大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)18号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実、審決の理由の要点1の本願考案の要旨の認定、同2の(一)の第一引用例及び第二引用例の各記載事項の認定、同4の(1)冒頭の「液晶が……周知の技術的事項であり、」との認定並びに請求の原因四の1の(一)及び同2の主張中液晶が空気に露出すると空気中の酸素等と反応して表示(発色)機能を失い、再び元に戻らない性質(原告のいう「不可逆性の変化」)があり、かつこのことが本願出願当時当業者に周知の事項であつたことは当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 作用効果その一の主張について

(一) 一定事項の証明として機能する証明カードにおいて、これに設けられる表示部は、事務処理上の要請からその真偽の判定が迅速容易かつ確実に行うことのできる機能と偽造(改ざん)を防止する機能とを有することが重要であること、右偽造(改ざん)を防止するためには、表示部の内容を通常の方法では分りにくくすること及び表示部の作り変えを困難にすることが有効であることは当事者間に争いがない。

(二) 次に、当事者間に争いのない本願考案の実用新案登録請求の範囲によると、本願考案の証明カードは、その表示部に証明しようとする所要の文字、図柄等を通常の条件では見ることができず、特定の条件によつて初めて認知できる液晶を用いるものであることが認められ、また成立に争いのない甲第八号証(本願公報)によれば、本願考案は右のような液晶を用いて表示部を形成したことにより、メーカーで選定した特定の条件下で認知できるだけであるという点で偽造防止に役立つものであると共に、一定の条件の整つたチエツカーを用いれば、表示部に表示された内容を迅速容易に認知できるものであることが認められる(本願公報四欄三~一二行)。

(三) 一方、第一引用例には審決認定の事項が記載されていることは前叙のとおり当事者間に争いがなく、この記載及び成立に争いのない甲第六号証によれば、第一引用例に記載の証明カードもまた証明しようとする事項を通常の条件では見ることができず特定の条件によつて初めて認知できるよう特殊な樹脂(無延伸熱可塑性樹脂)を表示部に用いたものであり、この特殊な樹脂に暗証としての文字、記号等のクラツクを形成するが、このクラツクは外部から見ただけでは見分けることができない点で偽造防止に役立つものであると共に、この部分を偏光板を通して透過光でのぞくと右表示(暗証)が白化するので表示部に表示された内容を迅速容易に認知できるものであることが認められる。

(四) そうしてみると、第一引用例のものも本願考案と同様の作用効果を奏するものであるということができるから、本願考案の前記作用効果は、第一引用例のものと対比して格別のものであるということはできない。

よつて、原告のいう本願考案の作用効果その一の主張は採用できない。

2 作用効果その二の主張について

(一) 液晶が空気に露出すると空気中の酸素等と反応して表示(発色)機能を失い、再び元に戻らない性質(原告のいう「不可逆性の変化」)があり、このことが本願出願当時当業者に周知の事項であつたことは前叙のとおり当事者間に争いがない。

そうすると、液晶画像に改ざんを加えようとしてこれを空気中に露出させた場合には、液晶の前記不可逆性の変化によつて表示部における表示機能が失われ何らの表示もされないこととなり、これにより改ざんの痕跡が明瞭に残存するので、カードの真偽の判別を容易かつ確実に行うことができるものであること、そしてこのことは延いて証明カードの偽造ないし改ざんを防止する上で重要な機能を果たすものであることが明らかである。従つて、右の点は、明細書に記載されているか否かの点はしばらく措き、本願発明が奏し得る作用効果であるということができる。

(二) しかし、このような作用効果は右に述べたところから明らかなとおり液晶が当然に有している性質ないし機能をそのまま利用したものにほかならないところ、液晶に右のような性質のあることは叙上のとおり本願出願当時当業者に周知の事項であつたのであるから、特段の事情がない限り、前記作用効果は当業者が右周知事項に基づいて極めて容易に予測できるものであるといわなければならない。そして、本件においては右特段の事情がある旨の主張、立証はない。(なお、原告は、前記作用効果は本願明細書に明記されていないが、液晶の前記性質が周知であるから、当業者が本願明細書を見れば前記作用効果を容易に知ることができる旨主張するところ、もし右特段の事情があれば原告の右主張は成り立たないことが明らかであるから、原告は右特段の事情がないことを自認しているということができる。)

(三) そうしてみると、本願考案の奏する右作用効果は、仮に本願明細書に記載されているとしても、格別のものということはできない。

よつて、原告のいう本願考案の作用効果その二の主張も採用できない。

3 作用効果その三の主張について

(一) 前掲甲第八号証によると、本願明細書の考案の詳細な説明の項には、液晶の種類として熱、電界、磁界などに反応する各種のものがあり、その使用に合わせてチエツカーを準備することが記載されている(本願公報二欄末行~三欄六行)。そうすると、本願発明において証明カードの表示部に数種の液晶を重複して用いた場合には、一種類の液晶を用いた場合と比較して改ざんがより困難となり延いて偽造の防止により役立つものということができる。

(二) しかし、当事者間に争いのない本願考案の実用新案登録請求の範囲によれば、本願考案は、多種類の液晶を用いることが構成要件とされているものではなく、一種類の液晶を用いた場合もこれに包含されるものであることは明らかであり、後者の場合には右に述べた作用効果を奏することはできない。

(三) そうすると、原告の主張する本願考案の作用効果その三の点は、多種類の液晶を用いた実施態様においてのみ奏せられる効果に過ぎず、本願考案の構成要件上等しく奏せられる作用効果ということはできない。

よつて、その余の点について判断するまでもなく原告のいう本願考案の作用効果その三の主張も採用できない。

4 以上のとおりであつて、原告主張の審決取消事由はいずれも失当であり、審決にはこれを取消すべき違法の点はない。

三 よつて、本訴請求を棄却する。

〔編註〕 本願考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

証明しようとする所要の文字、図柄等を通常の条件では見ることができず、特定の条件下で初めて認知できる液晶により顕現した表示部をカード本体に形成し、少なくとも該表示部を透明シートで被覆してなる証明カード。

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