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東京高等裁判所 昭和62年(ラ)452号 決定 1987年8月24日

抗告人 新崎博雄

主文

本件抗告を棄却する。

理由

(抗告人の主張)

抗告人は「原決定を取り消し更に相当の裁判を求める。」旨申立てたが、その理由の要旨は次のとおりである。

1  抗告人は東京地方裁判所昭和五九年(ケ)第二〇二九号不動産競売事件において、原決定添付物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)を買受け、昭和六二年六月一六日代金を納付した。

2  ところで、右競売は債務者兼所有者であった渡邉啓助が本件不動産につき昭和五八年三月二六日設定登記した抵当権に基づいてなされたものであるが、その差押えの登記は昭和五九年一〇月一五日になされている。

3  本件不動産引渡命令申立事件の相手方である仲野孝子(以下「相手方」という。)は右渡邉啓助から昭和五八年七月五日本件不動産を期間二年の約定で賃借しこれを使用占有しているが、右賃貸借期間は経過し、賃借権は消滅し、買受人に対抗しえないものである。

4  したがって、相手方の占有は買受人に対抗しえないものであるので本件引渡命令を求めたところ、原裁判所はこれを却下した。

よって、原決定は違法であるのでこれを取り消し、更に相当の裁判を求める。

(当裁判所の判断)

一  民事執行法八三条一項本文によれば、引渡命令は、「債務者又は事件の記録上差押えの効力発生前から権原により占有している者でないと認められる不動産の占有者」に対してのみ発しうるところ、同項ただし書きと対比すれば、同項本文の「権原」は債務者(所有者)に対する関係で占有権原が存在すれば足り、その権原が買受人に対して対抗力を有することまでは必要としないものと解するのが相当である。

そこで本件についてみるに、一件記録によれば、本件不動産につき株式会社第一勧銀ハウジングセンターの抵当権(昭和五八年三月二六日設定、同日登記)に基づく競売申立てにより東京地方裁判所が昭和五九年一〇月一五日不動産競売開始決定をなし、右決定に基づき同日差押え登記がなされたこと、抗告人は昭和六二年五月七日売却許可決定を受け同年六月一六日代金を納付したこと、一方相手方は本件差押え登記前である昭和五八年七月五日当時の所有者である渡邉啓助から本件不動産を期間二年の約定で賃借し、同月一九日その引渡しを受けて占有使用していることが認められる。そうすると相手方は、差押えの効力発生前からもとの所有者との間の賃貸借契約により本件不動産を占有している者であり、右賃貸借契約は短期賃貸借であって、その期間が経過しているが、もと所有者において右賃貸借契約の更新を拒絶した事実が認められないから、もと所有者に対しては、期間が更新されたものとして右賃貸借を主張しうるものといわざるをえず、右期間の更新を買受人たる抗告人には対抗しえないとしても、民事執行法八三条一項本文に該当するか否かを判断するに当っては、なお、相手方は、権原により本件不動産を占有している者といわなければならない。

二  したがって、本件の相手方に対しては、引渡命令を発しえないものであり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柳川俊一 裁判官 三宅純一 喜多村治雄)

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