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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)25号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 本件発明の技術的課題(目的)、構成が次のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(一) 本件発明は、コンクリートスラブの軽量化を図りながら、スラブとして要求された剪断、圧縮などの機械的強度に優れ、しかも部材相互間の連梁性に優れてスラブ全体を薄くて軽い割に非常に頑丈なものとすることを目的とするものである。

(二) 前記技術的課題解決のため採用された本件発明の技術手段は、特許請求の範囲記載のとおり、コンクリートスラブにおいて、A(a1)「主筋1の長手方向に沿つて波形に連続し、かつ、主筋1の長手方向に対して直角な縦断面視において逆V字形の鉄筋2を副筋3の長手方向に適当間隔を隔てて配置し」た構成を用いながら、(a2)「それらの下端部を主筋1又はこれと副筋3に接合する」ことと、B「副筋3の長手方向で隣接する逆V字形鉄筋2、2間に、軽量固形物4を埋設する又は空間4Aを形成する状態にコンクリート5を打設して作製してあること」という構成の組合せから成るものである。右(a2)における「それらの下端部」とは、主筋1の長手方向に沿つて波形に連続した逆V字形鉄筋2、すなわち波形鉄筋の各下端部を意味する。

2 原告は、本件発明と第二引用例記載のものとの相違点1、すなわち、「主筋と逆V字形の鉄筋との連絡を、本件発明では接合するものとしたのに対し、第二引用例記載のものでは係合するものとした点」についての審決の認定、判断は誤りである旨主張する。

(一) そこで、まず、本件発明における波形鉄筋の下端部と主筋1、副筋3との接合関係について検討すると、前記本件発明の要旨には、「これらの下端部を主筋1又はこれと副筋3に接合する」と規定しているから、本件発明は、波形鉄筋の各下端部が主筋1と接合され副筋3とは接合されていないこと、又は波形鉄筋の各下端部が主筋1と副筋3とに接合されていること、のいずれかをその構成とするものである。

次に、本件発明における副筋3の技術的意義について検討すると、成立に争いのない甲第二号証の一、二によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、次のとおり記載されていることが認められる。

(イ) 「複数本の主筋1…と、この主筋1の長手方向に対して垂直方向で交差する状態に並列した複数本の副筋3…とを配設しているとともに、(中略)逆V字形鉄筋2の複数本を、前記副筋3の長手方向に適当間隔を隔てて並列配置して、それらの各低部又はその一部を主筋1…に接合し、かつ、副筋3の長手方向で隣接する逆V字形鉄筋2、2間の中央部に、(中略)軽量固形物4…を埋設する状態でコンクリート5を打設して作製している。」(本件公報第二欄第九行ないし第二二行)

(ロ) 「第5図は他の実施例を示し、前記副筋3の長手方向で隣接する逆V字形鉄筋2、2間の中央部に、主筋1の長手方向に沿う空間4A…を形成する状態にコンクリート5を打設して作製したコンクリートスラブBである。」(同欄第二三行ないし第二七行)

(ハ) 「逆V字形鉄筋2を、(中略)平面視及び副筋3の長手方向に対して直角な縦断面視において連続した波形で、かつ、主筋1の長手方向に対して直角な縦断面において逆V字形に折り曲げた一本の棒状鋼から構成しても良きものである。」(同欄第三一行ないし第三欄第一行)

右(イ)ないし(ハ)の記載に、本件発明の要旨とする「逆V字形の鉄筋2を副筋3の長手方向に適当間隔を隔てて配置し、それらの下端部を主筋1又はこれと副筋3に接合するとともに、副筋3の長手方向で隣接する逆V字形鉄筋2、2間に、軽量固形物4を埋設する又は空間4Aを形成する状態にコンクリート5を打設して作製してある」との構成を併せて検討すると、本件明細書には、副筋3は主筋1の長手方向に対して直角方向に交差する状態に配設していること、及び複数列(本)の逆V字形鉄筋2が副筋3の長手方向に適当間隔を隔てて並列配置するとともに隣接する逆V字形鉄筋2、2の間に軽量固形物4を埋設するか、又は空間4Aを形成する状態にコンクリートを打設すること、という逆V字形鉄筋2と副筋3との間の配設関係については示されているが、複数本並列配置した逆V字形鉄筋2と副筋3との間の機能上の関係(技術的意味)については何も示されていないことが明らかである(このことは、軽量固形物4又は空間4Aとの関係についても同様である。)。

また、前掲甲第二号証の一、二によれば、本件明細書及び図面(別紙図面(一)参照)には、「前記の逆V字形鉄筋2がコンクリートスラブに組込んだ梁の鉄筋として十分働いているか、否かを確認する意味から梁部分を取り出して梁剪断実験、床接合部実験、鉄筋の定着実験を行なつた。」(本件公報第三欄第二行ないし第六行)として、右三つの実験についての実験計画及び実験結果を示しているが、右実験計画によると、剪断実験では、本件発明のコンクリートスラブBの試験体として第6図(イ)に示されるもの、在来方式のコンクリートスラブB´の試験体として第6図(ロ)に示されるものを用い、接合部実験では第8図に示されるものを用いた旨の記載があることが認められる。そこで、右の第6図及び第8図をみると、第6図(イ)に示される試験体は、コンクリートスラブから梁部分を取り出したもの(主筋1に逆V字形鉄筋2が接合されたもの、すなわち一列の逆V字形鉄筋2にコンクリートを打設したもの)に相当し、第8図に示される試験体は、(試験体全体が示されていないが)一列の梁部分に隣接して軽量固形物4を埋設するか、空間4Aを形成するかしてあるものであつて、いずれも複数列の逆V字形鉄筋を並列配置したものではない。また、前掲甲第二号証の一、二によれば、定着実験については、その試験体が明示されていないことが認められるが、剪断実験及び接合部実験に関する試験体が前記認定のとおりであり、本件明細書には定着実験についてはこれと異なつた試験体で行つたことが明示されていないことからみて、定着実験には、梁部分に相当するもの(一列の逆V字形鉄筋2にコンクリートを打設したもの)が試験体として用いられたものと推認できる。したがつて、本件明細書に記載された実験においては、その試験体として、複数列の逆V字形鉄筋を並列配置した構成のものを用いていない。そして、前掲甲第二号証の一、二によれば、本件明細書には、右実験結果に基づいて、「逆V字形鉄筋を用いた本発明のコンクリートスラブは、在来鉄筋を用いたコンクリートスラブよりも圧縮側の鉄筋量を減少して軽量化を図り得るものであり乍ら、在来方式のコンクリートスラブと同等の性能を発揮することができるとともに、床接合部実験・梁の定着実験においても十分な安全性を得ることができる。」(本件公報第六欄第三九行ないし第四欄第二行)と記載されているが、ほかに副筋の機能について特に記載されていないことが認められる。

以上の認定事実によれば、本件発明においては、逆V字形鉄筋2を副筋3の長手方向に適当間隔を隔てて配置したものであるが、副筋3については、構造上各逆V字形鉄筋2と接合関係にないものをもその構成とするものであり、したがつて、副筋3を用いて複数列の各逆V字形鉄筋2に機械的強度をもたせたものとはいえないから、本件発明において、特に波形鉄筋の各下端部が主筋1だけに接合したものについては、副筋3と逆V字形鉄筋2との間に機械的強度上の関連がないばかりでなく、逆V字形鉄筋2、2相互間においても副筋3を用いて機械的強度をもたせたものではないといわざるを得ない。また、本件発明において副筋3を配設したのは、複数列の逆V字形鉄筋2、2の構成をとつたことにより幅広となつたコンクリートスラブについて幅方向の機械的強度をもたせるためであると解される。そして、本件発明が複数列の逆V字形鉄筋2、2を並列配置したのは、逆V字形鉄筋2、2の間に軽量固形物4を埋設するか又は空間4Aを形成する構成を採用するに当たつて、少なくとも隣接する二列の逆V字形鉄筋2、2を具備することが不可欠であつたためであると推認され、特に逆V字形鉄筋2の機械的強度上の配慮からなされたものであるとは解されない。

そうすると、本件発明において、副筋3を設けた点は、本件発明の目的、作用効果との関係において技術的意義を有するのではなく、複数列の逆V字形鉄筋2、2を並列配置した構成を採用したことにより幅広となつたコンクリートスラブについてその幅方向の機械的強度をもたせたことにのみ技術的意義を有すると解さざるを得ない。

(二) 第一引用例及び第二引用例記載の技術内容が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実によれば、第一引用例及び第二引用例に記載されたものは、いずれも建物用資材のコンクリートスラブとして本件発明のコンクリートスラブと同一の技術分野に属するものであり、また、第一引用例には、一列のトラス斜材(本件発明の「逆V字形鉄筋2」に相当する。)の下端を下弦主筋である下部弦材に溶接等により接合した技術が記載されていることが認められる。

ところで、本件発明は、前記(一)のとおり、複数列の逆V字形鉄筋2、2を並列配置したものではあるが、各逆V字形鉄筋2、2相互については構造上の関連がなく、また、(逆V字形鉄筋2を構成する)波形鉄筋の各下端部を副筋3に接合しないものをもその構成とするから、少なくともこの構成の各逆V字形鉄筋2、2はそれぞれ独立したものである。

そうすると、第二引用例記載のものを本件発明の先行技術とし、前記相違点1を判断するに当たつては、第二引用例記載のものの一列だけの逆V字状鉄筋について、その波形鉄筋の下端部を固着(接合)連結することの困難性のみを問題とすれば足りる。

このことを前提として、第二引用例記載のものに第一引用例記載のものを適用することの困難性について検討すると、第一引用例には、前記のとおり、一列の逆V字形鉄筋を有していて、その波形鉄筋の下端部を下弦主筋に接合したものが示されているから、第二引用例記載のものにおいて、各ウエブ斜材対(本件発明の「逆V字形鉄筋2」に相当する。)の波形鉄筋の下端部を下弦主筋である二重棒に接合するようにすることは格別困難なことではないというべきである。

原告は、第二引用例記載のものは、逆V字形鉄筋を複数列有し、波形鉄筋の下端部を下弦主筋に係止する構成のものであるのに対し、第一引用例記載のものは逆V字形鉄筋を一列だけ有しているにすぎず、構造が簡単であるが故に波形鉄筋の下端部を下弦主筋に固着した構成のものであつて、両者は連結の構造及び作用の点で全く異質な別種類のものであるのに、審決が両者を「この種のスラブ構造」として同一種類のスラブ構造と認定したのは誤りである旨主張する。

しかしながら、第一引用例記載のものの固着(接合)した構造も、第二引用例記載のものの係合した構造も、共に波形鉄筋の下端部を下弦主筋に連結した構造である点では異なるところがないから、両者は同種の技術手段に属するというべきであり、原告主張の連結構造の相違をもつて別種類の構造ということはできない。したがつて、審決が前記相違点1について判断するに当たり、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとを含め、「この種のスラブ構造」と認定したことに誤りはない。

原告は、第二引用例には、波形鉄筋の下端部を固着することは不都合であることが明記されているから、当業者が第二引用例記載の技術を用いるに当たつて、波形鉄筋の下端部を固着する構成を採用することはあり得ない、本件発明は第二引用例に示された本件出願当時の技術常識に反して右のような固着構造を採用したものである旨主張する。

第二引用例に、波形鉄筋の下端部を固着することは不都合であることが明記されていることは、当事者間に争いがない。

しかしながら、第二引用例のこの点に関する記載事項を具体的に検討すると、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、あらかじめ生産されたコンクリートスラブを現場に運搬し、このスラブにさらにコンクリートが現場打ちされた場合、既に硬化したプレキヤスト部分のコンクリートと現場打ちコンクリートとが一体式構造を形成できないので、両コンクリート層をより良く付着せしめる構造上の配慮が必要であり、そのために梁が骨組型構造の形で使用され互いに平行に間隔をおいて配置されるが、「上弦材、下弦材および中間のジグザグ状のウエブ材より成るこれらの梁の普通の形状は、この場合不都合な事態を生ぜしめた。プレキヤスト部分の補強材が例えば溶接金網より作られている限り、この型式の梁は単に、金網の上に置かれてこれにワイヤで取付けられうるにすぎない。トラス荷重から生じる鉛直力成分は従つて、このような弱いワイヤ接合点によつてしか受取られない。」(第二欄第三三行ないし第三欄第二行)と記載されていることが認められ、この記載事項からみると、第二引用例は、単にワイヤでの取付けについてそれが不都合であると述べているにすぎず、それ以上に積極的に接合の欠点をあげて不都合といつているのではない。

そして、本件出願当時のコンクリートスラブ製造の技術分野における技術水準についてみるに、前掲甲第四号証及びいずれも成立に争いのない甲第三号証並びに乙第二、第三号証によれば、コンクリート内に埋設する鉄筋相互を接続する技術としては、接合と係合のいずれかが用いられていたことが認められ、また、成立に争いのない乙第四号証によれば、昭和四九年特許出願公告第三〇九二七号公報には、壁体の構造についてであるが、プレキヤスト・コンクリート壁体に複数の三角分辺三次元ジグザグ・ラチス部材14(本件発明の「逆V字形鉄筋2」に相当する。)を平行配置し、該部材とたて材13、13a(本件発明の「主筋」に相当する。)とを結んだ構成(第五欄第三五行ないし第三八行)が示されており、この構成をそのFig3を参照して検討すると、逆V字形鉄筋は主筋に接合しているものと認められる。しかも、第一引用例には、本件発明のようなコンクリートスラブにおいて、逆V字形鉄筋の下端を下弦主筋に溶接等により接合した技術が示されていることは、前述のとおりである。

そうであれば、第二引用例に前記認定の記載があつても、また、第二引用例には、ほかに接合の構造を用いる技術について記載も示唆も存しないとしても、第一引用例に記載された前記接合構造を第二引用例記載のものに適用してみようと試みることは、さして困難なことではない。

また、原告は、相違点1については、下弦梯子格子補強網と逆V字形ジグザグ状ウエブ斜材の下端との連結には係止しか用い得ないとする第二引用例記載の係止構造の代わりに、非対称形に作つてのみ使用される第一引用例記載の接合技術を適用することが容易であつたか否かが問題である旨主張する。

しかしながら、前掲甲第四号証によれば、第二引用例には、「上弦材および下弦材に共に剛節的に取付けられたウエブ斜材を有する普通の種類の梁では実際上、個々の要求を満たすように梁をアーチ状に彎曲せしめることは不可能である」(第三欄第四〇行ないし第四三行)と記載されていることが認められるから、第二引用例は、ウエブ斜材が上弦材及び下弦材に剛節的(第二引用例にいう「剛節的」とは、その記載内容からみて「接合」の意味と解される。)に取付けられた場合、梁が曲げにくく、個々の要求を満たすことができないと述べているだけであつて、ウエブ斜材が下弦材に剛節的に取付けることはできず、係合しか行い得ないと述べているのではない。また、前掲甲第三号証によれば、第一引用例記載のものにおける湾曲部材4は非対称形に作られる(第一頁右欄第二〇行ないし第二七行)が、このことと接合とは何ら関係がないことが認められるから、非対称形に作られたものでなければ接合できないものではない。したがつて、原告の前記主張は理由がない。

さらに、原告は、第一引用例及び第二引用例の記載から明らかなように、本件出願前、本件発明のようなオムニア版の鉄筋骨組は逆方向アーチ形に湾曲させやすく構成することが当業界における技術常識であつたから、当業者にとつて第二引用例記載の係合に代えて接合を適用することは、右技術常識に反することであつて、当業者にとつて容易になし得ることではない旨主張する。

しかしながら、前掲甲第三号証によれば、第一引用例記載のものは、副筋を有しないものであることが認められるが、前記(一)認定のとおり、副筋はスラブの幅方向にいれられるべきものであるから、逆方向アーチ状に湾曲させやすいかどうかということは副筋を有しないことと無関係である。また、前掲甲第三号証によれば、原告が援用する第一引用例の第一頁右欄第三三行ないし第四〇行には、第一引用例記載のものが逆方向アーチ状への湾曲が容易であるという趣旨の記載は存しないことが認められる。一方、前掲甲第四号証によれば、第二引用例記載のものは逆方向アーチ状に湾曲しやすくしてあることが認められるが、そうだからといつて、原告主張のオムニア版の鉄筋構造のものが逆方向アーチ状に曲げやすいものでなければ使用できないとする技術的理由は見いだせない。

したがつて、原告の前記主張は採用し得ない。

3 次に、原告は、本件発明と第二引用例記載のものとの相違点2、すなわち、「本件発明では副筋の長手方向で隣接する逆V字形鉄筋間に軽量固形物を埋設する又は空間を形成する状態にコンクリートを打設したのに対し、第二引用例記載のものでは逆V字形鉄筋間に軽量固形物を介在させたり空間を形成したりすることなくコンクリートを打設した点」についての審決の認定、判断は誤りである旨主張する。

成立に争いのない甲第五号証によれば、第三引用例には、所定間隔をあけて、硬質プラスチツク発泡体丸棒2を配置し、該丸棒と丸棒との間にスラブ強度保持に必要な鉄筋6を配設した軽量断熱スラブ、換言すると、スラブの一定方向に所定間隔をおいて並列配置した鉄筋列を設けたコンクリートスラブにおいて該鉄筋列の間に軽量固形物を埋設した状態にコンクリートを打設して作製してある軽量断熱コンクリートスラブについて記載されていることが認められる。

ところで、第二引用例記載の並列配置した複数列の逆V字形鉄筋において、該逆V字形鉄筋を構成する波形鉄筋の下端部を、下弦主筋に固着(接合)するに想到することが当業者にとつて格別困難でないことは前述のとおりである。

また、前掲甲第五号証によれば、第三引用例記載のものは、コンクリートスラブを軽量で運搬容易とすることを技術的課題の一つとすること(第二欄第四行ないし第九行)が認められ、このように、コンクリートスラブにおいて、より軽量であることが望ましいことは各種コンクリートスラブに共通の技術的課題であるということができる。

そうであれば、波形鉄筋の下端部と下弦主筋を固着(接合)した逆V字形鉄筋にコンクリートを打設してコンクリートスラブを作製するに当たつて、コンクリートスラブの軽量化を図るために、第三引用例記載のものを第二引用例記載のスラブに適用して、逆V字形鉄筋の間に、軽量固形物を埋設するようなことは、当業者が容易になし得たことといえる。

原告は、本件発明及び第二引用例記載のものの鉄筋群と、第三引用例記載のものの鉄筋列とは、全く異質な形を有し、作用の仕方も全く異質であるから、前者の鉄筋群は後者の鉄筋列に相当しない旨主張する。

しかしながら、審決は、第三引用例については、そこに記載された鉄筋列の構造部分を引用したのではなく、所定間隔をおいて鉄筋列を並列配置したコンクリートスラブにおいて、スラブの軽量化を図るために、該鉄筋列の間に軽量固形物(硬質プラスチツク発泡体丸棒)を埋設した状態でコンクリートを打設するという技術手段を適用したものであることは前記審決の理由の要点(請求の原因三)から明らかであるから、両者の鉄筋群(列)の具体的形状及びその作用の異同を主張しても無意味である。

また、原告は、第三引用例記載のものを第二引用例記載のスラブに適用しても、第二引用例記載のものの波形鉄筋の下端部が固着構造でないことと、埋設プラスチツク発泡体の存在する箇所のコンクリートが削除され下端部が係止である波形鉄筋の外側に位置するコンクリートが応力で破壊されやすいこととによつて実用に供し得ない構成となる旨主張する。

しかしながら、審決は、相違点2において第二引用例記載のものに単純に第三引用例記載のものを適用したのでなく、第二引用例記載のものにおける複数列の逆V字形鉄筋について、その波形鉄筋の下端部を下弦主筋に固着(接合)したものを逆V字形鉄筋列とし、これにコンクリートを打設してコンクリートスラブを作製するに当たり、コンクリートスラブの軽量化を図るために、第三引用例記載の鉄筋列の間に軽量固形物を埋設した状態でコンクリートを打設するという技術手段を適用したものであること前述のとおりであるから、原告の前記主張はその前提において誤つており採用することができない。

4 前掲甲第二号証の一、二によれば、本件発明は、(1) 隣接する逆V字形鉄筋2、2間に軽量固形物4を埋設するか又は空間4Aを形成すること、及び在来方式よりも圧縮側の鉄筋量を減少できることによつて、コンクリートスラブの軽量化を図り得る(本件公報第七欄第一二行ないし第一六行)、(2) 逆V字形鉄筋2の存在によつて、スラブとして要求される剪断、圧縮などの機械的強度を十分に確保できる(同欄第一七行ないし第一九行)、(3) 逆V字形鉄筋2が部材相互の連梁性を発揮することも相俟つて、スラブ全体を薄くて軽い割に、非常に頑丈なものになし得る(同欄第一九行ないし第七欄第二行)、(4) <1>梁に対して上方からの荷重の曲げモーメントによつてもたらされる側面図四五度方向の剪断力に対しては主筋1方向に連続する逆V字形によつて対抗し得るとともに、<2>主筋1方向に対して直角な縦断面視における逆V字形によつて梁の両側面側への破壊を防止し得る(本件補正公報下から第五行ないし第二行)という作用効果を奏するものであることが認められる。

しかしながら、(1)の作用効果は、鉄筋列が逆V字形鉄筋からなること(第一引用例及び第二引用例記載のもの)、及び隣接する鉄筋列の間に軽量固形物を埋設したこと(第三引用例記載のもの)という構成を採用することにより当然もたらされるものであり、また、(2)及び(4)<1>の作用効果は、逆V字形鉄筋を有するスラブ(第一引用例及び第二引用例記載のもの)が本来有する機能であり、さらに、(3)及び(4)<2>の作用効果は、逆V字形鉄筋の部材相互の連梁性、すなわち逆V字形鉄筋の下端部を下弦主筋に固着(接合)した構成を有すること(第一引用例記載のもの)が奏するものである。

したがつて、本件発明の奏する前記(1)ないし(4)の作用効果は、いずれも第一引用例ないし第三引用例記載のものから通常予測できる範囲内のものにすぎないというべきである。

5 以上のとおりであるから、審決の相違点1及び相違点2についての認定、判断に誤りはなく、本件発明は第一引用例ないし第三引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから、審決に原告の主張する違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

主筋1の長手方向に沿つて波形に連続し、かつ、主筋1の長手方向に対して直角な縦断面視において逆V字形の鉄筋2を副筋3の長手方向に適当間隔を隔てて配置し、それらの下端部を主筋1又はこれと副筋3に接合するとともに、副筋3の長手方向で隣接する逆V字形鉄筋2、2間に、軽量固形物4を埋設する又は空間4Aを形成する状態にコンクリート5を打設して作製してあることを特徴とするコンクリートスラブ。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

別紙図面(三)

<省略>

<省略>

(以下省略)

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