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東京高等裁判所 昭和61年(行コ)44号 判決 1988年5月26日

長野県長野市西後町六〇八番地の二

控訴人(附帯被控訴人)

長野税務署長

佐藤安臣

右指定代理人

武井豊

安達繁

阿島丈夫

下田哲夫

長野県長野市篠ノ井御幣川一一五七番地

被控訴人(附帯控訴人)

小林延雄

右訴訟代理人弁護士

武田芳彦

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人(附帯被控訴人)が昭和四五年六月三〇日付けでした被控訴人(附帯控訴人)の昭和四四年分所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定(いずれも裁決により一部取り消された後のもの)のうち、それぞれ所得金額一八一万九〇二〇円を超える部分を取り消す。

2  被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。

二  本件附帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じて三分し、その一を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

事実

一  控訴人(附帯被控訴人。以下単に控訴人という。)代理人は、「原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人。以下単に被控訴人という。)代理人は、控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として、「原判決を次のとおり変更する。控訴人が昭和四五年六月三〇日付けでした被控訴人の昭和四四年分所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定(いずれも裁決により一部取り消された後のもの。以下、前者を本件更正と、後者を本件決定といい、両者をあわせて本件処分という。)のうち、所得金額一六一万六三七九円を超える部分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり付加し、訂正するほか、原判決事実摘示第二(原判決添付の別表(一)を含む。)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二丁裏七行目の「別表(一)」を「原判決添付の別表(一)」と改める。

2  同三丁表四行目の「原告」から次の行の「である。」までを「被控訴人の昭和四四年分の収入金額等は、別表(本判決添付のもの。以下同じ。)1の「被控訴人主張額」欄記載のとおりである。」と改める。

3  同三丁表末行冒頭の「原告」から同一二丁表七行目の「なるのである。」までの全部を次のとおり改める。

「被控訴人の昭和四四年分の収入金額等は、別表1の「控訴人主張額」欄記載のとおりであり、被控訴人の昭和四四年分の事業所得金額は二六一万二三八九円(同表<1>の収入金額から同表<2>ないし<4>の必要経費及び同表<7>ないし<9>の特別経費を控除した額)となるから、右所得金額の範囲内でした本件処分は適法である。なお、別表1の「<2>売上原価」欄記載の金額の内訳は別表2のとおりであり、また、別表1の「<4>外注費」欄記載の金額の内訳は別表3のとおりである。

四  控訴人の主張に対する被控訴人の認否及び反論

1  別表1の「<1>収入金額」欄記載の内訳金額のうち、高橋建材及び日極建築についての主張額(合計八万八〇〇〇円)は否認し、その余の各収入金額が控訴人主張のとおりであることは認める。

高橋建材に対する工事代金債権は同店への材料代金支払債務と相殺扱いとしたため、売上げにも経費にも計上しなかつたものであり、また、日極建築から収入を得た事実はない。

2  同「<2>売上原価」欄記載の金額は争う。すなわち、別表2の内訳金額のうち、有限会社長崎屋商店(以下、長崎屋商店という。)からの仕入額は争い、その余の仕入先からの各仕入額が控訴人主張のとおりであることは認める。長崎屋商店からの仕入額は八三万二六四〇円ではなく、八五万五三四〇円である(具体的には、昭和四四年九月五日の長崎屋商店への支払額は、三万円でなく五万二七〇〇円である)。したがつて、売上原価については、更に二万二七〇〇円が加算されるべきである。

3  同「<3>一般経費」欄の内訳金額のうち、「修繕費」、「消耗品費」、「福利厚生費」及び「雑費」欄各記載の金額は争い(その額は、「被控訴人主張額」欄記載のとおりである)、その余の各経費額が控訴人主張のとおりであることは認める。

なお、修繕費については、控訴人主張の額(その額までの支出があつたことは認める)に甲田電気に支払つた三三四五円が加算されるべきである。

4  同「<4>外注費」欄記載の金額は争う。すなわち、別表3記載の各外注費が控訴人主張のとおりであることは認めるが、そのほかに宮入豊治への外注費四三万一〇〇〇円が加算されるべきである。

5  同「<7>給料賃金」欄記載の内訳金額のうち、野村寅男への支払額は争い(同人への支払額は六六万三九五〇円である)、その余の各支払額が控訴人主張のとおりであることは認める。

給料賃金については、控訴人主張の支払額のほかに、「被控訴人主張額」欄記載のとおり、西村徳正、栁沢伴夫及び柳楽一志に対する各支払額(合計三七万九三七〇円)が加算されるべきである。

6  同「<8>利子割引料」欄及び「<9>地代・家賃」欄記載の各金額が控訴人主張のとおりであることは認める。」

三  証拠関係は、本件記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件処分の経緯等

本件処分の経緯等についての認定判断は、原判決理由説示一(原判決一三丁表二行目から同一四丁裏一二行目まで)と同一であるから、これを引用する。(ただし、原判決一三丁表四行目の「原告本人尋問」を「原審における被控訴人本人尋問」と、その次の行の「ただし一部」を「ただし、後記信用しない部分を除く。」と、同一四丁裏一一行目の「原告本人尋問」を「原審における被控訴人本人尋問」と各訂正する。)

二  本件処分の取消請求について

1  手続的違法事由(引用に係る請求原因2(一))について

被控訴人が主張する本件処分の手続的違法事由についての判断は、原判決の理由説示二1(原判決一五丁表二行目から同一二行目まで)と同一であるから、これを引用する。(ただし、原判決一五丁表一二行目の「証拠はない。」の次に「したがつて、被控訴人の右主張を採用することはできない。」を加える。)

2  そこで、本件処分の実体上の違法事由の有無について判断する。

(一)  収入金額について

別表1の「<1>収入金額」欄記載の内訳金額のうち、高橋建材及び日極建築からの収入金額(合計八万八〇〇〇円)を除くその余の各収入金額が控訴人主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(高橋建材関係)

原審(第一、二回)及び当審における被控訴人本人尋問の各結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証の三三、原審証人北澤福一の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証の一及び右本人尋問(原審第二回及び当審、ただし、後記信用しない部分を除く。)の各結果によれば、被控訴人は昭和四四年に高橋建材の風呂工事を受注し、これを柳沢タイル工業に下請けさせ、同年八月一五日右柳沢タイル工業に対しその下請工事代金として一万八〇〇〇円を支払つていることが認められる。

右事実によれば、被控訴人は昭和四四年中に高橋建材から少なくとも工事代金一万八〇〇〇円の収入を得たものと推認される。被控訴人は、右本人尋問(原審第二回及び当審)の各結果中において、高橋建材に対する工事代金債権は高橋建材からの材料仕入代金債務と相殺したため、被控訴人は右工事代金を収入として得ていない旨を供述し、原審における被控訴人本人尋問の結果(第二回)により真正に成立したものと認められる甲第一七号証(近藤信義の供述録取書)にも同旨の記載があるが、右供述及び記載は弁論の全趣旨に比照して信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(日極建築関係)

原審における被控訴人本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第三号証の二五(領収証)によれば、被控訴人は昭和四四年六月五日柳沢タイル工業に対して工事代金七万円を支払つている事実が認められる。そして、右領収証(甲第三号証の二五)には、柳沢タイル工業が被控訴人から右金員を「日極様風呂工事代内金」として受領した旨の記載が、また、前顕証人北澤福一の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証の二(柳沢清和に対する聴取書)には、右工事代金は、昭和四四年当時被控訴人が日極建築から受注した工事を柳沢タイル工業が下請けした代金である旨の記載がある。

しかしながら、右各記載は、いずれも原審における被控訴人本人尋問の結果(第二回)により真正に成立したものと認められる甲第一四号証(柳沢清和の供述録取書)、同第一五号証(日極辰朗の供述録取書)、同第一六号証、原審(第二回)及び当審における被控訴人本人尋問の各結果に照らして信用することができず(右日極辰朗の供述録取書において、同人は、日極建築が被控訴人に対して工事を発注したのは昭和四五年暮頃に完成した新築住宅の工事が最初であつて、昭和四四年以前に被控訴人に対して工事を発注したことはなく、日極建築と被控訴人は昭和四四年当時、共に柳原工務店の下請けをし、被控訴人の下請けをしていた柳沢タイル工業とは工事現場を同じくすることもあつたから、甲第三号証の二五の前記記載は、柳沢タイル工業が柳原工務店の現場代人としての日極建築のことを指して記載したものとも考えられる旨を、また、被控訴人は、右本人尋問の各結果中において、甲第三号証の二五の領収証は、柳原工務店から受注し、柳沢タイル工業に下請けさせた工事の支払代金である旨をそれぞれ述べる。)、ほかに被控訴人が柳沢タイル工業に対して支払つた前記工事代金が日極建築から受注した工事の下請け代金であることを認めるに足りる証拠はなく、結局、被控訴人が昭和四四年中に日極建築から七万円の収入を得たとの控訴人の主張事実は、これを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、被控訴人の昭和四四年の収入金額は一三七八万八二四九円(控訴人の主張額一三八五万八二四九円から、日極建築からの収入分とされる七万円を差し引いた額)となる。

(二)  売上原価について

別表2の売上原価の内訳金額のうち、長崎屋商店からの仕入額を除くその余の仕入額が控訴人主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

長崎屋商店からの仕入額については、八三万二六四〇円の支出の限度においては当事者間に争いがないところ、被控訴人は、昭和四四年九月五日の長崎屋商店への支払額は三万円ではなく五万二七〇〇円であるから、更に二万二七〇〇円が加算されるべき旨を主張するので判断する。

原審における被控訴人本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第一号証の二〇によれば、昭和四四年九月五日付けで長崎屋商店から被控訴人に対して発行された領収証には、受領金額として「五万二七〇〇円」、「但現金三万円、サニコート代相殺二万二七〇〇円」の記載があることが認められ、右事実と前顕証人北澤福一の証言により真正に成立したものと認められる乙第六号証の二(長崎睦男に対する聴取書)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴人は昭和四四年中に長崎屋商店から五万二七〇〇円相当の材料の仕入れを行つたが、その代金のうち二万二七〇〇円は、同年中(右材料仕入前)に長崎屋商店から仕入れたがその後返品したサニコート(壁材に使用する糊)の代金返還請求債権と相殺したことにより、右仕入代金五万二七〇〇円については、そのうち三万円の支払をしたにすぎないものと認められる。

被控訴人本人尋問の結果(第二回)により真正に成立したものと認められる甲第一二号証(長崎睦男の供述録取書)及び右本人尋問の結果によつても右認定を覆すに足りず、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。したがつて、被控訴人の右主張は理由がなく、採用することができない。

そうすると、売上原価は、控訴人主張のとおり三〇三万五六四〇円となる。

(三)  一般経費について

別表1の「<3>一般経費」欄記載の内訳金額のうち、「修繕費」、「消耗品費」、「福利厚生費」及び「雑費」欄記載の各金額を除き、その余の各経費額が控訴人主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(修繕費について)

修繕費につき、控訴人が主張する一五万五五五円の支出については当事者間に争いがなく、被控訴人は、右金額に、甲田電気に支払つた三三四五円が加算されるべき旨を主張するところ、原審(第一、二回)及び当審における被控訴人本人尋問の各結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証の四五及び右本人尋問の各結果によれば、被控訴人は昭和四四年八月一二日甲田電気に対し従業員の休憩所内の電気配線の工事代金として三三四五円を支払つたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

したがつて、右金額を控訴人主張の修繕費の金額に加算すべく、その額は合計一五万三九〇〇円となる。

(消耗品費について)

原審における被控訴人本人尋問の結果(第一回)によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第二号証の一五五ないし二一一、同号証の二一三ないし二一六及び右本人尋問の結果によれば、被控訴人は昭和四四年中に消耗品費として合計三一万七八一八円を支出したことが認められる。(なお、弁論の全趣旨によれば、控訴人は甲田電気への前記支払額三三四五円を消耗品費に算入しているが(被控訴人も同様)、前叙のとおり、右額は修繕費に算入すべきものである。)

被控訴人は、右消耗品費は合計三七万一一六三円である(控訴人主張額に五万円を加算)と主張し、右主張(五万円の加算)にそう証拠として原審における被控訴人本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第二号証の二一二(三友商会の金額五万円の領収証)及び右本人尋問の結果(ただし、第二回)があるが、右領収証(甲第二号証の二一二)は、その日付けが昭和四五年九月二〇日のものであるから、被控訴人の昭和四四年中の支出を証するものとはいえず、右本人尋問の結果中、右領収証の日付け(昭和四五年)が誤記である旨の供述は、弁論の全趣旨に照らしてたやすく信用できず、ほかに前記認定を覆し、被控訴人の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(福利厚生費について)

原審における被控訴人本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第二号証の二一九ないし二四七、右本人尋問の結果(第一、二回)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴人は昭和四四年中に福利厚生費として合計二七万五八九〇円を支出したことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(雑費について)

原審における被控訴人本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第二号証の二四八ないし二六一、同号証の二六三ないし四二〇及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は昭和四四年中に雑費として合計二一万四一四五円を支出したことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、右本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二号証の二六二及び弁論の全趣旨によれば、別表1「雑費」欄にかかわる被控訴人及び控訴人の各主張額中に、被控訴人が昭和四四年九月二〇日支出した罰金八〇〇〇円を算入していることが認められるが、右支出は、所得金額の計算上、必要経費に算入すべきではない(所得税法四五条一項六号参照)。

(四)  外注費について

別表3記載の各外注費が控訴人主張のとおりであることは当事者間に争いがないところ、被控訴人は、右外注費のほかに宮入豊治への外注費四三万一〇〇〇円が加算されるべき旨を主張するので判断する。

当審における被控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一七ないし一九(いずれも宮入豊治作成に係る領収証)、当審証人江口育夫の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第一三号証の二(宮入豊治に対する聴取書)、同第一五号証(同人に対する調査報告書)及び右本人尋問の結果を総合すれば、宮入豊治は昭和四四年前から農業の傍ら左官の下請け(手間請け)をし、相当に熟練した技能を有していたこと、もつとも同人は農業の合い間に左官業に従事していたため、その稼働期間はかなり制約されたものであつたこと、被控訴人は昭和四四年中に繁忙期における従業員の不足を補うため、宮入豊治に対し幾度かにわたり仕事を発注したこと、その発注形態は宮入豊治個人に対し、特定の現場の仕事の完成を請け負わせる形態のものであつたこと、被控訴人は宮入豊治に対し、右下請け代金として昭和四四年八月一二日に一〇万円、同年一一月三〇日に一〇万円、同年一二月三一日に八万一〇〇〇円をそれぞれ支払つたこと、以上の事実を認めることができる。

前顕証人江口育夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第一三号証の一(同証人他一名作成に係る調査報告書)には、宮入豊治の就労可能日数等からみて、同人が被控訴人から仕事を受注し、その報酬を得た事実はないと判断される旨の記載があり、同証人の当審における証言中にも同旨の供述があるが、右記載及び供述部分は、前顕採用各証拠に照らして採用することができない。

また、当審における被控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証の二〇(領収証)には、前記認定に係る金員のほかに、宮入豊治が被控訴人から昭和四四年一一月二〇日に一五万円を受領した旨の記載があり、被控訴人は右本人尋問の結果中において同旨の供述をするのであるが、前顕乙第一五号証及び弁論の全趣旨によれば、右領収証の記載は宮入豊治本人がしたものでなく、その用紙も他の三通の領収証と異なるものであることが認められるのであつて、右記載及び被控訴人の供述をにわかに信用することはできない。

ほかに前記認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、外注費については、控訴人主張額に宮入豊治への前記支払額二八万一〇〇〇円を加算すべく、その額は合計二五一万三四三〇円となる。

(五)  給料賃金について

別表1の「<7>給料賃金」欄の内訳金額のうち、野村寅男への支払額を除くその余の支払額が控訴人主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(野村寅男関係)

原審(第一、二回)における被控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一、原本の存在については当事者間に争いがなく、当審における被控訴人本人尋問の結果によりその成立を認めることができる甲第二四号証及び右本人尋問の各結果(原審第一、二回及び当審)によれば、被控訴人は昭和四四年中に野村寅男に対して被控訴人主張のとおり合計六六万三九五〇円の賃金を支払つたことが認められる。

もつとも、原審証人雨宮甲子男の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証及び同証人の証言によれば、被控訴人が野村寅男に対して発行した納税申告用の給与支払証明書には、被控訴人が昭和四四年に野村寅男に対して支給した賃金の額は六四万二九五〇円と記載されていたことが認められるが、右記載金額をもつて直ちに現実の支払額ということはできないから、右各証拠によつても前記認定を覆すことはできず、ほかに前記認定を左右するに足りる証拠はない。

(西村徳正ほか二名関係)

被控訴人は、給料賃金については控訴人主張の支払額のほか、別表1の「被控訴人主張額」欄記載のとおり、西村徳正ほか二名に対する支払額(合計三七万九三七〇円)が加算されるべき旨を主張するので判断する。

原審における被控訴人本人尋問の結果(第一、二回)によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第四号証の二ないし四、原審(第一、二回)及び当審における被控訴人本人尋問の各結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴人は昭和四四年に雇用していた西村徳正(雇用期間は三月から六月まで)、栁沢伴夫(雇用期間は年間を通じ、被控訴人宅に住込み稼働)及び柳楽一志(雇用期間は一一月及び一二月)に対し、被控訴人主張のとおりそれぞれ賃金(合計三七万九三七〇円)を支払つたことが認められる。

前顕証人雨宮甲子男は、その証言中において、被控訴人はその従業員を被保険者とする交通安全定期預金に加入していたところ、右三名についてはその加入が認められないことから、被控訴人が右三名を雇用した事実はないと判断される旨を供述するが、右供述は前顕採用各証拠に比照して採用することができず、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、被控訴人が昭和四四年に支払つた給料賃金は、被控訴人主張のとおり合計四七五万七五〇円となる。

(六)  利子割引料及び地代・家賃について

別表1の「<8>利子割引料」欄及び「<9>地代・家賃」欄記載の各金額が控訴人主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(七)  以上によれば、被控訴人の昭和四四年分の収入金額等は別表1の「当審認定額」欄記載のとおりであつて、被控訴人の本件係争年分の事業所得金額は同表「当審認定額」欄<11>記載のとおり一八一万九〇二〇円(同表<1>の収入金額から<2>ないし<4>の必要経費を控除して<5>の算出所得金額を求め、この金額から<7>ないし<9>の特別経費を控除した額)となる。

そうすると、本件更正のうち所得金額一八一万九〇二〇円を超える部分は、被控訴人の所得を過大に認定したものであるから違法であり、また、本件決定のうち右所得金額を超える部分に対応する部分は違法である。

三  以上の次第であつて、被控訴人の本訴請求は、本件処分のうちそれぞれ所得金額一八一万九〇二〇円を超える部分の取消しを求める限度において認容すべきであり、その余の請求は理由がないので棄却すべきであるから、これと一部結論を異にする原判決を変更し、本件附帯控訴は理由がないのでこれを棄却すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 後藤文彦 裁判官 大内俊身 裁判官橋本和夫は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 後藤文彦)

別表1

(注)※印は当事者間に争いがあるもの。

<省略>

<省略>

別表2

(材料仕入)

<省略>

別表3

(外注費)

<省略>

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