東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)45号 判決
一 請求の原因一、二の事実並びに審決がその理由の要点1、2で認定した事実及び同3で認定した事実中、本願意匠と引用意匠とは意匠に係る物品が同じであること、両意匠の共通点の認定のうち両意匠がフランジの凸弧状の部分にボルトナツトを挿入していることを除く部分及び差異点の認定のうち、継手本体のもう一方(下方部分)において、本願意匠はフランジと一体であり、かつ外周面に螺子溝が形成されているのに対し、引用意匠は上方部分の本体と上下対称であること、この点は主に螺子溝の有無とテーパの有無であり、その高さは両意匠ともほぼ同じであり、用途において相違があるものの、この種の意匠においてこの種の本体は、他にもみられるところであつて、本願意匠のみの特徴ではなく新規性はないこと及びフランジにおいて外周端部の内側を薄肉状として切欠している部分が本願意匠にはあるのに対し、引用意匠にはこのような態様がないことは、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
1 取消事由(1)について
成立に争いのない甲第一号証(審決謄本)によれば、審決には、本願意匠と引用意匠との共通点の認定の項において、「分厚い円形板の外周端の三方を小半円状に凸孤(弧)状とし、この凸孤(弧)状の部分にボルトナツトを挿入して、上下略対称状に形成している。」、「分厚い円形板の三方を凸孤(弧)状に形成してボルトナツトを挿入している点は顕著な共通感がある。」と記載されていることが明らかである。
しかしながら、それぞれ本願意匠と引用意匠とを示した図面であることが当事者間に争いのない別紙第一、第二によれば両意匠とも上下円形板の凸弧状の部分の穴に上方からボルトを挿入し、下方からナツトで止着していることは明らかであるから、前記審決の「ボルトナツトを挿入して」の記載は、「ボルトを挿入し、ナツトで止着して」の誤記であることが明らかである。したがつて原告の取消事由(1)の主張は採用できない。
2 取消事由(2)について
継手本体のもう一方(下方部分)において、本願意匠はフランジと一体であり、かつ、外周面に螺子溝が形成されているのに対し、引用意匠のそれは上方部分の本体と上下対称で、テーパ状に形成されている点に差異があることは、前叙のとおり当事者間に争いがない。しかしながら、その高さは両意匠ともほぼ同じであり、この種意匠において本願意匠の本体は新規性がないことは前叙のとおり当事者間に争いがなく、また、継手本体部分は相対する管に応じて必然的にその構造が決まるところであり、使用状態においては管体の内側にかくれてしまうところであると認められる。したがつて、本願意匠を全体として見ると、前記差異点は部分的な差異にとどまるものと認められ、これと同旨の審決の認定に誤りはない。
原告は、管継手の意匠は管体に取り付けた状態ではなく、管体に取り付ける以前の管継手自体の意匠について美的判断を行わなければならない旨主張するが、継手本体部分は、前叙のとおり相対する管に応じて必然的にその構造が決まるもので、使用状態においては管体の内側にかくれてしまうところであるから、管体に取り付ける以前の管継手自体を当業者が見ても意匠上特に注意を引くところとは認められない。
したがつて、原告の取消事由(2)の主張は採用できない。
3 取消事由(3)について
原告は、本願意匠の要部はフランジにおいて外周端部の内側を薄肉状として切欠している部分の態様にあり、右態様は新規で顕著性がある旨述べる。しかし、成立に争いのない甲第九号証、乙第九号証の一ないし三及び乙第一〇号証の一ないし三によれば、管継手においてフランジの外周端部の内側を薄肉状に切欠した形態は本願意匠登録出願前周知の形態であつたことが認められ、本願意匠を全体的に観察した場合にも、本願意匠の前記形態が見る人の注意を最も引くとは認められず、原告の右主張は採用できない。原告は、右乙第九号証の一ないし三及び第一〇号証の一ないし三は審判時に表われなかつた証拠で本件訴訟の証拠にはならない旨主張するが、右各書証を本願意匠の要部を把握するための資料とすることを妨げる理由はないから、原告の右主張は採用できない。
また、原告は、本願意匠の右薄肉状切欠部は、フランジの凸弧状の部分の幅の約二倍の長さを有し、フランジの厚味のほぼ全域にわたつて広範囲に施されており、正面、背面、左側面、右側面及び斜め上方、斜め下方から目視でき、右薄肉状切欠部分が形成する斜面に受ける光線が反射してフランジを奥行のある立体的な優雅な美感と軽量感とを看者に与えるので本願意匠は引用意匠とは類似しない旨主張する。本願意匠を示した図面であることが当事者間に争いのない別紙第一及び成立に争いのない甲第九号証によれば、右薄肉状切欠部分のフランジに占める範囲が原告指摘のとおりであり、これを正面等六方から目視できることも原告の指摘するとおりであることが認められる。しかし、右薄肉状切欠部分が形成する斜面が光線を反射するか否かは、フランジの材質、斜面の形状(平滑性)等により強く影響を受けることは明らかであるところ、前掲別紙第一の図面及び本件証拠上から右薄肉状切欠部分が必ず光線を反射するとは認めることができない。したがつて、「本願意匠の切欠部分は、外周面にこれが表われているものの、その部分が薄肉状となつているのみで、この点も全体的な印象を左右する程のものではない細部的なものであ」るとした審決の判断は誤りとはいえないから、原告の右主張は採用できない。原告は、そもそも本願意匠の常に目視できる状態にある前記薄肉状切欠部分と引用意匠のフランジの内側の目視することが不可能な長い繭状切欠部分とを対比している審決は対比すべき対象を誤つている旨主張するところ、前記当事者間に争いのない審決の理由の要点によれば、審決が本願意匠の薄肉状切欠部分と引用意匠の長い繭状切欠部分とを対比していることは明らかである。しかし、引用意匠を示した図面であることが当事者間に争いのない別紙第二の「使用状態を示す参考断面図」によれば、使用状態においても引用意匠の上下のフランジ間には隙間があり、右長い繭状の切欠を目視することが不可能ではないと認められるから、審決が対比すべき対象を誤つたとはいえない。したがつて、原告の右主張も採用できない。
更に、原告は、審決が顕著な共通感のある部分として認定したフランジにおいて上下僅かな間隔をおいて分厚い円形板の三方を凸弧状に形成している(上方からボルトを挿入し下方からナツトで止着している)形態は本願意匠出願前に公知の意匠であるから要部とはいえない旨主張し、前掲甲第九号証、成立に争いのない甲第一〇号証によれば、右形態は本願出願前公知であつたことが認められる。しかし、意匠の構成のうちのある部分が公知であるとしても、前記審決認定の形態のように、当該意匠全体の支配的部分を占め、意匠的まとまりを形成し、見る人の注意を最も引くときは、なお右公知の部分も意匠上の要部と認められるのであつて、意匠のうちの公知の部分は意匠の要部になり得ないとはいえないから、原告の右主張は採用できない。
したがつて、原告の取消事由(3)の主張は採用できない。
4 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にこれを取消すべき違法の点は見当らない。
三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註その一〕 本件に関する特許庁における手続の経緯および審決理由の要点は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五四年五月四日、意匠に係る物品を「合成樹脂管継手」とする別紙第一記載の意匠(以下「本願意匠」という。)につき、意匠登録出願をした(同年意匠登録願第一八〇〇〇号)が、昭和五六年三月三一日に拒絶査定を受けたので、同年六月二四日、これに対し審判の請求をした。
特許庁は、これを昭和五六年審判第一二九九四号事件として審理し、昭和六二年一月一四日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年二月二五日原告に送達された。
二 審決の理由の要点
1 本願の意匠は、意匠に係る物品を「合成樹脂管継手」とし、その形態を別紙第一に示すとおりとしたものである。
2 これに対し、本願意匠の出願前である昭和四八年一二月一〇日特許庁が発行した意匠公報掲載の意匠登録第三七三九四四号意匠は、意匠に係る物品を「合成樹脂管用管継ぎ手」とし、意匠に係る形態を別紙第二に示すとおりとしたものである(以下「引用意匠」という。)。
3 両意匠を対比して検討すると、両者は意匠に係る物品が同じものであり、次に両者の形態においては、次のような共通点及び差異点が認められる。
まず共通点としては、フランジにおいて、分厚い円形板の外周端の三方を小半円状に凸弧状として、この凸弧状の部分にボルトナツトを挿入して、上下ほぼ対称状に形成している。次に継手本体の一方において、中空のほぼ円錐台形状に形成しているなどであり、これらの共通点によつて、両意匠の外郭の大勢が形勢され、特に上下わずかな間隔をおいて分厚い円形板の三方を凸弧状に形成してボルトナツトを挿入している点は顕著な共通感がある。
一方差異点としては、継手本体のもう一方(下方部分)において、本願意匠はフランジと一体であり、かつ外周面に螺子溝が形成されているのに対し、引用意匠は上方部分の本体と上下対称である。この点は主に螺子溝の有無とテーパの有無であり、その高さは両意匠ともほぼ同じであり、用途において相違があるものの、この種の意匠においてこの種の本体は、他にもみられるところであつて、本願意匠のみの特徴ではなく新規性はなく、全体的な外観においては意匠上部分的な差異点に止まるものであり、その他この付近において、パツキングの有無などの点は内部構造上のこととして(断面図によつて初めて判明する)外観に表われておらず、意匠上においては微弱なものである。次にフランジにおいて、外周端部の内側を薄肉状として切欠している部分が本願意匠にはあるのに対し、引用意匠にはこのような態様がなく、これに該当するものとして引用意匠のフランジの内側は長い繭状に切欠(彫り)しているが、本願意匠の切欠部分は、外周面にこれが表われているものの、その部分が薄肉状となつているのみで、この点も全体的な印象を左右する程のものではない細部的なものであり、以上の共通点と差異点とを総合して両意匠を全体として観察するとき、前記共通点による全体的な外郭形態は顕著であつて、諸差異点の集約をもつてもこの共通点に勝るまでには至らず、いまだ両者はその特徴を同じくするものであつて、両意匠は類似の範囲内のものと認める。
4 したがつて、本願の意匠は、意匠法三条一項三号に規定する意匠に該当し、登録することができない。
〔編註その二〕 本件に関する別紙は左のとおりである。
別紙第一 本願の意匠
意匠に係る物品 合成樹脂管継手
<省略>
<省略>
別紙第二 引用の意匠
意匠に係る物品説明 合成樹脂管用継ぎ手
左側面図は右側面図と対称にあらわれる
<省略>
<省略>
別紙第三
本願意匠の説明書
一 上下に隙間を存して部厚い円形板1と1とを対向して設け、各円形板の外周端の三方に小半円状に凸弧状の部分2、2、2を設け、
二 対向する凸弧状の部分2と2にあけた穴に上方よりそれぞれボルト3を挿入して下方の円形板の下方よりボルト3にナツト4をねじ付けて上下の円形板1と1を固定する。
三 5は、上方の円形板1の上方に一部を突出して設けた合成樹脂管接続用中空の円錐台形状の心金(テーバーコア)であり、6は下方の円形板1に突設した金属管接続用螺子溝(おねじ)である。
四 7、7、7は、上下の円形板1と1との対向面間であつて三本のボルト3と3と3の間の対向面間における全隅縁部にそれぞれ両端部を内側に向けて円弧状に彎曲させ内側より外側面に向かつて鋭敏な傾斜面に形成した薄肉状部であり、
五 8は心金(テーバーコア)5と下方の円形板1との間に介在させた断面<省略>形のゴム製パツキングである。