大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)37号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実及び本願発明の要旨が審決認定のとおりであり、引用例に審決認定の事実が記載されていることは、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告ら主張の審決取消事由について検討する。

1 請求の原因四1、2について

本願出願前に「磁路を形成する鉄心と、この鉄心と電磁的に結合する巻線と、上記鉄心および巻線を収納する上部タンクおよび下部タンクとを備えたものにおいて、上記鉄心を上記巻線から解体しうる変圧器」が周知のものであつたことは、当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第九号ないし第一二号証により認められる昭和五八年一〇月七日付、同年一二月二九日付、昭和五九年一〇月二四日付各手続補正書による補正後の本願明細書及び図面(以下、この補正後の明細書を図面を含め、「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明の項には、右周知の変圧器の輸送包装方法につき、「変圧器を据付現地まで輸送する場合、容量の大形化に伴ない組立た状態ではその寸法や重量が鉄道、道路等の輸送限界を超過する場合が多くなつてきている。このような変圧器では一輸送単位の寸法を小さくしたり、重量を軽くしたりするために工場で組立完成して試験を終えたものを分解して分割輸送しなければならない。このように変圧器を分解して輸送する場合には輸送中、および現地組立作業中における巻線の吸湿が大きな問題となり、これを防止することが重要な課題となるわけである。この為、巻線を別に用意した容器に密閉収納して輸送する包装方法が従来から開発されている。」(甲第一〇号証(訂正)明細書一頁下から七行~二頁五行、甲第一一号証二頁補正の内容(2))とし、この従来の輸送包装方法につき、前示周知の変圧器である外鉄形変圧器を例にして、「このように構成された変圧器を現地に輸送する場合、工場における試験終了後、第2図に示すようにまず上部タンク(4)を取り外し、次に鉄心(2―a)、(2―b)、(2―c)、(2―d)、(2―e)、(2ーf)、(2―g)、(2―h)を分解して取り外す。最後に巻線(1)を下部タンク(3)より取り外して別に用意した輸送容器(図示せず)に密閉収納して据付現地へ輸送する。」(甲第一〇号証(訂正)明細書二頁一三~二〇行)と説明し、次いで、「据付現地にて再組立する場合は工場にて分解するのと逆の順序で行なえばよく、まず巻線(1)を輸送容器から取り出し、別途輸送されてきた下部タンク(3)へ挿入するのであるが、巻線(1)が重量物であり、取り扱いには揚重設備を要することと工場組立と同様の組立精度を再現する必要性から巻線(1)の下部タンク(3)への挿入作業は長時間を必要とする。このため挿入作業中に巻線(1)は吸湿してしまうので従来の包装方法によれば現地において再乾燥を行なわねばならないという欠点を有していた。」(同二頁二〇行~三頁一〇行)として、従来方法を欠点を指摘し、これに続いて、本願発明の目的を「この発明は上記従来の欠点を解消するためになされたもので、鉄心を巻線から解体し巻線を下部タンクに収納したままで上方部を別に用意した容器で覆つて輸送することにより、現地における巻線の下部タンク挿入作業を不要として吸湿防止を可能とする変圧器の包装方法を提供することを目的としている。」(同三頁一一~一六行、甲第一二号証二頁補正の内容(2))と説明していることが認められる(別紙図面参照)。

右の説明と前示当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲の記載によれば、本願発明は、右周知の変圧器を鉄心と巻線に分解して輸送する場合に、従来方法は、巻線を下部タンクから取り外して別に用意した輸送容器に密閉収納して据付現地へ輸送していたのに対し、「巻線を下部タンクに収納したままで上方部を別に用意した容器で覆い上記上部タンクとは別々に輸送する」ようにし、もつて、従来方法の欠点を解消し、「現地における巻線の下部タンク挿入作業を不要として吸湿防止を可能にした変圧器の包装方法を提供すること」ができる効果を奏するものであることが認められる。

一方、引用例に審決がその理由の要点2において認定した事実が記載されていることは、前示のとおり当事者間に争いがない。この事実と成立に争いのない甲第二号証によれば、引用例には、組立てた状態ではその寸法や重量が鉄道、道路等の輸送限界を超過する大容量変圧器を輸送する場合に、この大容量変圧器をこれを構成する単位変圧器ごとに分割し、これを一輸送単位として輸送用タンクに収納して輸送する方法が示されており、この輸送包装方法は、複数の単位変圧器によつて構成される大容量変圧器を対象とし、これを単位変圧器ごとに分割し、この単位変圧器を一輸送単位として輸送包装する方法である点で、鉄心と巻線及び上部タンクと下部タンクとが分解できる変圧器を対象とし、これらの各々を各別に、あるいは巻線を下部タンクに収納したままで一輸送単位として輸送包装する本願明細書に記載されている従来方法及び本願発明の方法と異なるものではあるが、いずれの方法も、本願明細書中の前示認定の記載に示す「変圧器を据付現地まで輸送する場合、容量の大形化に伴ない組立てた状態ではその寸法や重量が鉄道、道路等の輸送限界を超過する場合が多くなつてきている」事情の下で、「このような変圧器では一輸送単位の寸法を小さくしたり、重量を軽くしたりするために工場で組立完成して試験を終えたものを分解して分割輸送しなければならない」必要上、変圧器を輸送事情に適合する寸法、重量の輸送単位に解体した上これを包装して輸送し、現地で組立てる変圧器の輸送包装方法である点で軌を一にするものであることが認められる。

右事実によれば、審決が本願発明と引用例に記載された事項を対比し、「両者は、変圧器を必要に応じて分割し、包装して輸送し、現地で組立てる変圧器の輸送包装方法の点で軌を一にするもの」と認定したことは正当であつて、この点に原告ら主張の誤りはないことが明らかである。

原告らは、審決が用いている「分割」との用語は、当該技術分野においては、引用例の方法のように鉄心と巻線とを分解しない組立輸送方式において、一台の変圧器を三個又は六個に区分することを意味し、本願発明のように鉄心と巻線とを分解する分解方式と右組立輸送方式とは峻別されるべきである旨主張し、引用例を本願発明の先行技術とみた審決を論難する。しかし、組立輸送方式といい分解輸送方式といつても、組立てた状態では輸送限界を超過する変圧器を輸送事情に適合する寸法、重量の輸送単位に解体した上これを包装して輸送する方法であることに変りはなく、本願明細書においても、前示認定の「工場で組立完成して試験を終えたものを分解して分割輸送しなければならない。」との記載が示すとおり、分解輸送方式の従来方法を説明するについて「分割輸送」の用語を用いているのであつて、この事実に照らしても、原告らの右主張が採用できないことは明らかといわなければならない。

原告らは、また、引用例のものは本願発明の技術的課題を有しない旨主張する。しかし、原告らが本願発明の技術課題として主張する「工場で確認された電気絶縁性能等の品質を維持するとともに、巻線において問題となる吸湿防止等を確実に行うこと」は、工場で組立てて試験を終えた変圧器を輸送単位に解体して包装し輸送する場合に当然考慮すべき一般的な技術課題であつて、分割組立輸送方式であると分解輸送方式であるとにより差異がないことは成立に争いのない甲第三、第四、第六号証に照らしても明らかであり、前示甲第二号証によれば、引用例の方法において単位変圧器を輸送用タンクに収納して輸送する際、吸湿防止用シートを用い、輸送用タンク内にドライエアーやチツ素等を封入して吸湿防止を確実にする方策をとつていることが明らかであるから、引用例のものと本願発明とがその技術課題を異にするものということはできない。

その他審決に原告ら主張の相違点の看過があることを認めるに足りる証拠はない。

2 同四3について

原告らは、審決が「本願発明におけるような巻線と鉄心を組立分解自在とし、それを上下よりなるタンクに収納した変圧器は周知のものであり」と認定したことを論難しているが、前示認定の本願明細書の記載に徴すれば、審決は、被告の述べるとおり、「磁路を形成する鉄心と、この鉄心と電磁的に結合する巻線と、上記鉄心および巻線を収納する上部タンクおよび下部タンクとを備えたものにおいて、上記鉄心を上記巻線から解体しうる変圧器」が本願出願前周知のものであることを述べていることが明らかである。

そして、右変圧器が本願出願前周知のものであることは当事者間に争いがないから、原告らの右主張は理由がない。

3 同四4、5について

前叙のとおり、本願発明は、前示周知の変圧器を鉄心と巻線に分解して輸送する従来方法が巻線を下部タンクから取り外して別に用意した輸送容器に密閉収納して据付現地へ輸送していたのに対し、「巻線を下部タンクに収納したままで上方部を別に用意した容器で覆い上記上部タンクとは別別に輸送する」構成を採用したものである。

ところで、前示甲第三、第六号証、成立に争いのない甲第一三号証の一ないし五によれば、変圧器を工場で組立てた状態のまま輸送することができれば、「絶縁の信頼性、工事期間の短縮、組立室の節約など性能上および経済上の利益が大きい。しかし、輸送限界により分解しなければ輸送できないものもあるので、組立輸送と分解輸送の二つの方法がある」(甲第三号証二六一頁一四~一八行)こと、「変圧器の中身(鉄心と巻線)を組立てたまま輸送し、現地で再乾燥を要しない方法を組立輸送と呼ぶ」(同二六一頁一九~二二行)が、組立輸送においても、「容量が大きくなるに従つて、ブツシング、コンサベータ、放熱器などの付属品を解体し、中身のみを主タンクに油漬けして輸送する」(同二六二頁一~三行)場合があり、「さらに容量が大きくなると、下部タンクに中身を入れ輸送用のカバーを使用し、寸法重量を極力小さくする方法をとる」(同二六二頁三、四行)場合があること、「鉄心、巻線を分解して輸送し、現地で組立の上再乾燥を行なうものを分解輸送と呼ぶ」(同二六二頁一一、一二行)ことが本願出願前当業者にとつて周知の事実であり、また、前示甲第四号証によれば、超高圧大容量の変圧器を分解輸送した場合に、「巻線中、高圧巻線は、各相毎にシキ一五二号車を用いて、特別の函に入れて直立のまゝで落し積みして送つた。他の巻線は高さが輸送制限以上に高い為一本毎に角函に納め横置にして、防震装置を施した上、窒素漬で輸送した。鉄心は各脚毎に組立てたまゝ輸送函に納めて輸送した。その他の部品は適当に組合せて発送した」(同号証三九五頁左欄下から五行~右欄二行)例が報告されていることが認められる。

右事実によれば、分割組立輸送においても、分解輸送においても、絶縁性の信頼、工事期間の短縮など性能上及び経済上の利益をなるべく損わないように、構成部品の組合せを考えた上一輸送単位の寸法重量を輸送制限内に収めるようにすることは、当業者にとつて自明の周知技術であつたことが明らかである。そして、本願明細書中の前示認定の記載及び成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によれば、本願発明の対象として例示されている外鉄形変圧器において巻線は絶縁物とともに組上げられて下部タンクの底部に支持固定されるものであることが認められるから、右変圧器を巻線と鉄心とに分解して輸送するに当たり、巻線を下部タンクに収納したままで、その寸法、重量が一輸送単位として輸送制限内に収まる場合には、巻線を下部タンクから取り外して別に用意した輸送容器に収納し直すことをせずに、巻線を下部タンクに収納したままで、上方部のみを輸送中における破損や吸湿を防止するため別に用意した輸送用容器で覆い、これを一輸送単位として、上部タンクとは別々に輸送することとし、本願発明の構成を得ることは、前示自明の周知技術に照らし、当業者が容易に想到できる程度のことであると認めるのを相当とする。また、このようにすれば、据付現地において巻線を下部タンクに挿入し直さなければならないことによつて生じる各種の不利益を解消でき、本願明細書中の前示認定の記載に示されている「現地における巻線の下部タンク挿入作業を不要として吸湿防止を可能にした変圧器の包装方法を提供すること」ができることは当然予期できる効果であると認められるから、本願発明の効果は格別のものということはできない。

原告らは、変圧器を輸送するに当たつて、重量制限の問題があつたとして、巻線と鉄心とが組立分解可能であつたとしても、変圧器がタンクその他の多くの構成部品からなるのに、まず鉄心を分解して取りはずすことが何故採択されるのか、その必然性は認められない旨主張するが、この点は本願明細書に示されている従来方法においてすでに採択されていた点であることは前叙のとおりであり、本願発明で初めて採用された方法ではないから、原告らの右主張は理由がない。その他原告らが主張するところがいずれも採用に値しないことは、右の説示に照らし明らかである。

4 以上のとおり、原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にこれを取り消すべき違法の点は見当たらない。

三 よつて、原告らの本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

磁路を形成する鉄心と、この鉄心と電磁的に結合する巻線と、上記鉄心および巻線を収納する上部タンクおよび下部タンクとを備えたものにおいて、上記鉄心を上記巻線から解体し上記巻線を下部タンクに収納したままで上方部を、別に用意した容器で覆い上記上部タンクとは別々に輸送することを特徴とする変圧器の包装方法。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!