東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)115号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
1 請求の原因四1(認定判断の誤り第1点)について
(一) 成立について当事者間に争いのない甲第五号証(昭和五二年第二四七八一号公開特許公報。第一引用例)によれば、第一引用例に登載された発明の名称を「中枠入り化粧箱の製造方法」とする発明の明細書には次のような記載があることが認められる(別紙第一引用例図面参照)。
(1) 特許請求の範囲として、「上底と、この上底の各辺に延長して設けられた四つの側片を有し、この側片のそれぞれの裏面の中央部に長手方向に沿つて板厚のほぼ半分に達する半切溝を有し、この半切溝と対向する位置において各側片の表面には半切溝に達するミシン目を有する上箱を得る工程と、底板とこの底板の各辺に延長して設けられた四つの側辺を有する下箱を得る工程と、上箱および下箱の表面および内面の一部にわたつて化粧紙を貼着する工程と、下箱の基部の全周にわたつて両面接着テープを貼着する工程と、上箱と下箱を前記接着テープを介して固定したのち、上箱を前記ミシン目に沿つて切断し蓋と外枠とに分割する工程と、前記蓋と外枠の一側面に接着テープを貼着することによつて蓋を開閉自在に取付ける工程を含むことを特徴とする中枠入り化粧箱の製造方法。」との記載(甲第五号証一頁左下欄四行から二〇行まで)。
(2) 発明の詳細な説明の欄に、前記特許請求の範囲記載の上箱及び下箱についての説明として、「第1図に示すように例えば正方形の上底1と、その各辺を延長した四つの側片2を有する上箱3を厚紙より打ち抜く。この上箱3の各側片2の内面の中央部には長手方向に沿つて第2図に拡大して示すように板厚のほぼ中央にまで達する半切溝4が連続して形成されている。そして、これら各側片2の外側には第2図に拡大して示すように前記半切溝4にまで達する半切のミシン目5が半切溝4と対向して形成されている。一方、第3図に示すものは下箱6の展開図で、前記上箱3より一回り小さい底板7とその各辺の延長上にある四つの側片8とを有する。」との記載(甲第五号証二頁左上欄二行から一四行まで)。
(3) 発明の詳細な説明の欄に、前記特許請求の範囲記載の上箱を前記ミシン目に沿つて切断し蓋と外枠とに分割する工程についての説明として、「図示していないカツタを用いてミシン目5に沿つて上箱を切断する。このときカツタは半切溝4に達する程度にだけ挿入して切断し、下箱6に達しないようにする。このように切断することによつて下箱6の側面には傷がつかない。」との記載(甲第五号証二頁右上欄九行から一四行まで)。
(4) 発明の詳細な説明の欄に、工程の要約及び発明の効果として、「本発明によれば、上箱3と、下箱6とを用意し、上箱3と下箱6とを両面接着テープ13を介して固定したのち上箱3を蓋14と外枠15とに分断し、下箱6を中枠16として使用するように構成されているため、組立工数の極めて少ない組立容易な化粧箱を得ることが可能となる。」との記載(甲第五号証二頁左下欄二行から八行まで)。
(二) したがつて、第一引用例記載の発明は、製函工程で半切溝とミシン目を形成し、上箱の切断の工程ではその半切溝とミシン目を利用することが不可欠の構成であり、具体的には、上箱の側片の裏面に半切溝を、表面にミシン目を設けることにより、カツタを用いて上箱の周囲のミシン目に沿つて上箱を切断する際、カツタは半切溝に達する程度にだけ挿入して切断し、その切断が下箱に達しないようにするものであつて、このように構成することにより下箱に傷がつかないようにすることができるものである。
(三) しかしながら、第一引用例の記載を技術思想として把握するに当たつては、右のような具体的構成としてのみ認定しなければならないものではなく、上箱をカツタを用いて蓋と外枠とに分断するための具体的構成である、「上箱の側片の裏面に半切溝を、表面にミシン目を設けることにより、カツタを用いて上箱の周囲のミシン目に沿つて上箱を切断する際、カツタは半切溝に達する程度にだけ挿入して切断すること」を捨象して、「上箱周囲にカツタを用いて切れ目を入れてこの上箱を天地に二分する」と上位概念で把握し、認定することも許されるものである。
成立について当事者間に争いのない甲第二号証ないし甲第四号証(甲第二号証は本願特許出願願書、同願書添附の明細書及び図面、甲第三号証は昭和五七年五月一二日付手続補正書、甲第四号証は昭和五八年一〇月二七日付手続補正書)によれば、本願発明においては、「外装体の周囲に刃丈を該外装体の板厚よりも幾分大きくした回転刃により連続した切れ目を入れて前記外装体を天地に二分」するものであるので、下箱の側面にわずかな傷が付く場合があることを前提としている(本願発明の場合下箱の側壁に、実用上全くさしつかえない目立たない傷が付くことは、原告の自認するところである。)ものであり、そのような本願発明と対比すべき技術として第一引用例記載の技術を認定するに当たつて、下箱に傷が付かないようにするための前記具体的構成を捨象して、右のとおり上位概念で把握認定して差し支えないものというべきである。
原告は、第一引用例記載の具体的構成において、ミシン目は下箱に傷を付けないで上箱を切断するための構成ではなく、それに沿つて切断するための構成であるから、ミシン目は被告の主張する見地からみても捨象することのできない構成要件であると主張する。しかし、第一引用例記載の具体的構成において、ミシン目は、半切溝と対向する位置において各側片の表面に半切溝に達するように付けられているもので、カツタを用いてミシン目に沿つて上箱を切断することにより、対向する半切溝に達する程度にだけカツタを挿入して切断するのみで、下箱の側面には傷がつかないで、上箱を蓋と外枠とに分断することができるものであることは前記(一)に認定した第一引用例の記載から明らかであり、原告の右主張は採用できない。
(四) 前記(一)認定の事実によれば、第一引用例に記載されている下箱は「天面板のない角形状の下箱」であり、上箱は「底板のない角形状の上箱」であり、中枠入り化粧箱は「印籠式化粧箱」であることが明らかであるから、右(三)に認定判断したところと併せ考えれば、第一引用例には、「天面板のない角形状の下箱に底板のない角形状の上箱をかぶせて製函し、しかる後上箱周囲にカツタを用いて切れ目を入れてこの上箱を天地に二分し、上箱天側を蓋体として形成する印籠式化粧箱の製造方法」が記載されているものと認めることもでき、これと同じ本件審決の認定判断には、原告主張の誤認は認められない。
したがつて、第一引用例記載の方法では不可欠の構成を誤認した結果、本願発明と第一引用例記載の方法との相違点を看過誤認した旨の原告の主張は認めることができない。
2 請求の原因四2(認定判断の誤り第2点)について
(一) 本件審決が、その認定した相違点2について、「カツタにより二分することが第三引用例に記載されており、また、カツタの刃丈を外装体の板厚より幾分大きくすること及びカツタとして回転刃を採用することは当業技術者であれば普通になしうる単なる設計変更と認められる」と判断したこと(請求の原因三6(二))は、前記のとおり当事者間に争いがない。
(二) 右本件審決の判断中「カツタにより二分することが第三引用例に記載されており」との部分の趣旨はやや分かりにくいが、本件審決が右判断に先立つて、「第三引用例に、「搬送路途中に設けられたカツタにより紙厚の深さで容器側と蓋側を切截するようにした印籠式蝶番紙容器の製造方法」が記載されている。」と認定していること(請求の原因三4)、成立について当事者間に争いのない甲第八号証及び乙第五号証並びに本件口頭弁論の全趣旨によつて認められる、第三引用例は査定手続における拒絶理由通知においては引用されず、拒絶査定において、「ミシン目に沿うことなく、直接切断で印籠式紙容器の蓋体を分離することは従来から周知の技術事項であるものと認められるので、(例えば、特開昭五一―一〇三五七五号公報等参照)、本発明において上記技術を採用した点は単なる設計変更にすぎないものと認める。」と周知の技術事項の記載された例として引用されたもので、審判手続においてこれを引用した拒絶理由通知はされていないこと、並びに板紙をカツタで切断する場合に紙厚の深さで切截することという事柄自体の性質を合わせ考えれば、本件審決の前記部分の趣旨は、「カツタにより紙厚の深さで切截して二分することは例えば第三引用例に記載されているように周知であり」との趣旨であると解することができる。
そして、成立について当事者間に争いのない甲第七号証によれば、第三引用例には、紙製の身となる容器に、その側面外側を覆う紙製の蓋をかぶせた紙製容器の外側面にプラスチツクフイルムを被着させた後、紙製容器の三方の側面をカツタで紙厚の深さで切截して、印籠型蝶番箱を製造する方法が開示されていることが認められる。
ところで、一般に、板紙をカツタで切断する場合、紙厚の深さで切截することは前記の第三引用例の記載をまつまでもなく技術常識であるが、この場合、カツタの刃丈が紙厚と同じであれば紙自体のたわみ等から条件によつては完全に切断できない可能性があることも十分予想できるところ、他方、板紙をカツタで切断する場合に、確実に切断するために、許容される範囲内で刃丈を紙厚よりも幾分大きくすることもまた技術常識と認められる。
したがつて、「単にカツタにより二分する」と上位概念で把握した第一引用例の構成(具体的には「上箱の側片の裏面に半切溝を、表面にミシン目を設けることにより、カツタを用いて上箱の周囲のミシン目に沿つて上箱を切断する際、カツタは半切溝に達する程度にだけ挿入して切断する」構成であることは、前記1(三)のとおりである。)にかえて、技術常識である。カツタの刃丈を許容される範囲内で紙厚よりも幾分大きくすることは、本件出願当時、当業技術者であれば普通になすことのできた単なる設計変更と認められる。
(三)(1) 成立について当事者間に争いのない乙第一号証によれば、昭和三九年七月六日に出願公告された、発明の名称を「自由回転スコアラーヘツド」とする発明にかかる昭和三九年第一二七四四号特許出願公告公報には、紙(巻取紙)を含むフアイバー製材料を箱に成形する操作の一つとして、材料を切截するための、円板状のスリツテイングヘツドに取り付られた環状円板ブレード(刃)が記載されていることが、また、成立について当事者間に争いのない乙第二号証によれば、昭和四九年一二月二四日に出願公開された、発明の名称を「金属製中芯を有する段ボールの切断方法」とする発明にかかる昭和四九年第一三四四九四号公開特許公報には、金属製中芯を有する段ボールを切断するために、回転丸刃物により段ボールに所定の深さの刃筋(切込)を入れることが記載されていることが、それぞれ認められる。
(2) いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第三号証及び乙第四号証によれば、考案の名称を「切抜具」とする考案にかかる実用新案登録願願書(昭和四七年七月二四日出願、昭和四七年第八六四〇五号)のマイクロフイルム(昭和四九年四月二〇日発行)及び考案の名称を「新聞等スクラツプ用カツタ」とする考案にかかる実用新案登録願願書(昭和五一年九月八日出願、昭和五一年第一二〇〇三六号)のマイクロフイルム(昭和五三年四月三日発行)には、それぞれ、スクラツプ等の目的で紙を切り抜くための回転刃を柄に取り付けた用具が記載されていることが認められる。
(3) 成立について当事者間に争いのない甲第一〇号証によれば、昭和四八年八月二一日に出願公開された、発明の名称を「板材の裁断装置」とする発明にかかる昭和四八年第五九四八二号公開特許公報には、ラワン合板、パーチクルボード等の板材を切断するための回転する円形薄形刃物を備えた裁断装置が記載されていることが、また、成立について当事者間に争いのない甲第一一号証によれば、昭和五一年二月三日に出願公開された、発明の名称を「粘着発泡体シートおよびその製造方法」とする発明にかかる昭和五一年第一三八三五号公開特許公報には、発泡体シートの片面に粘着層及び剥離性を有する支持台紙を順次設けてなる粘着発泡体原反を切断する工程において、発泡体シート及び粘着層のみを切断する円形切断刃を配設してなる切断ローラ並びにそれによつて切断された発泡体シート及び粘着層の切断部を通して前記台紙を切断するように円形切断刃を配設してなる切断ローラが記載されていることが、それぞれ認められる。
(四) 箱の材料となる紙等を切断するのに回転刃を使用する技術は、少なくとも昭和三九年七月に出願公告されていること、金属製中芯を有する段ボールを切断するために切込を入れるのに回転刃を使用することは昭和四九年一二月に出願公開されていることは右(三)(1)に認定のとおりであり、スクラツプ等の目的で紙を切り抜くための回転刃を柄に取り付けた用具が本件出願前に公開されていることは右(三)(2)に認定のとおりであり、粘着発泡体シートの台紙を切断する円形切断刃を配設した切断ローラも昭和五一年二月に公開されていること及び紙ではないが、ラワン合板、パーチクルボード等の板材あるいは粘着発泡体原反を切断するための回転する円形薄形刃物を備えた裁断装置も昭和四八年八月あるいは昭和五一年二月に公開されていることは右(三)(3)に認定のとおりであることを考慮すれば、段ボール又は板紙等の厚紙を切断するカツタとして回転刃を使用することは、本件出願当時周知であつたものと認められる。
したがつて、本件出願当時、上箱を天地に二分するカツタとして回転刃を採用することは当業技術者にとつて普通になしうる単なる設計変更であつたと認められる。
(五) 以上のとおりであるから、本件審決の、相違点2について、「カツタにより二分することが第三引用例に記載されており、また、カツタの刃丈を外装体の板厚より幾分大きくすること及びカツタとして回転刃を採用することは当業技術者であれば普通になしうる単なる設計変更と認められる」との判断に誤りは認められない。
(六) 原告は、本願発明における「刃丈を該外装体の板厚よりも幾分大きくした回転刃」とは、甲第三号証第8図に示されるものであつて、これは、円筒状体の周囲に刃部が設けられ、その刃丈は外装体の板厚より幾分大きくなつているもので、その作用は円板の周辺に刃部を有し、切断に際し任意の深さで切ることができる回転刃による作用と根本的に相違している旨主張する。
しかし、本願発明の特許請求の範囲においては、回転刃について、「刃丈を該外装体の板厚よりも幾分大きくした回転刃」とされているのみで、原告主張のような限定はないから、原告の右主張は、本願発明の特許請求の範囲に基づかない主張であり採用できない。
(七) 原告は、本件審決が第三引用例を引用した趣旨についての被告の主張について、本件審決がその理由としていない別の理由に基づいて本件審決が正当であることを主張することは許されない旨主張する。
しかし、本件審決が相違点2についての判断において、「相違点2については、カツタにより二分することが第三引用例に記載されており、」と認定判断した趣旨はやや表現に不足の点があるとはいえ、「カツタにより紙厚の深さで切截して二分することは例えば第三引用例に記載されているように周知であり」との趣旨であると解することができることは前記(二)に認定判断したとおりであり、被告の主張は、本件審決がその理由としていない別の理由に基づいて本件審決が正当であることを主張するものではないから、原告の右主張は失当である。
3 請求の原因四3(認定判断の誤り第3点)について
(一) 前記甲第二号証ないし甲第四号証によれば、本願明細書には本願発明の目的及び効果について次のような記載があることが認められる。
(1) 印籠式紙容器は、「本体と蓋体とが別々に製函されるのが一般である。しかしながら、かかる製造方法によるときは、製造工程が多くかつ作業が煩雑となる等の理由で紙容器の製造コストがアツプし、また本体と蓋体との間にガタが生じて密封性が保てない等の欠点があつた。そこで、上記欠点を解消することを目的とし、帯状に平行なミシン目等を有する外装体ブランクシートを予め形成された内装体の外側に密着させ内部が密閉される如く製函して成る印籠式紙容器の製造方法が特開昭五二―一四八三八三号公報(第二引用例)に提案されている。すなわちこの紙容器は先ず本体と蓋体とが一体に製函され、使用時に外装体に設けられた帯状のミシン目部分を引き離して蓋体を形成するようにしたもので、かかる紙容器の製造方法によるときは前記本体と蓋体とを別々に製造する方法に比べ製造コスト及び密封性の点で一段の向上が見られた。しかしながら、この方法によるときは、内装体と外装体との間に少なくとも帯状ミシン目の間隔分の空隙を設ける必要があり、かかる空隙部を有する側の面板、すなわち天面板が内側に押されると容易に窪んでしまうため製函時における天面板の糊付けが不完全となり、仮に糊付けされても運搬等の取扱いの過程で押圧されると変形する不具合があつた。また、かかる方法によつて製造された容器自体においても、使用時には帯状ミシン目部分を外装体の全域に渡つて引き離さなければならず、また引き離すときに本体と蓋体との境界部に裂け目を生じることがあり、密封性の点でも問題があつた。本発明は従来方法における上記欠点を除去し、堅牢で密封性を有し、かつ取扱いが簡単な印籠式紙容器を低コストに量産できる方法を提供することを目的とする。」(甲第二号証中の明細書二頁二行から三頁一七行まで。)
(2) 「本製造方法により作られた紙容器は内装体1と外装体2とが完全に密着した、二重構造であるので堅牢であり、本体Aと蓋体Bとが一本の細い切れ目で分離されているので開封性を有しかつ容器内部の遮光性、密封性が保持され、また上記(a)、(b)、(c)の各工程は一つの製造ラインに乗せることができるので工程的な煩雑さが解消され、製品の量産が可能となる等の顕著な利点がある。」(甲第二号証中の明細書一一頁六行から一三行まで。)
(3) 「以上に詳述した如く本発明によれば堅牢で密封性を有し、かつ取扱いが簡単な印籠式紙容器を低コストに量産することができる。」(甲第二号証中の明細書一二頁一八行から二〇行まで。)
(二) 原告は、本願発明の奏する特段の効果の一つとして、内装体と外装体とが完全に密着した二重構造のため、堅牢な印籠式紙容器が得られることを主張し、本願明細書に右効果が記載されていることは、右(一)に認定のとおりである。
しかし、外装体ブランクシートを予め形成された内装体の外側に密着させ二重構造とした印籠式紙容器の製造方法が第二引用例に記載されている旨が本願明細書に記載されていることは右(一)(1)に認定したとおりであり、また、第二引用例記載の印籠式紙容器の製造方法が本願発明と製函方法が同様であることは原告の自認するところであるから、内装体と外装体とが完全に密着した二重構造のため、堅牢な印籠式紙容器が得られる効果は、第二引用例記載の印籠式紙容器の製造方法によつても得られるものであり、本願発明に特有の効果とは認められない。
本願明細書には、第二引用例記載の方法によるときは、「内装体と外装体との間に少なくとも帯状ミシン目の間隔分の空隙を設ける必要があり、かかる空隙部を有する側の面板、すなわち天面板が内側に押されると容易に窪んでしまうため製函時における天面板の糊付けが不完全となり、仮に糊付けされても運搬等の取扱いの過程で押圧されると変形する不具合があつた。」との記載があることは右(一)(1)に認定したとおりである。しかし、第二引用例記載の方法において、外装体に帯状ミシン目を設け、使用時に外装体に設けられた帯状のミシン目部分を引き離して蓋体を形成する方法にかえて、第一引用例及び第三引用例に記載されており技術常識であるところの、「カツタで外装体を上下に二分する方法」を採用すれば、天面板側の内装体と外装体との間に少なくとも帯状ミシン目の間隔分の空隙を設ける必要がないことは自明であり、その場合は、前記本願明細書記載のような不具合が生じないことも自ずから明らかである。
よつて、本願発明において、内装体と外装体とが完全に密着した二重構造のため、堅牢な印籠式紙容器が得られる効果は、本願発明に特有の、顕著なものとは認められない。
(三) 原告は、本願発明の奏する特段の効果の一つとして、本体と蓋体とが一本の細い切れ目で分離されているため、遮光性、密封性を有し、開封の時帯状ミシン目を切るなどの手数を要さず取扱が簡単な印籠式紙容器が得られることを主張し、本願明細書に右効果が記載されていることは、右(一)に認定のとおりである。
しかし、遮光性、密封性については、本体と蓋体の切れ目が一本の細い切れ目であることよりも、蓋体の深さ及び蓋体と内装体との接触状態が最も大きな影響を与えるものであることは自明であるところ、本願発明と同様に、外装体ブランクシートを予め形成された内装体の外側に密着させ二重構造とした印籠式紙容器の製造方法が第二引用例に記載されている旨が本願明細書に記載されていることは右(一)(1)に認定したとおりであり、また、第二引用例記載の印籠式紙容器の製造方法が本願発明と製函方法が同様であることは原告の自認するところであるから、遮光性、密封性を有する印籠式紙容器が得られる効果は、第二引用例記載の印籠式紙容器の製造方法によつても得られるものであり、本願発明に特有の効果とは認められない。
外装体に帯状ミシン目を設け、使用時に外装体に設けられた帯状のミシン目部分を引き離して蓋体を形成した場合よりも、本体と蓋体の切れ目が一本の細い切れ目であることにより、遮光性、密封性において顕著な差があるものとは認めることができない。
また、本願明細書に、「第二引用例記載の方法による場合、使用時には帯状ミシン目部分を外装体の全域に渡つて引き離さなければならず、また引き離すときに本体と蓋体との境界部に裂け目を生じることがあり、密封性の点でも問題があつた。」旨の記載があることは、右(一)(1)に認定のとおりであるが、第二引用例記載の方法において、外装体に帯状ミシン目を設け、使用時に外装体に設けられた帯状のミシン目部分を引き離して蓋体を形成する方法にかえて、第一引用例及び第三引用例に記載されており技術常識であるところの、「カツタで外装体を上下に二分する方法」を採用すれば、当然、前記本願明細書記載のような問題が生じないことも自ずから明らかである。
よつて、本願発明において、遮光性、密封性を有する印籠式紙容器が得られる効果は、本願発明に特有の、顕著なものとは認められない。
(四) 原告は、本願発明の奏する特段の効果の一つとして、製造に当たつて、ミシン目をつけるなどの手数を要せず、各工程を一つの製造ラインに乗せることができるので工程的な煩雑さが解消され、製品の量産が可能となることを主張し、本願明細書に右効果が記載されていることは、右(一)認定のとおりである。
しかし、右の手数を要しないとの効果は、予めミシン目を付けることなく、単にカツタで切ることにより得られる効果であるから、二分する手段として第三引用例に開示された周知のカツタによる切断手段を採用すれば、この切断手段に当然に付随する効果として得られるものである。
また、各工程を一つの製造ラインに乗せることができる効果については、製函工程そのものが一つの製造ラインに乗るということが例えば第二引用例に記載されているように周知であることは当事者間に争いがなく、前記甲第七号証によれば、第三引用例に開示された印籠型蝶番箱の製造方法についての発明の実施例においても、紙製容器の外側面にプラスチツクフイルムを被着させた後、紙製容器の三方の側面をカツタで紙厚の深さで切截する工程を一つの製造ラインに乗せていることが認められ、これらの事実からすれば、製函から外装体の切断までの各工程を一つの製造ラインに乗せることは格別のことではなく、その結果として低コストで量産できるという効果も、本願発明において奏せられる特段のものとは言えない。
(五) 原告は、本願発明の奏する特段の効果の一つとして、本体と蓋体とが一本の細い切れ目で分離されたものとなるので、仕上がりのきれいな紙容器ができることを主張し、この点に関して、本願明細書には、「第二引用例記載の製造方法によつて製造された容器においても、使用時には帯状ミシン目部分を引き離すときに本体と蓋体との境界部に裂け目を生じることがあり、密封性の点でも問題があつたところ、本願発明は従来方法における欠点を除去することを目的とする」旨が記載されていることは、前記(一)認定のとおりである。
しかし、そのような趣旨で切れ目の仕上がりのきれいな紙容器ができるという効果も、予めミシン目を付けることなく、単にカツタで切ることにより得られる効果であるから、第三引用例に開示された周知のカツタによる切断手段を採用することにより得られる効果であり、原告主張の効果が、本願発明において奏せられる特段のものとは認められない。
(六) よつて、本件審決には、原告主張のような特段の効果の看過誤認はなく、本願発明と第一引用例の方法との相違点についての判断における、「これらの相違点を採用したことにより奏する作用効果にも顕著なものは認められない。」との認定判断には誤りは認められない。
三 よつて、その主張の点に認定判断を誤つた違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとする。
〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。
ダンボール又は板紙等からなるブランクシートにより天面板のない角形状の内装体を製函してから該内装体を外装体用ブランクシートにより外側から密着包装して外装体を製函し、しかる後前記外装体の周囲に刃丈を該外装体の板厚よりも幾分大きくした回転刃により連続した切れ目を入れて前記外装体を天地に二分し、かつ天側外装体を前記内装体に対し着脱自在とすることにより蓋体を形成することを特徴とする印籠式紙容器の製造方法。