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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)157号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 原告主張の認定判断の誤り第1点について

1 本件審決が、引用例の第2図には、「電圧の変化により反射表面14の全域が反射した像を連続した可変焦点面内において選択的に焦点合わせするようにした焦点距離可変の鏡、が記載されている」と、また、引用例の第2図記載のものは、「反射表面14の曲率は印加電圧の大きさによつて連続的に変化し、その焦点距離はこの曲率の変化に応じて変化するものと認められる」と認定していることは当事者間に争いがない。

2 光学において一般に「焦点」とは、「回転対称な結像の系の主軸上の点で無限遠に対する共役点」を指し、そこでいう主軸とは、「回転対称な結像の系の対称軸」を指すものであること、焦点距離とは、「回転対称な結像の系の主点と焦点との距離」を指すものであること並びに引用例の第2図に記載された鏡には右のような意味の焦点(以下「一般的な意味の焦点」ともいう。)及び焦点距離は存しないことは、当事者間に争いがない。

他方、非点光線束を生じる円筒鏡においては、線状に光が集束する位置が焦点と呼ばれること、及び、引用例の第2図に記載の鏡が、この意味での焦点(以下「非点光線束について言われる焦点」ともいう。)を有し、その意味での焦点について、「電圧の変化により前記像を前記焦点面内において選択的に焦点合わせされるようにした焦点距離可変の鏡」であることも当事者間に争いがない。

3 ところで、当事者間に争いのない請求の原因二の本願発明の要旨中の「焦点」の語が、右2の一般的な意味の焦点であるか、非点光線束について言われる焦点であるかは、本願発明の要旨そのものからは明らかではない。

しかし、成立について当事者間に争いのない甲第二号証の一、二によれば、本願明細書中の発明の詳細な説明の欄及び図面の簡単な説明の欄には、本願発明の鏡について、「凹面鏡」(甲第二号証の一中の明細書の三頁六行目、五頁五行目、一四頁三行目、同五行目、同九行目)、「鏡の反射面は、最初凹面形であり」(甲第二号証の一中の明細書の五頁八行目)、「部分球状ドーム部」(甲第二号証の一中の明細書の五頁一九行目)、「部分球状の鏡」(甲第二号証の一中の明細書の六頁四行から五行にかけて、九頁六行から七行にかけて)、「部分球状鐘形の反射面」(甲第二号証の一中の明細書の六頁八行目)等回転対称な結像の系であることを示す説明がされているのに対し、本願発明の鏡が、非点光線束について言われる焦点を生ずるような円筒鏡であることを示すに足りる説明はされていないことが認められる。このことと一般的な意味の焦点の定義が前記のとおり「回転対称な結像の系の主軸上の点で無限遠に対する共役点」であることを合わせ考えると、本願発明の要旨における「焦点」も、一般的な意味の焦点であると認めることができる。

4 前記甲第二号証の一、二によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の欄には第7図(本判決別紙本願発明図面中の第7図)及び第8図(本判決別紙本願発明図面中の第8図)の鏡について、「鏡の幅と高さの相違のために、励起状態で高さがかなり部分筒形になつているのがわかる。第8図の具体例では、鏡は凹形を成すが、端子に加えられた電圧の両極性を逆にすることによつて凸面も又部分筒状であるのがわかる。」(甲第二号証の一中の明細書の一〇頁九行から一三行まで)、「第7、8図は、焦点距離可変の部分筒状鏡の透視図」(甲第二号証の一中の明細書の一四頁一八行から一九行まで)との記載があること、及び、本願特許願願書に添附した図面中の第8図には部分円筒形に見える鏡が示されていることが認められる。

しかし、本願明細書の発明の詳細な説明中の前記「鏡の幅と高さの相違のために、励起状態で高さがかなり部分筒形になつているのがわかる。」との記載は、やや趣旨が理解しにくい部分があるが、前記甲第二号証の一によつて認められる「第7図に示した鏡は圧電材料の多層構造で形成され、その構成層32と33は圧電材料の長方形のプレートである。このプレートの高さはその長さより短く、比率では最大で三分の二に等しい。」旨(甲第二号証の一中の明細書九頁一五行から一九行まで)及び「第7図の鏡は静止状態を示している。この鏡は第8図では励起状態で示されている。」(甲第二号証の一中の明細書一〇頁七行から八行まで)との記載に照らせば、本件特許願添附の図面中第8図の鏡は、第7図の鏡の励起状態の図であるが、励起状態で完全な部分円筒形になつているものではなく、第7図の鏡の、幅と高さに違いがあることにより、長方形の鏡の長辺方向(幅)の方が大きく変形し、短辺方向(高さ)の方の変形は小さく、全体として見ると、かなり部分円筒形に近いものになつているとの趣旨であると認められ、前記本願明細書の発明の詳細な説明の欄の、「部分筒形」又は「部分筒状」という語句も、右のような部分円筒形に近いものを略称しているものであり、第8図も部分円筒形に近いものを表しているものと解することができる。したがつて、前記のような第7図、第8図の鏡についての本願明細書の記載及び第8図は、本願発明の鏡が、非点光線束について言われる焦点を生ずるような部分円筒鏡であることを示すものではない。

さらに、前記甲第二号証の一、二によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の欄には第4図(本判決別紙本願発明図面中の第4図)の鏡について、「部分球状鐘形の反射面20が変形して、どのようなオーダの対称軸も持たない部分放物面形となる」(甲第二号証の一中の明細書の六頁八行から一〇行まで)との記載があることが認められるが、右「どのようなオーダの対称軸も持たない部分放物面形の鏡」が、前記の非点光線束について言われる焦点を生ずるものと認めることはできない。

5 引用例の第2図に記載の鏡が、非点光線束について言われる焦点を有し、その意味での焦点について、「電圧の変化により前記像を前記焦点面内において選択的に焦点合わせされるようにした焦点距離可変の鏡」であることは前記2のとおりであるから、前記1の本件審決の認定に誤りはないかのようである。

しかし、同じく「焦点」と言う語であつても、一般的な意味の焦点と非点光線束について言われる焦点があること及びそれらの定義は前記2のとおりであり、それらの定義を対比すれば、両者は別のものであるというほかはなく、両者が同じであることを認めるに足りる証拠はない。本願発明の要旨における「焦点」は、一般的な意味の焦点であることは前記3のとおりであるから、本願発明と対比するために引用例記載のものを認定するにあたつて、特に非点光線束について言われる焦点であることを明らかにすることなく「焦点」という語を使用した本件審決は、客観的には、前記1のように引用例の記載事項を認定するにあたつても、「焦点」の語を一般的な意味の焦点として使用したものと認められる。ところが、引用例の第2図に記載の鏡には一般的な意味の焦点及び焦点距離は存しないことは前記2のとおりであるから、前記1の本件審決の認定は誤りであり、右事実誤認の結果、本件審決は、本願発明と引用例に記載されたものとの対比において、引用例記載のものは、本願発明の「電圧の変化により前記像を前記焦点(一般的な意味の焦点)面内において選択的に焦点(一般的な意味の焦点)合せされるようにした焦点(一般的な意味の焦点)距離可変の鏡」という構成を有していないという相違点を看過誤認したものである。

仮に、前記1の引用例の第2図に記載の鏡についての本件審決の認定において「焦点」の語が、非点光線束について言われる焦点の意味で使用されたものであるとすれば、引用例の記載事項の認定としては誤りはないが、本願発明の要旨の認定の際に使用した一般的な意味の焦点と、引用例の記載事項の認定の際に使用した非点光線束について言われる焦点が別のものであることを看過した結果、本件審決は、本願発明と引用例に記載されたものとの対比において、引用例記載のものは、本願発明の「電圧の変化により前記像を前記焦点(一般的な意味の焦点)面内において選択的に焦点(一般的な意味の焦点)合せされるようにした焦点(一般的な意味の焦点)距離可変の鏡」という構成を有していないという相違点を看過誤認したものである。

三 よつて、本願発明と引用例に記載されたものとの相違点を看過したままに、本願発明は、引用例に記載されたものに基づいて当業技術者が容易に発明をすることができたと判断した本件審決は、原告のその余の主張について検討するまでもなく違法であるからこれを取り消すこととする。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

反射表面の全域が反射した像を連続した可変焦点面内において選択的に焦点合せされるようにした反射表面を有し、鏡の変形によつて焦点が変えられ、該鏡は多層構造をなし、その少なくとも一つの成分は圧電材料で作られ、多層構造全体の厚さは一ミリメートル台であり、多層構造に電圧を与えるために接続された電極を有し、前記多層構造は外側面を有し、前記反射表面はその外側面上に設けられ、このように構成された鏡は外側面を有し、少くとも一つの外側面は多層構造の非励起状態で与えられた曲率を有する少くとも一つの区域を有し、それにより前記電極は端子に接続されて選択的に可変電圧を供給され、電圧の変化により前記像を前記焦点面内において選択的に焦点合せされるようにした焦点距離可変の鏡。(以下、本願発明については、本判決別紙本願発明図面(本願発明の特許願添附の図面中第1図、第3図ないし第10図)参照。)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙 本願発明図面

<省略>

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別紙 引用例図面

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