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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)77号 判決 1988年9月19日

原告(選定当事者)

宮川淑

原告(選定当事者)

氏家義一

被告

千葉県選挙管理委員会

右代表者委員会

須賀利雄

右訴訟代理人弁護士

鎌田久仁夫

右指定代理人

本橋誠

渡辺雅則

主文

原告らの請求を棄却する。

但し、昭和六二年四月一二日に行われた千葉県議会議員選挙の市川市選挙区における選挙は違法である。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

(原告)

一  昭和六二年四月一二日に行われた千葉県議会議員選挙のうち、市川市選挙区における選挙を無効とする。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

一  本案前の答弁

1 本件訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

二  本案の答弁

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  当事者

原告選定者らは、昭和六二年四月一二日に行われた千葉県議会議員選挙(以下「本件選挙」という。)の市川市選挙区における選挙人であり、被告は本件選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会である。

2  原告らの異議申出に対する被告の決定

原告らは昭和六二年四月一六日、被告に対し、本件選挙のうち市川市選挙区における選挙を無効とする旨の決定を求め、公職選挙法(以下「公選法」という。)二〇二条一項に基づき異議申出をしたが、被告は同年五月一五日原告らの異議申出を却下する決定をした。

3  本件選挙の違憲・違法性

(1) 地方公共団体の議会の議員の選挙に関し、当該地方公共団体の住民は、選挙権行使の資格のみならず、選挙権の内容すなわち投票価値においても平等に取り扱われるべきである。公選法一五条七項の各選挙区への議員定数の配分に当たっての人口比例の規定は、憲法一四条一項その他が要求する選挙権の平等を実現するものであるから、議会が条例で議員定数の配分を決める場合、その裁量権の行使は、無制約な自由裁量ではなく、正当に考慮することのできる政策目的ないし理由がない以上は、人口比例原則を遵守しなければならないものである。

ところで、投票価値は、各選挙区ごとに選挙人数に対する議員定数の配分で決せられるところ、公選法一五条七項の人口比例原則を測る基準としては、①各選挙区の議員一人当たりの人口の比較、②各選挙区の定数と人口比例定数とのずれの存否、③人口比例に全く逆行する逆転現象の存否の三基準が用いられている。

まず、①の基準に照らすと、議員一人当たり人口が最も少ない海上郡選挙区と他の選挙区を比較すると、別紙第一表のとおりである。すなわち、鎌ケ谷市選挙区との較差は一対3.98もあり、この較差を最大とし、海上郡選挙区に対し較差が二倍以上の選挙区は二一ある。また、特例選挙区を除き議員一人当たり人口が最も少ない長生郡選挙区を基準として他の選挙区を比較すると、別紙第一表のとおりその最大較差は鎌ケ谷市選挙区との一対2.81となる。しかし、その合理的理由については何ら明らかにされていない。

②の基準に照らすと、議員定数が人口比例配分に合致しない選挙区は、別紙第二表のとおり一五に達しており、右のうち定数二以上の選挙区は一二ある。定数が二以上の選挙区間において議員定数の配分を人口比で行いえない理由は全くないはずである。

本件選挙における議員の定数を定めた「千葉県議会議員の定数を減少する条例(昭和五三年千葉県条例第五三号)」及び「千葉県議会議員の選挙区等に関する条例(昭和四九年千葉県条例第五五号)」(以下これらを合わせて「本件条例」という。)の改正により人口比例を緩和した選挙区としては増員した選挙区が七、減員した選挙区が五あるが、いずれも特別の事情はみられない。

特に原告らの居住する選挙区である市川市選挙区においては、人口比例定数と比較し、定数が二過少となっているが、昭和六一年の本件条例改正の際、右の各選挙区で人口比例を緩和すべき「特別の事情」は何ら開示されていない。被告の主張は、議員を地域利益の代弁者とみなしたうえ、行政需要への対応として議員の配分を把握するものであるが、人口過密な首都近郊内地域の行政需要の増大を無視し、選挙区の事情説明を不要とし、何故に近郊内地域について人口比以下の議員定数でよいのかその理由を示していない。このような把握は、人口過疎地と人口過密地とがそれぞれ持つ行政需要を科学的・客観的に比較考量したものではない。

次に③の基準に照らすと、逆転現象は三一通りとなり、逆転区間の議員一人当たりの人口較差は別紙第三表のとおりとなる。

(2) 各選挙区への議員定数配分の人口比例を充足するためには、議員一人当たりの人口の最大較差を一定の数値内に納めるだけでは不十分であり、各選挙区ごとの実定数と人口比例定数とのずれがないよう、また、逆転現象を解消するよう配慮する必要がある。

ところが、昭和六一年の本件条例改正の結果、各選挙区の人口比定数と実定数の較差は改正前より拡大し、千葉市と市川市においてはマイナス一がマイナス二に拡大している。千葉県議会議員の総定数は地方自治法九〇条一項の規定により一〇五人が限度であるから、投票価値の平等実現を歪めてまで八五人にとどめなければならぬ理由は全くない。

(3) 海上郡他二選挙区を特例選挙区として存続する合理的理由は全くない。すなわち、右の選挙区は島でもなく、他の選挙区と合区することが困難とされるような客観的条件はなく、特例選挙区を廃止しても当該選挙区は他の選挙区と合区されるだけで、地域の代表が不在になるわけではなく、行政区画が変更されるものでもないから、行政サービスが低下するわけではない。したがって、住民の参政権の平等という高い価値の実現のためには合区を行うべきが当然である。しかるに本件条例の改正は、右の特例選挙区を存続させたままで、昭和六〇年の国勢調査人口の結果に基づき議員一人当たり人口の多い選挙区から順に定数を一人づつ合計六名増加する手法をとったため、本来増員する必要のない浦安市選挙区の定数を増員する結果となり、同選挙区の定数は人口比例定数を一人超え公選法一五条七項適用区となるという不合理が生じたのである。

二  被告の認否

原告の主張1、2は認める。同3のうち、別紙第一ないし第三表記載の事実は認めるが、その余は争う。

三  被告の主張

別紙のとおり

四  被告の主張に対する原告の認否

第二の三、四の事実は認めるが、その余は争う。

第三  証拠関係<省略>

理由

第一本件訴えの適法性について

一原告らの請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二被告の本案前の主張に対する判断

被告は、本件のような訴訟につき原告勝訴の判決がされても定数配分を是正して再選挙を施行することはできないから、本件訴えは訴えの利益を欠くと主張する。

しかし、地方公共団体の議会の議員の定数配分を定めた条例の規定(以下「定数配分規定」という。)自体の違憲・違法を理由とする地方公共団体の議会の議員の選挙の効力に関する訴訟が公選法二〇三条の規定による訴訟として許されることは明らかであり、定数配分規定の違憲・違法を理由として選挙を無効とする判決がされた場合には、速やかに定数配分規定を改正したうえこれに基づく適法な選挙を施行すべきものと解されるから(地方自治法九〇条四項はこのように解することの妨げとならない。)、本件訴えが訴えの利益を欠くものとはいえない(最高裁大法廷昭和五一年四月一四日判決・民集三〇巻三号二二三頁、最高裁大法廷昭和五八年一一月七日判決・民集三七巻九号一二四三頁、最高裁第一小法廷昭和五九年五月一七日判決・民集三八巻七号七二一頁、最高裁第一小法廷昭和六〇年一〇月三一日判決・裁判集民事一四六号一五頁参照)。よって、被告の右主張は理由がない。

第二本件定数配分規定の適否について

一原告らは、本件定数配分規定は憲法上の投票価値の平等の要請、公選法一五条七項の人口比例の原則に反すると主張する。

公選法一五条七項は「各選挙区において選挙すべき地方公共団体の議会の議員の数は、人口に比例して、条例で定めなければならない。ただし、特別の事情があるときは、おおむね人口を規準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができる。」と規定しており、地方公共団体の議会は定数配分規定を定めるに当たり、同項ただし書の規定を適用し、人口比例により算出される数に地域間の均衡を考慮した修正を加えて選挙区別の定数を決定する裁量権を有することが明らかである。そして、定数配分規定が公選法一五条七項の規定に適合するかどうかについては、地方公共団体の議会の具体的に定めるところがその裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決するほかはない。

ところで、憲法一四条一項の規定は、地方公共団体の議会の議員を選挙する住民の権利(憲法九三条二項)につき、選挙人資格における差別の禁止にとどまらず、その選挙権の内容の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものと解すべきである。そして、公選法一五条七項は、憲法の右要請を受け、地方公共団体の議会の議員の定数配分につき、人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求しているものと解される。したがって、定数配分規定の制定又はその改正により具体的に決定された定数配分の下における選挙人の投票の有する価値に不平等が存し、あるいは、その後の人口の変動により右不平等が生じ、それが地方公共団体の議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、右のような不平等はもはや地方公共団体の議会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、公選法一五条七項違反と判断されざるを得ないものというべきである(前掲最高裁第一小法廷昭和六〇年一〇月三一日判決参照)。

しかして、公選法一五条二項、三項は、人口が特に少なく、同条一項の原則によって独立の選挙区とするのが適当でない場合につきいわゆる強制合区、任意合区を行うべき旨を定めているが、一方、同法二七一条二項は、昭和四一年一月一日現在において設けられている選挙区については、その配分基数が0.5に達しなくなった場合でも、当分の間一五条二項の規定にかかわらず、条例で当該区域を独立の選挙区とすることができる旨の特例措置を規定している(この規定は昭和四一年の同法改正によるものであるが、その沿革は昭和三七年の同法改正により一又は二以上の島の全部の区域をもってその区域とする選挙区について強制合区の例外が設けられていたことによるものである。)。しかし、強制合区をせずに特例選挙区を設けた結果、投票価値に不平等が生じ、それが地方公共団体の議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、右のような不平等は、もはや地方公共団体の議会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、公選法一五条七項違反と判断されざるを得ないものというべきである。

二本件条例の制定、改正の経過

1  本件条例の制定、改正の経過に関する被告主張の第二の三、四の事実、本件選挙当時本件条例によって定められた千葉県議会の総議員定数、選挙区数、総人口、選挙区名、各選挙区の人口、配当基数、議員定数・議員一人当たり人口、同人口較差、逆転区間議員一人当たりの人口較差が別紙第一ないし第三表のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。

そして、前掲最高裁昭和六〇年一〇月三一日判決は、昭和五八年四月一〇日施行の千葉県議会議員選挙当時において選挙区間における議員一人当たり人口の較差は、海上郡選挙区と我孫子市・沼南町選挙区との間の一対6.49を最大に、特例選挙区である海上郡、匝瑳郡、勝浦市の三選挙区を除外し、その余の選挙区間についてみてもその較差の最大は一対4.58に達するものであり、いわゆる逆転現象もみられるとし、右較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、地方公共団体の議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものであり、右の較差は昭和五〇年一〇月実施の国勢調査の結果が判明した時点において既に公選法一五条七項の選挙権の平等の要求に反する程度に至っていたこと、しかるに千葉県議会は、右選挙までの間に条例の改正を行わず、右較差を放置したから、同項の規定上要求される合理的期間内における是正をしなかったものというべく、定数配分規定は、右選挙当時同項の規定に違反する旨判示した。したがって、右最高裁判決の趣旨からすれば、特例選挙区存置の見直しを行い定数配分規定は可及的速やかに投票価値の平等の要求に適合するよう根本的な是正がされるべきものであったことが明らかである。

2  右最高裁判決後の昭和六一年一二月本件条例が改正されたことは前記のとおり当事者間に争いがないが、前記当事者間に争いがない事実によれば、次のような事実が認められる。すなわち、

改正後の本件条例においても、公選法二七一条二項の規定による特例選挙区(海上郡、匝瑳郡、勝浦市の三選挙区)が存置され、なかでも海上郡、匝瑳郡は配当基数が各0.35という著しい過疎区であり、最も人口の少ない海上郡選挙区の議員一人当たり人口を一とした場合、最も多い鎌ケ谷市選挙区の議員一人当たり人口との較差は3.98に相当し、右の数値が三以上の選挙区はその他一四、二以上の選挙区は一〇あり、その合計は全選挙区の67.56パーセントに達すること、右の特例選挙区を除外し、その中で最も人口の少ない長生郡選挙区の議員一人当たり人口を一とした場合、最も多い鎌ケ谷市選挙区の議員一人当たり人口は2.81に相当し、右の数値が二以上の選挙区はその他一五あること、人口の多い選挙区の定数が人口の少ない選挙区の定数より少ないいわゆる逆転現象は別紙第三表のとおり三一通り見られ、長生郡選挙区と鎌ケ谷選挙区との間の議員一人当たりの人口較差は一対2.81となることが明らかである。

右認定の事実によれば、特例選挙区を除外した場合の較差はともかく、右の三選挙区を独立の選挙区とした結果、海上郡選挙区と他の選挙区との間になお大きな較差が生ずるものであり、更に逆転現象についても合理的な説明は困難といわなければならない。

3 これに対し、被告は、右特例選挙区存置の合理性として、今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、地域内人口も微増を続けていること、配当基数の低下は近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、隣接郡とは異なる独立の生活圏を有すること、議員選出の歴史的経緯、地域からの代表確保の要請等を主張する。

しかしながら、右三選挙区が隣接郡とは異なる独立の生活圏を有することや人口の増加等行政需要の増大がうかがわれることは認められず、また、他の地域との合区が極めて困難であることを首肯するに足る客観的な事情も存在しない。更に、本件条例の改正が審議された過程において、右特例選挙区を存置すべき特別の理由が具体的に開示され、審議されたことも何ら窺うことができない。結局特例選挙区存置の最も大きな理由は議員選出の歴史的経緯、地域からの代表確保の要請にすぎないものと推測される。

4 以上によれば、昭和六一年の本件条例改正の結果、本件選挙時においては、昭和五八年四月施行の選挙当時よりは投票価値の較差が是正されたことが認められるが、右三選挙区を特例選挙区として存置した点において根本的改正からはほど遠いものといわざるをえず、しかもこれを存置しなければならぬ特別な理由を見出すことはできない。

そうすると、本件選挙当時における選挙区間に存する右のような議員一人当たり人口の較差は、本件条例の前記改正以前から存在していたものであり、前記のとおり選挙区の人口と配分された定数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準とされる地方公共団体の議会の議員の選挙の制度において、右較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、地方公共団体の議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたというべきであり、これを正当化すべき特別の理由が認められない本件においては、選挙区間における本件選挙当時の右投票価値の較差は、公選法一五条七項の選挙権の平等の要求に反するものというべきである。

5 しかるに、千葉県議会は、昭和六〇年一〇月前記最高裁判決が出された後の本件条例改正の際特例選挙区の存廃につき根本的な見直しを行わなかったため、本件選挙までの間に右のような投票価値の較差を解消するための改正を行わず、右較差を放置したものであって、公選法一五条七項の規定上要求される合理的期間内における是正をしなかったものというべく、したがって、本件定数配分規定は、本件選挙当時同項の規定に違反するものといわなければならない。

そして、定数配分規定は、その性質上不可分の一体をなすものと解すべきであり、同項に違反する不平等を生ぜしめている部分のみならず、全体として違法のかしを帯びるものと解すべきである。

第三本件選挙の効力

以上のとおり本件選挙は、公選法一五条七項に違反する定数配分規定に基づいて施行されたもので違法であるが、公選法に適合する状態を実現するためには全体としての定数配分規定の改正が必要であり、定数配分規定の改正を含むその後の議会活動が市川市選挙区からの選出議員を欠いた状態でされるのは相当でなく、また、仮に全選挙区の選挙について同種の訴訟が提起され、選挙無効の判決がされるときは全議員が資格を失い、議会において次に選挙を行うべき適法な定数配分規定を定めることが困難となるという問題を生じうる。したがって、行政事件訴訟法三一条一項に示された一般的な法の基本原則に従い、かかる場合には選挙を無効とすることを求める原告の請求を棄却するとともに当該選挙の違法を宣言するのが相当である。

第四結論

よって、原告らの本訴請求を棄却したうえ、市川市選挙区における選挙が違法であることを宣言することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九二条ただし書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鈴木弘 裁判官時岡泰 裁判官筧康生)

別紙被告の主張

第一 訴えの却下を求める理由

一 公選法二〇三条の選挙訴訟に関する規定は、同法に基づき施行された選挙の管理執行上かしがあった場合にこれを無効とし早期に適正な再選挙を実施せしめ、もって選挙の自由と公正を確保せんとするために設けられたものである。

したがって、たとえ選挙を無効とし再選挙を実施しても、そのかしを是正できないような場合にまでも、これを許容する趣旨ではない。

二 本件選挙における議員の定数を定めた本件条例は、地方自治法九〇条三項並びに公選法一五条二項、三項、四項及び七項並びに二七一条二項の規定により制定されたものであり、本件選挙は、これら現行法制上適法に成立した条例に基づき適法に施行されたものである。

三 ところで原告の主張は、「現行の選挙区条例は憲法及び公選法に違反しており、それに基づき行われた本件選挙は無効である」というにあるが、こうした条例それ自体のかしを理由とする訴訟については、たとえ選挙を無効として再選挙を実施したとしても、そのかしを是正しえないことは明白である。

したがって、かかる訴訟は公選法二〇三条の規定の趣旨に適合しないものとして、却下を免れない。

四 かかる論拠の正当なゆえんは、行政事件訴訟法五条及び四二条において、公選法に規定される訴訟は民衆訴訟の一種として、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起されるものに限り、しかも法律に定める事項に限り許されるものと明定されており、しかも公選法二一九条をもって行政事件訴訟法三一条の事情判決の規定をことさら排除している点にかんがみて、明らかなところといわなければならない。

五 地方自治法九〇条四項によれば、議員定数の変更は一般選挙の場合でなければできないものとされており、選挙区別定数の変更もまた論理上同様と解せざるをえない。

ところで、もし原告らの主張を当該選挙区限りということで容認されると仮定して考えてみれば、当該選挙区の議員数はこれを増加せざるをえず、このことは全体の定数増加となり右九〇条に真正面から抵触する。

加えて、当該選挙区の選挙が無効であると宣言された場合には、それ自体に起因して新たな不均衡の結果が招来されることを、特に指摘しておく必要がある。すなわち、本件選挙を無効とするならば、これと同数か又はこれを上回る議員一人当たり人口を有す選挙区についても、当然当該選挙区における選挙を無効としなければ均衡を失することになることは明白といわなければならない。

しかるに、このような選挙区における選挙を無効とし、その再選挙を執行する方法は現行公選法に定められていないから、同数か又はより較差が大きいことが明らかである選挙区における選挙は有効とされ、有効とされる選挙区より較差が小さいか又は同数の本件選挙のみを無効とし、現に県政にたずさわっている議員の地位を喪失せしめることになるが、かかる奇怪な論理は到底容認しうるところではない。容認しえないとすれば同数か又はより較差の大きい選挙区の再選挙を、いかなる方法によって執行することになるのであろうか。

また仮に、全体の定数を増加させずに当該選挙区の議員数を増加させようとすれば、選挙区別定数の全面改正を行わざるをえず、しかも、すでに有効として確定した他の選挙区の議員の地位を一選挙区のために一方的にはく奪することなど、法理上も許されないところといわなければならないであろう。結局、原告らの本訴請求は、条例を改正し議員定数を増加するか、もしくは定数の再配分を行わない限りその目的を達しえないものであり、しかも、かかる改正は前述したごとく次の一般選挙の場合に限り認められているに過ぎないから、原告らの選挙無効請求が一応は容認されると仮定してみても、これに適合する条例改正の途はなく、したがって、右に基づく再選挙は絶対に不可能といわざるをえない。

したがって、このような是正することが不可能なことを目的とする訴えは、もともと訴えの利益を欠く不適法な訴えとして却下を免れないものである。

第二 本案についての主張

一 地方公共団体の議員選挙制度と憲法との関係

憲法一五条、九二条及び九三条によれば、地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づき法律で定めることとされ、その議決機関たる議会の議員の選挙制度についても、当該地方公共団体の構成員たる住民が直接選挙によって議員を選出すると定める以外に特段の制約事項はない。

このような規定のあり方は、地方自治が民主主義の実現のために不可欠なものであると同時に、本来、地方公共団体は、その構成員たる住民の自由でかっ達な自治意識によって運営されるべきものであることを認識させるものであり、そのためには、法の制約は必要最小限にとどめて、住民により、具体的にはその代表者である長(すなわち知事及び市町村長)並びに議会の意思決定によって、地方公共団体が自主的に運営されるべきであるとの崇高な自治の理念が示されているものである。

ところで、憲法は国政に関し議院内閣制を採用し、しかもこれに対応する議決機関としては衆議院と参議院の二本立としたうえ、参議院地方区に関しては衆議院における人口比例の原則によりつつも、それ以上に地域代表的性格を加味する選挙制度も、公正かつ効果的代表制度として許容されるものとしている(昭和五八年四月二七日言渡、昭和五四年(行ツ)第六五号最高裁大法廷判決)。

一方、地方公共団体については、首長、議員とも住民の直接選挙によると定められている(九三条二項)。これは、首長に関しては国政レベルとは異なり、いわゆる大統領制を採用し、首長が直接住民の意思を汲み取り行政を施行する途を開いたものであり、同時に、これに対応する議員の選出については、同じ直接選挙とはいっても、直接選挙の範囲内において、右首長に対等に対応するにふさわしい選出制度を決定すべきことを要請しているものと解すべく、首長の直接選挙に対等に対応するにふさわしい議員選挙制度としては、地域的まとまりのある選挙区を設定し、その地域代表的性格をも保有せしめる制度とするのが最も好ましい方法であって、これは、地方自治の本旨にも合致した公正かつ効果的代表選出制度といわなければならず、憲法の前記要請にもかなうものといわなければならない(地域性を保有しない狭少な地方公共団体については、首長と同様の直接選挙制度を採用する以外にない。)。したがって、憲法は地方公共団体の議員の選挙制度に関し、人口比例の原則を絶対とせず、人口比例によりつつも、ある程度これに反する地域代表的性格を加味する選挙制度の採用をも許容しているものといわなければならない。もちろん、人口比例の要素は尊重されなければならないが、各種議員制度に応じた公正かつ効果的代表制度の確立こそ憲法上の普遍的原理といわなければならないのである。現行法制は右の憲法の精神にのっとり、法律は一定の基準を設定するにとどまり、各地方公共団体の議会は、右基準に基づき自由に定数、選挙区及び選挙区別定数を決定する裁量権限を与えられているのである。

したがって、前記憲法の趣旨にのっとり制定された法律(地方自治法・公職選挙法)に基づき地方公共団体が制定している議員定数条例は、県民全体の意思が十分県政に反映しうるような公正かつ効果的な代表制度を確立すべく、当該地方公共団体の議会が、その裁量権を行使してこれを決定した所産というべきものであるから、その決定は合理性、合法性の推定を受けるものと解すべく、結局、定数条例の問題は、憲法一四条の平等条項との関係上、それが極端に不平等である場合は格別、それ以上は常に立法政策の問題にとどまり、違憲問題を生ずる余地はないといわねばならない。

二 都道府県議会議員の定数配分に関する法律の規定

都道府県議会の議員定数配分については、前述した公正かつ効果的な代表制度確立のため地域性を加味すべきとの憲法の要請に基づき、地方自治の基本法たる地方自治法において、議員定数の上限を定め(同法九〇条)、公選法において、議員を選出するについての選挙区の決め方及び各選挙区に対する定数の配分方法を定めている(同法一五条及び二七一条)。

(一) 県議会議員の総定数について

地方自治法九〇条においては、直近の国勢調査人口に基づき議員定数の上限数の算出方法が定められ、また、その上限数に対し条例で特に減少することができる旨が定められている。

本県では、直近の国勢調査(昭和六〇年一〇月一日現在)における人口に基づいて算定すると、議員定数の上限は一〇五人であるが、県議会は行財政改革等の趣旨により減少するとの決定をし、本件選挙における議員の総定数を八五人とした。

(二) 選挙区の決定方法

公選法によれば、議員の選挙区は都市の区域による(同法一五条一項)とされているが、当該選挙区の人口が、当該都道府県の人口を当該都道府県の議会の議員定数をもって除して得た数(以下「議員一人当たり人口」という。)の半数に達しない場合には、条例で隣接する都市と合わせて一選挙区を設けなければならないことが原則とされている(強制合区規定、同条二項)。

これに対して、当該選挙区の人口が議員一人当たり人口の半数以上あっても、なお議員一人当たり人口に達しないときは、独立した選挙区とするか、あるいは、条例で隣接する他の都市と合わせて選挙区を設けるかの選択を、全く当該都道府県議会の裁量に委ねている(任意合区規定,同条三項)。

また、合区選挙区を設けるに当たり、どのような都市をもって合区選挙区とするかについても議会の裁量による(同条六項)。

さらに、公選法二七一条二項においては、昭和四一年一月一日現在において設けられている選挙区については、強制合区の対象となった場合でも、当分の間、強制合区の規定にもかかわらず、議会の裁量で当該区域をもってそのままの選挙区として設けることができる旨の例外規定が設けられている(特例選挙区)。

右規定は、いわゆる高度経済成長下に生じた都市部ないし大都市周辺部への急激な人口集中、農山漁村の過疎化の減少をそのまま定数配分に反映させることが、過疎地域の活力の一層の低下を招いたり、一貫性、継続性のある施策を遂行する妨げになったりすることを慮って設けられたものであり、また、効果的代表制度確立を目的として設けられたものであるから、もちろん合憲である。

本県において、この二七一条二項が適用され、本来強制合区の対象となるが、そのまま独立選挙区として存置されている選挙区は、海上郡、匝瑳郡及び勝浦市の三選挙区である。

(三) 議員定数の配分方法

公選法は、議員定数の配分方法について次のとおり定めている。

すなわち、各選挙区に対する定数配分は原則として人口比例とするが、特別な事情がある場合には、地域間の均衡を考慮して、人口以外の諸要素をも総合勘案して行うことができる(同法一五条七項)。

近年の激しい人口の都市集中化の傾向に伴って、郡部の人口は減少の一途をたどり、住民の数と地方公共団体の行政需要が必ずしも対応しない状況が顕在化してきた。すなわち、各地域の社会経済事情に著しい懸隔が生じ、このため各地域が当該地方公共団体全体の発展の上で占める重要さの程度や、各地域の積極的な行政上の施策を必要とする程度が、必ずしもその現在の人口に比例しなくなっていること、また、都道府県の行政の役割が、市町村、特に弱小市町村の行政を補完すること、及び広域にわたる行政を推進することにあるから、その公正かつ円滑な運営を期するため、各選挙区に対する定数を機械的に人口に比例して行うのではなく、人口比例原則に特例を設け、それぞれの地域の代表をそれぞれの地域の特殊性に応じて確保し、均衡のとれた配分を議会の裁量により可能ならしめようとするところにこの規定が設けられた所以がある。

三 本県における議員定数条例の改正経緯

(一) 第一回統一地方選挙にかかる県議会議員選挙から昭和四二年執行の第六回執行の第六回県議会議員選挙まで

① 選挙区については、公選法一五条二項の強制合区規定及び三項の任意合区規定の該当選挙区は一切存在しなかった。

② 選挙区定数は、昭和四四年の法改正により同法一五条七項但書の規定が制定される以前であり、全く人口比例によった。

(二) 昭和四六年執行の第七回県議会議員選挙

① 昭和四五年国勢調査人口の調査結果が未確定のため、昭和四〇年国勢調査人口に基づく前回の昭和四二年執行の県議選での選挙区及び選挙区別定数条例を根拠に選挙を執行した。

② 東葛飾郡我孫子町が、昭和四五年七月一日に市制施行したが、我孫子市の人口が議員一人当たり人口に達しないため、公選法一五条三項の任意合区規定を適用して、東葛飾郡・我孫子市選挙区として設置した。なお、選挙区定数はそのままである。

(三) 昭和五〇年執行の第八回県議会議員選挙

① 昭和四五年国勢調査人口結果に基づき算定したが、本県の人口流入による都市部への人口の偏在という現象が生じて以来、初めての条例制定となった。

② 総定数は九人増加して七九人とした。

③ 海上郡選挙区及び匝瑳郡選挙区の二選挙区が、公選法一五条二項の強制合区の対象となったが、同法二七一条二項の規定を適用し、独立選挙区として存置することにした。

④ 東葛飾郡について、その構成する浦安町(現在は浦安市として独立選挙区)、関宿町及び沼南町がそれぞれ他の市の区域により分断され、飛地となり、公選法一五条四項の規定の対象となったが、浦安町、関宿町及び沼南町の人口が議員一人当たり人口の半数に達せず、結局、同法一五条二項を適用して浦安町は市川市に、関宿町は野田市に、沼南町は我孫子市にそれぞれ合区した。

⑤ 安房郡においては、天津小湊町が昭和四六年三月三一日、鴨川市の市制施行に伴い飛地となったが、市町村の合併の特例に関する法律を適用し、鴨川市を含めて安房郡選挙区としたが、昭和五〇年四月二九日の議員の任期満了時点で効力が失効することとなり、公選法一五条四項の適用の対象となった。しかし、天津小湊町の人口は議員一人当たり人口の半数に達せず、強制合区規定の適用対象となり、隣接する鴨川市に合区した。

⑥ 選挙区別定数については、初めて公選法一五条七項但書を適用することとなり、香取郡、山武郡、長生郡及び夷隅郡の各選挙区において、人口比例によると一人ずつ定数が減ずることになるところを、地域間の均衡を考慮し、現行定数を維持することとした。

(四) 昭和五四年執行の第九回県議会議員選挙

① 昭和五〇年国勢調査人口に基づき算定すると、法定数が九〇人となるところを、初めて減少条例を制定し、現行の七九人に据え置いた。

② 選挙区については、強制合区規定及び任意合区規定の適用の異動はなく、また選挙区別定数についても、公選法一五条七項但書の規定を適用し、地域間の均衡を考慮し、現行定数を維持し条例改正を行わなかった。

(五) 昭和五八年執行の第一〇回県議会議員選挙

① 昭和五五年国勢調査人口に基づき算定すると、法定数が九九人となるところを、行財政改革の趣旨等も考慮し、現行の七九人に据え置いた。

② 勝浦市選挙区が新たに強制合区の対象となったが、公選法二七一条二項を適用し、独立選挙区として存置することとした。

③ 選挙区別定数については、公選法一五条七項但書を適用し、地域間の均衡を考慮し、現行定数を維持することとした。

四 今回の議員定数条例の改正経過

(一) 定数等検討委員会の設置

昭和五八年四月一〇日執行の県議会議員選挙に係る選挙無効請求事件に対し、昭和五九年八月七日、東京高等裁判所は、選挙は違法であることを宣言し、選挙無効を求める原告の請求については、棄却する旨の判決をした。

この判決を機に、県議会内に定数問題に関する関心が一層高まり、昭和六〇年二月五日に各党代表者により千葉県議会議員定数等検討委員会(以下「委員会」という。)が設置され、同日第一回の委員会が開催された。この委員会は、自民党五名、社会、公明、共産、民社の各党一名の計九名で構成されたものである。その後、同年一〇月三一日、最高裁判所の判決(判決内容は東京高等裁判所の判決を支持)が出された。これを受け、委員会では、六一年二月議会までに各党が試案を出し検討することとし、社会党が「一九増七減」案、公明・民社両党が「九増三減」案、共産党が「三三増七減」案を提出し、また、自民党は基本方針を提示したが、特例選挙区の存廃をも含め、種々議論が沸騰したこともあり、二月議会までに結論を得るに至らず、委員会としてのコンセンサスが得られないまま、その後、同年七月二五日に委員会は解散した。この間、六回の委員会を開催したが成案を得るには至らなかった。

(二) 議会への提案・議決

自民党が党内に設置した検討委員会で特例選挙区の存廃を含めた検討を続けた結果、最終的にとりまとめた「六増」案と、社会・公明・民社の三党が歩み寄りとりまとめた「一六増七減」案との二案が、議員発議で昭和六一年一二月一九日の本会議に提案され、討論、採決の結果、社会・公明・民社三党案は否決、自民党案が可決成立した。

(三) 是正後の条例案の内容

① 法定数は、昭和六〇年国勢調査人口に基づき算定すると一〇五人となるところであるが、県において鋭意進めている行財政改革の要請にできるだけ応えるために、最小限の増員にとどめ、以下の改正方針を踏まえ、八五人とした。

② 海上郡、匝瑳郡及び勝浦市の各特例選挙区は、本県における急激な人口移動の特殊性等を考慮し、引き続き存置することとした。

③ 前記②の特例選挙区を除いた選挙区ごとの定数は、地域間の均衡を考慮した非人口的要素を加味し、最大較差は三倍以内に、各特例選挙区に対する最大較差は四倍以内に抑えることとし、佐倉市、柏市、流山市,八千代市、浦安市及び我孫子市・沼南町選挙区の六選挙区の定数を各一人ずつ増員(六増)した。

なお、他の選挙区の定数は、公選法第一五条第七項但書の規定を適用し、現行定数に据え置いた。

以上の是正の結果、

① 特例選挙区を含む議員一人当たり人口の最大較差は、是正前の6.95倍(海上郡選挙区対我孫子市・沼南町選挙区、昭和六〇年国勢調査人口結果による)から3.98倍(海上郡選挙区対鎌ケ谷市選挙区)に大幅に縮小された。

② 特例選挙区を除く議員一人当たり人口の最大較差も、是正前の4.91倍(長生郡選挙区対我孫子市・沼南町選挙区)から2.81倍(長生郡選挙区対鎌ケ谷市選挙区)に大幅に縮小された。

③ 是正前には六〇通りあった、いわゆる逆転現象は、約半数解消し三一通りとなり、特に定数が二以上の差のある顕著な逆転現象は解消された。

五 本県の特性

(一) 全国有数の人口増(社会増)県

本県における国勢調査人口は、昭和二五年から同三〇年にかけては、人口の社会減(流出)が見られたが、同三五年以降、高度経済成長に伴う人口の大都市圏への集中により、首都近郊の千葉・東葛飾地域を中心として著しく人口が増加した。

(1) 人口増加状況

増加状況を見ると、昭和三五年から同四〇年にかけて17.2パーセント(社会増11.5パーセント、自然増5.7パーセント)、同四〇年から四五年にかけて24.6パーセント(社会増17.2パーセント、自然増7.4パーセント)、同四五年から五〇年にかけて23.2パーセント(社会増14.5パーセント、自然増8.8パーセント)と昭和四〇年代にピークに達し、主に首都近郊地域への人口流入(社会増)により急激な人口増を示した。

その後、同五〇年から五五年にかけて14.1パーセント(社会増8.1パーセント、自然増6.0パーセント)、同五五年から六〇年にかけて8.7パーセント(社会増4.4パーセント、自然増4.3パーセント)と社会増のピークがすぎたことにより増加率は鈍化しているものの、依然全国一の増加率となっている。

この結果、本県の人口は、昭和三五年の二、三〇六、〇一〇人から同五五年への二〇年間で倍増し約四七〇万人となり、その後の五年間でもさらに約四〇万人増加し、五、一四八、一六三人と五〇〇〇万人を超えるに至った。

(2) 地域別人口増加状況

本県における人口増はそのほとんどが首都近郊内地域市町村(千葉市、市川市、船橋市、木更津市、松戸市、野田市、成田市、佐倉市、習志野市、柏市、市原市、流山市、八千代市、我孫子市、鎌ケ谷市、君津市、浦安市、四街道市、東葛飾郡(関宿町・沼南町)、君津郡(袖ケ浦町)、印旛郡(酒々井町・八街町・富里町・印旛村・白井町・印西町・本埜村・栄町)以下これらの市町村を「近郊内地域」という。)に集中しており、昭和四五年以降一五年間だけを見ても、県全体の増加数の九六パーセント強をこの地域で占めている。一方、それ以外の地域(以下「近郊外地域」という。)では、人口は微増ないし横ばいとなっており、中には人口がやや減少している市町村すらある。

この結果、昭和三五年には近郊内地域の人口は、近郊外地域の約1.4倍にしかすぎなかったものが、昭和六〇年には約4.3倍に達し、本県の発展に大きな不均衡をもたらし、また、議員一人当たり人口の較差となってあらわれたものである。

(二) 地域的特性

近郊内地域は、首都東京に隣接するという立地条件により商業・工業の集積化が高く、東京圏へのベッドタウンとして都市化が進んでいる地域である。また、近年、本県を代表する施設である新東京国際空港や東京ディズニーランドなどもこの地域にあり、経済力等地域活力の増大している地域でもある。一方、近郊外地域は、本県の半島性、袋小路性等により、発展の遅れている地域である。近年、内陸工業団地の造成などにより企業誘致も一部されつつあるが、主産業は全国第三位の粗生産額を誇る農業や水産業等の第一次産業であり、首都圏の食糧供給基地として、また、レクリエーション空間として大きな役割を担っている地域である。

昭和三〇年代後半に始まり、同四〇年代にピークに達し、今なお人口急増のすすむ近郊内地域においては、都市環境整備が官民により実施され、いまなお種々の課題を抱えつつも、居住環境は整備されつつある。一方、近郊外地域においては、雇用の場の不足、地域の魅力の欠如等による若年労働者の都市郡への流出に伴う地域活力の停滞、後継者不足による主産業である農業・水産業従事者の高齢化、地域人口の著しい高齢化といった問題を抱えており、加えて、両地域間には、公共施設整備、交通機関等の利便性、あるいは、所得の面、市町村の財政力の面でも大きな格差があり、これら両地域間の格差是正を図り、本県の均衡ある発展を図ることが、昭和四〇年代から現在及び将来の県政上の最も重要な課題の一つとなっている。

(三) 格差是正のための措置

昭和四〇年代以降策定された本県の長期計画等でも、地域間の均衡ある発展はそれぞれ大きな柱とされており、昭和五九年一二月策定の「二〇〇〇年の千葉県」(目標年次昭和七五年)、昭和六〇年一二月策定の「ふるさと千葉五ケ年計画」(昭和六一年度〜六五年度)においても具体的方策が明定されている。たとえば、県政の主要プロジェクトである千葉新産業三角構想は、千葉市(幕張新都心構想)、成田市(成田国際空港都市構想)及び木更津市(上総新研究開発都市構想)を開発の軸とし、それぞれを幹線道路で結び、さらに東京湾横断道路とも連絡し、半島性を脱却し、これを拠点に全県的な産業立地を促進し、県土の均衡ある発展を図ろうとするものである。

また、本県を西地域、中央地域、東地域及び南地域の四地域に区分し、東京に隣接しすでに都市化の進展している西地域を除き、それぞれ千葉市、成田市、木更津市を発展の核とし、都市と農村・漁村を結びつけ、県土の均衡ある発展を図ろうとしている。

これらにとどまらず、各地域の特性を活かした地域振興策を図り、各地域の実質的均衡を図ることが、本県の場合、特に強く要請されている。

以上のような本県の実情を考慮し、地域間の均衡を図るため、公選法一五条七項但書を適用し、銚子市、香取郡、山武郡、長生郡、夷隅郡及び安房郡といった近郊外地域の各選挙区に人口比例定数より各々一ずつ多い定数を配分し、その結果、一部の選挙区間に逆転現象が生じたとしても、もとより、それは本県の実情を考慮した議会の合理的裁量の範囲内の問題に属し、定数条例に違憲・違法の問題など生じえないものである。

六 公選法二七一条二項の適用選挙区の合理性について

(一) 海上郡選挙区

この選挙区は、昭和二二年、二六年の県議選の際は、一二町村で構成され代表二名を選出していたが、昭和二九年から三一年にかけて行われた町村合併により、旭市、海上郡海上町及び飯岡町の三市町が誕生し、旭市は昭和二九年市制施行により独立選挙区(定数一名)となった。

以来、海上郡選挙区は、海上町及び飯岡町によって構成され、隣接する銚子市、旭市、香取郡東庄町及び干潟町とは異なった生活圏域を有する地域として代表一名を選出し、今日に至っている。

この間、選挙区の人口は、国勢調査結果では、昭和三〇年から昭和四五年まで人口流出により減少を続けてきたが、その後、わずかながら増加に転じている(昭和四五年一九、八二四人、昭和五〇年二〇、一八七人、昭和五五年二〇、七六四人、昭和六〇年二一、五三二人)。

しかし、主に近郊内地域の人口急増により、昭和五〇年の県議選から、当該選挙区人口を議員一人当たり人口で除して得た数(以下「配当基数」という。)が0.5をわずかに下回る(0.465)こととなり、強制合区の対象となったが、この地域の行政需要、地域の特殊性、配当基数が0.5をわずかに下回っているにすぎないこと、この低下が主に近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、議員選出の歴史的経緯等を勘案し、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、昭和四九年九月県議会において、公選法第二七一条第二項を適用し、独立選挙区として存置することを決定し、さらに昭和五三年一二月県議会、昭和五七年一二月県議会においても同様の観点から引き続き特例規定を適用することを決定したものである。

この選挙区は、東京から約八〇キロ、千葉市から約五〇キロ、県の東北端、銚子市に隣接し、農業・水産業を主産業に発展してきた。農業は稲作・畑作・畜産がそれぞれ行われているが、近年はキャベツ、スイカ等の露地野菜やイチゴ・トマトなどの施設園芸、畜産の生産額が伸びてきており、専業農家の割合も比較的高く、経営規模は拡大してきている。水産業は、県内沿岸漁業の基地である飯岡漁港を基地に、いわし・しらうお等の水揚げがされ、首都圏の重要な食糧供給基地としての役割を果たしている。

また、良好な海水浴場、刑部岬等の観光資源を有し、首都圏の健全なレクリエーション地としての役割を果たしている。

しかし、主産業である農業については、一部専業農家を除いて、後継者不足による農業従事者の高齢化、農家戸数の減少、畑地かんがい用排水等の土地基盤整備の遅れ、野菜の連作障害、畜産公害等の問題を抱えており、また、水産業についても、後継者の減少による就業者の高齢化、高級魚介類の割合が低く市場性が弱いこと、飯岡港の濁砂問題などを抱えている。

さらに、地域内に就業の場が少ないことにより、若年層の流出もあり、地域内人口の高齢化が進んでいる。また、所得水準も低く、市町村の財政力も弱いものになっている。

これに対し、県の「ふるさと千葉五ケ年計画」では、首都圏の一大食糧基地として農林水産業の振興が図られる地域づくりを目指しており、また、海洋景観と海洋性スポーツレクリエーション活動に対応した観光地づくりが必要とされている。

これらの主産業の振興、地域外の事業所への通勤手段の確保による定住の促進のためにも、JR総武本線の複線化、輸送力の増強、道路交通体系の整備なども強く要請されている外、県内の近郊外地域に共通する格差の是正が求められている。

以上から、今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、地域内人口も昭和四五年国調以降微増を続けていること、最近の配当基数の低下が近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、議員選出の歴史的経緯、地域からの代表確保の要請等を総合的に勘案し、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、昭和六一年一二月県議会でも引き続き独立選挙区として存置することを決定したものであり、当該決定は極めて合理性を有するものと言わねばならない。

(二) 匝瑳郡選挙区

この選挙区は、昭和二二年、二六年の県議選の際は、一四ないし一八町村で構成され代表二名を選出してきたが、昭和二九年の町村合併により、八日市場市、匝瑳郡光町及び野栄町の三市町誕生し、八日市場市は、昭和二九年の市制施行により独立選挙区(定数一名)となった。

以来、匝瑳郡選挙区は光町及び野栄町によって構成され、隣接する八日市場市、山武郡横芝町、香取郡多古町とは異なった生活園域を有する地域として、代表一名を選出し、今日に至っている。

この間、選挙区の人口は、国勢調査結果では、昭和三〇年から昭和四五年まで人口流出により減少を続けてきたが、その後わずかながら増加に転じている(昭和四五年二〇、二六五人、昭和五〇年二一、〇四三人、昭和五五年二一、二九四人、昭和六〇年二一、六六三人)。

しかし、主に近郊内地域の人口急増により、昭和五〇年の県議選から、配当基数が0.5をわずかに下回る(0.475)こととなり、強制合区の対象となったが、この地域の行政需要、地域の特殊性、配当基数が0.5をわずかに下回っているにすぎないこと、この低下が主に近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、議員選出の歴史的経緯等を勘案し、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、海上郡選挙区と同様、昭和四九年九月、同五三年一二月、同五七年一二月県議会において、公選法第二七一条第二項を適用し、独立選挙区として存置することを決定したものである。

この選挙区は、東京から約七〇キロ、千葉市から約四〇キロの県の北東部、同じ特例選挙区である海上郡選挙区より千葉市寄りに位置している。主たる産業は農業で、稲作及び養豚を中心に野菜の露地栽培、施設園芸、植木類の生産も行われている。また、九十九里浜に良好な海水浴場を有し、首都圏の食糧供給基地、観光レクリエーションゾーンとして重要な役割を果たしている。

しかし、農業については、米の生産調査により稲作中心の農業から畜産、野菜生産等を取り入れた複合経営への転換、水田の乾田化等、転作環境整備のための基盤整備が必要とされており、また、畜産公害、後継者不足による農業従事者の高齢化、農家戸数の減少などの問題も抱えている。

また、海上郡選挙区と同様、地域内人口の高齢化も進んでおり、所得水準も低く、市町村の財政力も弱いものとなっている。

今後の地域づくりとして、主産業としての農業の振興、豊かな自然や地域の産業と結びつけた観光開発などが重要な課題となっているが、併せて、地域外の事業所への通勤手段の確保による定住の促進のためにも、海上郡選挙区と同様、地域内を通過するJR総武本線の複線化、輸送力の増強、道路交通体系の整備が強く要請されている外、県内の近郊外地域に共通する格差の是正が求められている。

以上から、今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、地域内人口も昭和四五年国調以降微増を続けていること、最近の配当基数の低下が近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、議員選出の歴史的経緯、地域からの代表確保の要請等を総合的に勘案し、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、昭和六一年一二月県議会でも引き続き独立選挙区として存置することを決定したものであり、当該決定は極めて合理性を有するものと言わねばならない。

(三) 勝浦市選挙区

勝浦市は昭和三〇年四町村が合併し、同三三年の市制施行に伴い独立選挙区となり、以来、隣接する安房郡(天津小湊町)、夷隅郡(大多喜町・夷隅町・大原町・御宿町)とは異なった独立の生活圏域を有する地域として、代表一名を選出してきた。

この間、人口は市外への流出により、昭和三〇年(国調)には三一、六四八人であったものが、昭和五五年(国調)には二五、四六二人にまで減少し、その後、昭和六〇年にかけては人口減少も鈍化(昭和六〇年国調二五、一五九人)したが、昭和五八年の県議選から配当基数が0.5を若干下回り(0.425)、強制合区の対象となった。

しかし、この地域の行政需要、地域の特殊性、配当基数が0.5をわずかに下回っているにすぎないこと、この低下が主に近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、議員選出の歴史的経緯等を勘案し、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、昭和五七年一二月県議会において、公選法二七一条二項を適用し、独立選挙区として存置することを決定した。

同市は県の南東部、東京から約七五キロ、千葉市から約四五キロに位置し、夷隅川及びその支流の流域に形成された農耕地を基盤とした農業と、県内有数の勝浦漁港をはじめとした天然の良港と豊富な水産資源を基盤とした漁業の「農業と漁業の町」として発展してきており、夷隅地区唯一の市として、同地区の中核的機能を果たしてきた。

また、恵まれた自然景観を有し、夏季の海水浴客を中心に、観光レクリエーションの場を提供してきたが、近年はゴルフ場や東日本唯一の勝浦海中公園等の観光施設整備により、積極的な観光振興施策が展開されている。

しかし、主産業である農業については、基盤整備の遅れ、経営耕地の分散・狭少等により生産性が低く、後継者不足による高齢化、また、漁業については、水産資源の減少、経営の不安定等から就業者が減少しており、同じく後継者不足による高齢化等の問題を抱えており、栽培漁業の推進が必要とされている。

このような主産業の状況に加え、同市及びその周辺に労働力を吸収する大規模事業所がなく、道路鉄道等の交通体系整備の立ち遅れが人口流出の原因となっている。

また、六五歳以上の老齢人口の割合が県平均の約二倍と高齢化が著しく、所得水準も低く、市の財政力も弱いものとなっている。

これに対し、昭和五九年には国際武道大学を誘致し、人口もわずかながら増加に転じ(昭和六二年七月一日現在、常住人口二五、七一八人)、また、農村工業導入促進法による工業団地の造成、企業誘致なども進めている。

さらに、従来からの主産業である農業・水産業等の振興による首都圏の食糧基地としての重要な機能や南房総国定公園内の優れた自然景観を生かした観光レクリエーション空間として重要な役割が一層期待されている。

このための道路交通体系の整備やJR外房線の勝浦までの複線化の推進が強く要請されている外、県内の近郊外地域に共通する格差の是正が求められている。

以上から、今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、人口も今後は増加が見込まれること、最近の配当基数の低下が主として近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、夷隅地区の中核都市として隣接郡とは異なった独立の生活圏域を有していること、議員選出の歴史的経緯、地域からの代表確保の要請等を総合的に勘案し、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、昭和六一年一二月県議会でも引き続き独立選挙区として存置することを決定したものであり、当該決定は極めて合理性を有するものと言わねばならない。

七 公選法一五条七項但書適用選挙区の合理性について

本県の場合、近郊内地域と近郊外地域の発展に大きな不均衡があり、両地域間にさまざまな面で格差が存すること、これらの格差を是正し地域間の均衡を図るため、公選法一五条七項但書を適用し、長生郡選挙区他六選挙区に人口比例定数より各々一ずつ多い定数を配分することを議会が決定したことは、議会の合理的裁量権の範囲内に属するものである。以下、各々の特別の事情及び合理性について述べる。

(一) 長生郡選挙区

本選挙区は、昭和二二年、二六年の県議選においては、それぞれ四名、三名の代表を選出したが、昭和二七年の茂原市の市制施行により同市が分離独立(定数一名)した。その後、昭和三〇年の県議選では代表三名を選出したが、三四年の県議選以降、代表二名を選出し今日に至っている。

この地域は、東京から約六五キロ、千葉市から約三五キロの九十九里平野の南部に位置し、丘陵地域、中央平野地域及び海岸地域の六町村から構成されており、面積は227.48平方キロと県土の約4.4パーセントを占めている。

主たる産業は農業で、米作を基調に、畜産、野菜生産、施設園芸等が行われており、首都圏の食糧供給基地として重要な役割を果たしてきており、また海岸部に県立九十九里自然公園、丘陵部に笠森鶴舞自然公園を擁するなど、多様性に富んだ観光資源を有し、テニスで知られる白子町をはじめ首都圏におけるスポーツ・レクリエーションゾーンとしての重要性を高めている。

しかし、農業については、近年、後継者不足による農家数の減少、第二種兼業農家の増加が目立ち、後継者確保対策、基盤整備等種々の課題を抱えている。

また、近郊内地域に比し、道路の改良・舗装、ごみ、し尿処理等生活環境施設につき大きな格差が見られ、これらの整備が大きな課題となっており、人口の高齢化も県平均の約二倍と進んでいる。

しかし、近年、地域の中央部茂原市を通り一宮町までのJR外房線の複線化、千葉外房有料道路の開通等により首都圏や千葉市方面と時間短縮がなされ、また、地域外へ就業の場を求めることにより、人口も若干の増加がみられる。

今後は、主産業である農業の振興をはじめ、地域内での就業の場を確保するための工業団地の整備による企業誘致や豊かな自然環境を生かした観光レクリエーションゾーンとしての整備が課題となっている。

以上から、今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、それを実現する町村の財政力も弱いこと、地域内人口も微増を続けていること、最近の配当基数の低下が近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、地域からの代表確保の要請等を総合的に勘案し、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、この選挙区につき公選法一五条七項但書を適用し、今回の県議選においても引き続き代表者二名を確保する旨決定したことは、極めて合理性を有するものと言わねばならない。

(二) 山武郡選挙区

本選挙区は、昭和二二年、二六年の県議選においては、五名の代表を選出していたが、昭和二九年東金市が市制施行により分離独立(定数一名)したことに伴い、昭和三〇年、三四年の県議選では代表四名、さらに三八年以降は代表三名を選出し今日に至っている。

この地域は、東京から約六〇キロ、千葉市から約三〇キロの九十九里平野の中央に位置し、丘陵地域、中央平野地域、海岸地域の八町村で構成されており、面積は、301.59平方キロと県土の約5.9パーセントを占めている。また、新東京国際空港の裏側に位置し、圏域北部(芝山町、松尾町、横芝町、蓮沼村)は航空機の離着陸コースとなっており、地域の一部に空港用地が含まれている。

主たる産業は第一次産業であり、農業は水稲、野菜生産、畜産、施設園芸等が行われており、林業は「山武杉」の名で知られる杉、ひのきの生産やしいたけ等の林産物の生産が行われており、また、水産業は、いわし漁を中心として沿岸漁業と加工業が中心であり、首都圏の食糧供給基地として重要な役割を果たしている。

また、本地域は美しい海岸線や緑豊かな自然環境を有し、主として海水浴場として首都圏の行楽客を集め、観光レクリエーション地域として重要な役割を果たしている。

しかし、第一次産業については、他地域同様、後継者難による従事者の高齢化等のさまざまな課題を抱えており、観光については、そのほとんどが夏季集中、日帰り型であり、首都圏や新東京国際空港に近い有利性と観光資源を生かした通年型、宿泊型観光への転換、広域観光ルートの整備等が課題とされている。

一方、地域内をJR外房線、総武本線、東金線が通過しているが、総武本線、東金線はいずれも単線であり、東京、千葉方面への運行本数も少なく、その改善が望まれており、加えて、近郊内地域に比して公共施設整備に大きな格差が見られ、特に夏季に混雑の著しい狭い道路等の整備が課題とされている。

近年、工業団地への企業進出も一部見られ、また、新東京国際空港の影響、外房線の複線化等による首都圏への通勤圏の拡大等による宅地開発の進行もあり、地域内人口も若干増加しており、今後も人口の増加が見込まれる。

今後は、新東京国際空港へ至近距離にあるという地域特性を生かした産業振興や地域づくり、また、航空機騒音下での合理的な土地利用の増進が大きな課題である。

以上から、今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、それを実現する町村の財政力も弱いこと、地域内人口も増加傾向にあること、最近の配当基数の低下が近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、地域からの代表確保の要請等を総合的に勘案し、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、この選挙区につき公選法一五条七項但書を適用し、今回の県議選においても引き続き代表者三名を確保する旨決定したことは、極めて合理性を有するものと言わねばならない。

(三) 香取郡選挙区

本選挙区は、昭和二二年の県議選においては代表六名を選出したが、昭和二六年に佐原市が市制施行により分離独立(定数一名)した。その後、昭和二六年、三〇年の県議選では代表四名を選出したが、三四年以降は代表三名を選出し今日に至っている。

この地域は、東京から約七〇キロ、千葉市から約四〇キロの本県の北東部、北総台地上に位置し、成田市に隣接し、新東京国際空港や鹿島臨海工業地帯に至近距離にある。面積は県内最大の394.43平方キロで県土の約7.7パーセントを占め、九町で構成されている。

主たる産業は農業であり、水稲を中心に野菜生産や養豚などの畜産も行われており、農業粗生産額が県内でも最も高い地域であり、首都圏の食糧供給基地として重要な役割を果たしてきている。

しかし、最近は他地域同様、農業就業者数の減少、農業従事者の高齢化、後継者不足等の問題を有している。また、地域内に農業以外の就業の場が少なく、地域外に就業の場を求めることが多い。

一方、地域内をJR成田線、鹿島線が通過しているが、運行本数が少なく単線であり、輸送力の増強が要請されており、公共施設の整備状況も、ごみ・し尿処理等の生活環境や上水道の普及が遅れており、これらの整備が課題となっている。

また、選挙区内の町の財政力は、近郊内地域に対してはもちろん、他の近郊外地域に比べても弱く、人口の高齢化も進んでいる。

しかし、昭和六一年に東関東自動車道が地域内を通り佐原市まで延伸され、首都圏と時間短縮されたことに伴い、ゴルフ場の開発、工業団地の整備も進みつつある。

また、これに伴い、地域内入口も現在は微増であるが、今後は増加も見込まれるところである。

今後は、主産業である農業の振興に加え、これらを生かした産業振興、雇用機会の創出が課題となっている。

以上から、今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、それを実現する町の財政力も弱いこと、地域内人口も増加が見込まれること、最近の配当基数の低下が近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、地域からの代表確保の要請等を総合的に勘案し、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、この選挙区につき公選法一五条七項但書を適用し、今回の県議選においても引き続き代表者三名を確保する旨決定したことは、極めて合理性を有するものと言わねばならない。

(四) 夷隅郡選挙区

本選挙区は、昭和三〇年までの県議選においては三名の代表を選出してきたが、昭和三三年の勝浦市の市制施行により同市が分離独立(定数一名)したことに伴い、昭和三四年の県議選以降、代表二名を選出し今日に至っている。

この地域は、本県の東南部、東京から約七五キロ、千葉市から約四五キロに位置し、五町で構成されている。面積は、314.37平方キロと県土の約6.1パーセントを占め、郡選挙区では香取郡選挙区に次ぐ面積を有する。海岸部は、砂浜と岩場の変化に富んだ海岸線が続き、中央の夷隅川に沿って平坦な耕地が広がり、西部及び南部は緑豊かな山林地帯を形成するという自然環境に恵まれた地域であり、農林水産業を基幹産業として首都圏の食糧供給基地として、また、優れた自然環境を生かし首都圏の観光レクリエーション地域として重要な役割を果たしてきたが、農業については、後継者不足、基盤整備の遅れなど種々課題を有している。

一方、地域内人口は、昭和六〇年国勢調査まで初めて減少が止まったが、農林水産業の停滞や地域内に就業の場が少ないこと、交通の利便性が劣ること、生活・文化関連施設等の公共施設の整備が近郊内地域に比べ遅れていることなどにより、人口減少が依然続いている町もあり、人口の高齢化も県平均の二倍を超え、地域活力の停滞を招いている。また、選挙区を構成する町の財政力も弱いものとなっている。

この地域の主な交通機関として、JR外房線、木原線があるが、いずれも単線であり、外房線は勝浦までの複線化が強く要請されており、また、木原線は、昭和六三年三月から第三セクター「いすみ鉄道」として運営されることになっており、交通網の充実の要請が強い。

近年、ゴルフ場や別荘地としての開発がなされ、保養地として整備されつつある地域もあるが、地域全体としては、今後の開発や行政施策の展開に待つところが大きい。

昭和六一年三月には隣接する安房郡市、富津市とともに半島振興法による半島振興実施地域の指定を受け、県としても、着工の決定した東京湾横断道路と接続する幹線道路網の整備や地域振興のための各種施策を計画しているところである。

以上から、今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、それを実現する町の財政力も弱く県行政に依存するところが大きいこと、最近の配当基数の低下が近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、地域からの代表確保の要請等を総合的に勘案し、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、この選挙区につき公選法一五条七項但書を適用し、今回の県議選においても引き続き代表二名を確保する旨決定したことは、極めて合理性を有するものと言わねばならない。

(五) 安房郡選挙区

本選挙区は、昭和三〇年の県議選までは五名の代表を選出していたが、三四年の県議選において定数四名となった。その後、四二年の県議選以降は三名の代表を選出していたが、昭和四六年の鴨川市が市制施行により鴨川市・天津小湊町選挙区が分離独立(定数一名)したことに伴い、五〇年以降は代表二名を選出し今日に至っている。

この地域は、東京から約一〇〇キロ、千葉市から約七〇キロの房総半島の南部に位置し、三方を東京湾と太平洋に囲まれ、南国的な変化に富んだ海岸は南房総国定公園となっている。また、北部から中央部にかけては房総半島で最も高い愛宕山を中心に丘陵地帯となっている。面積は274.77平方キロで県土の5.3パーセントを占めており、八町村で構成されている。

本地域の基幹産業は農・漁業の第一次産業と観光である。農業は、丘陵部が多いため狭少な農地が多いなど地形的制約を受けているが、畜産や温暖な気候を生かした野菜、果樹、花きなどの特産地となっており、また、漁業は恵まれた立地条件はあるが、小規模経営の沿岸漁業を中心に営まれており、首都圏の食糧供給基地として重要な役割を果たしているが、他地域同様、後継者不足、基盤整備の遅れなどの多くの問題を抱えている。

また、温暖な気候の下で、新鮮な海の幸に恵まれているため、夏は海水浴場、春は花畑などの観光資源として首都圏における健全な保養、行楽地として重要な機能を果たしてきている。

しかし、道路交通体系の立ち遅れによる袋小路性により産業経済は伸び悩み、また地域内に就業の場が少なく、地域を通過するJR内房線は単線で利便性が劣るなど定住を阻害する要因となっている。このため地域人口は、昭和六〇年国勢調査では八町村全てが減少するなど、郡選挙区では唯一人口の減少地域となっている。特に若年層の圏域外への流出により人口の高齢化は県平均の二倍を超え、地域活力の停滞がみられる。

また、選挙区内の町村の財政力は県内でも最も弱く、歳入に占める地方税の割合も二〇パーセントにしかすぎない。

このような状況を踏まえ、道路交通網の整備により袋小路性を打破するとともに、恵まれた自然環境や豊かな海洋資源を活用して地域産業の再開発を図り、魅力ある通年レクリエーションゾーンの形成を図ること、若者に就業の機会と生活に魅力を与える地域形成、高齢化社会に対応する福祉の充実を図ること等、行政課題は山積している。

一方、夷隅郡選挙区同様、半島振興実施地域の指定を受けており、県も各種施策を計画しているところである。

以上から今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、それを実現する町村の財政力も弱く県行政に依存するところが大きいこと、最近の配当基数の低下が主として近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、地域からの代表確保の要請等を総合的に勘案し、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、この選挙区につき公選法一五条七項但書を適用し、今回の県議選においても引き続き代表二名を確保する旨決定したことは、極めて合理性を有するものと言わねばならない。

(六) 銚子市選挙区

本選挙区は、昭和二二年の第一回県議会議員選挙以来、独立選挙区として代表二名を選出してきている。(昭和三四年及び三八年の県議選は定数三名)

同市は、東京から約一〇〇キロ、千葉市から約七〇キロの県の東北端に位置し、北は利根川、東は太平洋に面している。また、全国有数の水揚高を誇る銚子漁港を有し、水産業、農業及びしょう油醸造、水産加工を主とする製造業を主産業として発展してきており、現在は東総地域の中核都市として機能している。

しかし、水産業は沿岸・沖合漁業が主力で、イワシ・サバ・サンマ等の多穫性魚が中心のため、魚穫量及び魚価の不安定が漁業経営を圧迫している。また、水揚げの多くを他県からの回船によっているため、漁港の整備や水産物の流通加工拠点の整備が課題となっている。

一方、農業は露地野菜を中心に、水稲及び畜産を加えた複合経営が主体となっており、県下においても生産力の高い地域であり、首都圏の食糧供給基地として重要な役割を果たしてきている。しかし、米の生産調整から来る野菜の生産過剰等の問題もあり、今後、生産性の高い農業を推進するために、現在進めている東総用水事業の促進を始めとして生産基盤の整備や中核農家の育成が課題とされている。

以上のような主産業の他、新たな産業立地もなく、加えて、袋小路の地理的条件、JR総武本線、成田線は単線で利便性に劣ることなどが定住を阻害する要因となっている。このため、同市の人口は昭和四〇年国勢調査人口をピークに、わずかずつ減少を続けており、人口の高齢化を招いている。

今後は、地域における就業機会の増加を図るための地域産業の振興、レジャー観光地としての整備の他、袋小路性の打開のための首都方面と結ぶ幹線道路の整備を始めとした道路交通体系の整備が課題となっている。

以上から今後とも地域の行政需要の増大が見込まれること、それを実現する市の財政力も弱いこと、最近の配当基数の低下が主として近郊内地域の人口急増による相対的なものであること、地域からの代表確保の要請等を総合的に勘案し、特に近郊内地域との均衡を図る観点から、この選挙区につき公選法一五条七項但書を適用し、今回の県議選においても引き続き代表二名を確保する旨決定したことは、極めて合理性を有するものと言わねばならない。

(七) 浦安市選挙区について

浦安市は、東葛飾郡浦安町として、昭和四六年の県議選までは東葛飾郡選挙区の中で代表を選出してきたが、昭和五〇年及び五四年の県議選では、公選法一五条三項及び四項を適用し、隣接する市川市選挙区に任意合区し市川市浦安町選挙区として代表を選出した。その後、昭和五六年四月の市制施行に伴い、昭和五八年の県議選では独立選挙区となり一名の代表を選出し、さらに今回の県議選では定数一名増員し二名としたところである。

浦安市は、都心から約一五キロ、千葉県の西端に位置し、江戸川を隔てて東京都に隣接している。かつては半農半漁の町であったが、昭和四四年の地下鉄東西線の開通を契機として東京のベッドタウンとして急速な発展を続けてきた。人口は昭和四〇年代後半より社会増により急増を始め、特に昭和五〇年から六〇年までの一〇年間で三二、二五一人から九三、七五六人(国勢調査人口)と約三倍近くに増加している。この間の昭和五七年、五八年及びその後の昭和六一年は全国の市の中では人口増加率が最も高くなっている(全国市長会調べ。但し、昭和五六年の市制施行以後)。現在は、ピーク時に比べ人口の伸びはやや鈍化しているものの、すでに人口は一〇万人を突破しており(昭和六三年二月一日現在常住人口、一〇三、〇五二人)、今後も第二期埋立地の住宅開発、JR京葉線の暫定開業(昭和六三年一二月西船橋〜東京都新木場間)による新浦安駅の設置等により、さらに人口増加が見込まれるところである。

このような地理的条件から、市民の大多数は東京への通勤者であり、所得水準も高い。一方では、公共下水道事業の促進を始め都市基盤整備等の行政課題を有するものの、それに充てる市の財政力も高いものとなっている。

したがって、浦安市選挙区は、長生郡選挙区ほか五選挙区とはその事情を異にするものである。

しかし、是正前の浦安市選挙区の議員一人当たり人口は、海上郡選挙区を一とした場合、4.35倍にも達しており、この点と先に述べた浦安市の現在及び将来の人口の伸びを考慮すると、今回定数を一名増員したことは合理性を有するものと考えられる。

(八) なお、人口比例定数より少ない定数を配分している千葉市選挙区ほか四選挙区も、公選法一五条七項但書適用選挙区(定数減)であるが、近郊外地域に属する長生郡選挙区ほか六選挙区の方が、近郊内地域に対し相対的に地域代表の確保が強く要請されており、総定数の枠の中で長生郡選挙区ほか六選挙区に人口比例定数よりおのおの一ずつ多い定数を配分した結果、逆に一票の較差に著しい不合理が生じない範囲で、これら千葉市選挙区ほか四選挙区の定数を人口比例定数より一ないし二少ない数に据え置いたものである。

八 「議員一人当たり人口」の較差について

(1) 特例選挙区を除く較差について

前述したごとく公選法による県議定数の配分は人口比例を原則としているが、特別の事情がある場合は、地域間の均衡を考慮して、人口以外の諸要素をも総合勘案して行うことができるとされている(公選法一五条七項但書)。

この場合、「議員一人当たり人口」の較差がどの程度まで許されるかについては、昭和五八年四月一〇日執行の千葉県議会議員選挙無効請求事件に対する昭和五九年八月七日の東京高裁判決は、「これに対し、その余の選挙区の間では、(中略)投票価値の較差がおおむね一対二程度までの範囲にとどまるようになされることが要求されているものと考えられる。これに例外として認められる非人口的要素を加味した場合、(中略)一般的にいえば一対三前後までの較差にとどまるべきであって、(以下略)」と述べている。

また、過去の千葉県議会議員選挙の選挙当時の較差について、昭和五〇年の選挙の際には、特例選挙区を除いた選挙区間での最大較差2.76は、ある程度の不均衡はあるが、その差は違憲・違法の問題を生ずるまでに至っておらず、昭和五四年の選挙の際(特例選挙区を除いた最大較差4.23)に選挙権の平等の要請に反するに至っていた、と判断している。

同事件に対する昭和六〇年一〇月三一日の最高裁判決は、具体的な較差の許容限度は示していないが、原審の判断を正当として是認し、同様に昭和五四年の選挙では、選挙権の平等の要請に反するに至っていたと判断している。

なお、国の選挙(衆議院)に対する最高裁判所の判断も、昭和五八年の衆議院議員選挙に対する昭和六〇年七月一七日の判決では、昭和五〇年の公選法の改正により議員一人当たり人口の最大較差が一対2.92に縮小したことをもって、投票価値の不平等状態は一応解消されたとしている。

以上、過去の判例から、本件選挙時における特例選挙区を除く最大較差2.81は適法である。

(2) 特例選挙区を含む較差について

本県では、公選法第二七一条二項により、海上郡、匝瑳郡及び勝浦市の三特例選挙区を存置しているが、前述したようにそれぞれ合理的理由を有している。

この特例選挙区については、前掲東京高裁判決は「当初から平均的な定数配分を受けている選挙区と比較してすら二倍以上の較差を生ずることが予定されており、(中略)投票価値の較差が相当大きくても、これを違憲・違法と断ずるにはかなり慎重でなければならないだろう。」と述べており、過去の選挙当時の較差については、昭和五〇年選挙当時の較差3.55を違法とせず、昭和五四年選挙当時の較差5.61に対しても明確な違憲判断をしていない。また、前回昭和五八年選挙についても、三の特例選挙区のうち勝浦市選挙区(最過密選挙区との較差一対5.29)のみを問題としていないところをみると、相当程度の較差は許容されると判断していると考えられる。同事件に対する最高裁判決も原審の判断を是認しており、これらから、本件選挙時における特例選挙区を含む最大較差3.98は適法である。

(二) 逆転現象について

今回の是正を通じても、逆転現象は三一通り残っているが、昭和五八年選挙時に見られた定数が二以上の差のある顕著な逆転現象が解消されたことは前述のとおりである。

この逆転現象は、定数配分を人口比例の原則どおりに行えば生じえないものであるが、県議定数の配分は、地域間の均衡を考慮し、非人口的要素を勘案して行えるものであり、その場合、逆転現象も一部生じうるものである。このことは、前掲東京高裁判決でも「いわゆる逆転現象については、それが人口比例原則に対する例外として法が許容しているものと認められる場合について生じたようなものであるときは、直ちに定数配分の違法を意味するものではないが、(以下略)」と述べていることからも明らかであり、同事件に対する最高裁判決も原審の判断を是認している。

本選挙時には、地域間の均衡を考慮し、公選法一五条七項但書を適用して、香取郡、山武郡、長生郡、夷隅郡及び安房郡の各選挙区に人口比例定数より各々一ずつ多い定数を配分した結果、依然として逆転現象が残されているものであるが、昭和五八年選挙に対する判決で違法とされた顕著な逆転現象は解消しており、本県の均衡ある発展を図るため配慮された定数配分による結果として生じた、前記のような逆転現象は法の容認するところである。

(三) 人口比例定数との不一致について

非人口的要素を勘案して定数配分をすれば、人口比例定数と一致しないこともありうるところであり、顕著なずれが生じない限り法の容認するものと解され、本件選挙時に見られる不一致に違法性はない。

(四) 以上の考察によっても、今回の改正により違法状態は脱却したと解させられ、現行条例に何ら違法な点は存しない。

よって、当該条例に基づき施行された本件選挙は適法である。

九 事情判決の法理の適用について

仮に、本件条例に違憲を帯びる点があるとしても、これに基づく選挙の効力が当然に無効とされるものではなく、事情判決の法理を適用して、本件選挙はこれを有効としなければならない。

このことは、衆議院議員選挙に関する昭和五一年四月一四日最高裁大法廷判決以来の確立された法理であり、その理由とするところは以下のとおりである。

① 選挙無効の判決によって得られる結果は、当該選挙区の選出議員がいなくなるというだけであって、公選法に適合する有効な選挙が実現するためには、定数配分規定自体の改正をまたなければならないこと。

② 全選挙区の選挙について定数訴訟が提起され、選挙無効の判決がなされるときは、全議員が資格を失うことになり、そのため議会において次の選挙を行うべき適法な配分規定を定めることができなくなること。

③ 仮に、一部の選挙区の選挙のみが無効とされるにとどまった場合は、もともと同じ違法な選挙について、そのあるものは無効とされ、他のものは有効として残るという不平等を生ずること。

④ 定数配分規定の改正が、選挙を無効とされた当該選挙区から選出された議員が存在しない状態で行われることになること。

また、仮に、今回の定数是正が適法になったと言えない場合があるとしても、右是正についての改正条例の提案理由の説明の中で、「近い将来、より適切な選挙区及び選挙区別定数の実現に向けて努力を継続する」と述べられているように、議会における将来の是正に期待をかけることができると考えられるので、事情判決の法理の適用により選挙を無効とすることによる不当な結果を回避することが相当である。

第一表

本件選挙時における選挙区間の議員1人当たり人口の格差(人口は60年国調)

選挙区名

人口

定数

議員1人当

たり人口

議員1人当

たり人口格差

(海上郡を1.00)

議員1人当

たり人口格差

(長生郡を1.00)

千葉市

788,930

11

71,721

3.33

2.35

銚子市

87,883

2

43,942

2.04

1.44

市川市

397,822

5

79,564

3.70

2.51

船橋市

506,966

7

72,424

3.36

2.37

館山市

56,035

1

56,035

2.50

1.34

木更津市

120,201

2

60,101

2.79

1.97

松戸市

427,473

6

71,246

3.31

2.33

野田市・関宿町

130,873

2

65,437

3.04

2.14

佐原市

49,784

1

49,784

2.31

1.63

茂原市

76,929

1

76,929

3.57

2.52

成田市

77,181

1

77,181

3.58

2.53

佐倉市

121,213

2

60,607

2.81

1.99

東金市

38,513

1

38,513

1.79

1.26

八日市場市

32,209

1

32,209

1.50

1.06

旭市

37,522

1

37,522

1.74

1.23

習志野市

136,365

2

68,183

3.17

2.23

柏市

273,128

4

68,282

3.17

2.24

勝浦市

25,159

1

25,159

1.17

市原市

237,617

4

59,404

2.78

1.95

流山市

124,682

2

62,341

2.90

2.04

八千代市

142,184

2

71,092

3.30

2.33

我孫子市・沼南町

149,686

2

74,843

3.48

2.45

鴨川市・天津小湊町

40,965

1

40,965

1.90

1.34

鎌ケ谷市

35,705

1

85,705

3.98

2.31

君津市

84,310

1

84,310

3.92

2.76

富津市

56,777

1

56,777

2.64

1.86

浦安市

93,756

2

46,878

2.18

1.54

四街道市

87,008

1

67,008

3.11

2.20

印旛郡

170,453

2

85,227

3.96

2.79

長生郡

61,025

2

30,513

1.42

1.00

山武郡

116,871

3

38,957

1.81

1.28

香取郡

111,982

3

37,327

1.73

1.22

海上郡

21,532

1

21,532

1.00

匝瑳郡

21,663

1

21,663

1.01

君津郡

46,460

1

46,460

2.16

1.52

夷隅郡

65,111

2

32,556

1.51

1.07

安房郡

66,190

2

33,095

1.54

1.08

(天津小湊町を除く)

総人口 5,148,163  議員1人当たり人口 60,567(総定数85)

第二表

千葉県議会の選挙区ごとの議員定数配分(総定数は85)

人口、配当基数、人口比定数、現定数、過不足等

選挙区名

人口

配当基数

人口比定数

現定数

過不足

千葉市

788,930

13.02

13

11

-2

銚子市

87,883

1.45

1

2

+1

市川市

397,822

6.56

7

5

-2

船橋市

506,966

8.37

8

7

-1

館山市

56,035

0.92

1

1

木更津市

120,201

1.98

2

2

松戸市

427,473

7.05

7

6

-1

野田市・関宿町

130,873

2.16

2

2

佐原市

49,784

0.32

1

1

茂原市

76,929

1.27

1

1

成田市

77,181

1.27

1

1

佐倉市

121,213

2.00

2

2

東金市

38,513

0.63

1

1

八日市場市

32,209

0.53

1

1

旭市

37,522

0.61

1

1

習志野市

136,365

2.25

2

2

柏市

273,128

4.50

4

4

勝浦市

25,159

0.41

(1)

1

+1

市原市

237,617

3.92

4

4

流山市

124,682

2.05

2

2

八千代市

142,184

2.34

2

2

我孫子市・沼南町

149,686

2.47

2

2

鴨川市・天津小湊町

40,965

0.67

1

1

鎌ケ谷市

35,705

1.41

1

1

君津市

84,310

1.39

1

1

富津市

56,777

0.93

1

1

浦安市

93,756

1.54

1

2

+1

四街道市

67,008

1.10

1

1

印旛郡

170,453

2.81

3

2

-1

長生郡

61,025

1.007

1

2

+1

山武郡

116,871

1.92

2

3

+1

香取郡

111,982

1.84

2

3

+1

海上郡

21,532

0.35

(1)

1

+1

匝瑳郡

21,663

0.35

(1)

1

+1

君津郡

46,460

0.76

1

1

夷隅郡

65,111

1.07

1

2

+1

安房郡

66,190

1.09

1

2

+1

(天津小湊町を除く)

総人口         議員1人当たり人

5,148,163     60,567(総定数85)

第三表

逆転区間議員1人当たり人口格差

1.定数3と定数2の逆転区間

香取郡を1.00とした場合

木更津市

1.61

野田市・関宿市

1.75

佐倉市

1.62

習志野市

1.83

流山市

1.67

八千代子

1.90

我孫子市・沼南町

2.01

印旛郡

2.28

山武郡を1.00とした場合

木更津市

1.54

野田市・関宿町

1.67

佐倉市

1.56

習志野市

1.75

流山市

1.60

八千代市

1.82

我孫子市・沼南町

1.92

印旛郡

2.19

2.定数2と定数1の選挙区間

長生郡を1.00とした場合

茂原市

2.52

成田市

2.53

鎌ケ谷市

2.81

君津市

2.76

四街道市

2.20

夷隅郡を1.00とした場合

茂原市

2.36

成田市

2.37

鎌ケ谷市

2.63

君津市

2.59

四街道市

2.06

安房郡を1.00とした場合

茂原市

2.32

成田市

2.33

鎌ケ谷市

2.59

君津市

2.55

四街道市

2.02

別紙選定者目録<省略>

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