大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)298号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1(一) 成立に争いのない甲第二ないし第四号証によれば、本願第一発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであることが認められる。

本願第一発明は、加入者用装置、好ましくは、構内自動交換機(PABX)交換手用コンソールである電話機制御コンソールに関するもの(補正明細書第五頁第二行ないし第四行)である。周知のPABXは、ダイレクト・ダイヤリング・イン(DDI)を備えたものもあるが、通常入呼を受信してこれを内線につなぐのに交換手に頼つており、その際、PABXと共に用いる交換手用コンソールは、交換手の利便に従つて設計されているものではなかつた。近代型のPABXは、交換手に便利なように設計されるようになつてきたが、施設によつては右のような利便性を望まないこともあるので、交換手用コンソールにもつと適応性をもたせて設計することが要望されていた(同第五頁第五行ないし第六頁第一一行)。

そこで、本願第一発明は、PABXに要望される個々の要求に適応できる融通性のある電話機制御コンソールを提供することを目的とし(昭和六〇年一一月八日付け手続補正書第一頁第四行ないし第七行)、特許請求の範囲第一項(前記本願第一発明の要旨)に記載されたとおりの構成(同手続補正書別紙第一頁第四行ないし第二頁第三行)を採用し、右構成によつて、本願第一発明の電話機制御コンソールは交換機の制御用とは別個にマイクロプロセツサを持ちデータ処理能力を備えているので、交換手用コンソールとして、例えば、視覚表示装置、データ転送、複雑な呼びの処理設備等の広範な設備を容易に備えることができ、また、各電話機制御コンソールは、そのマイクロプロセツサのソフトウエアを変化することにより個々の交換手の要求に適するように適合させることができる等の作用効果を奏する(同手続補正書第一頁第一〇行ないし第一九行)ものである。

(二) 一方、成立に争いのない甲第五号証によれば、引用例記載のものの技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであることが認められる。

引用例記載のものは、電気通信における手動、半自動交換等の通話接続において、交換扱者の操作を要する系の通話扱者用席装置に関するもの(第一欄第二三行ないし第二五行)である。従来、交換扱者は、この種の業務、特に通信系統や料金体系を異にする国際通信のように自動交換が困難な交換業務においては、発着加入者番号、受付、接続日時等を用紙に記録し、また、公衆通信においては、課金時分、中継路、呼の優先順位、不成功呼の場合はその原因等の記録をして交換証を作成しつつ、それに則した接続操作を行うとともに、課金計の動作開始操作、課金時分の記録等を行つていたため、その業務は極めて複雑になり、かつ、呼処理能率は低下するという欠点があつた(第一欄第二六行ないし第二欄第八行)。

そこで、引用例記載のものは、交換業務を極めて円滑化するとともに、人為的誤りの少ない処理を行わせ、高能率で高信頼性のある交換を行うことのできる交換装置用席装置を提供することを目的とし(第二欄第九行ないし第二二行)、交換扱者の介入する交換系の通話路スイツチに接続されて通話路との間で必要な情報の授受を行う席装置において、単一通話用引込線を介して前記通話路スイツチSWに接続される通話回路TKを備えるとともに、デイスプレー表示装置DIS、情報キー(データ入力装置)IK、席装置制御部PC及び席装置記憶部PMを備え、各呼毎に前記情報キーIKから前記席装置制御部PCを介して前記席装置記憶部PMに該呼の被呼側識別情報と呼側識別情報を記憶せしめ、該情報を前記表示装置DISに前記席装置制御部PCを介して表示するとともに、前記情報キーIKの操作により前記交換系を制御する前記交換装置の中央制御装置CPに前記の各識別情報を送出せしめるようにして呼の設定時のみ前記通話回路TKが前記引込線を介して交換系の通路回線に接続されるようにしたことを特徴とする扱者用席装置POSを採用した(右構成を本願第一発明の構成と対比すると、席装置制御部PCの機能を除き審決認定のとおりであることは、原告の認めて争わないところである。)。

引用例記載のものは、右構成により、交換機の中央制御装置と扱者用席装置間は極めて円滑なる情報疎通が行われ、中央制御装置の処理過程、呼の履歴等すべての有用な情報を扱者に表示することができるため、扱者用席装置が複数台存在する場合は、ある扱者が受付けた呼を中央制御部において接続した後、直ちに他の呼に対しての受付などを行うことができ、先の呼の情報表示は必ずしも同一の扱者用席装置に限定することがなく、また、交換証作成業務を機械化し、課金票の作成を自動的に行うことができる等の作用効果を奏する(第四欄第三行ないし第二二行)ものである。

2 原告は、審決は、本願第一発明と引用例記載のものとの相違点(一)及び(三)について判断するに当たり、引用例記載のものの席装置制御部PCの機能を誤認し、右席装置制御部PCと本願第一発明のマイクロプロセツサ装置106の機能の差異を看過した結果、右相違点(一)、(三)は当業者が容易に想到することができた程度のものと誤つて判断したものであるから、違法である旨主張する。

(一) そこで、まず、引用例記載のものの席装置制御部PCの機能について検討すると、前掲甲第五号証によれば、引用例には、「PCはこの情報を席装置記憶部PM(必ずしもPOSの内部でなく例えばCP内に並置することもできる。)に記憶するとともに表示のための文字に構成し、デイスプレー表示装置DISに表示する。逆に扱者用席装置よりCPへの情報伝送は席装置における情報キーIKを扱者が操作することにより、席装置制御部PCに同情報が伝送され、PCはそれを席装置記憶部PMに記憶し、その情報を表示装置DISに文字として表示するとともに、線路U1を経て集配信制御装置DCに送出する。」(第三欄第一一行ないし第二一行)と記載されていることが認められる。

前記記載に基づいて、席装置制御部PCと席装置記憶部PMとの関係について見ると、「この情報を席装置記憶部PMに記憶する」(「この情報」が「中央制御装置CPからの情報」を意味することは前掲甲第五号証の記載内容から明らかである。)との記載及び「情報キーIKを扱者が操作することにより、席装置制御部PCに同情報が伝送され、PCはそれを席装置記憶部PMに記憶し」との記載から、席装置制御部PCは、そこに情報が加わると、右情報を席装置記憶部PMに記憶させる機能を有するものと認められ、審決は、この機能を構成要件gにおいて「席装置記憶部PMを制御し」と認定したものと推認される。

ところで、情報の記憶を行わせる機能を「制御」と表現するのは必ずしも正確な表現ではないが、席装置制御部PCは、席装置記憶部PMに情報を記憶させるという機能を通して、席装置記憶部PMに一種の働きかけを行つているということができ、この機能は広い意味では一種の制御作用とみられるから、右の点に関し審決が「席装置制御部PCは席装置記憶部PMを制御し」と認定したことは、その表現が適切とはいえないにしても、その実質的内容に誤りがあるとはいえない。

また、前記記載に基づいて席装置制御部PCとデイスプレー表示装置DISとの関係について見ると、中央制御装置CPからの情報を「表示のための文字に構成し、デイスプレー表示装置DISに表示する」との記載、及び「情報キーIKを扱者が操作することにより、席装置制御部PCに同情報が伝送され、PCは、(中略)その情報を表示装置DISに文字として表示する」との記載から、席装置制御部PCは、そこに情報が加わると、右情報を(表示用の文字に構成して)デイスプレー表示装置DISに表示させる機能を有するものであるということができ、審決は、この機能を引用例記載のものの構成要件gにおいて「受信されたデータに従いかつデータ入力装置IKからのデータ入力に従つて表示装置DISの表示を制御する」と認定したものと推認される。

前記記載中の、中央制御装置CPからの情報が審決でいう受信されたデータ(以下「第一のデータ」という。)に相当すること、及び引用例記載のものにおける情報キーIKを扱者が操作することにより、席装置制御部PCに伝送される(右操作に関連した)情報が審決でいうデータ入力装置IKからのデータ入力(以下「第二のデータ」という。)に相当することは明らかであるが、前記席装置制御部PCに関する記載から判断して、デイスプレー表示装置DISに右第一のデータや第二のデータを(表示用の文字に構成して)表示する場合(審決の表現を用いれば、「表示装置DISの表示を制御する場合」)、第一のデータが入力され、その上に、第二のデータが入力されたとき始めて右表示を行つている(表示を制御している)ものではなく、第一のデータに従うか、又は第二のデータに従つて右表示を行つている(表示を制御している)ものである。

したがつて、審決が引用例記載のものの構成要件gにおいて「受信されたデータに従いかつデータ入力装置IKからのデータ入力に従つて表示装置DISの表示を制御する」と認定したのは、表現として的確であつたとはいえないが、審決が「かつ」という接続詞を用いて表現したのは、本願第一発明の構成要件Gに対応させるためであることは審決の理由の要旨から明らかであり、これが審決の結論に影響を及ぼさないことは、次項に説示するとおりである。

(二) 次に、本願第一発明のマイクロプロセツサ装置106と引用例記載のものの席装置制御部PCとの機能に差異が存するかについて検討する。

まず、本願第一発明のマイクロプロセツサ装置106の構成、機能については、その特許請求の範囲に記載された構成要件Gに、「前記マイクロプロセツサ装置106が前記データ送受信装置105によつて受信されたデータに従いかつ前記データ入力装置107を通るデータ入力に従つて前記視覚表示装置12・108の中の各種表示器のうちの少なくともあるものを制御するとともに、前記データ入力装置107からの命令に従つて前記データ送受信装置105によるデータの送信を制御し」と規定されており、右構成要件Gに基づけば、マイクロプロセツサ装置106は、データ送受信装置105によつて受信されたデータ(以下「第一のデータ」という。)に従いかつデータ入力装置107を通るデータ入力(以下「第二のデータ」という。)に従つて表示器を制御するような機能を果たしているものと認められる。

そこで、さらに、右マイクロプロセツサ装置106の構成、機能を本願明細書の発明の詳細な説明に基づいて検討すると、前掲甲第二ないし第四号証によれば、この点に関して次のとおり記載されており、ほかにこの点についての具体的な記載事項を見いだすことはできないことが認められる。

<1>「ライン34の入データは、平衡式ライン・ドライバーを介してインターフエース・ユニツト2に進み、ここでそれはバツフアに記憶される。インターフエース・ユニツト2はライン32上に割込みを発生し、これによつて中央処理ユニツトはアドレス母線122でインターフエース・ユニツト2のアドレスを指定して、制御母線124でリード(読み)信号を送る。これによつてインターフエース・ユニツト2の中のバツフア情報は、割込確認信号がインターフエース・ユニツト2によつて受信されてからデータ母線123に置かれ、そして制御器6を介して中央処理ユニツト5に供給される。またこの割込みにより、入データを処理する命令は、コンソール・プログラムを含むリード・オンリー・メモリー7から中央処理ユニツト5に送られる。中央処理ユニツトはデータのクラスおよび取るべき動作を識別する。」(補正明細書第二六頁第一九行ないし第二七頁第一五行)

<2>「情報がキーパツドから中央処理ユニツトに供給されると、ストローブはキーパツド8からのデータが送信の準備ができていること、およびデータ・チヤンネル103にアクセスできること、をバツフア9が告げることを阻止する。次にバツフア9は割込制御ユニツト27と29を介して、中央処理ユニツト5に警戒待機させる割込みを発生する。割込確認が受信されると、データはデータ母線123に置かれ、ユニツト6を介して中央処理ユニツト5に進む。また割込みはリード・オンリー・メモリ7から適当な命令を取り出す。中央処理ユニツト5はデータを処理し、必要ならばランダム・アクセス・メモリ3にどんな結果として得られたデータでも記憶する。」(補正明細書第二八頁第八行ないし第二九頁第一行、昭和六〇年一一月八日付け手続補正書第二頁第八行ないし第一三行)

<3>「データは中央処理ユニツト5によつて作られ、それからデータ母線123に送られる。このようなデータは、ライン34の入データの結果として、またはキーパツドを押すことにより、あるいは診断および故障のチエツクを含む優先度の低い監視プログラムによつて作られる。中央処理ユニツト5によつて出力されるこれらのデータは、ランプ表示および可聴警報を与える発光ダイオードを含む交換手信号アレイ12に進むか、又はライン34を介して電話交換制御器に出力され、又は視覚表示ユニツトに送られ、又はランダム・アクセス・メモリ3に送られる。」(補正明細書第二九頁第七行ないし第一八行)

そこで、右各記載内容について別紙図面(一)(特にFig1ないしFig3)を参照し、個別に検討すると、右<1>の記載によれば、マイクロプロセツサ装置106(中央処理ユニツト5、以下「中央処理ユニツト5」という。)は、ライン34からの入データがインターフエース・ユニツト2に記憶されると、インターフエース・ユニツト2の割込み作用によつてインターフエース・ユニツト2に読出し信号を送り、その読出しによつて右記憶情報が供給され、また、右割込み作用により右入データを処理する命令をリード・オンリー・メモリー7から受け、右命令に応じた動作の識別を行うものであると認められる。

次に、右<2>の記載によれば、中央処理ユニツト5は、情報(データ)がキーパツドから送出されると、同時に発生するストローブの割込み作用で待機状態になり、割込み確認後に右データが供給され、また、右割込みに伴うリード・オンリー・メモリー7の命令に応じて右データを処理し、必要に応じてランダム・アクセス・メモリ3に右データを記憶するものであると認められる。

さらに、右<3>の記載によれば、中央処理ユニツト5は、ライン34の入データに応じてデータを発生し、又はキーパツドを押すことに応じてデータを発生し、そのデータを、ランプ表示及び可聴警報を行う発光ダイオードを含む交換手信号アレイ12、ライン34を介して電話交換制御器、視覚表示ユニツト、ランダム・アクセス・メモリ3のいずれかに送るものであると認められる。

以上の認定事実を総合すると、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面に基づく中央処理ユニツト5の構成、機能は、本願第一発明の構成要件Gに用いている表現に従えば、「データ送受信装置105(インターフエース・ユニツト2を含む回路)によつて受信されたデータ(第一のデータ)に従うか、又はデータ入力装置107(キーパツド8を含む回路)からのデータ入力(第二のデータ)に従つて、視覚表示装置12・108の中の各種表示器のうちの少なくともあるもの(発光ダイオードLED)を制御する(以下「視覚表示制御」という。)とともに、データ入力装置107(キーパツド8を含む回路)からの命令に従つてデータ送受信装置105(インターフエース・ユニツト2を含む回路)によるデータの送信を制御する」もの、言い換えれば、第一のデータと第二のデータに関しては、マイクロプロセツサ装置106は、「第一のデータに従うか、又は第二のデータに従つて視覚表示制御を行う」ものというべきである。

ところで、本願第一発明の構成要件Gには、前記のとおり「第一のデータに従いかつ第二のデータに従つて視覚表示装置12・108の中の各種表示器のうちの少なくともあるものを制御する」と規定されているから、この構成要件Gに基づけば、本願第一発明のマイクロプロセツサ装置106は、「第一のデータと第二のデータの双方のデータに従つて視覚表示制御を行う」ものと特定されているようにみられないではない。

しかしながら、特許発明は、特許請求の範囲に記載された技術的事項に発明の詳細な説明及び図面等を併せ考察し客観的合理的にその技術的意義を確定すべきであつて、発明の詳細な説明及び図面等に記載された事項を無視して、特許請求の範囲に記載された文言のみを捉えて形式的にその技術的意義を解釈すべきものではない。

本願明細書の発明の詳細な説明及び願書添付図面を検討すると、第一のデータによるマイクロプロセツサ装置106の動作の記載(<1>の記載)箇所と第二のデータによるマイクロプロセツサ装置106の動作の記載(<2>の記載)箇所とが離間しており、しかも、その間に、第一のデータに基づくマイクロプロセツサ装置106の動作に対応して第二のデータが作られる旨の記載は存しないから、これらの記載から、第一のデータによるマイクロプロセツサ装置106の動作と、第二のデータによるマイクロプロセツサ装置106の動作とが時間上、また操作上連続的に行われることは認められないのみならず、この二つの動作の間に直接の関連があるとも認めることができない。そして、右<1>及び<2>の記載内容を総括した<3>の記載中には、中央処理ユニツト5によつて作られる「データは、ライン34の入データの結果として、またはキーパツドを押すことにより(中略)作られる」と記載されており、この記載から、中央処理ユニツト5で作られるデータは、第一のデータ又は第二のデータに基づいて作られるものであると理解するほかなく、結局、当業者は、本願明細書及び図面に基づいて、本願第一発明のマイクロプロセツサ装置106は、「第一のデータに従うか、又は第二のデータに従つて視覚表示制御を行う」機能を有するものと理解し、これをもつて「第一のデータと第二のデータの双方のデータに従つて視覚表示制御を行う」機能を有すると理解するとは到底認めることができない。

右の点に関して、原告は、本願第一発明の制御コンソール100は、視覚表示装置12・108の二種類の視覚表示装置を備えるもので、マイクロプロセツサ装置106は、第一のデータに応じて視覚表示装置12のLEDを点灯させ、これに交換手が気が付きLEDに対応する操作キーを押圧すると、それによつて得られる第二のデータにより点灯したLEDを消灯させるように動作するものであるから、マイクロプロセツサ装置106においては二つのデータを必要とし、この点を本願第一発明の構成要件Gにおいて「第一のデータに従いかつ第二のデータに従つて」と規定している旨主張する。

本願明細書の前記<3>の記載によれば、本願第一発明の制御コンソール100が視覚表示装置12・108から成る二種類の視覚表示装置を備えるものであること、及びマイクロプロセツサ装置106は、第一のデータに応じて視覚表示装置12のLEDを点灯させる場合もあることを認めることができ、また、前掲甲第三号証によれば、補正明細書第三〇頁第六行ないし第八行に、「発光ダイオード(LED)は交換手に、それと関連している回路に注意が必要であることを示す。」と記載されていることが認められるから、交換手が右点灯したLEDに気が付くことについても本願明細書に記載されているということができる。

しかしながら、前掲甲第二ないし第四号証によれば、本願明細書には、交換手が右点灯したLEDに気が付いたとき、必ず右点灯したLEDに近接配置されている操作キーを押圧しなければならないとの記載、及びマイクロプロセツサ装置の106は第二のデータにより右点灯したLEDを消灯させるように動作するとの記載を見いだすことができないから、本願明細書の記載からは、マイクロプロセツサ装置106が原告主張のように動作するとは認めることができない。

もつとも、マイクロプロセツサ装置106が第一のデータに応答してLEDを点灯させたとき、交換手がそれに気付いてしかるべき操作キーを押圧して第二のデータをマイクロプロセツサ装置106に供給し、それによつてマイクロプロセツサ装置106が再び視覚表示装置を駆動することも稀ではなく、点灯したLEDを何らかの手段によつて消灯させることも普通のことであると考えられるが、前記1(一)認定のとおり、本願第一発明は、マイクロプロセツサ装置106を設けそれによつてデータの流れを制御することを主要な技術的思想とするものであるから、右マイクロプロセツサ装置106が奏するすべての機能、あるいはマイクロプロセツサ装置106が制御するデータのすべての流れを順序立てて説明すべきであつて、そのような説明を欠いている機能やデータの流れについてはこれをもつてマイクロプロセツサ装置106の奏する機能であると認めることはできない。

したがつて、原告の前記主張は理由がない。

次に、原告は、中央処理ユニツト5が前記主張のような動作を行うことの根拠の一つとして、補正明細書第三〇頁第四行ないし第一六行を挙げ、その第五行、第六行に記載された「キーボードの前述の説明」は、同第一六頁第一行ないし第二四頁第四行、第二四頁第一三行ないし第一七行、第二九頁第七行ないし第一八行に記載されており、これらの記載を総合すれば、各LEDは、関連する入データがライン34を介して加わると、中央処理ユニツト5が右入データにより作り出されるデータによつて点灯され、このLEDの点灯に基づき交換手が右LEDに位置的に対応している操作キーを押す結果、中央処理ユニツト5が作り出すデータによつて消灯される、というLEDの動作及び発光条件が自明になる旨主張する。

しかしながら、前掲甲第三号証によれば、右「キーボードの前述の説明」については、そのことが記載されていると原告が指摘する明細書の各記載部分を見ても、キーボードの配置形態やそこにどのような部材が配置されているかが散見できるにすぎないことが認められ、右記載が何ゆえにキーボードの説明になるのか理解できない。そして、前掲甲第三号証によれば、LEDの動作について、本願明細書には、LEDは、関連する入データがライン34を介して加わると、中央処理ユニツト5が右入データにより作り出されるデータによつて点灯されることは記載されているが、右LEDの点灯に基づき交換手が右LEDに位置的に対応している操作キーを押す結果、中央処理ユニツト5が作り出すデータによつて消灯されることは記載されていないことが認められ、しかも、右LEDの点灯に基づき交換手が右LEDに位置的に対応している操作キーを押さねばならないという必然性も見いだし得ないから、原告主張のようなLEDの動作及び発光条件は自明であるとは認められない。

したがつて、原告の前記主張は理由がない。

さらに、原告は、「視覚表示装置108の中のある表示器」は、本願第一発明の構成要件Gにおける「視覚表示装置108の中の各種表示器のうちの少なくともあるもの」を指すもので、この視覚表示装置108のあるものについては視覚表示装置12と同様にマイクロプロセツサ装置106により制御されることは、補正明細書第二一頁第一六行ないし第二二頁第二行の記載から判断できる旨主張する。

しかしながら、前掲甲第三号証によれば、「視覚表示装置108の中のある表示器」は、本願第一発明の構成要件Gにおける「視覚表示装置108の中の各種表示器のうちの少なくともあるもの」を意味することは理解できるが、原告の指摘する明細書の記載部分を見ても、そこには、特定のキーの機能や、別の特定のキーを押したことによる作用が断片的に記載されているだけで、それらのキーとマイクロプロセツサ装置106との関係については何ら記載されていないことが認められるから、右記載をもつて、視覚表示装置108のあるものについては視覚表示装置12と同様にマイクロプロセツサ装置106により制御されるとは到底認めることができない。

したがつて、原告の前記主張は理由がない。

そして、以上のほか、原告が本願第一発明のマイクロプロセツサ装置106の機能を説明したものであるとして引用する本願明細書の発明の詳細な説明及び願書添付図面の引用箇所は、前掲甲第二ないし第四号証を検討しても、到底マイクロプロセツサ装置106が原告主張のような特徴的機能を有することを理由づける根拠になるものとは認められず、また、構成要件Gの構成に基づく技術的意味(効果)として主張するところは、本願明細書及び図面の記載に基づくものとは認められないから、いずれも失当というべきである。

一方、審決において、本願第一発明の構成要件Gと対比されている引用例記載のものの構成要件gも、前記2(一)認定のとおり、席装置制御部PCは「受信されたデータ(本願第一発明の「第一のデータ」に相当)に従うか、又は情報キー(データ入力装置)IKからのデータ入力(本願第一発明の「第二のデータ」に相当)に従つてデイスプレー表示装置DISの表示を制御する」ものと認められるから、引用例記載のものの席装置制御部PCと本願第一発明のマイクロプロセツサ装置106の機能とは実質的に差異がないものというべきである。

したがつて、「引用例記載のものの席装置制御部は、席装置記憶部や表示装置を制御して、受信データやデータ入力装置からのデータを表示制御し、データ入力装置の入力に従つてデータの送信を制御するという、本願第一発明の構成要件Gにおいてマイクロプロセツサ装置が有するものと同様の機能を達成するものと認められる」とした審決の認定、判断はその結論において誤りはない。

(三) 引用例記載のものの席装置制御部PCと本願第一発明のマイクロプロセツサ装置106とはその機能において実質的に差異がないものであることは前記2(二)において認定、判断したとおりであり、また、審決認定のように、マイクロプログラムにより動作するマイクロプロセツサは本件優先権主張日当時一般に周知であり、そのマイクロプロセツサ装置を各種の制御に応用することも当業者に周知であつたことは、当事者間に争いがない。

そうであれば、本願第一発明において、引用例記載のものにおける席装置制御部PCと同様な機能を果たす右周知のマイクロプロセツサ装置を用いることは、当業者において容易に想到できたというべきである。

また、本願第一発明の奏する前記1(一)認定の作用効果も引用例記載のものに周知のマイクロプロセツサ装置を用いて制御することにより、当業者が当然に予測し得る範囲を出るものではない。

3 以上のとおりであるから、相違点(一)及び(三)について、本願第一発明は引用例に開示された事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に想到することができた程度のものと認められるとした審決の認定、判断はその結論において正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

1 電話交換機101を制御する電話機制御コンソール100であつて、視覚表示装置12・108と、データ入力装置107と、可聴周波数入出力装置111と、マイクロプロセツサ装置106と、前記電話交換機101へデータを送り、そこからデータを受けるデータ送受信装置105とを含み、前記マイクロプロセツサ装置106が前記データ送受信装置105によつて受信されたデータに従いかつ前記データ入力装置107を通るデータ入力に従つて前記視覚表示装置12・108の中の各種表示器のうち少なくともあるものを制御するとともに、前記データ入力装置107からの命令に従つて前記データ送受信装置105によるデータの送信を制御し、また前記可聴周波数入出力装置111が交換手用の電話機120の入力及び出力を与える、電話機制御コンソール(以下「本願第一発明」という。)。

2 電話機接続をセツトアツプする信号キーパツド107と、マイクロプロセツサ106と、アドレス母線122と、データ母線123とを有する電話機制御コンソールであつて、前記キーパツドの信号出力は前記データ母線を通り、またこの信号出力は前記マイクロプロセツサから前記アドレス母線を通る前記キーパツドへの信号によつて少なくとも部分的に制御されるように、前記各母線は前記マイクロプロセツサと前記キーパツドを相互接続する、電話機制御コンソール(以下「本願第二発明」という。)。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!