東京高等裁判所 昭和62年(う)174号 判決
本件は,拓殖大学空手部において,被告人両名を含む二年生部員が一年生部員に対し,指導の名目で,正座して黙想する姿勢をとらせたうえ,いわゆる説教をしながらこもごも相手の腹部その他を足蹴りにするなどの暴力的制裁を加え,その結果一年生部員のうちの1名を死亡させ,他の1名にも重篤な傷害を負わせたという事案であつて,行為の態様が悪質であるうえに,発生した結果が極めて重大であり,関係者に深刻な影響を及ぼしたことなどを考慮すると,被告人らの刑事責任は重いといわなければならない。
そして,右の犯行に至る経過や犯行の具体的状況をし細にみてみると,被告人両名がその中で率先して積極的な役割を果たしていることが認められるから,両名の刑事責任は,他の共犯者と比べ一段と重いものといわなければならず,原判決が被告人両名に対し実刑をもつて臨んだことも,やむを得ないところとして是認できる。
所論は,同大学空手部には,過去において輝かしい成績を収めて同大学に名誉をもたらしてきた背景として,本件のような暴力的制裁を含む厳しい鍛練と指導が繰り返されてきたという伝統があり,大学側もこれを放置してきたことを指摘したうえ,若い被告人らは,そのような特殊な環境に置かれれば,右の伝統を素直に受け入れてこれを忠実に実行するほかはなく,…中略…右の伝統に従つたのにすぎない本件行為の結果をすべて被告人ら各個人の責任に帰せしめるのは酷である旨強調する。
しかし,右のような背景事情については,量刑上それなりの配慮を要することは当然であるとしても,被告人らにおいて,大学生として本件のような行為が社会的に容認されないものであるとの認識が乏しかつたこと自体,厳しい非難に値するうえに,この種事犯の再発を防止するという観点からみても,その背景事情を過大に評価し,被告人ら各個人の責任を軽視するのは相当でないと思われる。
そのほか,各被害者ないしその遺族に対し,大学側や被告人らの父兄から誠意を尽くした陳謝と相当多額の賠償金等の支払がなされ,それぞれ示談も成立しているうえに,被告人ら自身においても,原判決後釈放されるとすぐに遺族のもとに陳謝に赴き,更に各自10万円ずつ送金するなどの誠意を示していて,傷害の被害者はもとより,死亡した者の遺族もある程度被害感情が和らいできていること,被告人両名が,いずれも前科等がなく,将来性に富む青年であるうえに,本件により長期間勾留され,更に退学処分になるなどの社会的制裁も受けて,現在親元で家業を手伝いながら真しな反省の生活を送つていることなどの有利な諸事情が多々存するが,これら一切の事情を十分にしん酌してみても,先に述べたような被告人両名の刑事責任の重大性に照らすと,被告人両名に対し刑の執行を猶予する程の情状があるとまでは認め難く,原判決の量刑が不当に重いとは考えられない。