大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)76号 判決

事実及び理由

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。

二  取消事由に対する判断

1  前示本願考案の要旨(明細書の実用新案登録請求の範囲の記載と同じ。)に成立に争いのない甲第二号証(本願考案の願書並びに明細書及び図面のうちの明細書)、第三号証(昭和五七年一一月八日付手続補正書)及び第七号証(昭和五九年四月九日付手続補正書)によれば、本願考案は、タイプライター、プリンター等の印字装置の給紙装置に関する考案であつて、排紙ローラの動力源については、従来においても、給紙ローラとのタイミングを合わせるために給紙ローラと同一駆動源にするか、別駆動源とすることが考えられたが、給紙ローラと排紙ローラを同一駆動源により駆動させた場合、いずれか一方のローラの回転が不必要なときにもそのローラを回転させるために無駄な電力を消費することになり、そうしたことを回避するために一方のローラの回転が不必要な場合には駆動を遮断するようにすると機構が複雑になるという問題があり、また、排紙ローラのために給紙ローラとは別の特別の駆動源を設けると多くの駆動装置及び制御装置を必要とするという問題があつたことから、本願考案は、右問題を解消し、少ない動力源で前記のような無駄な動力消費を生ずることのない排紙駆動機構を有する給紙装置を提供することを目的として本願考案の要旨のとおり構成を採用したものであること、本願考案は右構成、特にプラテンの回転を、印字装置と取外し可能な自動供給装置フレームに取付けられた排紙ローラに機械的に伝動できる歯車装置若しくは歯車装置と巻掛伝動装置の組合せよりなる伝動装置を採用し、かつ給紙ローラをプラテンとは別に駆動されるようにすることにより、<1>排紙ローラを駆動するための特別な駆動源を必要としない、<2>簡単な機構よりなる伝動装置により、プラテンの回転と最も同期駆動することを要求される排紙ローラとプラテンを同期して駆動することができる、<3>排紙ローラと給紙ローラを別に駆動させることができ、各ローラが不必要に回転されることが回避されるという効果を奏し得たものと認められる。他方、第一引用例及び第二引用例が本願考案の実用新案登録出願前頒布された刊行物であることは、原告の明らかに争わないところであり、成立に争いのない甲第五号証(第一引用例)によれば、第一引用例には、プラテンの下方から供給された用紙をプラテンの上方へ送り出すようにした印字装置のピン形式送り装置において、ピン形式送り装置を印字装置上に着脱可能に配設し、印字装置のプラテンの軸に取付けられた歯車と噛み合う歯車とピンホイールの軸とが、歯車装置と巻掛伝動装置の組合せよりなる伝動装置により連結され、前記ピンホイールはプラテンにより駆動されるようにしたものが記載されていることが認められ、また、成立に争いのない甲第六号証(第二引用例)によれば、第二引用例には、印字装置における記録キヤリヤの送り装置において、送りローラ25、運搬ローラ29及び30(分離装置)は電気モータ26により、ローラ39、40及び41(送り装置)は電気モータ42によりそれぞれ駆動されていること、すなわち、印字装置において、複数個の用紙送り装置を設け、しかも、それらの駆動源をそれぞれ別個としたものが記載されていることが認められる(なお、本件審決による第二引用例記載の摘示は、右の認定に照らすと必ずしも正確とはいいがたいが、印字装置に複数個の用紙送り装置を設け、それらの駆動源を別個としたとの点についての摘示はあるものと認めて差し支えない。原告は、専ら運搬ローラ39、40、41が同一のモータ42により駆動することを論じているにとどまるから、誤認の主張は理由がない。)。

2  そこで、右認定したところに基づいて本願考案と第一引用例記載のものとを対比するに、両者は、プラテンの下方から供給された用紙をプラテンの上方へ送り出すようにした印字装置の給紙装置において、給紙装置を印字装置上に着脱可能に配設し、印字装置のプラテンの軸に取付けられた歯車とかみ合う歯車と用紙送り機構(本願考案においては排紙ローラ、第一引用例記載のものにおいてはピンホイール)の軸とが、歯車装置と巻掛伝動装置の組合せよりなる伝動装置により連結され、前記用紙送り機構はプラテンにより駆動されるようにした点で一致していることが認められる。また、本願発明と第一引用例記載のものとの相違点が審決摘示のとおりであることは当事者間に争いがないが、これを更に技術的に整理すると、本願考案に係る給紙装置が、用紙送り機構として、用紙をプラテンの下方へ供給するための給紙ローラとプラテンの上方へ送り出される用紙を排紙トレー上へ排出するための排紙ローラを具備し、給紙ローラはプラテンとは別に駆動されるようにし、かつ、排紙ローラはプラテンにより給紙ローラとは別に駆動されるようにしたものであるのに対し、第一引用例記載の給紙装置は、用紙送り機構として、給紙作用と排紙作用を併せ有するピンホイールがプラテンにより駆動されるようにしたものである点で相違するものと認められる。

3  ところで、原告は、本件審決が示した本願考案の実施例として示されている排紙ローラ3と押えローラ5の一対と第一引用例記載のもののピンホイール12と排紙の送り作用の類似性及び両者の間の置換の容易性についての判断を争うので検討する。前記1で認定した事実によれば、本願考案の明細書に示されている排紙ローラ3と押さえローラ5の一対及び第一引用例記載のもののピンホイール12は、いずれも排紙の送り作用をなすものである点で共通の機能を奏するものであるから、両者が排紙の送り作用において類似することは明らかであり、成立に争いのない乙第一号証によれば、実開昭五二―三一五〇一号公開実用新案公報には、本願考案と同一技術分野に属する紙送り装置に関する考案において、摩擦ローラと紙送りスプロケツト、すなわちピンホイールとは紙の送り手段として適宜置換されることが示されていることが認められ、また、成立に争いのない乙第二号証によれば、特開昭五〇―三二〇九号公開特許公報には、金属被覆された記録媒体の案内移動装置において、記録媒体の送り手段として押圧ローラを有する移送ローラ(摩擦ローラ)とピン付移送ローラ(ピンホイール)が示されているほか、両者が適宜置換できることが開示されていることが認められる。次に、前掲甲第二、第三、第五、第七号証(第一引用例及び第二引用例)によれば、印字装置の給紙装置における用紙の送り機構には、用紙をプラテンの下方へ供給するための給紙ローラとプラテンの上方へ送り出される用紙を排紙トレー上へ排出するための摩擦作用による排紙ローラを具備したものとピンと孔との機械的係合によつて用紙の給紙作用と排紙作用を併せ行うピンホイールを具備したものがあり、用紙の送り手段として、枚葉紙を用いる場合にはローラを具備した給紙装置を、連続紙を用いる場合にはピンホイールを具備した給紙装置を用いるのが通常であることは、本願考案の実用新案登録出願前周知であると認められ(排紙の送り手段として摩擦作用で行うものとピンと孔との機械的係合により行うものがあり、これが本願考案の実用新案登録前周知であつたことは当事者間に争いがない。なお、成立に争いのない乙第三号証の一ないし三記載の装置は本願考案に係る印字装置と同一の技術分野に属するか否かについて疑問があるし、仮に同号証が被告主張のように複数の紙送り機構により連続紙を送ることができることを示しているとしても、そのことが右に認定したような通常行われる周知の用紙送り手段を否定することにはならないものというべきである。)、右周知の事実に前記乙第一号証及び第二号証の記載事項を併せ考慮すると、用紙の送り機構であるピンホイールとローラとは、用紙の種類(枚葉紙か連続紙か)に応じて適宜選択し得るものと解するのが相当である。そうであるとすれば、本件審決が本願考案と第一引用例記載のものとを対比するにあたり、ローラとピンホイールの機能に着目して示した前記判断に誤りがあるとはいえない。

次に、原告は、本件審決が示した本願考案と第一引用例に記載されたものとが目的において一致するとの判断を争うので、この点について検討する。先ず、第一引用例記載のものは、前認定のとおり、給紙作用と排紙作用を併せ行うピンホイールの回転を本願考案と同様の伝達装置を設けることにより、別個の駆動源を設けることなくプラテンの駆動源から取り出すようにしたものであるから、本願考案におけると同様に少ない動力源で駆動するという目的が存することは充分に認められる。しかしながら、本願考案における「無駄な動力消費を生ずることのない排紙駆動機構を有する給紙装置を提供するという目的」は、前認定のとおり、給紙ローラと排紙ローラの駆動源を別としたうえで、いずれか一方のローラの回転が不必要なときにはそのローラを回転しないようにすることによつて達せられるものと認められるところ、引用例記載のもののピンホイールは給紙作用と排紙作用を併せ行うもので、右両作用は事実上分離することができないものであるから、第一引用例記載のものに右の意味における「無駄な動力消費」が生ずることのないようにするための構成が開示されているものとは認められず、したがつて、本件審決の「無駄な動力消費を生ずることのない排紙駆動機構を有する給紙装置を提供するという目的において一致する」との判断部分は原告主張のとおり誤りであると認められる。しかしながら、右の一致点の誤認により生ずる両者の構成上の差異は、結局、前記2に示した当事者間に争いのない相違点として本件審決において把握されているものということができるから、右の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではない。

右の誤認部分を除き本件審決の本願考案と第一引用例記載のものとの一致点についての認定は、当裁判所の前示認定説示するところと基本的に異なるものではなく、その判断に誤りはない。

4  そこで、前認定の本願考案と第一引用例記載のものとの相違点について検討するに、前記2で説示したとおり、印字装置の給紙装置における紙送り機構としてのローラとピンホイールは、用紙の種類(枚葉紙か連続紙か)に応じて適宜選択し得る機構であると認められ、また、第二引用例には、印字装置において、用紙の移送手段を複数個設け、かつ、それらの駆動源をそれぞれ別個としたものが記載されていることが認められるから、第一引用例に示されたピンホイールを排紙ローラに置換しこれにプラテンの回転を伝動させることにより排紙ローラ駆動のため特別な駆動源を必要としない印字装置に、前記認定の複数の用紙移送手段と別々の駆動源をもつ第二引用例記載の構成を採択し、給紙ローラ及びその駆動源を別に設ければ、排紙ローラを駆動するために特別な駆動源を必要とせず、また、排紙ローラと給紙ローラを別に駆動させることができ、各ローラが不必要に回転されることが回避されるという効果(駆動源を同じくすると、回転を要しないローラまで駆動することになり、そのための回転遮断の問題があることは、前掲甲第二号証からも当業者においてたやすく知り得るところということができる。)がもたらされることは当業者として容易に予測し得るものということができる。すなわち、第一引用例記載の印字装置のプラテンの軸に取付けられた歯車とかみ合う歯車とピンホイールの軸とが歯車装置と巻掛伝動装置の組合せよりなる伝動装置により連結され、ピンホイールがプラテンにより駆動されるようにされた給紙装置を、印字装置のプラテンの軸に取付けた歯車とかみ合う歯車と排紙ローラの軸とが歯車装置と巻掛伝動装置の組合せよりなる伝動装置により連結し、排紙ローラがプラテンにより駆動するようにした給紙装置とし、その際、給紙装置の駆動源をプラテンとは別個に設けて本願考案のように構成することは当業者が極めて容易になし得たものと認められる。

5  叙上のとおり、本件審決には本願考案と第一引用例記載のものとの一致点及び第二引用例の記載事項の認定判断の一部に誤りは認められるものの、本願考案は、第一引用例記載のものに第二引用例記載の事項を付加することにより、当業者が極めて容易に想到し得る程度のものとみるのを相当とし、右認定判断の誤りは本件審決の結論に影響を与えるものではなく、したがつて、本件審決の認定判断は正当というべきである。

三  以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

プラテンの下方から供給された用紙をプラテンの上方へ送り出すようにした印字装置の給紙装置において、用紙をプラテンの下方へ供給するための給紙ローラと、プラテンの上方へ送り出される用紙を排紙トレー上へ排出するための前記給紙ローラとは別体の排紙ローラとを具備する給紙装置を上記印字装置上に着脱可能に配設し、上記印字装置のプラテンの軸に取付けられた歯車とかみ合う歯車と上記排紙ローラの軸とが歯車装置もしくは歯車装置と巻掛伝動装置の組合せよりなる伝動装置により連結され、上記給紙ローラはプラテンとは別に駆動されるようにしかつプラテンの上方へ送り出される用紙を排紙トレー上に排出するための排紙ローラはプラテンにより給紙ローラとは別に駆動されるようにしたことを特徴とする給紙装置。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!