大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)178号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決の認定判断は正当であつて、以下に説示するとおり原告の主張はすべて理由がないものというべきである。

前記本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本願発明の特許願書及び同添付の明細書)及び第三号証(同手続補正書)によれば、本願発明は、持効性アモキシシリン製剤に関するものであるが、アモキシシリンは抗生物質であつて、多くの抗生物質と同様に経口投与後の排泄が速いため約六時間ごとに投与する必要があり、その持効性に難点があるところから、一日二ないし三回の投与により有効血中濃度を維持し得る有用な持効性アモキシシリン製剤を提供することを技術的課題とし、これを達成するため、本願発明の要旨のとおり速効性アモキシシリン成分と遅効性アモキシシリン成分とを有する製剤としたものであつて、これにより、良好な初期濃度と持効性を有する優れた製剤を得る効果を奏するものと認めることができる。そして、引用例が本願発明の特許出願日前国内に頒布された公開特許公報であることは原告の明らかに争わないところ、引用例に本件審決認定のとおりの記載があり、本願発明と引用例記載のものとの間に本件審決認定のとおりの一致点及び相違点があることは、原告の認めるところである。

原告は、右相違点についての本件審決の判断を争うので、この点を検討するに、本件審決認定のとおり、本願発明が対象とするアモキシシリンが速効性ではあるが、効力持続時間が短いという医薬品として引用例記載のセフアレキシンと同様の技術的課題をかかえた物質であり、しかも、両者が共に抗生物質に分類される医薬品であることは、原告の認めるところであつてみれば、本願発明と同様の技術的課題解決のために用いられた引用例記載のセフアレキシンに対する持効化手段を本願発明が対象とするアモキシシリンに転用することは、当業者であれば、容易になし得る程度のことというべきである。原告は、アモキシシリンとセフアレキシンとは構造及び性質(水溶性)を異にするから、両者の奏する薬効を予測することができず、更に持効性のものが、抗菌効果が大きいか否かは、抗生物質の種類によつて異なるものであるから、セフアレキシンにおいて可能であつた持効化手段がアモキシシリンに対しても同様に適用できるものとすることができない旨主張する。しかし、原告主張のように、アモキシシリンとセフアレキシンとが構造及び性質(水溶性)を異にし、また、持効性のものが抗菌作用が大きいか否かは抗生物質の種類によつて異なるものであるとしても、前認定のところから明らかなとおり、本願発明は、一定の化学構造を有するアモキシシリンそれ自体に関する発明でなく、引用例記載のものと同様、製剤の持効性の点に特徴を有することが明らかであり、アモキシシリンがセフアレキシンと同様、抗生物質として分類される医薬品であり、しかも、効力持続時間が短いという技術的課題を等しくかかえたものであることから、当業者であれば、本願発明と同様の技術的課題を解決した引用例記載のセフアレキシンに対する持効化手段を本願発明が対象とするアモキシシリンの持効化に適用してみようと試みることは当然の事理というべきであつて、原告の叙上主張の事由もこれを妨げる格別の事由とは認め難く、また、その結果の予測についても、格別困難なこととみることはできない。この点に関し、原告は、甲第五号証を挙示し、医薬品の有効性は容易に予測をすることができない旨主張するが、同号証には、厚生大臣に対する医療用医薬品製造承認等の申請に際し提出資料として、新剤型医薬品の場合、五か所(病院数)以上、一五〇例(適用患者数)以上の臨床試験データを要する旨の記載があるにとどまるから、同号証は前記判断を左右するに足りない。したがつて、原告の叙上主張は、いずれも採用の限りでない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

速効性アモキシシリン成分と遅効性アモキシシリン成分とを有することを特徴とする持効性アモキシシリン製剤。

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