東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)179号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実及び審決の引用する本件拒絶理由通知の内容が、請求の原因四の1に記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
二 そこで、審決の取消事由について検討する。
1 本件拒絶理由通知(一)の点をしばらく措き(二)の点について検討する。
(一) 複数の部材を構成要素とする考案において、その実用新案登録請求の範囲に記載されたある部材と他の部材との間に一定の関連性(組合せ)を有することによつて、はじめて考案の詳細な説明の項に記載された当該考案の所期の目的及び効果を達成することができる場合には、その部材相互の関連性(組合せ)もまた考案の構成に欠くことのできないものであるから、実用新案登録請求の範囲に右各部材が掲記されているだけで相互の関連性(組合せ)が明らかとなる特段の場合を除いては、これら各部材を単に箇条書きして羅列しただけでは足りず、右目的、効果を達成することができるのに必要とされる部材相互の関連性(組合せ)をも構成要件として実用新案登録請求の範囲に記載しなければ、実用新案登録請求の範囲には考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことのできない事項が記載されていないものとして、右明細書は実用新案法五条四項所定の要件を欠くものといわなければならない。
本願考案の実用新案登録請求の範囲は請求の原因二のとおりであることは前叙のとおり当事者間に争いがない。また、成立に争いのない甲第三号証によると、本願明細書の考案の詳細な説明の項には、本願考案の目的、効果について「従来、格天井の施工は、同じ大きさの部屋であつても部屋の四辺及び対角寸法には差異がある為に部屋毎に採寸をしての施工である。高度な技術を要する天井を部屋毎に部材製作をしての施工は、工期が長くかかり、高価な天井となつて、一般の人達には望み得ないものであつた。本案は、これらの欠点を解消せんとするもので、部屋の大きさに応じた標準寸法を基に……天井の部材一式を工場製産によつて組立セツトとし、現場で大工は、側板(1)、格縁(2)、格縁(3)、天井板(4)とで格天井に組立て、これを天井部中央に配設し、周辺パネル(5)は部屋寸法に合せ周辺パネル寸法を変更させて枠外側と四辺側壁面との間に配設し、組立施工をするもので、部材切断はこの周辺パネルの寸法変更のみで、素人でも容易になせる事を特徴とし、その目的は施工の省力・出来上り品質の安定を計る事の出来る組立天井セツトを提供するにある。」(本願明細書一頁一八行~三頁四行)と記載されていることが認められる。
(二) そこで、本願考案の右目的、効果を前提として、本件拒絶理由通知(二)の(a)ないし(h)の点について順次検討する。
(1) まず、(a)の点についてみるに、前掲実用新案登録請求の範囲には、側板(1)と枠について「(イ)枠外側下部に周辺パネル取付用の受突部を突設した四枚の側板(1)」と記載されているが、右の「枠」は何によつてどのように構成されるものであるか、また「枠」と「側板」とがどのように関連するものであるかについては実用新案登録請求の範囲には何らの記載がないので四枚の側板がどのように組合わされて本願考案の天井セツトを構成するものであるかが明らかでない。そして、この点が明らかにならなければ、考案の詳細な説明の項に記載された本願考案の前記目的、効果を達成することができるものとはいえない。
(2) 次に、(b)及び(c)の点についてみるに、前掲実用新案登録請求の範囲には、「(ロ)上面側に略等間隔に嵌合溝を削設した複数本の格縁(2)と、下面側に略等間隔の嵌合溝を削設した複数本の格縁(3)」と記載されているが、格縁(2)と格縁(3)の相互の関連性並びに格縁(2)、(3)と枠との関連性については、実用新案登録請求の範囲には何らの記載がないので、格縁(2)、格縁(3)及び枠がどのように組合されて本願考案の天井セツトを構成するものであるかが明らかでない。そして、この点が明らかにならなければ、前記目的、効果を達成することができるものとはいえない。
(3) 次に、(d)、(f)、(g)についてみるに、天井板(4)に関しては、前掲実用新案登録請求の範囲には、「(ハ)一定寸法に裁断された多数枚の天井板(4)」と記載されているのみであり、この天井板(4)と枠との関係、多数の天井板相互の関係及び天井板(4)と格縁(2)又は(3)との関連性については、実用新案登録請求の範囲に記載がないので明らかでない。そして、この点が明らかにならなければ、本願考案が前記認定の目的、効果を達成することができるものとはいえない。
(4) 更に、(e)及び(h)についてみるに、周辺パネル(5)に関しては、前掲実用新案登録請求の範囲には、前記(イ)のほか、「(ニ)一定寸法に裁断された複数枚の周辺パネル(5)」と記載されているが、複数の周辺パネル(5)相互の関係及び周辺パネル(5)と枠との関係については、実用新案登録請求の範囲に記載がないので、複数の周辺パネルがどのように組合わされて天井セツトを構成するものであるかが明らかでない。そして、この点が明らかにならなければ、本願考案の前記目的、効果を達成することができるものとはいえない。
(三) 原告は、本願考案における各部材の組合せは簡単であるから、実用新案登録請求の範囲に各部材を箇条書きに示せば、これら部材の関連構成を容易に知ることができる旨主張する。しかし、以上に述べたところによつて明らかなとおり、仮に原告の意図する各部材の組合せが簡単であるとしても、前記各部材が実用新案登録請求の範囲に掲記されているだけでその相互の組合せ(関連性)の全部が当業者にとつて明らかであるとはいえない。原告はまた、本願と同様の方式で出願した組立天井セツトに関する発明、考案がいずれも特許権又は実用新案権の設定登録を受けている旨主張し、成立に争いのない甲第五、第六号証の各一、二を提出するが、これらは本願と事案を異にするものであり、このような事実があることをもつて前記の認定を左右するものでないことは明らかである。
(四) 以上のとおりであるから、本願明細書の実用新案登録請求の範囲には、考案の構成に欠くことのできない事項が記載されていないものというべきであり、従つて、本願明細書は実用新案法五条四項所定の要件を欠くものといわなければならない。
2 そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本願明細書には少くとも本件拒絶理由(二)に指摘した不備があるから、本願を拒絶すべきものとした審決の判断には誤りがなく、原告の審決取消事由は失当であつて採用できない。
二 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕本願考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
「(イ) 枠外側面下部に周辺パネル取付用の受突部を突設した四枚の側板(1)
(ロ) 上面側に略等間隔に嵌合溝を削設した複数本の格縁(2)と、下面側に略等間隔に嵌合溝を削設した複数本の格縁(3)
(ハ) 一定寸法に裁断された多数枚の天井板(4)
(ニ) 一定寸法に裁断された複数枚の周辺パネル(5)
以上の部材よりなる組立天井セツト」