東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)15号 判決
一 請求の原因一ないし三及び四1の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
1 第一引用例に、審決認定のとおり、「船舶のための舵筒体において回転可能な筒体が軸の両側端で舵板に固定されている回転体はめこみ式船舶用舵」が記載されていることは、当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第二号証により認められる第一引用例中の「操舵のさいに求むる航行方向と反対方向に上記筒体を急速に回転させて舵がうける横方向の水圧を増大せしめ船舶航行中の極限回転半径を短縮する」との記載(同号証三欄一ないし四行)及び「筒体3は舵2と一体となる如くはめこみ固定されているが、操舵にさいしては自ら回転するか又は他の動力により回転せしめる。」との記載(同三欄一〇ないし一二行)によれば、第一引用例の回転可能な筒体は、これを強制回転させる駆動装置を備えたものであつて、これを強制回転させることにより、舵の効きをよくするために舵板の周囲に水流を発生させ、舵板の舵をとつた側の圧力を高くするようにした舵装置の補助装置であることが認められる。
右事実と前示当事者間に争いのない請求の原因二及び四1の事実によれば本願発明は、第一引用例に示されている舵装置の補助装置として回転駆動装置を備えた公知の筒体(舵ロータ)において、この駆動装置として外側が回転する水中電動機の構成を採用し、その具体的構成を前示請求の原因四1(一)の構成要件(B)(ロ)ないし(ホ)の構成としたものであることが明らかである。
2 一方、第二引用例に、審決の認定するとおり、本願発明と同様に停止あるいは微速における舵の効きをよくするため駆動装置を有する補助装置を用いること、この駆動装置として水中電動機を使用することが示されていることは、当事者間に争いがない。
また、成立に争いのない甲第四ないし第六号証によれば、周知例一ないし三には、水中ポンプ等の流体装置の駆動装置として用いられている水中電動機として、被告が請求の原因四2(一)に対する反論において述べているとおりの構成を有する水中電動機が示されており、これらによると本願発明の右構成要件(B)(ロ)ないし(ホ)の構成を備えた水中電動機が本願の優先権主張日前周知であつたことが認められる。
原告は第二引用例及び右各周知例に示される水中電動機はいずれも回転子が羽根(プロペラ)を有するものである点で本願発明の回転子部分が羽根を具備していない水中電動機と異なる旨主張する。しかしながら、前示甲第四号証(周知例一)の「前記鉄心外周に回転自在に支承された軟鋼ロータと、このロータに設けた羽根車とを備え」との記載(左欄下から六ないし四行)、前示甲第五号証(周知例二)の「回転子8は、回転子枠9に固定される。この回転子枠9は一端が水中軸受10を介し、他端は羽根車盤11に連結された後、この羽根車盤11が水中軸受10´を介して夫々前記固定子軸1に取り付けられる。従つて回転子8の回転により羽根車盤11も一体に回転する。」との記載(一欄末行ないし二欄五行)及び前示甲第六号証(周知例三)の「本考案水中モーターでは、モータを付勢して回転子15を回転するとこの回転子と一体の羽根車6が回転し」との記載(二欄下から三ないし一行)から認められるとおり、水中電動機の回転子とこれに取り付けられている羽根車とは別個の部材として認識されているのであつて、これら羽根車は各周知例の水中電動機を駆動源とする水中ポンプ等の流体装置に必要な部材として水中電動機の回転子に取り付けられているものであることが明らかである。また、成立に争いのない甲第三号証の一、二によれば、第二引用例の小プロペラは同引用例記載の補助装置の部材であり、水中電動機の部材ではないことが明らかである。すなわち、原告の右主張は、水中電動機すなわち水中で作動するに適するように構成された電動機そのものと、この水中電動機を駆動装置として用いる他の装置を混同した主張であつて、採用に値しない。
3 以上のとおり、第一引用例に舵の効きをよくするための舵装置の補助装置として回転駆動装置を備えた舵ロータが示されており、第二引用例に舵装置の補助装置を駆動する装置として水中電動機を用いることが示されており、本願発明の構成要件(B)(ロ)ないし(ホ)の具体的構成を有する水中電動機が本願の優先権主張日前周知であつたのであるから、第一引用例の舵ロータの回転駆動装置として右周知の水中電動機の構成を採用して本願発明に想到することは、当業者が容易になしえたことと認めるのが相当である。
そして、右の構成にすれば、原告が請求の原因四2(二)において主張する本願発明の作用効果と同一の作用効果を奏することができることは容易に予測されるところと認められるから、本願発明の右作用効果を格段のものということはできない。
したがつて、本願発明は第一、第二引用例及び前示周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとする審決の判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がないといわなければならない。その他審決にこれを取り消すべき違法の点は見当たらない。
三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲第一項は左のとおりである。
船舶及び浮き装置のための舵ロータにおいて、舵ロータが、外側が回転する水中電動機として構成されていて、軸の片側端または両側端が舵板に固定されている固定の固定子部分と円筒形のロータ円筒部を担持している回転子部分とを含み、電力の供給が固定子部分の固定された軸を介して行われて、回転子部分が直接固定子部分と回転子部分との間の磁気的相互作用によつて回転駆動せしめられるようにしたことを特徴とする舵ロータ。