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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)241号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1  成立に争いのない甲第二ないし第四号証によれば、本願考案は、展開状態において一枚の薄片となり、折り曲げて組み立てた状態で三角筒形となる包装容器、特に、マツチ箱用として好適な容器に関するもの(本願明細書第一頁第一八行ないし第二頁第一行)であつて、従来、マツチ箱は、上面開放の直方体形の内箱にマツチ軸を入れ、該箱を同形で両端面開放の外箱に挿入し、外箱に着火部を貼着して構成したものが多く、三角形のマツチ箱もあるが、それは外箱の形状を三角形にしたものにすぎず、かかるマツチ箱を一箇所に多数まとめておくと、収容容積をとるばかりでなく、火災防止上好ましくない(同第二頁第二行ないし第一一行)との知見に基づき、三角筒形という斬新な形状を持ち、かつ、簡単に組立てることのできる包装容器を提供し、着火部とは別に安全な場所に置かれたマツチ軸を必要に応じて簡単に詰めることを可能にして防災を図ること(同第二頁第一二行ないし第一六行)を目的として、本願考案の要旨とする構成を採用し、その結果、(イ)展開状態において一枚の薄片であるから、一度の打抜加工で製作することができ、(ロ)折り曲げて組み立てるだけであるから簡単迅速に取扱うことができ((イ)(ロ)につき同第六頁第三行ないし第七行)、(ハ)側面部(A1、A2、A3)と端面部(B1、B2)とに連結した折込部(C1、C2、C3、C4)があるので、係止部(H)を開放して収納されているマツチを取り出す場合でも、マツチが縦方向にずれて落下することが防止される(同第六頁第一七行ないし第七頁第一行)という作用効果を奏するものであることが認められる。

2  原告は、本願考案と第一引用例記載のものとの相違点(1)、一枚の薄片の展開状態において、本願考案には鋭利な角部が存在せず、第一引用例記載のものには角部が存在する点、及び相違点(2)、同じく展開状態において、本願考案の折込部は略扇形状を呈し、第一引用例記載のものの折込部は略凹形状を呈する点についての審決の認定、判断を争うので、まず、この点について判断する。

第一引用例記載のものは、展開状態において一枚の板状体であつて、底片1の長手方向の両側に折目A、Bを介して側片2、3を連設し、この底片1の両側縁に折目D、Eを介して折込片12a、12b、13a、13bを有する三角形状の端側片6、7を設け、前記折目を介して所要の三角柱状の容器を構成するようになした組立容器において、前記側片2、3の両側縁に折目を介して側内片8、9、10、11を設け、該側内片と折込片間に側内片8、9、10、11と、折込片12a、12b、13a、13bを器内に引き込むための半円形のくぼみを設け、さらに前記側片3に折目Cを介して挿入片5を有する係片4を連設して成る展開・組立自在な横三角柱状組立容器(別紙図面(二)参照)であることは、当事者間に争いがない。

第一引用例記載のものの右構成と、本願考案の要旨とする構成とを対比すると、両者は共に展開・組立自在の三角筒形の包装容器に係るものであり、四辺形の連結した三つの側面部と組立状態で三角形状をした一対の端面部と、前記側面部及び端面部に連結した折込部を主たる構成とするから、その基本となる構成において共通するものであり、また、第一引用例記載のものには角部は存するが鋭利な角部は存在せず、鋭利な角部が存しないという点では、本願考案の「鋭利な角部の存在しない一枚の薄片」と共通するものである。

そして、一枚の薄片から容器を組み立てたり、展開したりするものにおいて、最も外力が作用しやすい折込部を円弧状にすることが本件出願前周知であつたことは、当事者間に争いがない。

そうであれば、本願考案と前記認定の基本的構成を同じくする第一引用例記載のものに右周知技術を適用して第一引用例記載のものの折込部を略扇形状にすることは、当業者においてきわめて容易に想到し得たことというべきである。

原告は、前記周知技術は鋭利な凸形角部に対し作用する外力を分散させるという目的を基礎とするのに対し、本願考案は凹凸部が他の薄片や物体と絡まつた場合に凹形角部の頂点近傍ないし凹みの底付近に集中するであろう張力の作用による薄片の断裂や折れ曲がりを防止する目的をも含むものであり、したがつて、周知技術が凸形の鋭利な角部をその頂点近傍において局部的に円弧状に変更するのみで、凸形角部そのものはこれを存置し、また、当然に凹形角部ないし凹みを存置させるものであるのに対し、本願考案は、薄片の辺縁部を広範にほぼ連続的な円弧状に形成することにより凸形角部及び凹形角部ないし凹みをほぼ全廃するものである旨主張する。

しかしながら、前掲甲第二ないし第四号証によれば、本願明細書に記載された本願考案の目的は前記1認定のとおりであつて、原告主張のような目的を達成するために考案されたものであることは本願明細書に何ら記載されていないことが認められるのみならず、前記認定の基本的構成を有する第一引用例記載のものの折込部に前記周知技術を適用すれば、その対応する側片2又は3に接続する側内片8、9、10、11と、端側片6又は7に接続する折込片12a、12b、13a、13bの辺縁部をほぼ連続的な円弧状に形成することができ、このような構成とすることは当業者であればきわめて容易になし得る設計変更にすぎないというべきであるから、原告の前記主張は理由がない。また、原告は、本願考案は、折込部を略扇形状に形成することにより、<1>凸形角部に作用する外力を分散させるという点で、単なるアール付けの技法(前記周知技術)よりも作用効果が大きく、<2>他の容器薄片や物体との絡まりを防止して凹形角部頂部付近ないし凹みの底付近に集中する張力による断裂・折れ曲がりを防止するという点で、単なるアール付けの技法によつては達成し得ない作用効果を奏し得るものであり、また、<3>容器を半開きにした状態での折込部の外縁が収納物の落下防止のための過不足のない閾を形成すると共に、<4>折り込みやすさをも実現し、<5>折込部中心の折込線が反復する折込・展開に耐えるために必要な程度の長さを保有するという、第一引用例の略凹形状の折込部をもつてしては達成し得ない作用効果を奏する(なお、原告主張の本願考案の奏する作用効果のうち、は右<1>及び<2>と、は<3>と同一である。)旨主張する。

まず、右<1>及び<2>の作用効果については、前掲甲第二ないし第四号証によれば、本願明細書には右作用効果についての記載がないことが認められるが、本願考案においては、薄片の辺縁部を広範にほぼ連続的な円弧状に形成してあるから、本願考案が右作用効果を奏することは当業者には自明と認められる。しかしながら、第一引用例記載のものも前記認定のとおり、鋭利な角部は存在せず、折込部も極端な凹部ではなく、半円形のくぼみ(別紙図面(二)参照)であつて、薄片の辺縁部に極端な凹凸が存在するものではないから、同様の作用効果を奏し得るものであつて、この点において両者の間に格別な差異は存しない。

また、<3>及び<4>の作用効果は、前記1認定のとおり本願明細書に記載されており、本願考案の奏する作用効果と認められる。しかしながら、<3>については、第一引用例記載のものにも、前記認定のとおり、底片1、側片2、3と端側片6、7に連結した折込片12a、12b、13a、13bが存するので収納物の落下防止となる閾は存在するものであり、閾の実効高さの差異も、本願考案の要旨には包装容器の大きさについての限定がないから両者の容器の大きさによつて変動するものであるところ、前掲甲第二ないし第四号証によれば、本願考案の容器は収納対象物がマッチのような小物に限られず、菓子、食品等の容器としても用いられる(本願明細書第六頁第九行ないし第一一行)ことが認められるから、この場合第一引用例記載のものと閾の実効高さに差異がなく、結局、この点において両者の間に格別の差異があるとすることはできない。また、<4>についても、第一引用例記載のものは、前記認定のとおり、折込部に半円形のくぼみを設けているから、折り込みやすいものということができ、この点においても、両者の間に格別の差異があるとはいえない。

さらに、<5>の作用効果については、前掲甲第二ないし第四号証によれば、本願明細書には右作用効果について記載されていないことが認められ、当業者に自明のものともいえないのみならず、右作用効果は薄片の材質と包装容器の大きさに関係するものであるところ、本願考案の要旨はこの点を限定していないから、これをもつて本願考案の奏する作用効果ということはできない。

したがつて、本願考案は、第一引用例記載のものに比べ、格別顕著な作用効果を奏するものということはできない。

3  次に、原告は、本願考案と第一引用例記載のものとの相違点(3)、係止部が、本願考案においては円弧状に形成されているのに対し、第一引用例記載のものにおいては別途挿入片を備えている点についての審決の認定、判断は誤りである旨主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例記載のものは、表面上端縁に略円弧状に形成された外側舌部7を、裏面上部に切り込み9を、それぞれ設け、該舌部を折り曲げて裏面上端縁を覆うようにして該切り込みに掛止する構成を有する包装箱(別紙図面(三)参照)であることが認められるから、第一引用例記載の係止部に代えて第二引用例記載の右係止部を採用し本願考案のように構成することは当業者においてきわめて容易になし得ることというべきである。

原告は、第二引用例は容器の組立状態の保持をひも13とひも穴8とで行うことを示しており、切り込み9は外側舌部7を止めておくものにすぎない旨主張するが、本願考案と構成を同じくする容器の組立状態の保持については第一引用例に記載されていること前記2認定のとおりであり、相違点(3)は係止部が本願考案においては円弧状に形成されているのに対し、第一引用例記載のものにおいては別途挿入片を備えているという点であつて、原告主張のこととは関係がない事項であるから、原告の右主張は理由がない。

4  以上のとおりであるから、本願考案は第一引用例及び第二引用例記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものとした審決の認定、判断は正当であつて、審決に原告の主張する違法はない。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

展開状態において鋭利な角部の存在しない一枚の薄片となり、折り曲げて組み立てた状態で三角筒形となる包装容器であつて、いずれも四辺形の連結した三つの側面部(A1、A2、A3)と、組み立てた状態で三角筒の端面を構成し前記側面部の中央部分(A1)と一辺を共有する三角形状をした一対の端面部(B1、B2)と、前記側面部及び前記端面部に連結した折込部(C1、C2、C3、C4)とを有し、前記各折込部は前記三角形状をした対応する端面部(B1、B2)の頂点と対応する側面部(A2又はA3)の外側角点とを結ぶ曲線によつて定義される略扇形状をなしており、かつ前記側面部の一外側部(A2又はA3)に連結し前記一外側部の両端を結ぶ曲線によつて略円弧状に形成された係止部(H)を設け、該係止部を保持可能なクランプ部(H′)を他方の外側部(A3又はA2)に付設した展開・組立自在な三角筒形の包装容器。