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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)134号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実、審決の理由の要点中本願発明の要旨の認定、第二引用例の記載事項、本願発明と第一引用例発明との各対応関係及び両発明の相違点の各認定、請求の原因四のうち、第一引用例発明及び第一引用例の記載に関する1の(二)の(1)の点、モルタルの性質及びモルタルが本願発明に用いる発泡樹脂と比較して硬化後収縮するなど各種欠点があるとする同(2)の点並びに本願発明の作用効果に関する2の(一)の(1)の点はいずれも当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について順次検討する。

1 取消事由(1)について

(一) 当事者間に争いのない請求の原因二によれば、本願発明は「既存の窓枠と新規の窓枠との間の間隙に発泡合成樹脂を注入発泡させて……既存、新規両窓枠を直接一体化」することを構成要件とするものであることが認められる。

そこで、右の既存、新規両窓枠の「直接一体化」の意味について検討する。

成立に争いのない甲第二号証の三、甲第三号証によると、本願明細書中には右の「直接一体化」の意義を直接明らかにした記載は認められないが、発明の詳細な説明中には、<1>各部材又は部分の符号を付した前掲特許請求の範囲と同旨の記載、<2>「……注入孔41より間隙3に発泡合成樹脂Aを注入発泡させて間隙3に独立気泡の発泡合成樹脂Aを充填するのである。このように間隙3に発泡合成樹脂Aを注入発泡させて充填すると、発泡合成樹脂Aの発泡時の自己接着性によつて既存の窓枠1と、窓枠本体4と、内部カバー5と、外部カバー6とが一体化されるものである。」(甲第三号証第三欄三九行~第四欄二行、甲第二号証の三、四頁三~四行)、<3>「本発明にあつては、……既存の窓枠と新規の窓枠との間の間隙に発泡合成樹脂を注入発泡させ……既存、新規両窓枠を直接一体化してあるので、……気密性が向上し、防音効果が高くなると共に、断熱性が向上し、結露防止効果があり、また……既存の窓枠の腐食面を空気や水から完全に遮断でき……腐食の進捗防止効果が優れたものとなる。」(甲第三号証四欄二〇行、甲第二号証の三、四頁一〇行~五頁一〇行)、<4>「また……発泡合成樹脂の発泡時の自己接着力によつて新規の窓枠と既存の窓枠とが一体化されるものであつて、新規の窓枠の取付強度が強固となる利点があり……」(甲第二号証の三五頁一六~一九行)との記載のあることが認められる(別紙(一)図面参照)。

前記の各記載を併せ考えると、本願発明における既存、新規両窓枠の「直接一体化」とは、新規の窓枠と既存の窓枠との間の間隙が発泡合成樹脂によつて充填され、複数個の金具よりなる連結手段が独立気泡の発泡合成樹脂内に埋設されるとともに、発泡合成樹脂の自己接着性によつて新規の窓枠と既存の窓枠との間に気密性が保持された状態で一体化されていることを意味するものと認められる。

(二) 一方、第一引用例発明が本願発明と同様改装窓枠技術に関するものであり、第一引用例には古サツシと新サツシとの間隙にモルタルを詰込むことが記載されていること、右「古サツシ」と「新サツシ」が本願発明における「既存の窓枠」と「新規の窓枠」とにそれぞれ対応すること、右両発明との間の審決の認定する相違点の存在、即ち右両窓枠の間の充填材が本願発明では独立気泡の発泡合成樹脂であるのに対し第一引用例発明ではモルタルであること、そしてモルタルを右充填材として使用した場合には、原告主張(審決の取消事由(1)の(二)の(2))のとおり、モルタルが硬化後収縮することや吸水性を有するなどその性質に伴つて諸種の欠点が存することはいずれも当事者間に争いがない。

そうすると、第一引用例発明における充填材であるモルタルは、前記本願発明における充填材である独立気泡の発泡樹脂と比較して、その施工時においても充填性(気密性)に欠けるばかりでなく、施工後硬化収縮するために、多かれ少なかれ既存、新規両窓枠の間に間隙、空洞を生じこれに雨水や空気が接することとなり、モルタルの吸水性の故に窓枠特に既存の窓枠の腐食を促進する要因となるものということができる。

(三) 以上に述べた両発明における既存、新規両窓枠の結合状態に照らすと、第一引用例発明は、右両窓枠にモルタルを充填することにより両者を「一体化」するものであるということができるが、本願発明における前認定の意味の「直接一体化」と同一の結合状態になるものであるということはできない。

しかし、両発明における前記認定の既存、新規両窓枠の結合状態の差異を比較検討してみると、右の差異は第一引用例発明ではモルタルを、本願発明では独立気泡の発泡樹脂を用いたことによつて生ずる結合状態上の差異、換言すれば両発明の充填材の差異に基づいて当然に生ずる差異であつてそれ以上のものでないことが認められる。

そうすると、審決が第一引用例発明の認定に当つて、古、新両サツシを「直接一体化」して成る旨認定した点は適切であるとはいい難いが、審決は両発明の前記結合状態の前提となる充填材の差異については明確に認定しているから、審決が第一引用例のものについて、古、新両サツシを「直接一体化」して成るものであるとした点が直ちに審決の取消すべき事由とならないことは明らかである。

(四) そこで、進んで本願発明と第一引用例発明との相違点に対する審決の判断の当否について検討する。

第二引用例には審決認定の記載があることは前叙のとおり当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない甲第五号証によると第二引用例には建物の開口部に取り付けるサツシと躯体コンクリート間に必然的に生ずる空間の充填方法としてモルタルを用いた場合には、モルタルがその性質上硬化収縮による体積減少を生じ、サツシユとモルタル間に間隙を生じるほか材料自体充填性に欠け、これら間隙、空洞が雨水の通路となり易く防水上の欠点がある旨の記載(一頁右欄二行~一七行)、被告が同引用例に記載されていると主張する<1>の記載及び「……多孔質固結体は、熱伝導抵抗が高いので断熱性能が良い。又、硬化収縮率が低く、コンクリートサツシユに対する接着性が良く、吸水性が殆んどないので、本工法の目的とする充填性、断熱性、防水性を得るには理想的な充填材と言える。」(三頁左下欄五~一〇行)との記載のあることが認められる。

そうすると、特段の事情のない限り、第一引用例発明の充填材であるモルタルに代えて第二引用例に記載の発泡樹脂を用いて本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できることであると認められるところ、これが困難であるとうかがえる特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

2 取消事由(2)について

(一) 本願発明の目的及び作用効果に関する原告の主張中審決の取消事由(2)の(一)の(1)の点、即ち本願発明が新規の窓枠と既存の窓枠との間の気密性の向上、結露防止、防音効果の向上、右両窓枠の取付強固性の確保に加え、既存の窓枠の防腐の目的、効果を有することは当事者間に争いがない。そして、特に右既存の窓枠の防腐の効果については本願明細書の発明の詳細な説明の項には、前記1の(一)の<3>及び<4>のとおり記載されている。

また、本願出願の当時既存の窓枠に鉄製のものが多く見られたことは被告の明らかに争わないところであり、これらが取付後日時を経過した場合に腐食していることが少なくないこと及び既存の窓枠が改装後になお腐食が進行した場合には、その錆が外壁へ流出してこれを汚損したり、既存の窓枠に付設した新規の窓枠が外れて危険を招くなどの不都合が生ずるであろうことは推認するに難くない。成立に争いのない甲第六号証によれば、特公昭和五六―二三〇三三号公報には原告が主張するとおりの記載のあることが認められ、この記載は右事実を裏付けるものということができる。

(二) 一方、第一引用例発明は充填材にモルタルを用いることから、前述のとおりモルタルの性質に伴う諸種の欠点を有し、本願発明の前記作用効果と対比し差異があることは明らかである。

しかし、第二引用例には前記1の(四)のとおり充填材としてのモルタルの欠点の詳細及びこの欠点を解消するために発泡合成樹脂を用いた場合の諸種の作用効果について記載されている。そして本願発明の前記作用効果のうち既存の窓枠の防腐の点を除いては独立気泡の発泡合成樹脂が有する機能ないし効果として第二引用例に記載されているところであり、また、既存の窓枠の防腐の点も右機能ないし効果から予測できる当然の効果であるということができる。

そうすると、本願発明の作用効果はいずれも第二引用例に記載されたところから当業者が容易に予測できる程度のものと認められ、他にこの認定を左右する証拠はない。

3 以上のとおりであつて、原告主張の審決取消事由はいずれも失当であり、審決にはこれを取消すべき違法の点はない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

既存の窓枠と新規の窓枠との間の間隙の部分において複数個の金具を組合わせて成る連結手段により既存の窓枠に新規の窓枠を取付け、既存の窓枠と新規の窓枠との間の間隙に発泡合成樹脂を注入発泡させて複数個の金具よりなる連結手段を独立気泡の発泡合成樹脂内に埋設するとともに既存、新規両窓枠を直接一体化して成ることを特徴とする窓装置。

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