東京高等裁判所 昭和61年(行コ)48号 判決 1989年3月20日
東京都葛飾区鎌倉四丁目三三番五号
控訴人
泉谷キミ
右訴訟代理人弁護士
小川芙美子
同
川名照美
同
森和雄
東京都葛飾区立石六丁目一番三号
被控訴人
葛飾税務署長
溝江弘志
東京都千代田区大手町一丁目三番二号
被控訴人
国税不服審判所長
小酒禮
被控訴人両名訴訟代理人弁護士
和田衛
被控訴人両名指定代理人
安達繁
被控訴人葛飾税務署長指定代理人
藤本宣之
同
小野雅也
被控訴人国税不服審判所長指定代理人
八木幹雄
同
加藤広治
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人葛飾税務署長が控訴人に対し、昭和五五年三月七日付でした控訴人の昭和五一年分、同五二年分及び同五三年分所得税の各更正並びに右各年分にかかる過少申告加算税の各賦課決定(但し、昭和五一年分については、審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。
3 被控訴人国税不服審判所長が控訴人に対し、昭和五七年三月一日付でした右各年分所得税の各更正及び過少申告加算税の各賦課決定に対する審査請求についての裁決を取り消す。
4 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁(被控訴人ら)
主文第一項と同旨。
第二当事者の主張及び証拠関係
当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決四丁表三行目末尾に続けて、次のとおり加える。
「法二三四条一項の質問検査権に基づく調査は、強制調査ではなく、あくまでも任意調査であるから、公的権力により納税者の基本的人権を侵害することは許されず、調査に対しては、生活の平穏を害したり、営業活動上不利益を与えたりすることがないよう、調査対象、調査範囲についておのずから厳格な制約が生じるのは当然である。右規定の「調査に関し必要があるとき」とは、申告の義務があるのに申告しなかつた場合、過少申告など申告が適正でない合理的な疑いのある場合に限定され、過少申告の疑いが当初から存しない場合に申告の真実性、正確性を確認するために行う調査は、右の必要性を具備しない。このような場合をも調査の必要性があるとする解釈は、右規定自体を有名無実化し、税務当局による恣意的な公権力の行使を野放しにする結果を招来する誤つた解釈である。」
二 原判決一六丁裏一行目の「八月」の前に「同年」を、二二丁裏一〇行目の「賦課決定」 の前に「過少申告加算税を」を、二三丁表三行目の「審判所長は、」の次に「昭和五五年七月二三日」をそれぞれ加え、二七丁表四行目の「貝」を「介」と改め、三七丁裏一〇行目の「あるいは」の次に「被調査者が第三者の立会いを要求しうることは納税者として当然の権利であるのにかかわらず」を、四一丁表五行目の「五六・二八パーセント」の次に「で二三・九パーセント」をそれぞれ加える。
三 原判決添附別表一六の昭和五一年度料理売上欄の算出根拠の数式中最初の「-」を「+」と改める。
四 原判決四五丁表六行目の「本件」の次に「原、当審」を加える。
理由
一 当裁判所も控訴人の本訴請求はいずれも失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほかは、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決四七丁裏五行目末尾に続けて「右に反する控訴人の主張は採用できない。」を加え、五二丁表三行目の「一〇」を「九」と改める。
2 原判決五六丁表六行目の「一方的に」の前に「被調査者が第三者の立会いを要求しうることは納税者として当然の権利であるのにかかわらず、立会人の退席に応じなかつたことをもつて」を、同七行目の「しかしながら、」の次に「税務調査にあたつては調査の内容が被調査者のみならず、その取引の相手方である第三者の営業上の秘密に及ぶことが少なくないことからして、被調査者が法律の規定による守秘義務を負わない第三者の立会いを要求する権利があるということはできず、税務調査担当者が調査に際し、このような第三者の立会いを拒むことはもとより正当な処置であり、」をそれぞれ加える。
3 原判決五七丁三行目の「解すべきであるから、」を「解すべきであり、本件において、被控訴人所部係官が反面調査の結果につき控訴人に再確認しなかつたことが、合理的な裁量の範囲を逸脱していると認めるべき事情は存在しないから、」と改める。
4 原判決六一丁七行目と一〇行目の各「吉夫」をいずれも「吉夫」と改める。
5 原判決六四丁表一行目末尾に続けて「弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五、第六号証も右認定を左右するものではなく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。」を加える。
6 原判決六九丁表四行目末尾に続けて「なお、昭和五三年分(但し、一月から八月まで)の控訴人の酒類等売上原価の額を一一八万五六六四円とすべきであつたところ、本件では、これを一二四万三五六四円として、同年分の比準同業者が抽出されていることは前認定のとおりであるが、右の程度の誤差は許容される範囲の誤差と認められる。」を加える。
7 原判決七〇丁表八行目から九行目にかけての「主張する。」を「主張し、成立に争いのない甲第四号証、当審における証人鈴木章の証言(以下、併せて「鈴木意見」という。)中には、本件比準同業者の選定方法には欠陥があり、本件の場合には、個別事実の把握による積上計算をなすべきであつたと指摘する部分が存在する。」と、七一丁表三行目の「推認されるのである。」を「推認して差し支えないものと考えられる。」とそれぞれ改め、同丁裏二行目末尾に続けて「なお、前記認定の推計課税採用の経緯にかんがみれば、本件では、控訴人の協力を得られる見込がなく、そのため被控訴人税務署長においては、鈴木意見がいうところの個別事実の把握そのものが極めて困難な場合であつたと認められるのであるから、鈴木意見も採用しえず、被控訴人税務署長の採用した前記方式に違法、不当な点は認められない。」を加え、同四行目の「主張する。」を「主張し、鈴木意見も、控訴人の右主張にそう意見を開陳する。」と改め、七二丁表一行目の「右主張」の次に「及び鈴木意見」を、七三丁表四行目末尾に続けて「鈴木意見中、控訴人の右主張と同旨を指摘し、その論拠として述べる部分も、仮定的に開差が最大の場合にどうなるかを試算して、その結果を論難するにすぎず、現実の本件比準同業者間の開差を問題とするものではないのであつて、説得力に欠けるものといわざるを得ない。」を、同丁裏四行目末尾の次に「(いずれも、後記認定に反する部分を除く。)」を、七四丁末行の「示す」の次に「帳簿、メモ等の」を、同行末尾の次に「、証人泉谷吉夫の証言及び控訴人本人尋問の結果中、控訴人方における自己消費分につしいての供述部分は、記憶のみに基づくものであつて、そのまま採用することはできず、他に」をそれぞれ加え、七五丁八行目から九行目にかけての「これを認めるに足りる証拠がない。」を「前叙のとおり、これを認めることができない。」と、同七六丁表四行目の「いずれも」から五行目の「基づくものであつて、」までを「前判示のとおり」とそれぞれ改める。
二 よつて、原判決は相当であつて、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 前島勝三 裁判官 笹村將文)