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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)234号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 取消事由に対する判断

1 取消事由1(一)について

(一) 前記本願発明の要旨と成立に争いのない甲第一号証(本願発明の特許公報)を総合すると、本願発明は、所望の織布状特性をもつ主として合成熱可塑性フアイバーからなる不織布に関する発明であり、「強く、しかも織布状のドレープ性を持つ且つ一様に不透明であり、従つて布様の外観を示す不織布材料」(一欄末行ないし二欄二行)、「粘着性がなくて実質のある膚ざわりがあり且つじつとりではなく快い湿つた感触を持つ……不織布材料」(二欄四行ないし六行)及び「衣服関係の用途に使用できるように十分呼吸作用が可能であり、しかも所望の発水特性を持ち(二欄八行ないし一〇行)……さらに……所望の表面摩擦特性を持つ(不織布材料)を提供すること」(二欄一六行ないし一七行)等を目的として、これを達成するために特許請求の範囲に記載されたとおりの性状をもつ連続したフイラメントのウエブと不連続な熱可塑性重合体マイクロフアイバーの集積マツトとの層状配置及び所定の結合パターンに関する構成を採択し、特にウエブについては、フイラメントを分子状に配向したことにより、「これらフイラメントはマツト12中のマイクロフアイバーよりもかなり強靭性が高い」(四欄四三行ないし五欄二行)との効果を得ていることが認められる。ところで、引用例(米国特許第三七一五二五一号明細書)(本出願前に頒布された刊行物であることについては原告も明らかに争わない。)に「繊維直径が約一〇ミクロンから四〇ミクロンの繊維がメルトブロー法によりランダムに堆積して形成されたマツトBと、該マツトBの繊維と同一の熱可塑性高分子よりなる繊維直径が約一ミクロンから一〇ミクロンの繊維がメルトブロー法によりランダムに堆積して形成されたマツトAとからなり、マツトAとマツトBとは層状関係に配置され、かつ突起を有するプレスプレート又はカレンダーロールによりマツトAの繊維がマツトBの繊維に融着するのに充分な温度で点融着されて結合している不織布」が記載されていることは、原告も認めるものの、原告は、本件審決が引用例に記載された「マツトBの繊維は実質的に連続した繊維であり、マツトAの繊維は実質的に不連続な繊維であると推認することができる。」とした点を争うので、この点から検討を進める。

(二) 前掲甲第三号証によれば、引用例記載の発明は前記のとおり、メルトブロー法による不織布(不織積層シート)に関するもので、引用例には、「本発明の方法は、高いストリツプ引張強度をもつた熱可塑性重合体フアイバーから作られた一つ又はそれ以上の不織マツトを、高い引裂抵抗をもつた同じ熱可塑性重合体フアイバーの一つ又はそれ以上の不織マツトに積層して、積層した不織シートに高いストリツプ引張強度と高い引裂抵抗との両方の性質をもたせることからなる。」(一欄三七行ないし四四行)、「メルトブロー法で作られた熱可塑性重合体不織マツトの特性は、用いられる特定の工程条件に従つて相当に変化する。熱可塑性重合体不織マツトの特性は、メルトブロー法で用いられる空気の流量と、ダイヘツド内のダイ開口部から引取装置までの距離とに大部分影響される。」(二欄三六行ないし四三行)、「メルトブロー法において、空気の流量が高く、かつダイヘツドを通して押し出される熱可塑性重合体の一ポンドに対する空気のポンド数の比率が高いとき(約一四〇より大きいのが適当であり、望ましくは一五〇、好ましくは、ポリプロピレンについては重合体一ポンド当たり空気二〇〇ポンド超である。)、不織マツト内の熱可塑性重合体フアイバーは、一般にマツトがより高いゼロスパン引張強度をもつようなものである。より高い空気流量では、フアイバーは、引張られるように思われ、一ミクロンないし一〇ミクロンの範囲の小さい直径で証明されるようにはるかに微細なフアイバーである。」(二欄五七行ないし六六行)、「より大きい直径一〇~四〇ミクロン、通常一〇~二五ミクロンに範囲内の直径をもつフアイバーからなるマツトを得るためには、より低い空気流量、従つて重合体流量に対する空気流量の比率をはるかに小さくして(ポリプロピレンに対し、一般に約五〇未満)作動することが望ましい。」(三欄四二行ないし四七行)並びに「当該マツト(A)は一四〇より大きい空気/重合体比率で調整され」(二欄五〇行ないし五二行、クレーム/(b))「当該マツト(B)は五〇より小さい空気/重合体比率で調整され」(同欄五七行ないし五八行、クレーム/(b))との記載が認められ、これらの記載内容に照らすと、メルトブロー法では、マツトを構成する繊維の繊維直径の大小が、ダイヘツド内のダイ開口部から引取装置までの距離のほか、空気流量(空気と熱可塑性重合体との比率)により定まり、引張強度や引裂抵抗などの特性に影響を及ぼすものであることが理解できるものの、引用例全体を通してみても、引用例に開示されたマツトB及びマツトAを構成するそれぞれの繊維が実質的に連続な繊維なのか、あるいは不連続な繊維なのかを示す直接の明示的記載は見いだせない。

(三) 本件審決は、マツトBの繊維が実質的に連続な繊維であり、マツトAの繊維が実質的に不連続な繊維であるとの推認をする前提として、何ら確たる根拠を示すことなく、繊維直径が約一〇ミクロンを超えるようなものは実質的に連続な繊維であり、これ以下のものは実質的に不連続な繊維であることが自明であると判断しているので、この点について検討すると、成立に争いのない乙第一号証(昭和四九年三月一二日出願、昭和五〇年九月二三日公開に係る特開五〇―一二一五七〇号公開特許公報)によれば、本願出願後の出願に係るメルトブロー法によつて製造される不連続な繊維のうちには繊維直径が約一〇ミクロンのもののあることが窺われるのに対し、成立に争いのない甲第四号証(米国特許第三八四九二四一号明細書)(これが引用例に記載されたメルトブロー法を詳細に開示した特許明細書であることは後記のとおりである。)によれば、甲第四号証記載の発明に係るメルトブロー法によつて製造された連続な繊維の中には繊維直径が約八ミクロンのもののあることが認められるから、本件審決が判断するように繊維直径が約一〇ミクロンを超えるものは実質的に連続な繊維となることが自明であるとまで断定することには疑義があり、他に右の事項が自明なことであるとする合理的な根拠を認め得るに足る証拠は見いだせない。かかる疑わしい事項について根拠を示すことなく自明であるとして、本願発明と引用例記載の発明を対比判断した本件審決は相当とはいいがたい。

(四) しかしながら、前掲甲第一号証によれば、本願発明において用いられる「実質的に連続したフイラメントのウエブ」と「不連続な熱可塑性重合体マイクロフアイバー」の製造方法について、「発明の詳細な説明」には「熱可塑性重合体マイクロフアイバーの集積マツトは……公知の方法で製造することができる。……マツトの製造方法は基本的には、溶融重合体物質を押出して微細な流れにし、高速度の加熱気体(通常空気)を反対方向に流して重合体流を小直径の不連続フアイバーに破壊することによつて細化することから成る。次にフアイバーを多孔性のスクリーンベルトまたはドラムなどの上に集積してマイクロフアイバーのマツトが得られる。……一般にかかるマツト中に含まれているマイクロフアイバーは平均直径がわずか約一〇ミクロン以下であり、直径が一〇ミクロンを越える繊維はもしあつたとしても極めて少ない。かかるマツトのフアイバーの平均直径は普通約二~六ミクロンである。マツトの中のフアイバーは主として不連続であるが、その長さは一般にステープルフアイバーの長さより長い。」(三欄二六行ないし四欄一三行)との記載や「ほぼ連続したフイラメントのウエブ……の製造法も公知であり、……利用できる方法は一般に少なくとも三つの共通な特徴を持つている。まず、第一に、これらのウエブの製造法は個々のフイラメントを形成するため紡糸口金から熱可塑性重合体を(溶融物から溶液かのいずれかから)連続的に押出す操作を含んでいる。次に、この重合体フイラメントを分子状に配向させ且強靭性を与えるために破断しないように延伸する(機械的または空気式に)。最後に、この連続フイラメントをほぼアトランダムな方法でキヤリヤベルトなどの上に堆積して、アトランダムに堆積した分子状配向連続フイラメントのウエブを形成する。……前に述べたマイクロフアイバーマツトとは反対に、ウエブ16中の連続フイラメント18は平均フイラメント直径が約一二ミクロン以上、約五五ミクロン以下である。」(四欄一四行ないし四一行)との記載のあることが認められ、これらの記載内容と前記(二)認定に係る引用例記載のマツトBとマツトAを構成するそれぞれの繊維の製造方法に関する記載内容とを併せ考えると、一定の樹脂流量に対して流す空気流量を高くすれば繊維直径は小となり、樹脂の流れが受ける衝撃は大であるから、フアイバーの引つ張られる度合いは大となり、したがつて、フアイバーが切断されて細化され、概ね不連続な繊維となるであろうこと及び繊維直径が約一〇ミクロンないし四〇ミクロンというより大きい直径をもつフアイバーは、空気流量を低くして得られるものであるから、フアイバーの引つ張られる度合いは小さいことにより概ね連続的な繊維となるであろうことが推論し得るところである。

(五) また、前掲甲第四号証(一八七二年二月二二日出願、米国特許第三八四九二四一号明細書)が引用例に記載されたメルトブロー法を詳細に開示した特許明細書であることについて当事者間に争いがなく、同号証が引用例出願(前掲甲第三号証によればその日が一九六九年一〇月九日であると認められる。)の後の出願であるのに、原被告とも自己の主張の根拠に援用しているから、同号証により引用例記載の発明の技術的意義を検討することは差支えないものというべきところ、同号証には、「低空気流量型で作られた不織マツトは、本質的に連続フアイバーからなり、その形態は、偏光顕微鏡で見られるように、配向されていない。」(一〇欄二六行ないし二九行)、「それ故、オリフイス一個当たり毎分約〇・一~〇・五グラムの樹脂流量では、適当な熱処理条件下での不織マツトの特性は、主としてメルトブロー法で用いられるガス(空気)の流量によつて決定されることがわかる。空気の流量が、一般に低く又は亜音速ガス(スロツト面積平方インチ当たり毎分二・五~二〇ポンド)の場合には、不織マツトのフアイバは本質的に連続であり、高い空気流量又は音速ではフアイバが不連続であり、加えて、細かいシヨツトが作られる。」(一一欄三七行ないし四七行)、「空気流量を選定した樹脂流量に適するように低くすると、細かい連続フアイバ(最も好ましくは直径八ミクロン~三〇ミクロン)がつくられ、マツトは柔らかく、かつ、しなやかな風合のものである。」(一一欄六一行ないし六五行)、「選択された樹脂流量に対し、より高速の空気流量(空気スロツト面積一平方インチ当たり毎分約二〇~約一〇〇ポンドの範囲内)においてさえも、本質的にすべての不連続で非常に細かいフイラメントが作られ、非常に細かい均一なタイプのシヨツトが形成される。このシヨツトは、直径〇・一mm未満で、感触的にも視覚的にも気付かないが、カレンダがけした後に感知され、マツトは、存在するシヨツトの粒子が非常に細かいので、高度に均一な細かい粒のある風合をもつ非常に滑らかで白いマツトが外観を有する。これらの非常に高速の空気流量と、長いダイ捕集装置間距離で作られたマツトは、非常に軟かく、しなやかな風合を有し、この風合は、フアイバが非常に細い(五ミクロン未満)のでふとん綿のように見える。」(一二欄一五行ないし二九行)との記載があることが認められる。これによれば、甲第四号証のメルトブロー法によると、樹脂流量に対し空気流量を低くすると繊維は連続し、これを高くすると繊維は不連続となるものということができる。しかして、同じくメルトブロー法による引用例記載の発明において、直径約一〇ミクロンないし四〇ミクロンの範囲の繊維によるマツトBは低い空気流量により形成され、直径約一ないし一〇ミクロンの繊維によるマツトAは高い空気流量により形成されることは前記(二)認定のとおりであり、これがそれぞれ甲第四号証にいう低い空気流量により形成されたマツト及び高い空気流量により形成されたマツトに該るものということができる。このことと前記(四)の推論を総合すると、マツトBは概ね連続であり、マツトAは概ね不連続であるということができる(もつとも、引用例における前記(二)認定の記載には、例えば甲第四号証のマツト形成におけるような毎分の樹脂重量、空気流量などの数値、ダイと捕集装置間の距離との関係について具体的に示されていないが、引用例記載の発明においても甲第四号証にしたがいマツトを形成する限り、繊維直径約一ミクロンないし一〇ミクロンのものは不連続、約一〇ミクロンないし四〇ミクロンのものは連続となるのであり、同発明がかかるマツトを排除するものではない。)。

(六) そうであれば、引用例記載の発明におけるマツトB及びマツトAが、本願発明の「実質的に連続したフイラメントのウエブ」及び「大体において不連続な熱可塑性重合体マイクロフアイバーの集積マツト」に相当するものというべきであるから、これと同旨の本件審決の判断は、その理由づけにおいて相当でない点があるとしても、結局これを是認することができる。

2 取消事由1(二)について

原告は、また、本件審決が引用例記載の発明におけるマツトBにつき、本願発明のフイラメントのウエブ同様「分子状に配向している」と認定した点を争うので、検討する。

前記1(四)に認定した甲第一号証の記載のように、本願発明における連続した繊維における分子状の配向は、紡糸口金から押出された熱可塑性重合体フイラメントを破断しないように延伸することにより行われ、前掲甲第一号証に引用されている成立に争いのない甲第五号証(米国特許第三六九二六一八号明細書)によれば、延伸は高速空気の下で行われるものであることが認められるところ、前掲甲第三号証によるも引用例には、マツトの製造に当たり延伸装置に相当する手段を用いたことを認めるに足りる記述はないから、結局、引用例のマツトBにおいては、延伸されて分子状に配向されたものが得られているものとは認めることはできないものというほかない。この点、被告は、熱可塑性繊維が延伸されることによつて分子配向が生じることは技術常識であり、引用例記載のマツトBを構成する繊維も細化される際に延伸作用を受けることについては疑う余地がない旨主張し、これを裏付けるものとして前掲乙第一号証の記載を援用するが、前掲乙第一号証によれば、被告の引用する記載のほか、「メルトブロー法は、高速ガス、好ましくは空気を用いて繊維を形成する。」(四一五頁左上欄一五行ないし一六行)及び「本方法の操作の通常の態様においては繊維の切断が連続的におこる。」「四一五頁左下欄六行ないし七行)との記載のあることが明らかであるから、前掲乙第一号証記載の繊維は、高速の作動により得られる繊維であり、引用例において低速の空気流量で得られる繊維直径約一〇ミクロンないし四〇ミクロンのフアイバーとは相違したものであるから、これを根拠として引用例記載のマツトBにおいてもフアイバーが分子状に配向しているものと認めることはできない。むしろ、メルトブロー法に関する技術を開示した前掲甲第四号証における「低空気流量型で作られた不織マツトは、本質的に連続フアイバーからなり、その形態は、偏光顕微鏡で見られるように、配向されていない。」(一〇欄二六行ないし二九行)との記載に照らしてみても、低速の空気流量で得られる繊維直径約一〇ミクロンないし四〇ミクロンの引用例記載の繊維は「延伸されて分子状に配向したもの」ではないとみるのが合理的であるから、この点の被告の主張は採用の限りでない。

そして、前記1(四)認定のように、本願発明のウエブにおいてフイラメントを分子状に配向したことにより、より強靭な不織布を得ることができるのであるから、その作用効果においても顕著なものがある。そうすると、本件審決が、本願発明と引用例記載のものとの対比に当たつて、引用例記載のマツトBについて、本願発明のウエブ同様、フイラメントが延伸されて分子状に配向されているとした判断は誤りであり、その誤りは、結論に影響を及ぼすことも明白であるから、本件審決は、この点において違法として取消しを免れない。

三 よつて、本件審決の違法を理由としてその取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるからこれを認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

平均フイラメント直径が約一二ミクロン以上でランダムに堆積しかつ分子状に配向した実質的に連続したフイラメントのウエブと、平均フアイバー直径が約一〇ミクロン以下で、軟化点が連続フイラメントの軟化点より約10℃~40℃低く、大体において不連続な熱可塑性重合体マイクロフアイバーの集積マツトと、から成る不織布材料において、上記のウエブとマツトとは、層状関係になるように配置され、且つ熱と圧力を加えることによつて間欠的な離れ離れの結合領域を形成するように一緒に結合されていることを特徴とする不織布材料。

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