東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)23号 判決
一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。
二 前記当事者間に争いのない本願発明の要旨(特許請求の範囲第一項の記載に同じ。)に成立に争いのない甲第四号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、本願発明は陰極線管表示装置の画像表示方法に関する発明であること、従来のこの種装置における画像表示方法は、同装置として物理的に可能な最小画像単位である光ドツト(この点は当事者間に争いがない。)の集合体である絵素(この点も当事者間に争いがない。)を単位として、かつ、キヤラクタジエネレーター等に予め記憶させた、右絵素を構成する光ドツトの組合せからなる文字、図形等のパターンによつて、画像の書替えをするものであつたところ、かかる方法においては、書き替え得るパターンの種類がキヤラクタジエネレータに記憶されたパターン数により制限されること等により、殊に複雑な図形の書替えが困難であるとの欠点があつたこと、本願発明は、かかる欠点を解消し、複雑な図形を陰極線管の画面上に自由に書き替えることができるようにすることを目的として、前記当事者間に争いのない本願発明の要旨のとおりの構成(特許請求の範囲第一項の記載に同じ。)を採用したものであることが認められる。
三 取消事由に対する判断
1 取消事由(1)について
原告主張の取消事由(1)は、本願発明の要旨に、本願発明が光ドツト単位での表示機能以外の表示機能をも有する点が含まれることを前提とするものであるので、まず、その点について判断する。
(一) 前記本願発明の要旨(特許請求の範囲第一項の記載に同じ。)に徴すれば、本願発明が要旨とする点は、特許請求の範囲の記載に即していうと、表示画面上の複数の光ドツトの単色又は複数色の明暗の組合せによつて図形、文字等を表示し、かつ、右表示画面上の光ドツトの位置と一対一に対応づけられた記憶素子を有する画面記憶部を設けてなる陰極線管表示装置において(以上は(a)構成)、右画面記憶部の内部を外部からの信号によつて前記記憶素子ごとに書き替え可能にし(以上は(b)構成)、前記画面の表示内容のうち図形の表示を光ドツトごとに直接変えることができるようにした(以上は(c)構成)ことを特徴とする陰極線管表示方法(以上は(d)構成)というにあるところ、右によれば、本願発明は、陰極線管の画像の表示又は書替えに関し、「表示画面上の複数の光ドツトの単色又は複数色の明暗の組合せによつて図形、文字等を表示し」、「画面記憶部の内容を…前記記憶素子ごとに書き替え可能にし、…図形の表示を光ドツトごとに直接変えることができるようにした」との構成を要旨として含むことが認められるものの、これらはいずれも、光ドツトに着目し、光ドツトによる又は光ドツトを単位とした画像の表示又は書替えに関するものであることは明らかであるから、原告主張のような点は本願発明の要旨とはされていないものといわざるを得ない(なお付言するに、前掲甲第四号証の記載をも参酌すれば、右「表示画面上の複数の光ドツトの単色又は複数色の明暗の組合せによつて図形、文字等を表示し」との構成は、要するに図形、文字等を光ドツトの光り方(明暗、色)の組合せで表現することを意味するにとどまり、原告が問題とする画像の書替えを光ドツト単位で行うか、それ以外の単位で行うかという問題と直接かかわる事柄ではないことは明らかであるし(画像の書替えを例えば絵素単位で行つても図形、文字等を光ドツトの光り方の組合せで表現するものである点に変りはない。)、また、図形以外のもの(文字等)の書替えの際の単位をどのようにするかという点が本願発明の要旨外の事項とされていると解するほかないことも、前記本願発明の要旨に照らし明らかというべきである。)。
(二) この点に関し、(中略)前記認定のとおり、図形、文字等を光ドツトの光り方(明暗、色)の組合せで表現する点と陰極線管の画面上の光ドツト位置と一対一に対応づけられた記憶素子を有する画面記録部を設ける点の記載があるのみであるから、この点に関する原告の主張も採用の限りでない。更に、原告は、本願明細書の発明の詳細な説明の項にも、光ドツト単位以外にも絵素単位で書替えをする点が明記されている旨主張するところ(同<3>)、たしかに前掲甲第四号証には原告主張のとおりの記載があることが認められるが、本願発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した特許請求の範囲第一項の記載中に本願発明が光ドツト単位以外での表示機能をも有することを要旨とすると解すべき根拠を見出し得ないことは既に認定説示したところからも明らかというべきである以上、この点をもつて原告主張の支えとすることもできない。
(三) そうであれば、本願発明と第一引用例記載のものとの相違点の看過をいう原告主張の取消事由(1)は、その前提において既に失当であつて、理由がない。
2 取消事由(2)について
(一) 本願発明と第一引用例記載のものとの間に審決摘示の相違点があり、取消事由(1)として原告が主張する点を除けばその余の点では両者の構成が一致すること、第一及び第二引用例に審決摘示のとおりの記載があることは当事者間に争いがなく、右取消事由(1)として原告の主張する点が両者の相違点となるものでないことは前項で認定説示したとおりである。また、右事実及び前掲当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明と第一引用例記載のものとは(この項においては、以下、本願発明を前者、第一引用例記載のものを後者という。)、陰極線管(後者のCRTが前者の陰極線管に相当することについては当事者間に争いがない。)の画面上の図形の書替えにつき、外部からの信号によつて画面記憶部(後者のメモリが前者の画面記憶部に相当することにつき当事者間に争いがない。)を構成する記憶素子(メモリ素子)ごとに書き替えることにより、右記憶素子と一対一に対応づけられた陰極線管の表示画面上の単位ごとに書替えをするものである点において一致するが、右記憶素子と一対一に対応づけられた陰極線管の表示画面上の単位が前者においては光ドツト、後者においてはモザイク(本願明細書でいう絵素と同義であることは当事者間に争いがない。)であり、したがつて、その位置が一対一に対応づけられ、外部からの信号で書き替えられる際の単位となるところの「表示画面上の最小単位」が、前者においては光ドツトであるのに対し、後者においてはモザイクである点でのみ相違するものであることが明らかである。
(二) 他方、前記当事者間に争いのない第二引用例の記載に成立に争いのない甲第三号証を総合すれば、第二引用例に本願発明及び第一引用例と同様の陰極線管表示装置の画像表示方法に関する記載があり(基本的には、外部からの信号により記憶素子の内容を書き替えることにより陰極線管の表示画面上の画像を書き替えるものである。)、第二引用例の装置の画素(本願発明でいう光ドツトと同義であることは当事者間に争いがない。)とメモリの記憶素子とは一対一に対応づけられていることが認められるところ、同引用例により右の構成が既に公知となつていたことは当事者間に争いがない。
(三) そして、メモリを構成する記憶素子はメモリへの情報書込みの可能な最小単位であるから(この点は当事者間に争いがない。)、第二引用例のものにおいても、メモリを構成する記憶素子について、記憶素子ごとに書き替えることが可能なことは明らかである。また、第二引用例のものにおいてメモリを構成する記憶素子を光ドツトと一対一で対応させる構成としている理由が、よりきめが細かく、かつ自由な表示を可能とするためであることは容易に推測し得るところ(なお、前掲甲第三号証によれば、第二引用例に具体的に記載されている装置は、ジエネレータを用いることによつて予め定められたドツトパターンを絵素単位でメモリに書き込むものであることが認められるが、その場合でも該パターン自体をより細かく、かつ自由な形になし得るものであることは明らかである。)、陰極線管表示装置において、きめ細かく自由な表示の可能なものがより望ましいことはいうまでもないところであるから、前記二で認定した本願発明の目的をもつて当業者の予測し得ないところともいいがたい。
(四) そうであれば、審決指摘のように、第一引用例記載のものに第二引用例記載の事項を適用することにより、第一引用例記載のものにおいて、図形の書替えの際の単位をなすところの「表示画面上の最小単位」をモザイクから光ドツトとする点に想到することに格別の困難はないといわざるを得ない。
(五) 原告は、第一引用例記載のものにはCRT画面上のモザイクの大きさをそれ単独で光ドツトまで小さくしようとする技術思想はそもそも存在しない旨主張するところ、たしかに第一引用例中にはモザイク単位での表示ないし書替えについての記載があるにとどまり、その意味では第一引用例に光ドツトを用いること自体についての直接の開示はない。しかし、本件においては、第一引用例に表示画面上の単位として光ドツトを用いることについての記載がないからこそ、第一引用例に記載されたモザイクに代えて第二引用例に記載された光ドツトを採択することの容易性が問題とされている。しかして、前記のとおり、第一及び第二引用例とも陰極線管表示装置の画像表示方法に関するもので、外部からの信号により記憶素子の内容を書き替えることにより陰極線管の表示画面上の画像を書き替えるものである点において技術的な共通性が認められ、かつ、光ドツトが陰極線管表示装置として最小画像単位であつて、その集合体がモザイクであり、同装置においてきめ細かく自由な表示をなし得るようにすることは当然の要請といい得ることを考慮すれば、右の点の容易性は肯認し得るのであるから、この点に関する原告の主張は右の容易推考性の判断を妨げるものではない。この点に関し、原告は更に、第一引用例記載の装置においてCRT画面上のモザイクの大きさを光ドツトまで小さくしたとすればキーボードスイツチ数が膨大化する等の技術的不合理が生ずる旨主張するが、原告主張の点は少なくともCRT画面上のモザイクの大きさを光ドツトまで小さくすることを不能ならしめるようなものでないことはその主張自体からも明らかであるし(これを不能と認めるべき証拠もない。)、また、引用例から抽出すべきものは技術思想であつて、前記当事者間に争いのない本願発明の要旨からも明らかなように、本願発明自体、画面記憶部の内容を光ドツトに対応する記憶素子ごとに書き替えるための入力方法等を具体的にどのようにするかを要旨とするものでもないことを考慮すれば(この点は別途の技術課題として工夫検討すべき事項である。)、原告主張の点は、同引用例に開示された陰極線管の表示画面と対応づけられた記憶素子ごとに書替えをするという技術思想に第二引用例に開示されたメモリを構成する記憶素子と陰極線管の表示画面上の光ドツトとを一対一で対応させるとの技術思想を組合せることにより本願発明の構成に想到するのに格別の困難がないとした前記判断を妨げる事情とはならないし、他に前記判断を左右するに足りる証拠もない。
(六) そうであれば、これと同旨に出た審決の判断は相当であるから、原告主張の取消事由(2)も理由がない。
3 取消事由(3)について
前掲甲第四号証によれば、原告主張のように、本願明細書には、本願発明による作用効果として「システムのアラームや情報を陰極線管の画面上の系統図やグラフにより運転者にわかりやすく表示するシステムに適用できる」(七欄二六行ないし八欄六行)との記載があることが認められるところ、前項で認定説示したとおり、本願発明が第一引用例記載のものに第二引用例の記載事項を組合せることにより容易に想到し得るものである以上、右効果は右各引用例から当業者において予測可能なものであつて格別のものではないというほかなく(なお、原告が主張する時々刻々変化するプロセス量をトレンドグラフで表示できるとの点は本願明細書中に明記されていないが、その点を措いても、かかる作用効果も当業者の容易に予測し得るところといわざるを得ない。)、他に、本願発明において当業者の予測することができないような格別の作用効果が得られることを認めるに足りる証拠もないから、原告主張の取消事由(3)も理由がない。
4 以上のとおり原告主張の取消事由はすべて理由がなく、審決の認定判断は正当である。
四 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編注〕本件における特許請求の範囲第一項記載の発明(以下「本願発明」という)の要旨は左のとおりである。
(a) 陰極線管の画面の光ドツト位置と一対一に対応づけられた記憶素子を有する画面記憶部を設け、前記画面に複数の光ドツトの単色または複数色の明暗の組合せによつて図形、文字等を表示するものにおいて、(b)前記画面記憶部の内容を外部からの信号により光ドツトに対応する記憶素子ごとに書き替え可能にし、(c)前記画面の表示内容のうち図形の表示を光ドツトごとに直接変えることができるようにした(d)ことを特徴とする陰極線管表示方法。(なお、(a)、(b)…は理由説示の便宜上当裁判所において付記したものであり、以下、右各構成要件を指して「(a)構成」「(b)構成」…ともいう。)