大判例

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東京高等裁判所 昭和62年(う)878号 判決

所論は,要するに,被告人には本件と同種の余罪があるところから,被告人が,原審において,その余罪の起訴を待つて,本件と併合審理するよう請求したのに対し,原裁判所が,検察官の,余罪起訴の時期が不明確であるとの意見のみに従い,被告人の主張に十分耳を傾けないで,右請求を却下したのは審理不尽のそしりを免れず…中略…原審の訴訟手続には法令違反がある,というのである。

そこで,検討するに,被告人に捜査中の同種の関連事件(余罪)がある場合,必ずその事件の起訴を待つてこれを併合して審理しなければならないものではなく,追起訴にかかる関連事件を併合するかどうかの判断は,本事件につき審理している裁判所の自由な裁量に属し,既に審理中の事件の規模態様,その進行の程度,及びその経過の具体的状況と,追起訴予定の事件の規模態様,その時期の見込み等諸般の事情を勘案して適当と認めるところに裁定することを委ねられているものと解するのが相当である。これを本件についてみると,原審記録によれば,被告人は,昭和62年3月12日に本件詐欺の公訴事実につき勾留のまま公訴を提起されたこと,同年4月22日に開かれた原審第1回公判期日において,冒頭手続を経て(ちなみに,被告人は本件公訴事実のとおり相違ない旨陳述した。),検察官の請求にかかる書証全部が被告人側の同意を得て採用されて,取り調べられ,被告人質問も行われて証拠調べを了したこと,同月27日の第2回公判期日において,検察官の論告に続いて,原審弁護人が弁論を行い,その中で,「被告人には余罪が多数あり,本件と併合罪の関係にあるので,それらを一括した上で,被告人を処断すべきであると思料する。」旨の意見を述べるとともに,被告人に有利な事情を指摘して寛大な判決を求め,被告人が,最終陳述として,「本件については,別にいうことはありませんが,私には余罪がありますので,それらと併合して審理していただきたい。」旨述べ,原裁判所が次回公判(判決宣告)期日を同年5月13日と指定したこと,同日に開かれた第3回公判期日において,検察官が,「被告人については,別件同種詐欺事件について捜査中である。右事件については昭和62年5月下旬ころ被告人を逮捕し,取調べの上,別途起訴する予定であるから,併合審理できるように取り計られたい。」旨述べて公判期日の変更請求をなし,これに対し,弁護人が「しかるべく」と,被告人が「同種詐欺事件の余罪が多数あるので,それらと併合して審理していただきたい。」とそれぞれ述べたことから,原裁判所は,右請求を容れて,公判(判決言渡し)期日を同年6月8日に変更する旨決定したこと,同日に開かれた第4回公判期日において,検察官が追加立証のため弁論の再開を請求し,原裁判所は,弁護人の意見を聞いて弁論の再開を決定し,検察官の請求にかかる書証1通(喫茶店「ルノアール」の所在を明らかにした検察事務官作成の電話聴取書)が取り調べられて証拠調べを了した後,検察官が,本件公判審理の進行につき,「前回公判期日の変更請求の理由として述べた本件と被告人の別件余罪との併合審理について,その後の調査の結果,現時点においては,右余罪での被告人の逮捕はなされておらず,未だ捜査に着手していない状況であり,右余罪の起訴の時期については,明確にすることが出来ない。したがつて,右状況下においては,本件と別件余罪との併合審理について考慮することは妥当でないと思料する。」旨述べ,弁護人も「右のような事情であれば,併合審理できないことについては,やむを得ないと思料する。」と陳述し,検察官の「従前のとおり」との論告に続いて,弁護人が,弁論として「従前のとおり,ただし,余罪関係の意見を除く。」と,被告人が最終陳述として「従前のとおり」とそれぞれ述べ,なお,被告人が原裁判官に対する忌避の申立てをなし,これに対し原裁判所が右申立てを却下したうえ(なお,この点については後にも述べる。),即日原判決を言い渡したことが明らかである。以上の経過,とりわけ,昭和62年4月22日の原審第1回公判期日において,既に本件の証拠調べが一応終了しており,同月27日の第2回公判期日においては,検察官の論告,弁護人の弁論,被告人の最終陳述を経て,原裁判所が次回公判(判決言渡し)期日を同年5月13日と指定したところ,同日の第3回公判期日において,原裁判所が,被告人に捜査中の同種余罪のあることを考慮していつたん公判(判決言渡し)期日を同年6月8日に変更したものの,同日に開かれた第4回公判期日においては,検察官の釈明により,その事情はともかくとして余罪の捜査が進展せず,その時点においては余罪の起訴の時期を明確にすることすら出来ない状況であることが判明し,弁護人の意見を徴したところ,右のような事情であれば,併合審理できないことについては,やむを得ないと思料する旨の陳述もあつたことなどを考慮すると,原裁判所が,何時になるかわからない余罪の起訴を待つ措置に出ず,右の第4回公判期日において,いつたん再開した本件の弁論を再度終結し,所要の手続を経て,即日原判決を言い渡したことは,まことにやむを得ない措置であつたというべきであり,その手続に所論のような違法があると到底いえない。

なお,いわゆる本件余罪の状況についていえば,被告人の当審公判廷における供述及び検察官作成の報告書によると,被告人は,いずれも原判決言渡後の昭和62年7月9日,同年9月7日,同月8日の3回にわたつて,ようやく有印公文書偽造,同行使,詐欺等の公訴事実により,原裁判所と土地管轄を異にする東京地方裁判所八王子支部に起訴されたものであつて(このことはたんなる原裁判所の追起訴による併合決定にとどまらず,同支部における移送を含む併合の要否の判断をも考慮する要があるものである),同裁判所でこれまでに2回に亘つて公判期日が開かれたが,被告人は右各被告事件に対する陳述として右各公訴事実の一部を争う陳述をしており,弁護人の認否も未了の状況であつて,今後その審理になお相当の日数を要することが見込まれるうえ,被告人にはそのほかにも捜査中の余罪のあることが認められるのであつて,これらの事情に徴すると,原裁判所がいわゆる余罪の起訴を待つてこれを併合することなく,本件被告事件のみについて審理を遂げて原判決を言い渡したことはまことに適切,相当な措置であつたことが明らかであるというべく,そこに些も違法不当の点は存しない。

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