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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)22号 判決

一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

二 前示当事者間に争いのない本願考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本願考案の願書並びに添附の明細書及び図面)、第三号証(昭和五九年七月七日付手続補正書)、第四号証(同年一一月一五日付手続補正書)を総合すれば、本願考案は、マイクロ波の発振にマグネトロンを用いる従来の電子レンジが、大型で重く、これを持ち運んで任意の場所で使用することは到底不可能であることから、容易に携帯可能で、どこででも使用できる電子レンジを提供することを目的として、前示本願考案の要旨のとおり(本願明細書の実用新案登録請求の範囲に同じ。)の構成、殊に、電磁波(これがマイクロ波であることは当事者間に争いがない。)の発振素子として静電誘導トランジスタを採用し、電子レンジの本体全部を折りたたみ得る形状としたことにより、右目的にそう作用効果を奏し得たものとして登録出願されたものであることが認められる。

他方、引用例に審決の理由の要点2摘示のとおりの内容の記載があること及びその「高周波加熱装置」が同3(一)(イ)認定のとおり、本願考案の「電子レンジ」と同義又は等価であることは当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない事実に成立に争いのない甲第五号証(引用例)を総合すれば、引用例には、トランジスタ等からなる固体高周波発振器を加熱室の矩形状の壁に多数分散配置し、更に、発振器同士が互いに他の発振器からのエネルギーによつて発振を停止したり破壊されるのを防止するために、各発振器を時分割作動させるようにした高周波加熱装置(本願考案の電子レンジと同義ないし等価のもの、以下、単に「電子レンジ」という。)が記載されていることが認められる。

三 取消事由(1)及び(3)について

1 まず、本願考案の電子レンジの「本体」及びこれを折りたたむことの意義について、検討する。

(一) 前掲甲第二号証及び第四号証によれば、本願明細書の考案の詳細な説明の項には、「電子レンジの本体は、一般に材質が電磁波の遮蔽物から形成され、…第2図に斜視図を示す如く表面7、裏面7´、左側面8、右側面8´、台9、上面9´から形成され取り入れはどの面を用いてもよい。」(甲第二号証五頁九行ないし一三行)、「その一例を第2図に示した電子レンジの本体6をもとに、第3図(a)、(b)を用いて説明する。電子レンジ6の裏面7´の四側面、即ち、左側面8、右側面8´、台9、上面9´に夫々接する面及び、表面7の上面9´に接する面に蝶番、あるいはこれに類するものを設ける。」(同号証五頁一九行ないし六頁五行)、「電子レンジ6は、電磁波の発振素子として静電誘導トランジスタを本体の一部に有し、不使用時には本体全部を折りたたみ得るように構成されておればよい。たとえば静電誘導トランジスタを上面9´に設ければよく、電源部はどこに設置してもよい。」(同号証六頁九行ないし一〇行及び甲第四号証別紙2項)、「折りたたみの一例は、まず左側面8、右側面8´を裏面7´に合わせ(第3図(a)参照)、次に表面7を上面9´に合わせ、表面7及び上面9´を裏面7´に合わせ(第3図(b)参照)、最後に台9を裏面7´に合わせれば行える。」(甲第二号証六頁一三行ないし一七行)、「まとめ方は蝶番を有したものに限られない。たとえば、静電誘導トランジスタ等を第2図にいう裏面7´に設け、左側面8、右側面8´、台9、上面9´の部分を扇子のように折りたたむ形状に形成し折りたたんでもよい。」(同号証七頁一一行ないし一六行及び甲第四号証別紙2項)、「たとえば電子レンジの本体が、金属の網又は膜のついた袋で形成されたものにも本考案は適用できる。」(甲第二号証八頁三行ないし五行)との各記載があることが認められる。

(二) 右各記載に別紙(一)図面(本願明細書の添附図面の第2、第3図(a)、(b))及び前示本願考案の要旨を総合し、特に本願考案の目的が携帯可能な電子レンジにあつたことを勘案すれば、本願考案の電子レンジの「本体」とは、要するに、電源部を含め電子レンジを形成する壁面全体を指し、その「全部」を折りたたむとは、折り方の如何にかかわらず、電子レンジを形成するすべての壁面を折りたたみ、重ね合わせて、可能な限り薄い一つの層状の形態にまとめることを意味するものと認められる。

なお、電源部の位置につき、「本体」の内であるか外であるかにつき当事者間に争いがあるが、本願考案が立体を形成する電子レンジを一つの層状の形態にまとめて携帯可能にすることにその技術的意義があると認められる以上、電子レンジの一構成部分である電源部がどこの壁面に設けられようと右壁面とともに折りたためない限り、本願考案の技術的意義は失われるのであるから、少なくとも本件においては、その位置を論ずる実益はないものというべきである。

2 そこで次に、本願考案が電子レンジの「本体全部を折りたたみ得るような形状とし、携帯可能に構成した」点(引用例記載の電子レンジとの関係でいえば、加熱室の壁及び加熱室外部に設けられた電源部を折りたたみ得るような形状とし携帯可能に構成すること)の容易推考性について判断する。

(一) 本願考案の電子レンジの「本体」は折りたたみ得る形状をなしているが引用例記載の装置の加熱室の壁はそうでないこと(審決の理由の要点3(一)(ロ))、保管ないし運搬の便を図るために箱体の全体を折りたたみ得る形状構造にすることが技術者一般に良く知られていたこと(同4)は当事者間に争いがなく、また、審決が、右周知事実と引用例の記載(前記二認定のとおり、引用例にトランジスタ等の固体高周波発振器を用いてなる電子レンジが記載されている点)に基づき、引用例記載の装置の「加熱室」の「壁」を折りたたむ点の推考の容易性を肯定し、そのことから本願考案の前記構成がきわめて容易に推考し得たものであるとの結論を導いたものであることは、その理由自体に照らしても明らかである。

(二) そこで、右の周知事実の点について検討するに、技術者一般が、保管ないし運搬の便を図る目的で折りたたみ得る形状構造にしようと考える「箱体」は、通常、その「箱体」をなす物品が、それ自体保管ないし運搬を予定して作られていたり、直接予定されているとまではいえなくとも、その性質や機能から運搬等されることが予想される場合で、かつ、その構造が折りたたむのに適している場合であると考えられるのであつて、少なくとも、その物品が常識上運搬等されることが考えにくい場合や、構造上折りたたむのに格別の困難性が伴う場合は、右のような周知事実が適用される一般論の範疇に属さないことは明らかというべきである。

これを引用例(及び本願考案)に係わる電子レンジについてみるに、その物品としての形状は通常「箱体」をなしているけれども、従来、一般には、電子レンジが大型かつ重量物で、その設置態様は調理室や台所のような特定の場所に、ほぼ移動を予定しない態様で設置されるものと認識されていたものであることは常識的にも肯認できるところであり、そうであれば、これは常識上運搬等されるとは考えにくい物品であるということができるのみならず、これを折りたたむには、発振部、電源部の小型化の問題や折りたたんだ場合の電磁波の漏洩防止手段等に関し格別の技術的困難性があるであろうことは推測に難くないところであるから、電子レンジの折りたたみが前記一般論の範疇に属さないことは明らかである。

仮に、前記周知事実から、携帯可能な電子レンジということに気付いたとしても、右のような技術的困難を克服する具体的な解決手段を伴つた着想でない限り、それは全く単なる思付き又は願望にすぎない。また、電磁波の漏洩防止手段の点は暫く措き、仮に、引用例記載の電子レンジのように、トランジスタを用いることにより、かなりの程度小型化、軽量化をはかることができたとしても、そのことから直ちに前記の一般的な周知技術を適用し、当業者が前記のような従前における電子レンジの利用形態についての既成概念から脱却し、折りたたみによる携帯可能な電子レンジを着想することがきわめて容易であると断ずることは、他にこれを示唆する具体的な先行技術が認められない以上相当ではない。そうであれば、審決が、前記のような一般的な周知技術を単純に適用し、直ちに、引用例記載の電子レンジにおける加熱室の全部の壁を折りたたみ得る形状構造にすることが当業者のきわめて容易に想到し得たものとし、ひいて、本願考案の電源部を含め「本体」全部の折りたたみに関する構成が当業者のきわめて容易に想到し得たものと判断した点は、誤りであるといわざるを得ない。

(三) なお、本訴において被告が提出する成立に争いのない乙第九号証には、加熱室であるオーブンをマグネトロン等を格納する筐体のパネル面にたたみ込めるように構成した高周波加熱装置の考案例が記載されていることが認められるが、右装置は右筐体を壁等に埋め込んで使用するものであつて、もともと携帯を予定するものではなく、本願考案とは折りたたみの目的を全く異にすることは明らかであるから、この考案例をもつて、本願考案の前記構成の推考容易性を認める資料とすることはできない。また、被告は、本願考案の「本体全部を折りたたみ得る形状」には、一つの壁部が不回動・不移動である場合を排斥していないから、右装置も本願考案のいう右形状に包含されるものであると主張するところ、一般に、多面体状の物を折りたたむ際には、必然的にいずれか一つの面に向かつて他の面を折りたたんで行くことになるのであるから、これを、被告主張のようにいずれか一つの面が不回動・不移動であると表現しても誤りとはいえず、その意味では、当然のことながら、本願考案の電子レンジも乙第九号証記載の電子レンジも同様である。しかしながら、本願考案の電子レンジにおいては、前示のとおり、すべての壁面が折りたたみの対象となるのであり、したがつて、右のように、他の面を折りたたんで行くための基準となる壁面は、一つの実施例中においても特定の壁面に固定されるものではなく、折りたたみの度に異なり得るものであることを当然の前提としているものというべきであり、また、この点に関して被告の援用する前記三1(一)認定の本願明細書の記載(甲第二号証六頁一三行ないし一七行、七頁一一行ないし一六行及び甲第四号証別紙2項)や別紙(一)図面記載の図示も、あくまでも折りたたみ方の一例を示すものにすぎず、折りたたみの基準となるべき壁面を特定の面に固定すべきことまで規定したものと解することはできない。これに対し、乙第九号証記載の電子レンジにおいては、前記のような意味では本願考案の電子レンジと同様であるといい得ても、前に認定したところからも明らかなように、オーブンを折りたたんで行くための基準となるべき面は常に筐体のパネル面に限られるものであり、その点では、本願考案の電子レンジとは全く異なるのであつて、これを「本体全部を折りたたみ得る形状」になしたものということはできない。そして、その意味でも、乙第九号証記載の考案例をもつて、本願考案の前記構成がきわめて容易に推考し得たものとする根拠となすことはできないことは明らかというべきである。

(四) 更に、被告は、本願考案は、電子レンジの折りたたみに関する電波漏洩等の技術的問題点を格別考慮することなくなされたものにすぎないものであるから、本願考案における電子レンジの「本体」は、電子レンジという名が付されただけの単なる「箱体」以上のものと解することはできない旨主張するが、電子レンジの折りたたみを可能にするための技術的配慮のひとつは前記二認定のとおり静電誘導トランジスタの採用であり、また、前掲甲第二ないし第四号証の本願明細書によれば、その発明の詳細な説明中には、各面の端部に電磁波遮蔽のための導電ゴム等を用いる点に関する記載もあるのであるから、折りたたみに関する技術的問題点を全く考慮していないものということはできない。

しかして、本願が「電子レンジ」に関する考案として実用新案登録出願されているのに、折りたたみについて伴う技術的事項について考慮がないとの理由で、これを単なる「箱体」以上のものと解することができないのであれば、審査又は審判の段階でその点を十分調査したうえで、むしろ明細書の記載不備又は考案未完成を理由に出願を拒絶すべきであつたことになる。しかるに、特許庁は本願について、実用新案法三条二項により進歩性の欠如を理由に出願を拒絶しており、そのことは、本願が「電子レンジ」の実用新案登録出願として、明細書の不備もなく、考案としても完成しているとの一応の前提のもとに、審査、審判をしたものと解さざるを得ない。

当裁判所としても、本願明細書の記載にもかかわらず、電磁波漏洩の危険性についての疑念は払拭し得ないものがあるが、特許庁が右のように、進歩性の欠如を理由に出願を拒絶した以上、審決取消訴訟構造からくる制約上、明細書記載の不備、考案としての完成の点にふれることなく、右判断の当否のみを判断し、折りたたみによる携帯可能とした点について、「電子レンジ」に関する考案でありながら、その特質を考えることなく一般的な周知事実を安易に適用した誤りを指摘したのである。

したがつて、審決取消訴訟の現段階において、本願考案の電子レンジの「本体」を単なる「箱体」と同視して審決の支持を求める被告の主張は採用することができない。

(五) そうであれば、原告主張の取消事由(1)及び(3)は理由がある。

2 そして、右誤りはその結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、原告のその余の主張について判断するまでもなく、審決は違法として取り消されるべきである。

三 よつて、原告の本訴請求を認容することとする。

〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。

不使用時には本体全部を折りたたみ得る形状になした電子レンジの本体の内部の一部に電磁波の発振素子として静電誘導トランジスタを設け、携帯可能に構成したことを特徴とする電子レンジ。(別紙(一)図面参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙(一)

<省略>

(以下省略)

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