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東京高等裁判所 昭和62年(う)1077号 判決 1988年2月10日

本籍

福島県東白川郡鮫川村大字赤坂中野字道少田六九番地

住居

栃木県宇都宮市東峰町三五八七番地一五

自動車運転手

鈴木洋樹

昭和一七年七月二日生

右の者に対する相続税法違反被告事件について、昭和六二年六月一八日千葉地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官村山弘義出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人杉田時男名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官村山弘義名義の答弁書に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

所論は、すべて量刑不当の主張であって(控訴趣意第二は事実誤認をいうが、量刑に関する事実の誤認の主張にすぎない。)、原判決の量刑は刑の執行を猶予しなかった点で重すぎて不当である、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討すると、本件は、被告人が、勝矢孝雄、中島文男、宮原一、綿引爽五と共謀のうえ、右勝矢の相続税を一部免れることを企て、被相続人勝矢久雄に一億四五〇〇万円の連帯保証債務があり、右久雄の相続人である勝矢孝雄においてこれを負担すべきこととなった旨の事実を虚構し、虚偽過少の相続税申告書を提出し、相続税の一部五六三七万五一〇〇円を免れたという事案であって、被告人らについて言えば、他人の納税事務に介入し、不正の方法により多額の利益を得ようとして敢行された計画的で悪質な犯行であること、被告人らの受取った報酬の額が三〇〇〇万円という巨額で、被告人自身も六〇〇万円の分け前を受取っていること、被告人には古いものではあるが、傷害、銃砲刀剣類所持等取締法違反、賭博開帳図利幇助、賭博で懲役刑一回、罰金刑三回の処罰歴があること、を考え合わせると被告人の刑責は軽視できない。

そうすると、本件犯行において被告人は右中島の指示により右宮原とともに行動したものでその中心人物でないこと、右三〇〇〇万円の報酬は全額右中島から勝矢孝雄に返還されていること、被告人が反省の態度を示していることなど被告人に有利な諸事情を十分に考慮しても、本件は、刑の執行を猶予すべきものとはいえず、被告人を懲役六月に処した原判決の量刑が重すぎて不当であるとは言えない。論旨は理由がない。また、原判決後、被告人が受領した六〇〇万円につき、中島に返済することを約し、これまでに一七〇万円を支払い、残金は分割弁済の予定であること、被告人が東日本同和会の役員を辞し、かつ右中島の影響下にある株式会社大樹の経営からも手を引き、トラックの運転手として働いていることを考慮しても、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反するものとは認められない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 朝岡智幸 裁判官 小田健司)

昭和六二年第一〇七七号

○控訴趣意書

被告人 鈴木洋樹

右被告人に対する相続税法違反被告事件につき、弁護人は次のとおり控訴趣意書を提出する。

昭和六二年一〇月六日

弁護人弁護士 杉田時男

東京高等裁判所第一刑事部 御中

第一 原判決言渡後の事情

一、被告人が本件により得た利得の返還について

被告人及び分離前の相被告人中島文雄(以下「中島」という)らが同相被告人勝矢孝雄(本件脱税行為の依頼者)より報酬名目で得た金銭は金三〇〇〇万円であるが、これは中島が一括して右勝矢に返済している。右金銭の内被告人が得た金六〇〇万円は中島が被告人に代わっていわば立替え払いしたものであり、被告人から中島に返済するべきであるとの考えから、被告人は原判決言渡後に以下のとおり中島に返済している。

昭和六二年七月三一日 金一〇〇万円

同年八月三一日 金 五〇万円

右金員は、被告人が親戚等に依頼して調達したものである。被告人は、現在トラックの運転手として月給金約二五万円を得て稼動しているが、右金一五〇万円以上の金員を一時に返済する能力はない。従って、被告人は残りの金四五〇万円について中島の同意を得て長期分割払の方法により返済する事にしており、その第一回目として金五万円を本年の九月三〇日に支払っている。

二、被告人の東日本同和会(以下「同和会」という)との絶縁について

被告人は、昭和六二年一月に同和会の活動から一切、身を引いて相談役という名目上の肩書を有するのみであったが、原判決言渡後にこの名目上の地位も離脱し、現在同和会とは、完全に絶縁している(同和会機関紙「あけぼの」第五八号二ページ下段参照)。なお、被告人は、中島の強い影響下にあった株式会社大樹の経営からも一切、手を引いており既述のとおり、トラックの運転手として額に汗して真面目に働き、妻及び二人の子供を養っている。

同和会の存在及び部落解放の運動自体はもちろん何ら否定的評価の対象となるものではないが、本件が同和会という組織を媒介として実行されたことは事実であり、被告人の同会との完全絶縁を第一審判決後に生じた被告人に有利な事情として考慮していただきたい。

第二 原判決の事実誤認について

原判決は、被告人が暴力団を脱会したのは、昭和五二年頃と認定しているが、これは事実に反する。被告人は、昭和四四年に当時刑に服していた山形刑務所を仮出獄となって以来、更生を誓って努力していたが、そのような被告人の意思とは裏腹に、昭和四六年に花札賭博で罰金刑を受けた。被告人は、この時に暴力団に属していては、いつまでたっても真の更生はあり得ないものと気付いて、この罰金刑を受けたことを一つの契機として暴力団を正式に脱会したのであり、昭和四六年以後、被告人は暴力団とは完全に訣別している(被告人の昭和六二年一月一四日付の検察官面前調書[乙第一一号証]第五丁参照)。

第三 結論

以上により原判決が刑の執行を猶予しないのは、刑の量定が不当であり、破棄されるべきである。

以上

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