東京高等裁判所 昭和61年(ネ)50号 判決
本件申請に係る仮処分の被保全権利が航空法四九条二項に基づく妨害物除去請求権であることは、当事者間に争いがなく、そして、同請求権が公法上の権利であることは、右規定の性格に照らして明らかである。
しかしながら、公法上の権利であっても、その権利の実現のため、法律上、その権利主体に対し自力執行の権限が付与されているなどの特段の事情がない限り、民事手続法上の強制執行制度によって、その権利の実現を求めることが許されないものではない。そして、航空法四九条二項に基づく妨害物除去請求権についても、その権利の実現のため、被控訴人公団に対し自力執行の権限を付与する旨の法律上の根拠規定は存在しないし、また、同被控訴人は、行政代執行法二条所定の行政庁には当らないから、同法による代執行をすることもできない。従って、被控訴人公団が右請求権を実現するためには、行政事件訴訟法四条所定の公法上の当事者訴訟によって給付判決を得た上、民事手続法上の強制執行制度を利用するほかないというべきであり、更に、その間に権利保全の必要性がある場合には、民事手続法上の仮処分制度を利用することができるものと解すべきである。
なお、行政事件訴訟法四四条は、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事訴訟法に規定する仮処分をすることができない。」と規定している。しかし、この規定は、行政庁の処分その他の公権力の行使に当たる行為の効力、執行等の停止を求めるためにその行為の相手方からの申請によって行なう仮処分は許されないという趣旨にすぎないことは、この規定の制定の経過に徴して明らかである。従って、右規定が、航空法四九条二項に基づく妨害物除去請求権等の公法上の権利につき、被控訴人公団が民事手続法上の仮処分制度を利用することを禁止する根拠となり得ないことはいうまでもない。
3 請求原因3の(三)(1)の主張について
およそ、航空機は、その航行の性質上、離着陸のため、水平面に対して一定の勾配を有する平面を必要とし、また、飛行場及びその周辺において飛行する空域を必要とするものであるから、これらの平面、空域に突出する建造物等は、航空機の航空の障害となることが明らかである。そこで、航空法四九条一項は、同法四〇条の告示があった後は、原則として、進入表面等の上に突出する高さの建造物等を設置すること等を禁止しているのである。そして、同法四九条二項は、右規定に違反する建造物等が設置等された場合には、飛行場の設置者が右物件の所有者等に対しその物件の除去を請求し得ることを認めているのである。従って、航空法四九条一項及び同条二項による規制は、公共用飛行場に離着陸する航空機の航行の安全を確保するという高度な公共の利益の実現のため、飛行場周辺の土地の利用について一般的な制限を課するものであって、控訴人らが主張するように、飛行場周辺の土地の所有者等から「空中利用権」を「公用収用」するためになされるものではない。そして、右の程度の制限は、航空機の航行の安全を確保するという高度な公共の利益の実現のために必要かつ合理的な制限にすぎないものというべきである。従って、航空法四九条一項及び同条二項による規制は、飛行場周辺の土地の所有者等にとっては、その財産権に内在する制約として当然に受忍すべき範囲内のものであり、特別の犠牲を課することになるものではないと解すべきであるから、憲法二九条三項の規定上もその補償を要しないものというべきである。そうすると、航空法四九条二項による除去請求の対象物件について、損失補償の規定が存在しないとしても、憲法二九条、三一条には何ら違反しないものというべきである。
(奥村 加藤 笹村)