているのであるが、請求の原因においては雇用契約違反、労働協約違反、不当労働行為ないしは配転命令権の濫用等により本件配転が無効である旨主張しているところからすれば、原告らがそれぞれの配転を命ぜられた先での就労義務の存在しないことの確認を求めている趣旨を含むものと理解できるから、たとえ被告主張どおり被告村山工場において原告らが就労できる機械工の仕事が存在しなくとも、本件訴が訴の利益を欠くということにはならない。したがつて、被告の本案前の答弁は理由がない。

二 そこで、地位確認請求の本案について判断する。

1 請求の原因1(一)及び同1(二)ないし(八)のうち原告らが機械工として採用されたことを除くその余の事実並びに同2の事実は当事者間に争いがない。

2 雇用契約違反の主張について

(一)(1) 原告相古が中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募して昭和三三年四月一日富士精密に採用されたこと、同原告が同年七月一日から同四二年八月三一日まで荻窪工場工作一課に、同年九月一日から同四三年九月ころまで村山工場機関組立課に、同年一〇月ころから同五〇年八月ころまで同工場機関課に、同年九月から本件配転に至るまで同工場第三製造部第二車軸課にそれぞれ所属し、機械工として就労していたことは当事者間に争いがない。

(2) 原本の存在並びに成立に争いのない甲第一号証、原告相古晃次本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第一四号証の一ないし一二、及び原告相古晃次本人尋問の結果によると以下の事実を認めることができる。すなわち、

(イ) 原告相古は、同三三年中学卒業と同時に父の知合いの町工場に機械工として就職することになつていたが、中学の担任教諭から「どうせ機械工をやるなら大きな会社に入つた方がいいだろう。」と勧められ、富士精密荻窪工場において機械工を募集している旨紹介されてこれに応募したところ、採用されるに至つた。

(ロ) 原告相古は、同年四月一日以降三か月間機械工としての教育を受けた後、同年七月一日本採用となつて荻窪工場工作一課に配属され、歯切盤、ターレツト旋盤及び研削盤等を使用して機械加工作業に従事していた。

(ハ) 原告相古は、同四二年当時、自動車の変速機の機械加工の仕事に従事していたが、被告は、右の業務を吉原工場に移管し、原告相古はじめ四名を村山工場機関組立課に配置転換し機械組立工の仕事に従事させることを提案した。そこで原告相古の所属する全金支部は、原告相古らは機械工であるから組立工に職種変更することには同意できないとして会社と折衝した結果、同年八月二九日被告との間で「機関組立課への転勤者については車体課応援終了後機械工職に就かせる。」との覚書を取り交した。そこで原告相古は同年九月一日村山工場機関組立課に配置換えとなりラツプ盤の仕事に従事していたが、同四三年一〇月ころ右覚書に基づいて同工場機関課に配置換えとなつて研削盤を使用してクランクシヤフトを加工する機械工としての仕事に従事した。

(ニ) その後原告相古は、同五〇年九月、同工場第三製造部第二車軸課に配置換えとなり、本件配転に至るまで、機械工として自動旋盤、研削盤及びトランスフアーマシン等を使用して自動車のデフケースを加工する仕事に従事した。

以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(二)(1) 原告栗原が中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募し、同二八年四月一日同社に採用されたこと、同原告が荻窪工場工作一課に配属され、課名は変わつたが一貫して同一職場に所属し、機械工として就労していたことは当事者間に争いがない。

(2) 原告栗原光之本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一五号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第八号証、及び原告栗原光之本人尋問の結果によると以下の事実を認めることができる。すなわち、

(イ) 原告栗原は、同二八年三鷹市立三鷹中学を卒業するに当り、将来機械工になりたいとの希望を持つていたところ、富士精密荻窪工場で機械工を募集していることを知つてこれに応募し、同社に採用されるに至つた。

(ロ) 原告栗原は、同年四月一日以降三か月間機械工としての教育を受けた後、同年七月一日本採用となつて荻窪工場工作一課に配属され、旋盤、ボール盤、フライス盤及び研磨盤等を使用してクランクシヤフト、トランスミツシヨンあるいは車軸部品等を機械加工する等の機械工たる仕事に従事していた。

(ハ) その後同原告の所属していた職場が職場ごと村山工場に移転することになつたため、原告栗原は、同四二年一月ころ、村山工場第三製造部第一車軸課に配置換えになつたものの、同四五年九月一日から同年一〇月九日までと同四九年二、三月に組立の仕事の応援に出た以外は、機械工として従前同様工作機械を使用して機械加工をする仕事に従事していた。

(ニ) さらに原告栗原は、同五三年三月、同原告が従事していたトラツクの車軸部品を加工する仕事が外注に出されることになつたため、同工場第三製造部第二車軸課に配置換えとなり、本件配転に至るまで工作機械を使用してサニーの車軸部品を機械加工する機械工たる仕事に従事していた。

以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(三)(1) 原告塩谷が中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募し、同三一年四月一日同社に採用されたこと、同原告が荻窪工場工作一課に配属され、課名は変わつたが一貫して同一職場に所属し、同四三年一〇月ころから村山工場機関課に、同五〇年九月から同工場第三製造部第一車軸課にそれぞれ所属し、機械工として就労してきたことは当事者間に争いがない。

(2) 前掲甲第一号証、成立に争いのない同第二二号証の一ないし四、同乙第一〇号証、及び原告塩谷一利本人尋問の結果によると、以下の事実を認めることができる。すなわち、

(イ) 原告塩谷は、同三一年三月杉並区立井草中学を卒業するに際し、中学の担任教諭から富士精密で機械工を募集しているので応募してみないかと勧められ、たまたま同原告の兄匡康が同社に機械工として勤務していたこともあつてこれに応募したところ、採用されるに至つた。

(ロ) 原告塩谷は、同年四月一日以降三か月間機械工として教育を受けた後、同年七月一日本採用となつて荻窪工場工作一課に配属され、機械工として旋盤、ボール盤、フライス盤及び歯切盤等を使用して機械加工作業に従事した。

(ハ) 原告塩谷は、同四二年当時、自動車の変速機の機械加工の仕事に従事していたが、前記(一)(2)(ハ)認定のとおり、原告塩谷の所属する全金支部が同年八月二九日会社との間に覚書を取り交したので、原告塩谷は同年九月一日以降同四三年三月末日までの間車体課に出向いてサブ作業の応援をしたが再び機械工に戻りボール盤の仕事に従事していた。その後原告塩谷は、同年一〇月ころ右の職場がなくなつたため、前記覚書に基づいて同工場機関課に配置換えとなつてボール盤、フライス盤を使用してシリンダーブロツクを加工する仕事に従事していた。

(ニ) 原告塩谷は、同五〇年九月右の職場が九州工場に移されたため、村山工場第三製造部第一車軸課に配置換えとなり、本件配転に至るまで機械工として倣い旋盤及びNC旋盤を使用し機械加工に従事していた。

以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(四)(1) 原告大野が中学卒業後しばらくしてプリンス自工による機械工募集の求人申込みに応募し、同三七年三月同社に採用されたこと、同原告が入社後荻窪工場シヤシー課に、同三八年八月ころ同工場ミツシヨン課に、同四一年九月ころ再び同工場シヤシー課に、その後村山工場第三製造部第一車軸課にそれぞれ配属されて機械工として就労してきたことは当事者間に争いがない。

(2) 前掲乙第八号証、成立に争いのない甲第二六号証、原告大野良男本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二七号証の一ないし三、及び原告大野良男本人尋問の結果によれば、以下の事実を認めることができる。すなわち、

(イ) 原告大野は、同三六年三月中学を卒業し、同年四月から日野鋳造所に雇われ鋳造に従事していたが、仕事がおもしろくなく、友人から機械工になつたらどうかと勧められていたところ、同年一〇月二日付朝日新聞に掲載されたプリンス自工の従業員募集の広告に「職種 機械工、仕上工、組立工、その他」とあるのを見てこれに応募した。同原告は同三七年二月末ころプリンス自工の採用試験を受けて合格し、同年三月二三日入社したが、面接試験の際試験担当者に対し機械工になりたいと希望を述べた。

(ロ) 原告大野は、プリンス自工入社後機械工として荻窪工場シヤシー課に配属され歯切盤等を使用してギアの機械加工を行つていたが、同三八年八月同工場ミツシヨン課に配置換えとなり研削盤等を使用してギアの機械加工をなし、同四一年九月再度同工場シヤシー課に配置換えとなつて旋盤、ボール盤、フライス盤及びトランスフアーマシン等を使用してトラツクのキヤリア及びキヤツプを機械加工する機械工としての仕事に従事していた。

(ハ) 原告大野は、同年一一月ころ右の職場が村山工場に移されることになつたため、村山工場第三製造部第一車軸課に配置換えとなつて、従前同様トラツクのキヤリア及びキヤツプの機械加工をするようになり、同五一年一月同課のフロントアクスル組立に短期間応援に出た以外は、本件配転に至るまで前記機械工たる仕事に従事していた。

以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(五)(1) 原告長塩が中学卒業の際富士精密による機械工募集の求人申込みに応募して同二八年四月一日同社に採用されたこと、同原告が入社後荻窪工場工作課に、その後村山工場第三製造部第一車軸課にそれぞれ配属され、機械工として就労してきたことは当事者間に争いがない。

(2) 前掲甲第二二号証の二、成立に争いのない乙第一二号証、原告長塩征生本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三四号証、及び原告長塩征生本人尋問の結果によると、以下の事実を認めることができる。すなわち、

(イ) 原告長塩は、同二八年三月杉並区立東田中学を卒業するに際し、富士精密で機械工をしている友人から話を聞いて機械工に憧れ同社の機械工募集に応募したところ、採用された。

(ロ) 原告長塩は、同年四月一日以降三か月間機械工としての教育を受けた後、同年七月一日本採用となつて荻窪工場工作課に配属され、爾後ボール盤、フライス盤及び歯切盤を使用して機械加工作業に従事していた。

(ハ) 原告長塩は、同四一年一二月右職場の村山工場への移管とともに村山工場第三製造部第一車軸課に配置換えとなり、同四八年一二月から同四九年一月までと同五二年六月二七日から同年八月末までの間組立の仕事に応援に出た以外は、本件配転に至るまで前述の工作機械を使用してトラツクのナツクル及びセンター部分の部品を機械加工する機械工としての仕事に従事し、重要保安部品の機械加工に携わることもあつた。

以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(六)(1) 原告相川が東京都中央公共職業補導所修了の際富士精密による機械工募集に応募し、同二八年二月一六日同社に採用されたこと、同原告が同日以降同四二年八月三一日まで荻窪工場工作課に、同年九月一日から本件配転に至るまで村山工場第三製造部第一車軸課にそれぞれ配属され、機械工として就労してきたことは当事者間に争いがない。

(2) 原告相川辰榮本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三九、第四〇号証、及び原告相川辰榮本人尋問の結果によると、以下の事実を認めることができる。すなわち、

(イ) 原告相川は、同二八年二月ころ東京都中央公共職業補導所仕上げ科(旋盤を除く工作機械の取扱いを習得するコース)を修了するに際し、富士精密の機械工募集に応募したところ、採用された。

(ロ) 原告相川は、同年二月一六日荻窪工場工作課に配属され、ホーニングマシン、ボール盤、ボーリングマシン、ロータリーフライス、旋盤等を使用してシリンダー、ミツシヨンケース等を機械加工する仕事に従事した。

(ハ) 原告相川は、同四二年九月一日、村山工場第三製造部第一車軸課に配置換えとなり、その後本件配転に至るまで機械工としてシリンダーブロツク等のロータリーフライス盤、トランスフアマシンによる機械加工に従事し、この間重要保安部品であるリアアクスルシヤフトをフライス盤、GF倣い旋盤で機械加工することにも携わつた。

以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(七)(1) 原告磯貝がプリンス自工による機械経験工募集に応募し同三九年四月一三日機械経験工として同社に採用されたこと、同原告が同日から同四二年八月三一日まで荻窪工場エンジン課及びミツシヨン課に、同年九月一日から本件配転に至るまで村山工場機関課及び第三製造部第二車軸課にそれぞれ配属され、機械工として就労してきたことは当事者間に争いがない。

(2) 成立に争いのない甲第一八号証の一、二、及び原告磯貝啓吉本人尋問の結果によれば、以下の事実を認めることができる。すなわち、

(イ) 原告磯貝は、中学卒業後町工場で旋盤等工作機械を取り扱つていたが、同三九年三月一五日付読売新聞に掲載されたプリンス自工の従業員募集の広告に「職種 機械・組立・仕上・熱処理」とあるのを見てこれに応募し、同年四月初めころ面接試験を受けた。なお原告磯貝は、面接試験の際試験担当者に対し機械工の経験があるので機械工になりたい旨希望を述べた。

(ロ) 原告磯貝は、同年四月一三日プリンス自工に採用され、荻窪工場エンジン課に配属されてラジアルボール盤、フライス盤を使用してシリンダーヘツドを機械加工していたが、エンジン課の職場が村山工場に移ることになつたため、同年一〇月荻窪工場ミツシヨン課に配置換えとなり、同課で旋盤によるギアの機械加工をするようになつた。

(ハ) ところが同四二年九月一日ミツシヨン課の職場が吉原工場に移つたため、原告磯貝は、同日村山工場機関課に配置換えとなり、ボール盤等でコネクチングロツトを機械加工する仕事に従事した。そしてさらに原告磯貝は同四八年六月ころ同工場第三製造部第二車軸課に配置換えとなり爾後本件配転に至るまで機械工として研削盤、GF倣い旋盤を使用してアクスルシヤフトを機械加工する仕事に従事した。

以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(八) 以上認定の事実によると、原告相古、同栗原、同塩谷及び同長塩は中学校を卒業する際、また、原告相川は職業補導所を修了する際、それぞれ機械工として就職することを希望していたところ、富士精密が機械工を募集していることを知りこれに応募し、試験に合格した後原告相古、同栗原、同塩谷、同長塩は三か月の機械工訓練を経て本採用となり、原告相川は直ちに本採用となつていずれも機械職場に配置され、原告大野は中学校卒業後鋳造所で働き、原告磯貝も中学校卒業後旋盤工として働いていたが機械工を希望していたところ、プリンス自工が機械工を募集していることを知りこれに応募し採用試験合格後直ちに機械職場に配置されたものであること、さらに入社後も本件配転を命ぜられるまでの間原告相古は二三年三月、同栗原は二八年六月、同塩谷は二五年六月、同大野は一九年六月、同長塩は二八年八月、同相川は二八年一〇月、同磯貝は一七年一〇月いずれも機械工として継続して就労してきた(但し、右の間社命により機械職場以外の職場に応援に出向いた期間は原告相古が一年、同栗原が数か月、同塩谷が七か月、同大野がごく短期間である。)ことが明らかであり、証人今井栄久の証言によつて真正に成立したものと認める乙第三号証の一、二によると、被告村山工場では職種として機械加工、車軸組立、車輛組立、メツキ、プレス、溶接、フオークリフト組立、塗装、車体溶接、中間熱処理、車軸実験、フオークリフト実験等が存すること、証人岡崎宏徳の証言によつて真正に成立したものと認める乙第一九、第二〇号証の各二によると被告では職種の名称として「機械工」を使用していることが認められるから、以上の事実を綜合すると、原告らが被告に吸収合併される以前の富士精密又はプリンス自工と締結し被告に承継された雇用契約においては、機械工をその職種として特定したものであつたと認めることができる。

もつとも被告は、原告らを機械工としてではなく「技能員」として採用したものと主張し、前掲証人岡崎宏徳の供述中には右主張に副う部分が存するけれども、原告大野良男本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告において「技能員」なる用語を使用し始めたのは昭和四一年ころからであつて、原告らが雇用契約を締結した富士精密、プリンス自工においては職種としてかかる用語は使用されていなかつたことが認められるのであり、仮に、原告らの採用時に現に被告村山工場にある前記十数種の職種が存在したとした場合、同じ「技能」といつてもその内容に大きな差があるから、原告らとしては、機械工として応募したにも拘らず採用にあたつて如何なる職種に就くかが決められず採用後に会社の一方的裁量によつて組立工、溶接工、塗装工或は熱処理工等として就労せしめられるとするならば入社しなかつたであろうことは前記入社に至る経緯に照らし容易に推測し得るところであつて、原告らが十数種の職種を包括した「技能員」なる職種として採用されたとする前掲証人岡崎の供述部分は到底措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(九) 以上説示のとおり原告らと被告との間の雇用契約においては機械工をその職種に特定されているものであるから、被告が原告らを他の職種に就労せしめることは雇用契約内容の変更にあたり原告らの同意を得る必要があるところ、被告の就業規則四八条二項に、「会社は業務上の必要があるときは従業員に対し職種変更又は勤務地変更を命じることができる」、同三項に、「従業員は正当な事由がなければ右命令を拒むことはできない」趣旨の規定の存することは当事者間に争いがないから、原告らは職種変更につき事前に包括的同意を与えているものと解せざるを得ない。

もつとも原告らは、右就業規則の存在を認めながらなおかつ原告らの同意を要する旨主張しているところからすると、使用者の雇用人に対する配転命令権を否定する考え(いわゆる配転命令否認説)に立脚しているように受け取れるのであるが、配転命令権は、使用者と雇用人との間の雇用契約に依拠し使用者が取得する権利として肯定さるべきものであり、就業規則は、その法的性質論は措くとして法的効力をもつことは労基法九三条の規定するところであるから、被告において前示の就業規則を定めていることは取りも直さず原告ら従業員において被告の業務上の必要性の存在及び従業員の正当事由の不存在を合理的制約として職種の変更に包括的同意を与えているものと解されるのである。

(一〇) したがつて、本件配転が雇用契約に違反して無効であるとの原告らの主張は採用することができない。

3 労働協約ないし労使慣行違反の主張について

原告らは、被告と全金支部との間には、職種変更を伴う配置転換のように労働者に重大な労働条件の変更を生ぜしめる人事権を行使する際には、被告は全金支部と協議しかつ当該組合員個人の同意を得てこれを実施する旨の労働協約ないし労使慣行が存在するところ、本件配転に当つては右のような手続を経ていないから、本件配転は右の労働協約ないし労使慣行に違反し無効である旨主張し、証人坂ノ下征稔の供述中には右主張に副う部分があるけれども、右供述部分は後記証拠と対比してたやすく措信できず他に右主張事実を認めるに足る的確な証拠はない。かえつて、原本の存在並びにその成立に争いのない甲第二号証によれば、全金支部は同五六年六月一一日付で被告に対し、やむを得ず職種転換をする場合には、事前に当支部に提案し、支部及び本人の同意を得ることを要求しているが、右の点につき労働協約ないしは労使慣行の存在を主張していないことから推せば、被告と全金支部との間には本件配転当時原告ら主張のような労働協約ないし労使慣行が存在しなかつたことが窺えるのである。

したがつて、本件配転が労働協約ないし労使慣行に違反し無効であるとの原告らの主張は、その余の点について判断するまでもなく失当たるを免れない。

4 不当労働行為の主張について

原告らがいずれも全金支部の組合員であることは前述のとおりであるところ、原告らは、本件配転が全金支部の組織を弱体化させ、かつ全金支部所属の原告らに対し日産労組に所属する組合員と差別処遇する意思の下になされた不当労働行為であつて無効である旨主張する。

確かに原本の存在並びにその成立に争いのない甲第五号証によると、被告が昭和四一年八月一九日に全金組合員六名に対してした配転命令が東京都地方労働委員会(以下「都労委」という。)によつて不当労働行為であると認定されたこと、成立に争いのない甲第四三号証によると、都労委は同四一年七月一六日、被告に対し管理職が、全金支部組合員に対し同組合の支持を弱めるような言動をなすことを放置してはならないとの救済命令を発したこと、成立に争いのない甲第八、第九号証によると、都労委は、昭和五一年ころ被告が全金支部に対し組合事務所及び掲示板の貸与を拒否したことを不当労働行為にあたると認定し、裁判所も右認定を支持したこと、成立に争いのない甲第四七号証によると、都労委は、同五八年六月二一日、被告に対し全金支部組合員を職務上孤立的取扱いをすることにより支配介入してはならない旨の救済命令を発したことがそれぞれ認められるので、これらの事実を綜合すると、被告は原告らの所属する全金支部ないしはその組合員を快く思つていないことはこれを窺知することができる。

しかしながら本件配転は、後述するように、被告が、乗用車のFF化実施に則し従来村山工場にあつた車軸製造部門を栃木工場等に移管し、村山工場において小型乗用車マーチを製造するようになつたため、被告が同五六年六月一日以降同五七年三月一六日までの間、全金支部の組合員はもとより従業員の大多数が加盟する日産労組員をも含めて、別表記載のとおり、配置転換を行つた中の一部分であつて、同表によつて明らかなように、原告らと同じ機械職場よりコンベアライン作業への配転者は全金支部組合員以外の者が圧倒的多数を占めている事実に鑑みると、特に原告らの配転のみを被告の不当差別意思に基づく行為と断ずることはできない。

よつて本件配転が不当労働行為にあたるとする原告らの主張は採用することができない。

5 配転命令権濫用の主張について

原告らと被告との間の雇用契約は、職種を機械工と特定してなされたものであるが、「被告は業務上必要がある場合は職種の変更を命ずることができる。従業員は正当な事由がなければこれを拒否することができない」との就業規則により原告らにおいて被告の配転命令権に合理的範囲の制約を課しながらも事前の包括的同意を与えたことは前叙のとおりである。

而して一般的には、労働者にとつては就労すべき業務すなわち職種は就労の場所とともに重要な労働条件であり、これを変更するときは労働者の生活上の権利に重大な影響を与えることになるから、配転命令の要件たる業務上の必要性は配転によつて被ることのあるべき労働者の生活上の不利益との比較衡量において判断さるべきであり、労働者の拒否事由としての正当事由もまた右と相表裏するものとして同一観点に立つて考慮すべきものであつて、被告の利益に比し従業員の被る不利益が著しいというような利益衡量が権衡を失する場合においては権利の濫用として配転は無効となるものといわなければならない。

そこで本件配転を被告の経営上の必要性及び人選の合理性の両面から検討を加えることにする。

(一) 被告の経営上の必要性について

(1) 被告の主張1の事実は当事者間に争いがない。

(2) 成立に争いのない乙第一三号証、前掲乙第三号証の一、証人砂子昌重の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一四号証の一、二、第一六号証及び前掲証人今井栄久、同岡崎宏徳、証人砂子昌重の各証言によると、以下の事実を認めることができる。すなわち、

(イ) 被告は、世界の自動車業界の趨勢が車両の小型化と駆動方式のFF化にあつたため、その動向に対応して自社で生産する自動車の大部分をFF化する計画を立て、昭和五五年四月、当時村山工場において車軸部分を製造していたサニー、バイオレツト及びオースターをFF化することにした。そしてFF化の時期については国内向バイオレツト、オースターは同五六年五月、輸出向バイオレツト、オースターは同年七月、国内向サニーは同年一〇月、輸出向サニーは同年一二月から同五七年三月までとした。

(ロ) ところで、自動車の駆動方式をFRからFFに転換するにはとくに車軸製造部門において大幅な設備の変更を必要とし、しかも一定の時期にFF化を行うには七か月間はFR用車軸部品とFF用車軸部品を併行して製造する必要があり、そのためには村山工場のスペースでは不足することが判明した。そこで被告は、スカイライン、ローレル用の車軸部品の製造を除いた車軸部品(小型トラツクの車軸部品を含む。)の製造を栃木工場及び横浜工場に移すことにした。

(ハ) しかして被告は、右車軸部品の製造を栃木工場等へ移管した後の対策として村山工場においてローレル、スカイラインとは車格が異なりかつ輸出にも振り向けることのできる新規小型車マーチを生産し、これによつてローレル、スカイラインとマーチという車格及びモデルチエンジの時期の異なる車両の生産を組み合わせ、もつて村山工場の生産体制を平均化し、従業員の雇用及び勤務体制の安定化をはかるべく計画した。

(ニ) 而して被告は、村山工場においてマーチの生産を開始するに当つて、新たに必要とする人員約八〇〇名を、サニー、バイオレツト、オースターの車軸部品の製造を他工場に移管することによつて余剰となつた三五五名(機械工一四二名、溶接工一〇〇名、機械組立工一一三名)と小型トラツクの車軸製造を他工場に移管することによつて余剰となつた一四〇名(機械工八二名、機械組立工五八名)、合計四九五名をもつて充当し、なお不足する約三〇〇名については、当時ローレル、スカイラインの販売実績が不振であつたところから、右ローレル、スカイラインの生産要員をもつて充当することとした。

(ホ) 被告は、右のような計画に基づいて、同五六年六月一日以降同五七年三月一六日までの間に、村山工場第三製造部所属の車軸製造に従事していた従業員の大部分を同工場第一、第二製造部に配転し、原告らに対する本件配転も右の計画の一部として行われた。

以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(二) 人選の合理性について

(1) 原告相古は、前記二の2の(一)において認定したとおり、同三三年四月一日に富士精密に入社以来本件配転に至るまで二三年三か月の間機械工として機械加工作業に従事してきたもので、機械加工の熟練工ということができる。しかるところ、原告相古晃次本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一三号証、第一四号証の一三、及び同原告本人尋問の結果を綜合すると、原告相古が本件配転によつて就労すべく命ぜられたローレル関係のプレス工の仕事は、ベルトコンベアによつて運ばれてくる鉄板をプレス機械の型の中に入れたうえ両手押ボタンでプレス機械を作動させるという作業を一時間に三五〇ないし六〇〇回の割合で繰り返す単純反覆作業であること、したがつて右の作業は同原告が従前従事していた機械工の仕事と全く異質の仕事であつて同原告が有していた機械工としての技能、経験を生かす余地がほとんどないことを認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。

(2) 原告栗原は、前記二の2の(二)において認定したとおり、同二八年四月一日富士精密に入社以来本件配転に至るまで二八年六か月の間機械工として機械加工作業に従事してきたもので、機械加工の熟練工ということができる。しかるところ、原告栗原光之本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一五号証の一、及び同原告本人尋問の結果を綜合すると、原告栗原が本件配転によつて就労すべく命ぜられたスカイライン、ローレル関係のタイヤ及びステアリングケージ取付けの仕事は、ベルトコンベアによつて二分間に一台の割合で運ばれてくる乗用車についてその片側の前後輪に重量が一二ないし一九・五キログラムあるタイヤを取り付けたうえインパクトレンチ、トルクレンチを用いてボルト、ナツト等を締めつける作業であること、したがつて右の仕事は熟練を要せず体力のみを要求される作業であることを認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。

(3) 原告塩谷は、前記二の2の(三)において認定したとおり、同三一年四月一日富士精密に入社以来本件配転に至るまで二五年六か月の間機械工として機械加工作業に従事してきたもので機械加工の熟練工ということができる。しかるところ、成立に争いのない甲第二三号証の一、二、及び原告塩谷一利本人尋問の結果を綜合すると、原告塩谷が本件配転によつて就労すべく命ぜられたスカイライン関係のガソリン給油の仕事は、ベルトコンベアによつて二分間に一台の割合で運ばれてくる乗用車について静電防止用の作業靴を履いてパワステオイル、トルコンオイル、ガソリン及び不凍液を注入したうえバルブ及びプレートを取り付ける熟練を要しない単純な作業であることを認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。

(4) 原告大野は、前記二の2の(四)において認定したとおり、同三七年四月一日プリンス自工に入社以来本件配転に至るまで一九年六か月の間機械工として機械加工作業に従事してきたもので、機械加工の熟練工ということができる。しかるところ、成立に争いのない甲第三〇号証、原告大野良男本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二八号証の一、二、及び同原告本人尋問の結果を綜合すると、原告大野が本件配転によつて就労すべく命ぜられたローレル関係のサンダー掛けの仕事は、防塵面、前掛け、安全靴等を着用して、ベルトコンベアによつて三分三〇秒に一台の割合で運ばれてくる乗用車について車体のブレージング溶接部をグラインダー及びサンダーを用いて削る熟練を要しない単純作業であるうえ、粉塵等が発生して作業環境が悪いため月額四八〇〇円の特殊作業手当が支給されることを認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。

(5) 原告長塩は、前記二の2の(五)において認定したとおり、同二八年四月一日富士精密に入社以来本件配転に至るまで二八年八か月の間機械工として機械加工作業に従事してきたもので、機械加工の熟練工ということができる。しかるところ、前掲甲第一四号証の一三、及び原告長塩征生本人尋問の結果を綜合すると、原告長塩が本件配転によつて就労すべく命ぜられたプレスのコンベアラインの仕事は、コンベアによつて運ばれてくる鉄板をプレス機械の型に入れたうえ両手押ボタンでプレス機械を作動させるという作業を繰り返す単純反覆作業であること、したがつて右の作業は同原告が従前従事していた機械工の仕事と全く異質の仕事であつて同原告が有していた機械工としての技能、経験を生かす余地がほとんどないことを認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。

(6) 原告相川は、前記二の2の(六)において認定したとおり、同二八年二月一六日富士精密に入社以来本件配転に至るまで二八年一〇か月の間機械工として機械加工作業に従事してきたもので機械加工の熟練工ということができる。しかるところ、原告相川辰榮本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四一、第四二号証の各一、二、及び同原告本人尋問の結果を綜合すると、原告相川が本件配転により就労すべく命ぜられた鉄板投入作業は、ローレル、スカイラインの床部分になる重さ一八キログラムの鉄板パネルを三人一組になつて組み合わせる作業であり、同原告が同五七年九月一三日以降従事すべく命ぜられたマーチのリヤフロアに鉄板をスポツト溶接する仕事は、重さ約八キログラムの鉄板を所定の位置まで運搬したうえポータブルスポツト、エツクスガンを使用して右鉄板をスポツト溶接する作業を繰り返すものであること、したがつて右の仕事はいずれも熟練を要しない単純重筋作業であることを認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。

(7) 原告磯貝は、前記二の2の(七)において認定したとおり、同三九年四月一三日機械経験工としてプリンス自工に入社以来本件配転に至るまで一七年一〇か月の間機械工として機械加工作業に従事してきたもので、機械加工の熟練工ということができる。しかるところ、原告磯貝啓吉本人尋問の結果によれば、原告磯貝が本件配転によつて就労すべく命ぜられた車体ピラー溶接後の作業は、ベルトコンベアによつて一分三〇秒ないし一分五〇秒に一台の割合で運ばれてくるスカイラインの車体の溶接部分をグラインダー及びサンダーを用いて平らにする作業を繰り返す熟練を要しない単純作業であることを認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。

(三) 以上認定の事実によると、本件配転は、従来村山工場でしていた自動車の車軸部品の製造部門を栃木工場等へ移転し、新たに村山工場で新車種マーチを生産することにしたことに基づく村山工場内の人員再配置計画によるものであるところ、被告がかかる工場整備計画を立てた理由は、世界自動車業界の車軸小型化、駆動装置のFF化に対応するためのものであつたことは窺知するに十分であり、国の内外において競争の激しい自動車産業界にその地位を占める被告としては経営上必要な処置であつたと認めることができる。

しかしながら、原告らの配転については、原告らが従事していた車軸部品製造部門の栃木工場等への移転に伴う職場の消滅により配転自体はやむを得ないものとしても、証人岡崎宏徳の証言及び同証人の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一九号証の一、第二〇号証の一によれば、村山工場においては昭和五七年四月一日現在、工務部工務課に一五名、同部工具管理課に一三名、第三製造部機械課に一〇四名及び第三工機部第五工機製作課に六八名、計二〇〇名の機械工が在籍し、さらに同日現在原告らの通勤可能圏内である荻窪工場の総務部施設課に一一名、宇宙航空事業部製作課に七〇名、計八一名、同三鷹工場の繊維機械事業部製作課に二四名の機械工が在籍していることが認められるところからすると、原告らに対し配転命令の出された昭和五六年六月以降同五七年二月までの間においても右とほぼ同様の機械工配置状況であつたと推認できるから、被告としては原告らを配転する場合においては、原告らの機械工としての経歴、技能を十分に斟酌し、前示村山、荻窪及び三鷹の各工場内の他の機械職場に従事する機械工の経歴、技能をも考慮してこれらの者との関連において他の機械職場に配置することが可能か否かを検討し、例え他の機械職場への配置が不可能とされる場合でも本人の意向を聴きでき得る限りその技能を生かせる職場に配置するなど原告らの利益についても十分配慮するのが、配転命令権を行使する被告のとるべき必要な措置といわなければならない。しかるに被告は、原告らの配転にあたりその経歴、技能等の個人の特性や配転先への適応性等前叙の如き事情を一切考慮することなく適当に他の職種に配転したと自認するのであり、しかも原告らの配転先は前記認定事実によつて明らかなように原告らの永年に亘る経験、蓄積した技能を生かし得ず、単純で身体に厳しく、機械職場に比し労働条件の劣悪な職場であるから、被告のした本件配転は、人選の合理性を欠くものとして配転命令権の濫用にあたり無効といわざるを得ない。

三 次に不法行為を理由とする損害賠償請求について判断する。

原告らは、被告の原告らに対する本件配転は、原告らに苦痛を与えることを目的としてなした不当労働行為であり、原告らの機械工職の剥奪の結果を生じさせる不法行為である旨主張する。

しかしながら、以上に説示したとおり、本件配転は権利の濫用として無効といわざるを得ないものの、これを不当労働行為とすることはできないところであり、また本件配転が被告において原告らに苦痛を与える目的を以つてなされたものと認め得べき証拠は存しない。

したがつて、原告らの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

四 結論

以上のとおり、原告らの請求原因は、本件配転が権利の濫用として無効であるという限度で理由があり、その余は理由がないというべきである。而して、原告らの請求の趣旨第1項は、「原告らが被告村山工場を就労場所とする機械工の地位にあることを確認する。」というものであるが、配転命令の効力を争う訴訟において、勤務場所を配転命令前の旧職場とする雇用契約上の地位確認を求める請求はいわば旧職場で就労すべき権利を有することの確認を求める請求と同一であるというべきところ、労働者から使用者に対する就労請求権を認めることができない以上右のような請求権の存在確認請求は許されないから、このような場合、右請求を配転命令後の新職場における就労義務の存在しないことの確認を求める請求を包含しているものと解されるときはその趣旨を含むものとして取扱うのが相当である。しかして、原告らの右請求の趣旨は請求原因事実からみて右のような趣旨をも包含していると解されるから、原告らの地位確認請求に関しては主文第一ないし第七項掲記の限度でこれを認容し、右限度を超える請求及び損害賠償請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(別表)

<1>発令日

(昭和 年 月 日)

<2>対象者数

<3><2>のうち職種変更者数

<4><3>のうち機械工からの職種変更者数

<5><4>のうちコンベアライン作業への変更者数

五六・六・一

二一

二一

七・一

一〇(一)

一〇(一)

一〇(一)

一〇(一)

九・一

五九

五九

一五

一五

一〇・一

九六(三)

九六(三)

五四(三)

五四(三)

一一・一

一二

一二

一二・一

四四(一)

四四(一)

三三(一)

二八(一)

五七・一・一

八三(二)

八三(二)

五二(二)

四五(一)

二・一

八七(一)

八七(一)

二九

二九

三・一

五二(二)

五二(二)

二七(二)

二四(二)

三・一六

三一(一)

三一(一)

(括弧内の数字は全金支部組合員数)

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