大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)246号 判決

一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の特許請求の範囲の記載及び審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取り消すべき事由の存否について判断する。

1 前記争いのない本願発明の特許請求の範囲の記載及び成立に争いのない甲第三号証(特公昭五八―五二八七三号公報・本願公報)によれば、本願発明は、石油原油又は石油製品を運搬するタンカーに関するものであり、油タンクとバラストタンクとを分離した構造のものにおいて、特許請求の範囲に規定したとおりの改良した配置関係を採用したこと(本願公報二欄二行ないし二一行)によつて、水バラストタンクがL―形状なので、船舶の甲板に出入口を有することになり、バラストタンクに容易に出入りして点検作業ができ、また舷側タンク帯域においては荷油タンクのみがかなり高い船舶部位に位置するので、荷油タンクが喫水線まで延在する場合よりも損害の可能性が低くなるなど、船舶の安全性に対し貢献度が極めて大きく、かつ荷油容量を増大させるという効果(同五欄二一行ないし三二行)を奏するものであることが認められる。

2 原告は、本願発明が二重底構造を有する船体構造をもつタンカーを前提とし、二重底の船底構造の上に上部タンクと下部タンクとを特許請求の範囲に規定したとおり配置したものである旨主張するが、本願発明をそのように解することはできない。すなわち、前記争いのない本願発明の特許請求の範囲には、上部タンクと下部タンクとの配置関係が規定されているが、そこには、船底の構成を規定する記載はなく、下部タンクの下に更に二重底の船底構造があるものとする記載はない本願発明の実施例の図面において、船底は単一線で表されており、この部分が二重底構造を表示したものとは到底認められない。原告の指摘する甲号及び乙号各証をみても、バラスト用タンク(本願発明における下部タンク)の下部に原告が主張するような二重底構造を備えたタンカーが周知であつたものと認めることはできず、原告の指摘する本願明細書の記載箇所を検討しても、本願発明が、原告の主張するように船底二重構造を前提とし、その上に「上部タンク」と「下部タンク」とを配置したものであると限定的に理解することはできないものといわざるを得ない。「発明の詳細な説明」欄における「本発明は、この意味において、水バラストタンクだけを船舶の最も破損し易い喫水線に存在させるべくL―形状の水バラストタンクを設計した。」(前掲甲第三号証五欄一八行ないし二一行)との記載の趣旨は、結局、二重底構造が本来の機能として有する衝突等の有事に対する安全構造を、水バラストタンク(下部タンク)によつて行わせようとしたものと解され、前記実施例の図面の記述と併せ考えれば、本願発明のタンカーは、要するに、二重底構造部分をバラスト用タンクとして用いるようにした構成、すなわち二重底タンクの構成(のちに述べるとおり第一引用例第4図のものも同様である。)を含むものであつて、右タンクと別個に二重底構造を備えた構成に限られるものではない。したがつて、審決が、本願発明の内容を誤認した旨の原告の主張は採用できない。

3 このように、本願発明における上部タンク及び下部タンクが二重底構造の上部に位置するとの限定がないものである以上、成立に争いのない甲第五号証(第一引用例)によれば、第一引用例には、被告が主張するように(第三の二2)本願発明の各構成部分と対応する各構成が記載されていることが明らかである(第一引用例記載のものにおいても、二重底構造部分をバラスト用タンクとして用いており、この二重底バラストタンクとバラスト専用ウイングタンクを一体にしたものが本願発明の下部タンクに相当する。)から、本願発明は、「舷側タンク帯域の長さに沿う上部タンク群と下部タンク群との間の水平平坦部が下部タンク群の垂直部を貫通する部分は穿孔されている」点のみにおいて第一引用例記載のものと相違する。これを第一引用例の構成についていえば、二重底バラストタンクとバラスト専用ウイングタンクとの間の内底板(水平平坦部)が穿孔されていないことである。成立に争いのない甲第六号証(第二引用例)、乙第一号証の一、二によれば、第二引用例には、審決の認定したとおり貨物運搬船(コンテナ船)において舷側タンク帯域の上部タンクと下部タンクとの水平平坦部は下部タンクの垂直部を貫通する部分が穿孔されている構成が記載されていることが認められるから、第一引用例に記載されたものにおける内底板(水平平坦部)の下部タンク群の垂直部を貫通する部分を穿孔して本願発明のように構成することは当業者の容易に想到し得ることであると認められ、かつこれによる効果も第一引用例及び第二引用例に記載されたものから予測し得る域を超えるものとは認められない。

4 右のとおりであるから、本願発明は第一引用例及び第二引用例に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとした審決の判断は正当であり、審決には、原告主張のような違法の点はない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編注〕本願発明の特許請求の範囲の記載は左のとおりである。

中央タンク帯域を舷側タンク帯域から分離する少なくとも二つの縦隔壁と、中央タンク帯域と舷側タンク帯域とを多数のタンク群に分割する横隔壁とを有する液体貨物運搬船において、舷側タンク帯域は二群のタンクを含み、バラスト保持用の一群の下部タンクは積荷保持用の他の上部タンク群の直下に延在し、かつ前記下部タンク群は甲板の高さまで延在する垂直部を備えてL―形状であり、前記舷側タンク帯域の長さに沿つて上部タンク群と下部タンク群との間に水平平坦部を延在させ、この平坦部はタンク群の間では堅固であり、この平坦部が下部タンク群の垂直部を貫通する部分は穿孔されていることを特徴とする液体貨物運搬船。

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