東京高等裁判所 昭和62年(ラ)734号 決定
本件記録によれぱ、原決定添付別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)及び東京都八王子市片倉町一三五七番八三宅地一九〇・三五平方メートルはもと鳥澤清美の所有であり、昭和五九年六月一六日矢野義衣が売買により所有権を取得し同月一八日所有権移転登記を経由したこと、青梅信用金庫は昭和五五年五月三一日鳥澤清美との間に本件建物及び右土地につき債務者ポニー産業株式会社、債権の範囲信用金庫取引、手形債権、小切手債権、極度額一〇〇〇万円の根抵当権を設定し同年六月一六日右根抵当権設定登記を経由し、昭和六一年一月一六日右根抵当権に基づき東京地方裁判所八王子支部に対し競売の申立てをし(同庁昭和六一年(ケ)第一六号事件)、同裁判所は同月一七日競売開始決定をし、同月一八日本件建物及び右土地についてこれを原因とする差押登記が経由されたこと、相手方は、右競売事件において本件建物及び右土地について最高価買受けの申出をし、売却許可決定をうけ、昭和六二年五月二〇日買受代金を支払って本件建物及び右土地の所有権を取得し、同年六月二五日本件建物の占有者である抗告人に対し引渡命令の申立てをし、同裁判所は、抗告人を審尋したうえ同年一〇月二〇日引渡命令を発したことが認められる。
抗告人は、本件建物につき昭和六〇年五月八日所有者矢野義衣との間に期間を三年とする賃貸借契約を締結し、これが引渡をうけて占有中である旨主張するところ、本件記録によれば、本件建物及び右土地については、青梅信用金庫の前記根抵当権の設定登記にさき立ち、東急不動産株式会社が所有者鳥澤清美との間に、昭和五二年三月一五日代物弁済の予約をし、同日同年二月二六日の保証契約による求償債権について抵当権設定契約を、右保証契約による求償債権の債務の不履行を条件とする停止条件付賃借権設定契約を締結し、同年四月一五日右各契約を原因とし所有権移転請求権仮登記、抵当権設定登記、停止条件付賃借権設定仮登記を経由していること(以上により仮登記担保権を設定したこととなる。)、抗告人はその後の昭和六〇年五月八日所有者矢野義衣との間に本件建物につき期間を三年とする賃貸借契約を締結し、同月九日これを原因とし賃借権設定仮登記を経由したものであることが認められる。
ところで、不動産についての仮登記担保権に後れる短期賃貸借については、民法三九五条は類推適用されないものと解するのが相当であり、仮登記担保権者が自ら担保権を実行した場合にも(最高裁判所昭和五六年七月一七日判決最高裁判所判例集三五巻五号九五〇頁参照)、また、仮登記担保権に後れる第三者の抵当権が実行された場合にもその理にかわりはないものというべきである。すなわち、後者の場合、第三者の抵当権の実行により先順位の仮登記担保権も消滅することにはなるが、それは仮登記に基づく順位保全の効果として、先順位の仮登記担保権者が競売において、短期賃貸借等によって対抗されることのない目的物件として換価された売却代金につき優先弁済請求権を行使することにより競売目的物件の所有権を取得した場合と同程度の満足を受けられるということを前提としているものと解され、買受人もまた同様の前提のもとにこれを買受けたものとみられるからである。
本件において、青梅信用金庫の前記根抵当権の実行によって、これより先順位の前記東急不動産株式会社の本件建物についての仮登記担保権は消滅することにはなるが、抗告人の主張する本件建物についての前記短期賃貸借は前示のとおり右仮登記担保権に後れるものであり、そもそもこれには対抗することのできないものであり、相手方もその前提のもとに本件建物を買受けたことが本件記録上明らかであるから、結局、抗告人は買受人に対し右賃貸借を主張することができず、したがってまた民事執行法八三条所定の引渡命令の相手方に該当するものというべきであって、抗告人の抗告理由はこれを採用することができない。
(中村 篠田 関野)