東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)147号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき事由について判断する。
1 認定判断の誤り(1)について
(一) 前記当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明は、その製造原料として、
(Ⅰ) 「分子量四〇〇〇以上の末端にエーテル型アリルオレフイン基を有するオキシアルキレン重合体」(以下、「本願発明のオキシアルキレン重合体」という。)と、
(Ⅱ) 「<省略>
(式中、Rは一価炭化水素基およびハロゲン化一価炭化水素基から選択した基、aは0、1又は2の整数、Xはハロゲン、アルコキシ基、アシルオキシ基およびケトキシメート基より選択した基又は原子を示す。)で表されるヒドロシリコン化合物」(以下、「本願発明のヒドロシリコン化合物」という。)
とを用い、この両者をⅧ族遷移金属の存在下で反応させることにより「珪素末端重合体」を製造するものであることが認められる。したがつて、この製造目的物である「珪素末端重合体」には前記原料化合物である「本願発明のオキシアルキレン重合体」及び「本願発明のヒドロシリコン化合物」の主要部分がその成分として含まれることが明らかである。即ち、本願発明の製造目的物である「珪素末端重合体」においては、「本願発明のヒドロシリコン化合物」のSi―H結合のSi部分及びH部分が「本願発明のオキシアルキレン重合体」のアリルオレフイン部分に付可結合しているということができる。
(二)(1) 一方、当事者間に争いのない本件審決認定の引用例の記載事項及び成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、引用例には、本件審決認定の一般式に相当する次の一般式(1)の「化学的に結合した基を有する重合体」(以下、「引用例の一般式(1)の重合体」という。)が示され、
(1) <省略>
この一般式(1)中の各記号について、
<1> 「一般式(1)におけるRは炭化水素およびハロゲン化炭化水素より選択した脂肪族不飽和結合を含有しない一価有機基を示し、Xはハロゲン、アルコキシ基およびY基より選択された基を示し、Yはアシロキシ基、ケトキシメート基、……より選択した一価の基を示し、Aは酸素および多価有機結合基より選択した基を示し、aは0乃至2の整数を示し、bは1乃至3の整数を示し、cは0または1を示し、a、bおよびcの合計は3に等しい。」((1)頁2欄二一行ないし三〇行)
と記載されていることが認められる。
右記載によれば、右一般式(1)のRとしていう「炭化水素およびハロゲン化炭化水素より選択した脂肪族不飽和結合を含有しない一価有機基」は「本願発明のヒドロシリコン化合物」のRとしていう「一価炭化水素およびハロゲン化一価炭化水素から選択した基」に相当し、また右一般式(1)でいうX、Y、a、b及びcで示されるものは実質上「本願発明のヒドロシリコン化合物」中のX及びaで示されるものに相当すると認められるから、「引用例の一般式(1)の重合体」中Aを除いた部分は、「本願発明のヒドロシリコン化合物」と実質上一致しているものと認められる。
(2) 次に、前掲甲第三号証によれば、引用例には、右一般式(1)に関し、
<2> 「一般式(1)によつて含まれる末端シリル基を有する有機重合体にはポリエーテルおよびポリエステルを含む。……これらの室温硬化性材料はけい素に結合したアシロキシ、ケトキシメート、……基を含む加水分解性基を有する末端シリル基を有することができる。シリル基はウレタン、……エステルおよびエーテルを含めた結合によつて有機重合体に結合しうる。」((2)頁4欄一六行ないし二八行)
<3> 「一般式(1)の化学的に結合したシリル基を有する有機重合体(以後「硬化性有機重合体」と称する)は炭素―けい素、オルガノエーテル、オルガノエステル、オルガノウレタン、……を含めた結合によつて化学的に結合した一般式(1)のシリル基を有することができる。」((3)頁5欄二行ないし七行)
と記載されていることが認められる。
右記載によれば、引用例の一般式(1)の重合体には、ポリエーテル即ち本願発明でいうオキシアルキレン重合体(本願発明でいうオキシアルキレン重合体がポリエーテルと同一のものであることは原告の認めるところである。)が含まれること及び右オキシアルキレン重合体が末端シリル基に対しエーテル結合によつても結合しうることを説明していることが認められ、これらが引用例の一般式(1)中の記号Aに関するものであることは右認定事実から明らかである。
そして、右甲第三号証によれば、引用例には、前記<3>の記載に続き、
<4> 「例えばこの結合にはQD……の結合を含む。これらの式において、Qは式
<省略>
の基を示し、DはO……より選択した基を示し、……R´´´は二価炭化水素基……より選択した基を示し、R´´は水素……より選択した基を示し、……fは……2を示し、……」((3)頁5欄七行ないし三一行)
と記載されていることが認められる。
右記載によれば、引用例の一般式(1)に含まれ、前記<2>及び<3>でいうエーテル結合によつて化学的に結合したシリル基を有するポリエーテル即ち本願発明でいうオキシアルキレン重合体の内容が具体的に例示されていることが認められる。
(3) 更に、右甲第三号証によれば、引用例には、
<5> 「硬化性有機重合体のあるものはオレフイン系不飽和結合またはアセチレン系不飽和結合を含有する有機重合体(以後「脂肪族不飽和有機重合体」と称する)と一般式
<省略>
(式中R、X、Y、a、bおよびcは前述したとおりである)の水素化けい素との間で反応を行うことによつて作ることができる。」((3)頁6欄二三行ないし三二行)
と記載されていることが認められ、右記載によれば、右「式(6)の水素化けい素」を「脂肪族不飽和有機重合体」即ち「オレフイン系不飽和結合を含有する有機重合体」等と反応させることにより「硬化性有機重合体」を作ることが記載されていることが認められるところ、「右式(6)の水素化けい素」が「本願発明のヒドロシリコン化合物」と実質上同一のものであることは前記(二)(1)のとおりである。
そして、右「脂肪族不飽和有機重合体」に関し、右甲第三号証によれば、引用例には、
<6> 「室温硬化性組成物の製造にあたつて利用される脂肪族不飽和有機重合体を作るため使用しうるポリエーテル……は良く知られた市場で入手しうる材料である。……使用しうるポリエーテルはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロロヒドリンおよびテトラヒドロフランを含む原料から作ることができる。……ポリアルキレンエーテルのうちポリプロピレンエーテルが好ましい。三〇〇~一二〇〇〇、好ましくは一〇〇〇~二〇〇〇の分子量を有するポリエーテルが利用しうる。」((4)頁7欄九行ないし三九行)
と記載されていることが認められる。
右記載によれば、右「脂肪族不飽和有機重合体」が「オレフイン系不飽和結合を含有する重合体」の場合で、これを作るのに、右にいう「ポリエーテル」を使用した場合には、その「オレフイン系不飽和結合を含有する重合体」では技術常識上「ポリエーテル」がその主鎖をなし、その両端又は一端に「オレフイン系不飽和結合」が結合した構造となると認められる。そうすると、右オレフイン系不飽和結合を含有する基の一種であるエーテル型アリルオレフイン基(エーテル型アリルオレフイン基がオレフイン系不飽和結合を含有する基の一種であることは原告の認めるところである。)を有するポリエーテルは即ち「本願発明のオキシアルキレン重合体」に相当するものであると認められるから、右「脂肪族不飽和有機重合体」には「本願発明のオキシアルキレン重合体」が含まれるといわなければならない。
(4) 以上認定判断してきたところによれば、引用例には、その一般式(1)において、本願発明の「珪素末端重合体」に相当するものが具体的に開示されていることが明らかである(本願発明の「珪素末端重合体」が引用例の一般式に形式的に含まれることは原告の認めるところである。)。
(三) 原告は、生成重合体における珪素置換プロピル基とオキシアルキレン重合体分子鎖との間の結合様式が、本願発明のものはウレタン結合を含まない単なるエーテル結合であるのに対し、引用例のものはウレタン結合による点で異なる旨主張する。
しかし、引用例の前記<3>の記載によれば、引用例の一般式(1)で示される硬化性有機重合体には、ウレタン結合と同列にエーテル結合によつて結合したものが含まれることが具体的に明記されていることが認められ、また、引用例の前記<4>の記載によれば、引用例の一般式(1)に含まれ、前記<3>でいうエーテル結合によつて化学的に結合したシリル基を有するポリエーテル即ち本願発明でいうオキシアルキレン重合体の内容が具体的に例示されていることが認められ、しかも、この場合右オキシアルキレン重合体中にウレタン結合は含まれていないことが認められるから、原告の右主張は採用できない。
(四) また、原告は、本願発明の珪素末端重合体の主鎖であるオキシアルキレン重合体の分子量は四〇〇〇以上のものであるところ、本件審決は本願発明が分子量四〇〇〇以上のものを使用する点についての効果の認定を誤つたものである旨主張する。
しかし、引用例の「脂肪族不飽和有機重合体」中の「オレフイン系不飽和結合を含有する有機重合体」には「本願発明のオキシアルキレン重合体」が含まれていることは前記1(二)(3)のとおりであるところ、引用例の前記<6>の記載によれば、右「オレフイン系不飽和結合を含有する有機重合体」は、良く知られたエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のポリエーテルから作ることができるというものであり、そして、これがその「硬化性有機重合体」中その主鎖をなすことは前記1(二)(3)のとおり技術常識上明らかであり、しかも、その分子量については三〇〇~一二〇〇〇のものが利用しうることが明記されているのであるから、本願発明におけるその分子量四〇〇〇以上のものとは大部分で重複することは明らかである。そして、本願発明においてオキシアルキレン重合体の分子量を四〇〇〇以上と限定したことによつて本願発明の「珪素末端重合体」の効果が臨界的であることを認めるに足りる証拠はない。
なお、原告は、右の点に関して、従来、例えばポリプロピレンオキシド重合体において分子量四〇〇〇以上のものは極めて特殊なものであつて工業的には利用されていなかつたところ、本願発明者等の発明によつて製造されるようになつたのであると主張するが、引用例の前記<6>の記載によれば、分子量三〇〇~一二〇〇〇のポリアルキレンエーテル、特にポリプロピレンエーテル即ちポリプロピレンオキサイド重合体(即ちこれが本願発明でいう「オキシアルキレン重合体」と同一であることは原告の認めるところである。)についても、これがそのように良く知られた市場で入手しうる材料であると認められるのであるから、原告の右主張は採用できない。また、原告が本願発明の効果が顕著なものであることの証拠として指摘する本願明細書(甲第二号証の一)の(3)頁5欄二七行ないし末行、同(4)頁7欄四二行ないし8欄一行及び同明細書の実施例の記載並びに成立に争いのない甲第六号証(実験報告書)からは、分子量六五〇〇以上に相当するものが例えば破断時の伸びにつき分子量四〇〇〇以下に相当するものに比して格段の改良を達成したものであることは認められるものの、それらは、本願発明でその分子量を特に四〇〇〇以上とする点についての臨界的意義があることを認めるに足りるものではない。
したがつて、本件審決には、本願発明が分子量四〇〇〇以上のものを使用することによる効果の認定に誤りがあるとはいえず、原告の右主張は採用できない。
(五) 以上の次第であるから、引用例記載の一般式で表される化学的に結合した基を有する有機重合体は本願発明における珪素末端重合体と同一であるとした本件審決の認定判断に誤りはなく、認定判断の誤り(1)は採用できない。
2 認定判断の誤り(2)について
(一) 前記1(二)(3)のとおり、引用例においては、「式(6)の水素化けい素」を「脂肪族不飽和有機重合体」即ち「オレフイン系不飽和結合を含有する有機重合体」等と反応させることにより「硬化性有機重合体」を作るというものであるところ、前記1(二)(1)ないし(3)のとおり、「脂肪族不飽和有機重合体」及び「式(6)のけい素化水素」はそれぞれ本願発明の製造原料である「本願発明のオキシアルキレン重合体」及び「本願発明のヒドロシリコン化合物」に相当するものである。
そして、前掲甲第三号証によれば、引用例には、
<7> 「脂肪族不飽和有機重合体に一般式(6)のけい素化水素を付加するのは二〇℃~二〇〇℃の温度で行うことができる。この付加は例えば……に示された如き白金―オレフインコンプレツクスの形、または……に示された如き白金―アルコレートコンプレツクスの形での白金触媒の存在下に行うのが好ましい。」((7)頁13欄二六行ないし三三行)
と記載されていることが認められ、右記載によれば引用例では前記反応を「白金」触媒の存在化で行うことが認められるところ、右「白金」は本願発明でいうⅧ族遷移金属に属することは技術常識上自明であるから、引用例の前記反応は、本願発明でその要旨とする構成とは実質上同一のものと認められる。
そうすると、原告が本願発明の効果であると請求の原因四2で主張する点が仮に本願発明が奏するものであるとしても、それらは本願発明特有のものではなく、引用例でも当然奏する効果であるといわなければならない。
(二) 原告は、引用例の方法においては所望のヒドロシリル化反応のみならず、ウレタン結合が反応に関与するため副反応をも生起させるのに対して、本願発明方法に使用する原料化合物はエーテル結合のみを有するものであるから、本願発明方法におけるヒドロシリル化反応においては所望のヒドロシリル化反応のみが進行するもので、このような本願発明方法の有用性、効果等について本件審決はその認定を誤つている旨主張する。
しかし、前記(一)のとおり、引用例においても本願発明と同じ原料を使用し、同じ金属の存在下に反応を行わせ、これによつて同じ化合物を製造するものであるから、これは本願発明と同じく実質上「ヒドロシリル化反応」のみを用いるものであり、かつ、原告主張のような副反応を伴うものではない。したがつて、原告の右主張は採用できない。
(三) また、原告は、引用例記載の重合体は単独で使用されるものではなく、他の硬化性重合体「オルガノポリシロキサン」と併用することによつてシーラントとして利用されるのに対して、本願発明方法の生成物である珪素末端重合体は単独でシーラントとして利用することができるものであるから、両者には顕著な相違があり、本願発明の珪素末端重合体が引用例のものに比べて格段の顕著な効果を奏したものであることは明らかである旨主張する。
しかし、前記当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明は、珪素末端重合体をシーラントとしての用途に使用することをその要旨とするものではないことが認められるから、原告の右主張は本願発明の要旨に基づかない主張というべきであり、採用できない。
(四) 更に、原告は、本願発明方法においては重合によつて得られたオキシアルキレン重合体がそのまま原料化合物として使用されうるのに対し、引用例の方法では重合によつて得られたオキシアルキレン重合体をそのまま原料化合物として使用するものではなくこれに更に複雑な処理を施して初めてシラン化合物との反応に供されるものであるから、本願発明の原料化合物の取得工程における有利性はいうまでもない旨主張する。
しかし、前記(一)のとおり、引用例においても、本願発明と同じ原料を使用し、これによつて同じ化合物を製造するものであるから、原告主張のような有利性は本願発明独自のものではなく、引用例のものにも当然あるものであるというべきであるから、原告の右主張は採用できない。
なお、原告は、右主張に関し、引用例に示された方法においては、原料化合物として末端ヒドロキシル基を有するポリエーテルを使用して出発原料とするものであり、これに先ずウレタン結合を介して不飽和脂肪属基を導入する工程を経て初めてシラン化合物と反応させることになるのである旨甲第三号証(3)頁6欄三三行ないし(4)頁8欄二九行を引用して主張するが、右引用部分のうち(4)頁7欄九行ないし三九行は引用例の前記<6>の記載として引用したところであつて、右記載部分には、本願発明においてその製造原料の一つとする「本願発明のオキシアルキレン重合体」が含まれることが記載されているのであり、その余の部分には、「ポリイソシアネート」、「ポリエステル」等に関する記載が認められるが、これらは、「本願発明のオキシアルキレン重合体」に相当するものとは別異の態様に関して説明しているにすぎないものであつて、前記認定を妨げるものではない。
(五) よつて、本願発明の効果についての本件審決の認定判断に原告主張のような誤りはないので、認定判断の誤り(2)も採用できない。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却することとする。
〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。
分子量四〇〇〇以上の末端にエーテル型アリルオレフイン基を有するオキシアルキレン重合体をⅧ族遷移金属の存在下で
<省略>
(式中、Rは一価炭化水素基およびハロゲン化一価炭化水素基から選択した基、aは0、1又は2の整数、Xはハロゲン、アルコキシ基、アシルオキシ基およびケトキシメート基より選択した基又は原子を示す。)で表わされるヒドロシリコン化合物と反応させることを特徴とする珪素末端重合体の製造法。