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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)159号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(出願当初の明細書及び本件手続補正後の明細書における本願発明の各特許請求の範囲)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第四号証によれば、出願当初の明細書及び図面には、本願発明は擂潰魚肉を主原料にした魚肉製品の製造装置に関するものであつて、スケソウ鱈のような比較的安価な擂潰魚肉を主原料にし、常法により一旦加熱凝固させた扁平板状の魚肉ねり製品を細い紐状にカツトしたものを連続的に結束し、かに足の棒肉と著しく類似し、食感及び味覚ともに勝れたかに足の棒肉状の魚肉ねり製品装置を提供することを目的とし、出願当初の明細書の特許請求の範囲記載の構成を採択したものであつて、その実施例は、次のとおりであると記載されていることが認められる。

コンベヤ2の両側に、前側から後側へ順次垂直に配置した第一軸5a、5b、第二軸8a、8b、第三軸11a、11b、第四軸14a、14bのそれぞれに、円板、6a、6b、9a、9b、12a、12b、15a、15bを嵌着固定するが、左右の第一円板6a、6b相互間の間隔H、第二円板9a、9b相互間の間隔J、第三円板12a、12b相互間の間隔K、第四円板15a、15b相互間の間隔Lは、順次狭くなつている。そして、各円板6a、6b、9a、9b、12a、12b、15a、15bの外周には、周方向に沿つて断面円弧状切欠7、10、13、16が設けられ、しかも該円弧状切欠7、10、13、16の中点を通る法線N1、N2、N3、N4と水平面Mとのなす角度X1、X2、X3、X4は、第一円板6a、6bから第四円板15a、15bにかけて漸次小さくなり、第四円板15a、15bにおいては角度X4が零度になるように構成されている。

適当な連動機構により、コンベヤ2、第一円板6a、6b、第二円板9a、9b、第三円板12a、12b、第四円板15a、15bは連動して動くようになつており、各円板6a、6b、9a、9b、12a、12b、15a、15bのコンベヤ2の中心線に近い部分の外周は、前から後に向かつて回動するようになつているが、コンベヤ2の速度より第一円板6a、6bの周速度が速く、第一円板6a、6bの周速度より第二円板9a、9bの周速度が速く、第二円板9a、9bの周速度より第三円板12a、12bの周速度が速く、第三円板12a、12bの周速度より第四円板15a、15bの周速度が速くなつている。

この装置は、次のように作動する。常法により製造した厚さ一ミリ、幅一二センチ程度の加熱凝固させた帯状魚肉ねり製品Tを、切込装置によつて細長い紐状にカツトし上部送りローラー28により平板状にしたもの、すなわち帯状魚肉ねり製品に、櫛歯状の切れ目を入れ、相平行する多数の細長い紐状物からなり全体としては帯状をしたものが、コンベヤ2上に載置される。コンベヤ2に沿つて移動した紐状魚肉ねり製品Tは、第一円板6a、6b間に巻き込まれ、中央に向けて掻き寄せられてU字状となり、幅狭となつて出側から送出される。送出された紐状魚肉ねり製品Tは、第二円板9a、9b及び第三円板12a、12b並びに第四円板15a、15bに順次巻き込まれ、第四円板15a、15bから送出されるときには、ほぼ円形にやや固く結束される(別紙図面(〔編註〕省略)参照)。

2 原告は、本件手続補正は出願当初の明細書及び図面に記載された事項の範囲内でされたものである旨主張する。

出願当初の明細書及び本件手続補正後の明細書の特許請求の範囲が請求の原因二に記載されているとおりであつて、出願当初の明細書の特許請求の範囲における「外周に円弧状切欠を設けた円板」が、本件手続補正後は「側面に円弧状切欠を設けた作動結束具」に変更されていることは、当事者間に争いがない。

そして、前掲甲第四号証によれば、出願当初の明細書の発明の詳細な説明中に開示された実施例は前記1認定のとおりであつて、「外周に周方向に沿つて断面円弧状切欠を設けた円板」であることが明記されており、出願当初の明細書及び図面には、「側面に円弧状切欠を設けた作動結束具」についての記載も示唆も存しないことが認められる。

これに対し、成立に争いのない甲第三号証によれば、本件手続補正後の明細書の発明の詳細な説明中には、第一の実施例として、出願当初の明細書記載の前記実施例中の「第一円板」、「第二円板」、「第三円板」、「第四円板」を、それぞれ「円板状の第一作動結束具」、「円板状の第二作動結束具」、「円板状の第三作動結束具」、「円板状の第四作動結束具」とし、各円板の「外周に」断面円弧状切欠を設けるを、各作動結束具の「外周側面に」断面円弧状切欠を設ける、とした実施例が記載され、第二の実施例として第9図に基づく実施例が記載されているほか、「なおこの発明は、前述した実施例に限定されるものではなく、作動結束具等の具体的な構造等には種々な変形が考えられるものである。」(第一一頁第一〇行ないし第一二行)と記載されていることが認められる。

以上の認定事実によれば、出願当初の明細書及び図面に記載された結束部材は、外周の形状を特定した「円板」に限られているのに対し、本件手続補正後の明細書及び図面に記載された「作動結束具」は、「円板」以外のこれと異なる形状の結束部材をも含むものであつて、特許請求の範囲中の「外周に円弧状切欠を設けた円板」を「側面に円弧状切欠を設けた作動結束具」に変更する補正、及び発明の詳細な説明に「なお、この発明は、前述した実施例に限定されるものではなく、作動結束具等の具体的な構造等には種々の変形が考えられるものである。」との記載を追加する補正は、出願当初の明細書及び図面に記載された事項の範囲を超えるというべきである。

この点に関し、原告は、出願当初の明細書中の「結束」についての記載を引用し、「側面に円弧状切欠を設けた作動結束具」は、出願当初の明細書及び図面に開示されている旨主張する。

しかしながら、前掲甲第四号証によれば、出願当初の明細書において、「結束」の語は、第七頁第一八行から第八頁第七行の「送出された紐状ねり製品は第二円板9a、9bおよび第三円板12a、12b並びに第四円板15a、15bに順次巻込まれ第四円板15a、15bより送出されるときには、ほぼ円形にやや固く結束され……細い紐状のもの同志は捌けることはない。」との記載と、第八頁第一一行から第九頁第八行の「上述した如く本発明に係る製造装置は加熱凝固させた魚肉帯状ねり製品Tに細長い紐状にカツトする切込装置3を設置すると共に切込装置3に連接して紐状ねり製品Tを送るコンベヤ2を配置し、且つ外周に円弧状切欠7、10、13、15を設けた円板6a、6b、9a、9b、12a、12b、15a、15bを前記帯状ねり製品Tを挟むごとくコンベヤ2の左右に対置すると共に該円板6a、6b、9a、9b、12a、12b、15a、15bの出側に剥取板R、……Rを取付けて巻込機構を構成し、しかも該巻込機構を順次幅狭に且つ後方にいくにしたがつて周速度を加速してなる如くコンベヤ2に沿つて複数個配置してなるので、細い線状にカツトされた原料を自動的に結束しかに足棒状の魚肉ねり製品を連続的に能率よく製造することが出来る。」との記載に現れるのみであることが認められ、右認定事実によれば、紐状ねり製品を巻き込み送り出す間に結束を行う部材は、外周の形状を特定した「円板」に限られており、その他の形状の結束部材については示唆すらもなされていないと言わざるを得ない。

したがつて、出願当初の明細書及び図面には「側面に円弧状切欠を設けた作動結束具」が開示されているとの原告の主張は採用できない。

また、原告は、本願発明においては、紐状ねり製品に作動結束具による送りが与えられなければならず、そのためには作動結束具が回転し得るもの、すなわち円板でなければならないから、「作動結束具」は「円板」と実質的に同義である旨主張する。

しかしながら、本件手続補正後の明細書の特許請求の範囲には、作動結束具が紐状ねり製品に送りを与えなければならないとする要件は記載されていない。そして、その作動結束具は、形状についてなんら限定のないものであり、回転によつて紐状ねり製品に送りを与えるという積極的な規定もないのであるから、その形状が円板以外のもので、回転とは異なる作動をするものをも包含すると解せざるを得ないのであつて、原告の主張は当たらない。

このことは、出願当初の明細書の特許請求の範囲に記載されていた「該円板の出側に剥取板を取付て巻込機構を構成し、しかも該巻込機構を順次幅狭に且つ後方にいくにしたがつて周速度を加速してなる」との文言が本件手続補正において削除され、補正後の明細書の特許請求の範囲においては、作動結束具の動きがなんら限定されないものとなつていること、補正後の明細書の発明の詳細な説明の欄に、前記認定の通り、「なお、この発明は、前述した実施例に限定されるものではなく、作動結束具等の具体的な構造等には様々の変形が考えられるものである。」との文言が新たに挿入されていることからも明らかである。

したがつて、「作動結束具」は実質的には「円板」と同義であるとの原告の主張も採用できない。

3 以上のとおり、本件手続補正は、出願当初の明細書に記載された事項の範囲を超えて特許請求の範囲を変更する補正であつて、明細書の要旨を変更するものであるから、これを却下した審査官の決定を是認した審決は正当である。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

1 願書に最初に添付した明細書記載の特許請求の範囲

加熱凝固させた魚肉帯状ねり製品に細長い紐状にカツトする切込装置を設置すると共に切込装置に連接して紐状ねり製品を送るコンベヤを配置し、且つ外周に円弧状切欠を設けた円板を前記紐状ねり製品を挟むごとくコンベヤの左右に対置すると共に該円板の出側に剥取板を取付て巻込機構を構成し、しかも該巻込機構を順次幅狭に且つ後方にいくにしたがつて周速度を加速してなる如くコンベヤに沿つて複数個配置したことを特徴とする魚肉製品の製造装置。

2 本件手続補正後の特許請求の範囲

<1> コンベヤ上を送られるところの加熱凝固させた帯状魚肉ねり製品に櫛歯状の切れ目を入れ相平行するところの多数の細長い紐状物よりなり且つ全体としては帯状をした魚肉ねり製品を作る第一工程と、該櫛歯状の切れ目入り帯状魚肉ねり製品をそのコンベヤ上における走行方向に沿つて順次幅狭になる如く複数個配置した左右の作動結束具の相対向する円弧状切欠により棒状に束ねる第二工程と、棒状に束ねた魚肉ねり製品を任意の長さに切断する第三工程とよりなる魚肉製品の製造方法。

<2> 加熱凝固させた帯状魚肉ねり製品を細長い紐状にカツトする切込装置を設置すると共に切込装置に連接して紐状魚肉ねり製品を送るコンベヤを配置し、且つ側面に円弧状切欠を設けた作動結束具を前記コンベヤ上の紐状魚肉ねり製品を挟むごとく左右に対置し、しかも対置した左右の作動結束具の間隔がコンベヤ上の紐状ねり製品の走行方向に沿つて順次幅狭になる如く複数個配置したことを特徴とする魚肉製品の製造装置。

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