東京高等裁判所 昭和62年(行コ)109号 判決 1991年7月30日
控訴人
中嶋拡子
同
木村修二
同
高山美津子
控訴人ら三名訴訟代理人弁護士
三橋三郎
同
新井章
同
宮本康昭
同
田村徹
同
山下洋一郎
同
山田由紀子
同
田中三男
同
滝沢繁夫
同
土屋寛敏
被控訴人
松井旭
同
近岡武男
同
伊藤太兵衛
同
中嶋徳太郎
同
千葉市
右代表者市長
松井旭
被控訴人ら五名訴訟代理人弁護士
堀家嘉郎
同
松崎勝
同
石津廣司
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人松井旭、被控訴人中嶋徳太郎、被控訴人伊藤太兵衛及び被控訴人近岡武男は、連帯して被控訴人千葉市に対し、金三一九二万九六〇六円及びこれに対する昭和五五年三月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人千葉市は、控訴人らに対し、金三五〇万円を支払え。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
5 仮執行宣言
二 被控訴人ら
主文と同旨
第二 当事者の主張
双方ともに原審の主張を敷衍して次のとおり主張するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決中「千葉中央卸売市場」とあるのをいずれも「千葉市中央卸売市場」と、原判決三枚目表一二行目の「徳三郎」を「徳太郎」と、同一〇枚目表四行目の「増やしてや」を「ましてや」と改める。)。
一 控訴人ら
1 本件補助金支出の違法性について
(一) 本件補助金の支出につき「公益上の必要」が認められないことについて
(1) 千葉青果は、営利を目的として設立された法人であって、商人であるから、その事業を公益事業ということはできない。その事業における購買層は広汎であっても、それゆえに公益性を帯びることはない。
千葉青果は、農林水産大臣(以下「農水大臣」という。)の許可を受けて、市場において卸売業務を行うに当たり、卸売市場法に定める数々の公的規制を受けているが、それは、市場の継続的開設という、開設者たる被控訴人市にとっての公益目的を実現するためになされるものであり、公的規制を受けるからといって千葉青果の事業活動の公益性が肯定されるわけではない。
千葉青果は、市場において営利法人としての事業活動をすることにより、結果的に消費者への生鮮食料品の安定供給という公益目的の実現に寄与することになる。しかし、これは、被控訴人市が千葉青果の営利活動を通じて右公益目的を実現しようとすることによるのであり、千葉青果の事業活動自体が公益事業であるからではない。千葉青果が出荷業者に対し出荷要請を行うのは、営利事業者として経済的利益追求のための当然の日常業務であるから、それを目して消費者への安定供給のための公的責務の遂行ということはできない。
以上のとおり、千葉青果の存在自体及びその事業活動には公益性はないのであり、その事業活動に関する補助金の支出は「公益上の必要」を欠くものとして違法である。
(2) また、本件補助金の支出が「公益上の必要」があるといえるためには、それによって直接住民の利益に資する必要があると解される。
しかるところ、本件補助金は、入場交付金の名目で産地対策費補助として、すなわち産地からの販売委託の指定獲得に役立ち、ひいては消費者への安定供給に役立つものとして支出されたものであるが、本件補助金が実際に産地対策のための旅費日当等に充てられたとしても、それによって指定団体が増加した事実は認められないのであり、実態は千葉青果の赤字補填に使われたにすぎず、消費者への安定供給という公益目的とは無縁の支出であったといわざるを得ない。
したがって、この点からしても、本件補助金の支出は「公益上の必要」を欠き違法である。
(二) 本件補助金は違法な手続により支出されたことについて
国が補助金を支出する場合については、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」という。)により規制がなされているが、地方公共団体による補助金の支出についても、条理上、補助金適正化法と同様の規制が働き、国民の納めた税金が公共の利益を増進する事業を補助するための財源として適正に費やされるのにふさわしい手続を踏むことが要請されているものと解される。本件補助金は、それによって達成しようとする公益目的、使途等が具体的に特定されて支出されたのではなく(補助金適正化法二条、六条参照)、補助金交付後の状況報告もさせておらず(同法一二条、一四条参照)、補助金の流用を防止する対策が何も講じられていない(同法一七条参照)など条理上要請される手続が全くとられていないのであり、このように手続的観点からも本件補助金の支出は違法というべきである。
2 本件補償金支出の違法性について
(一) 千葉青果が旧市場施設を使用するに当たっては、農水大臣から卸売業者の許可を得たうえ、被控訴人市から業務規程六一条により、卸売業者が使用する市場施設の位置及び面積等の指定を受けていたものであるが、新市場への移転に際しても、千葉青果が中央卸売市場施設を使用し得る権限自体が消滅したわけではなく、原判決のいう使用許可の取消なるものはなされていない。すなわち、新市場への移転に当たっては、被控訴人市は、業務規程二条で定められていた旧市場の位置及び面積を新市場のそれに変更する条例改正を行い、農水大臣の認可を得るとともに、新市場について、千葉青果及び新たに入場した他の卸売業者に対して新市場施設の使用指定をしただけであり、もともと農水大臣からの卸売業者の許可によって発生している市場施設についての使用権限と施設内での卸売営業の権限は引き続き存続しているのである。また、被控訴人市が業務規程六一条による指定をするについては、市場の移転計画が昭和四九年に決定され、昭和五四年に実行される経過の中で、使用期間を一年として更新してきたのであり、市場移転の直前に更新された使用期間については、市場の移転時期までに限定されていたものと解されるから、市場の移転時期の到来により右指定は当然に失効したものであり、その点からしても、使用許可の取消は存在する余地がなかったのである。したがって、使用許可の取消がなされたことを前提に、損失補償について国有財産法一九条、二四条の適用を認める余地はない。
(二) 仮に本件を使用許可の取消がなされた場合と同視するとしても、本件での市場施設の使用は、行政財産の目的内使用であるから、行政財産の目的外使用の許可取消の場合における損失補償を定めた国有財産法一九条、二四条は適用されない。
行政財産の目的内使用の許可取消の場合における損失補償の要否は、第一次的には当該個別法の規定により、第二次的には憲法二九条三項の趣旨により決せられるべきである。卸売市場法及び業務規程の定めを通覧すると、市場施設は開設者が設置して、これを卸売業者等に使用させることが基本となっており、市場施設の使用関係の実質は、使用許可を前提に卸売業者が自己の営業活動に必要な設備を設置することが予定されているものではなく、施設の使用料も公有財産たる土地及び建物そのものの使用料に比べて低廉になっているのであるから、市場施設に現状変更を加えることは、土地及び建物に対する使用権の行使としてではなく、限定された市場施設の利用に付随して例外的に許容されるものにすぎないものと解される。したがって、そのような市場施設の現状変更については、卸売業者等の負担と責任においてなされるべきであって、使用関係が終了する際に、仮にそれにつき卸売業者等の責任がない場合であっても、現状に回復すべきことが当然の前提になっているものと解され(業務規程六三条二項、六四条参照)、現状変更に要した費用や物件の移転費用等については、特に卸売業者等の期待・信頼に反するといえる特別の事情のない限り、補償を要しないものと解すべきである。
これを実質的にみても、市場施設の使用については、入場を許可されているだけでも一種の特典を与えられているのであり、行政財産の管理運営上の必要からその使用が制約されることがあっても、一定の限度までは受忍すべき内在的制約が伴っているものといえ、市場の移転に際しても、卸売業者等は、独自に用地を確保したり廃業を余儀なくされたりするわけではなく、逆に移転によって営業利益の増大を見込むことができるのであって、市場の移転は卸売業者にとっても利益となるのであるから、移転に伴う損失が生じることがあるとしても、それは受忍の限度内にあるものであり、それをもって公益のための特別の犠牲ということはできず、憲法二九条三項の趣旨に基づき補償すべき損失には当たらないというべきである(公営住宅法二一条四項によると、入居者による模様替え又は増築は原則として禁止され、事業主体の長の承認を得たときに限り許されるとされているところ、公営住宅の建替えに伴う移転の際に、右模様替え又は増築に要した費用につき損失補償がなされないことは、移転料の補償のみを認める同法二三条の一〇の規定からして明らかであるが、それは、同法が右の程度の費用負担は内在的制約とみているからにほかならない。)。
(三) 被控訴人市の公有財産規則二二条一号によると、行政財産の目的外使用の場合には、使用許可の取消による損失につき一切補償しない旨の条件を付すると規定されているが、同規則が行政財産の目的外使用について定めているのは、行政財産につき使用許可が問題となる典型的ケースが目的外使用の場合であり、行政財産の目的内使用として第三者に使用を許可する事例は稀有であるからにほかならないので、同規則が「目的外」と明文化していても、特に目的内使用の場合と区別する趣旨ではなく、本件のような行政財産の目的内使用の場合にも類推適用されるべきである。したがって、本件において使用許可の取消があったとしても、同規則の趣旨からして補償はなされるべきではないのである。
(四) 被控訴人市は、千葉青果に対する本件補償金を支出するに当たり、他市における補償事例を調査検討し、それをも参考にしたというけれども、それらの補償事例は、いずれも従前地方卸売業者であった者が新会社を設立して中央卸売業者として、新設された中央卸売市場に新規入場したというものである。このような場合、地方卸売業者として営業していた当時の財産は新規入場により無駄になる場合が多く、本件において千葉青果が新市場に移転した場合と比べ、被る損失は大きく、補償金支出の必要性が高いことは明らかである。したがって、右事例のような場合に補償金を支出したとしても、一概に違法不当とはいえないのである。しかるに、本件においては、新規入場する地方卸売業者に対しては何の補償もしなかったのに対し、千葉青果に対し二一九二万円余の補償金を支出しているのであり、他市における補償の事例は、むしろ本件補償金支出の違法性を裏付けるものである。
また、平成元年五月に東京神田中央卸売市場が大田区内に移転した。本件と同様、既に入場している中央卸売業者が新市場に移転した事例であるが、移転に際しては、何らの補償もなされていない。
このように他市の事例と比較してみると、本件補償金の支出が違法であることが肯定される。
(五) 本件の各設置物件等について、補償が違法である個別的な理由を敷衍すると、次のとおりである。
(1) 市場移転計画決定後の設置物件等について
仲卸売場下屋、車庫等は、昭和四九年に市場移転計画が決定した後に本件使用許可を受けて設置されたものであり、その後、使用許可が更新されたものの、前記のとおりその使用期間は市場の移転時期までに限定されていたものと解され、したがって、その到来により使用許可は当然に失効しているものであり、使用関係を一方的に消滅させる処分は存在せず、千葉青果としては、必要な場合に現状回復が命ぜられるほか、市場を明け渡す義務が生じていたのであり、それに伴う損失補償を論じる余地は全くない。
(2) 市場移転計画決定前の設置物件等について
冷房機、分類器、ゴミ集積場、事務所間仕切り、室内電話設備、冷暖房設備、サイバー防犯器は、いずれも昭和四九年の市場移転計画決定前に取得又は設置されたものであるが、これらは、単なる動産の取得又は業務規程六三条一項による現状変更であって、それにより市場施設の使用料が増額されるものではない。そして、右取得又は設置当時、既に審議会において市場の移転が公に検討され始めていたことのほか、右動産類は、被控訴人市に何らの関係もなく千葉青果が取得したものであり、また、現状変更については、使用関係終了時の現状回復が条件とされていたことを考慮すると、移転に伴う右設置物件等の廃棄損を受忍せざるを得ないとしても、それをもって特別の犠牲とはいえない。
(3) 電話移設料、移転に伴う備品修繕料及び電算機リース解除補償について
これらのものについては、市場施設の使用期間の消滅とは無関係であるが、前記のとおり市場の移転は千葉青果にとっても利益となる側面があり、それに伴うある程度の負担は受忍すべきであるところ、電話移設料は二六万五五〇〇円、移転に伴う備品修繕費は一六八万六六五〇円程度であるから、右受忍の限度内にとどまるものというべきである。また、電算機リース解除補償は、事業拡大のための設備更新に当たるものであり、補償の要件を欠く補助金的性格の支出というほかない。
3 本件各支出の目的の不当性について
千葉青果は、昭和五二年以降多額の損失を出して経営悪化に陥り、昭和五四年六月時点において純資産額が六六〇万円となり、卸売市場法で要求されている純資産基準額二二〇〇万円を大きく下回った。千葉青果においては、昭和五五年二月に四〇〇〇万円の増資を行い、遊休不動産を売却したほか、本件各支出を受けたことにより、昭和五五年三月三一日時点における純資産額が三一〇四万五〇六四円に回復した。本件各支出合計三一九二万九六〇六円の交付を受けていなければ、純資産基準額の維持どころか資産割れを招いていたことは明らかである。そして、本件各支出の経過をみると、千葉青果から被控訴人市に対し、市場移転に伴う補償要求が口頭でなされたほか、昭和五四年八月二七日付け書面で三億円の補償要求がなされたが、これを受けた被控訴人市は、同年九月初めころには、廃棄損補償及び移転補償をし、産地対策費補助をする旨の基本方針を決定した。以上のような事情からすると、本件各支出の実態は、被控訴人市において、監督官庁である農水省から、千葉青果が純資産基準額割れを起こしたことに対する監督責任を追及されることを回避するため、市場移転を口実に、支出の要件を検討することなく千葉青果に補償金及び補助金を支出し、純資産基準額の回復を企図したものであり、その目的の不当性は重大であり、支出を違法ならしめるものというべきである。
二 被控訴人ら
1 控訴人らの右主張はいずれも争う。
2 同1(一)(1)に対する反論
地方公共団体の補助金支出を規制する規定は、憲法八九条を除けば地方自治法二三二条の二のみであり、営利会社に対する補助金支出を禁止ないし制限する法令は存しないのである。当該補助金支出が住民に利益をもたらすものであれば、その直接の支出先が営利会社であっても、適法と解すべきである。
3 同1(一)(2)に対する反論
住民に対する直接的利益、間接的利益といっても、相対的概念であって、明確に区別できるものではなく、間接的に住民に利益をもたらす場合でも、「公益上の必要」があると解すべきである。
そして、地方公共団体は、一定の公益目的を実現すべく補助金支出をなすものであるが、その支出に当たり、右公益目的達成に当該補助金が寄与するか否かの判断は、当然のことながら事前予測に基づいてせざるを得ないのであり、右事前予測が著しく不公正、不合理であれば格別、その判断に一応の合理性があれば、仮に結果的に公益目的に寄与することがなくても、遡って「公益上の必要」が否定されることにはならない。本件についてみると、産地対策費の補助をなせば、集荷が活発に行われ、市民に豊富に生鮮食料品を供給することになるとの判断には十分な合理性があり、しかも、現に昭和五五年度には千葉青果の産地対策費が増加し、産地指定団体も増加しているのであるから、結果的にも右公益目的に寄与したものというべきである。
4 同1(二)に対する反論
補助金適正化法は、補助金支出の手続に法的規制を加える場合の一つの形態を示したものにすぎず、条理とは無関係である。仮に補助金支出の手続につき何らかの条理が存するとしても、その違反が直ちに補助金支出を違法又は無効ならしめるものとはいえない。
仮に控訴人らの主張を前提としても、被控訴人市は、千葉青果から産地対策費補助の要求を受けた後、他市の事例をも参考としつつ補助の必要性を検討し、千葉青果から提出させた最近三か月間の産地対策費の一覧表を基礎に補助額を算定し、支出しているものであって、使途は具体的に特定されていた。また、被控訴人市は、中央卸売市場開設者として、千葉青果の産地指定団体又は取扱数量の増減を当然に把握できる立場にあり、補助金支出の行政上の効果を知ることができたのであるから、殊更状況報告をさせる必要もなかったのである。更に本件補助金は、産地対策費として特定されて支出されており、流用のおそれはなく、現に産地対策費として使用されているのであるから、必要な手続を欠如していることはないというべきである。
5 同2(一)に対する反論
本件において、旧市場につき明示的な使用許可の取消はなされてないとしても、旧市場の廃止という被控訴人市の一方的措置により千葉青果が旧市場の施設につき有していた使用権が一方的に消滅させられたことに変わりはなく、国有財産法一九条、二四条で定める行政財産の使用許可による使用権を明示的な許可取消により消滅させた場合と利益状況を同じくするから、法的評価としては使用許可の取消がなされたものと同視すべきである。
本件使用指定は、期間一年間とされ、右期間が経過するごとに更新されてきたものであるが、そもそも一年という使用期間は、使用目的等に照らし適合しないものであり、期限の到来によって当然に使用が終了するものではない。しかも、市場移転直前の更新の際も、従前どおり期間は一年間とされ、市場移転に伴う旧市場の廃止による使用期間の限定及びその後の更新はしない旨の条件は付されていなかったのである。したがって、千葉青果に対する使用指定が旧市場の廃止によって当然に失効したということはできない。
6 同2(二)に対する反論
国有財産法一九条、二四条の規定は、行政財産の目的外使用の場合のみならず、行政財産の目的内使用の場合についても適用されるものである。すなわち、行政財産の目的外使用の許可であれ、目的内使用の許可であれ、行政財産につき特許により設定された使用権であることに違いはなく、憲法二九条三項の趣旨である公平の原則からすると、行政上の理由により使用権が消滅させられたときには、いずれの場合にも補償の必要性があるものというべきである。行政財産の目的内使用許可の取消について、個別法に規定がなければ、国有財産法一九条、二四条の類推適用が肯定されるべきである。
業務規程六三条二項、六四条の各規定は、使用資格消滅の際の現状回復義務を定めたものにすぎず、損失補償の要否を定めたものではない。現状回復義務の存在が損失補償の必要性を否定するものでないことは、道路法七一条二項と同法七二条との関係に照らしても明らかであるが、仮に業務規程六三条二項、六四条が、使用権消滅の際の補償不要の趣旨を含むとしても、憲法二九条三項、国有財産法一九条、二四条の趣旨に照らし、使用者に帰責事由がある場合に限定され、本件のように市場の移転により一方的に使用権を消滅させた場合には適用されないものと解すべきである。
7 同2(三)に対する反論
公有財産規則二二条の規定は、その文言どおり、行政財産の目的外使用の場合にのみ適用されるものであり、目的内使用である本件の場合に適用される余地はない。仮に本件についても適用されるとしても、同規定は、一号の補償をしないとの条件を付し得るとしているにすぎず、右条件の付されていない本件の場合に、同規定を根拠として補償を拒否することはできない。なお、本件使用許可について、千葉青果の帰責事由の有無を問わず一切の補償を要しないとの条件が付されたと仮定すると、同条件は、憲法二九条三項、国有財産法一九条、二四条の趣旨に反して無効といわなければならない。
8 同2(四)に対する反論
他市の補償の事例のように地方卸売業者が新規に中央卸売市場に入場する場合、その入場は、当該地方卸売業者の自発的意思によるものであり、中央卸売市場開設者の強制によるものではない。各地方卸売業者は、中央卸売市場入場に伴って一定の経済的負担が生じる場合にも、将来的な採算を見込み経営上有利と判断して自主的判断に基づき中央卸売市場に入場するのであって、そこには中央卸売市場開設者による一方的な公権力行使としての措置は存在しない。したがって、そのような場合には、もともと損失補償の余地はないのである。他市の補償の事例は、そのような場合においてすら補償がなされていることを示すのであり、本件のように被控訴人市の事情により一方的に旧市場施設に対する使用権が消滅させられた千葉青果に対し補償をすることが適法であることを一層補強するものといわなければならない。
9 同2(五)(1)に対する反論
新市場への移転計画は昭和五〇年に確定したものであるが、それは、あくまでも行政上の計画としてであり、法的に確定したといえるのは、昭和五四年の千葉市中央卸売市場設置条例及び業務規程の改正並びに農水大臣の認可の時点である。千葉青果は、旧市場施設に対する使用権を有していたものであり、新市場への移転が法的に確定するまでの間、日々の卸売業務継続のために旧市場施設の増改築等を必要とすることは当然あり得るのであり、かかる事情からなされた設置物件等については補償がなされるべきである。
10 同3に対する反論
千葉青果が昭和五四年九月三〇日決算において純資産基準額を下回ったのは事実であるけれども、被控訴人市は、右事実を農水省に報告し、同省の指導のもと千葉青果に再建計画を建てさせており、右再建計画によると、昭和五五年九月決算時までに純資産基準額の回復をするというものであり、これについては農水省も了承済みであったのであるから、被控訴人市としては、昭和五五年三月決算時点において法令に違反してまで純資産基準額の回復のための支出をする必要などなかったのである。
被控訴人市は、補償金については、旧市場に入場していた仲卸売業者に対しても、千葉青果に対すると同じ時期に同じ補償額算定方式により支出することを決定し、支出しているのであり、また、補助金である入場交付金については、新市場に入場する他の卸売業者二社に対しても、千葉青果に対する支出を決めたと同じ時期に、千葉青果との資本金、取扱高との比較により各五〇〇万円を支出することを決定し、事後支出しているものである。
千葉青果は、昭和五四年六、七月ころから被控訴人市に対して補償要求をしていたものであり、同年八月二七日に三億円の補償要求書を提出したのは、補償要求のうち最大のものである営業補償の要求を文書で強く要求するためのものにすぎず、したがって、同年九月に被控訴人市において補償方針を決定したからといって検討もなく急ぎ決定したということはできない。
以上のとおり、被控訴人市は、控訴人ら主張のように千葉青果の純資産基準額を回復させる目的で支出したものではない。
第三 証拠関係<省略>
理由
第一本案前の主張について
一不真正連帯債務を前提にする請求が不適法であるとの主張について
控訴人らは、被控訴人松井及び被控訴人近岡に対しては、地方自治法二四三条の二の規定による損害賠償義務と民法上の損害賠償義務を主張し、被控訴人伊藤及び被控訴人中嶋に対しては、民法上の損害賠償義務を主張して、地方自治法二四二条の二第一項四号の規定による損害補填の代位請求訴訟を提起しているものである。そして、原審における訴訟経過にかんがみれば、右民法上の損害賠償義務の主張が時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきものとは認められないし、また、右訴訟において職員の民法上の損害賠償義務の履行を請求することが許されないと解すべき理由もない。右訴訟において複数の職員が被告とされている場合に、請求にかかる各自の損害賠償義務が不真正連帯の関係に立つか否かは本案の問題である。
この点に関する被控訴人らの本案前の主張は採用できない。
二被告適格を欠くとの主張について
当裁判所も、被控訴人松井、被控訴人近岡、被控訴人伊藤、被控訴人中嶋(以下「被控訴人四名」という。)の被告適格に欠けるところはないと判断する。その理由は、原判決理由一2(原判決三八枚目表一行目から同三九枚目裏五行目まで)の説示と同一であるから、これを引用する。
第二被控訴人四名の地位、千葉市中央卸売市場の移転及び本件各支出について
請求原因1(本件各支出当時における被控訴人四名の地位)、2(千葉市中央卸売市場の移転と新市場への入場)及び3(本件各支出)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
第三本件各支出に至る経過について
本件各支出に至る経過については、次のとおり付加訂正するほかは、原判決理由三(原判決四〇枚目表五行目から同四五枚目表八行目まで)の認定と同一であるから、これを引用する。
1 原判決四〇枚目表九行目から同一〇行目までの「第一〇八号証の三ないし六、同号証の一三」を「第一〇八号証の三、五、六、一〇、一三」と改める。
2 同四〇枚目表一一行目の「同高橋三郎」の次に「、同三橋幸弘」を加える。
3 同四〇枚目表一二行目の「田中信夫」の次に「、当審証人菅佐原節松及び同細野一善」を加える。
4 同四二枚目表六行目の「正式に要求した。」を「正式に要求し、同年八月末には三億円の補償を要求する書面を提出した。」と改める。
5 同四二枚目表六行目の「このため」から同一二行目の「基本方針」までを「被控訴人市の経済部は、前記他県の事例なども参考として検討を重ね、最終的に「①営業補償については、新市場で営業を継続できるのであるから不要である。②産地対策費補助については、市民への安定供給を確保するために必要であり、地方自治法二三二条の二の規定による補助金として支出する。③廃棄損補償及び移転補償については、被控訴人市の都合により市場を移転するのであるから、同法二三八条の五第四項が普通財産の貸付を解除したときに地方公共団体の損失補償義務を定めている趣旨にかんがみて、補償するのはやむをえない。」との基本方針」と改める。
6 同四三枚目裏一二行目の次に行を改めて以下を加える。
「そして、新市場に新たに入場する千果千葉中央青果株式会社と株式会社京葉中央青果市場の二社に対する産地対策費については、右二社と千葉青果との資本金、取扱量の比を考慮するなどして、それぞれに対し五〇〇万円を支出することを決めた。」
7 同四四枚目表六行目の「被告市は、」から同裏二行目の「としている。」までを「被控訴人市においては、前記のとおり、決裁規程により、工事費等を除く五〇〇万円を超える支出命令の事務は、助役の専決事項とされ、助役が専決により支出命令をすることができることになっていた。」と改める。
8 同四五枚目表八行目の次に行を改めて以下を加える。
「9 なお、旧市場においては、千葉青果の卸売業務に関連して仲卸業者が営業し、その際、旧市場施設に右営業に必要な物件を設置していたが、被控訴人市は、市場の移転により廃棄損が生じるとして、千葉青果に対してと同様の手続により、昭和五五年三月二九日、右仲卸売業者である千葉青果卸売協同組合に対し、仲卸売場下屋廃棄損(千葉青果との共有の物件であり、同協同組合の共有持分に対するもの)として一五〇万八七五〇円を、同じく長塚青果株式会社に対し、冷暖房設備等の廃棄損として五〇万〇〇二二円を各支出した。」
第四入場交付金の支出の違法性について
一本件入場交付金は、前記認定のとおり、産地対策費補助のために支出されたものであるところ、控訴人らは、補助金であるとすれば、決裁規程別表第1の3(2)(20)に基づき財政部長の専決によりその支出負担行為及び支出命令の決裁がなされるはずであるのに、本件入場交付金については助役である被控訴人近岡の決裁による支出命令により支出されているのであるから、本件入場交付金を補助金とみることはできず、結局、本件入場交付金は法的根拠のないまま支出された旨主張する。
しかし、右主張は採用することができない。その理由は、原判決理由四1(原判決四五枚目裏二行目から同四六枚目表三行目まで)の説示と同一であるから、これを引用する。
二控訴人らは、本件入場交付金の支出は予算流用措置によってなされたものであって違法である旨主張し、これに対し、被控訴人らは、右主張が時機に後れた攻撃防御方法の提出であり、訴訟上の信義則に反する旨主張する。
しかし、右主張はいずれも採用することができない。その理由は、原判決理由四2(原判決四六枚目表四行目から同四八枚目表四行目まで)の説示と同一であるから、これを引用する。
三控訴人らは、本件入場交付金が補助金として支出されたものであれば、地方自治法二三二条の二にいう「公益上の必要」が認められなければならないのに、本件入場交付金の支出についてはこれが認められないから違法である旨主張する。
地方自治法二条三項一一号及び一七号の規定によると、地方公共団体は、市場の経営その他公共の福祉を増進するために適当と認められる収益事業を行い、また、消費者の保護に関する事務を行うこととなっている。そして、卸売市場法によると、一定の要件を満たす地方公共団体は、農水大臣の認可を受けて中央卸売市場を開設することができること(八条)、中央卸売市場は、一般消費者が日常生活の用に供する生鮮食料品等の流通及び消費上特に重要な都市及びその周辺の地域における生鮮食料品等の円滑な流通を確保するための生鮮食料品等の卸売の中核的拠点となるとともに、当該地域外の広域にわたる生鮮食料品等の流通の改善にも資するものとして開設される卸売市場であること(二条一項、三項)、中央卸売市場において卸売の業務を行おうとする者は、農水大臣の許可を受けなければならず(一五条)、右許可を受けた卸売業者は、農水大臣及び市場開設者たる地方公共団体の監督及び規制に服する(一七条以下)ほか、中央卸売市場において行う卸売の方法等についても厳しい制限を受けること(三四条以下)などが定められており、これによって生鮮食料品等の取引の適正化とその生産及び流通の円滑化を図り、もって国民の生活安定に資する(一条)という公益目的を達成するものとされている。このような中央卸売市場設営の公益目的を達成するためには、何よりもまず、卸売業者が、消費者の需要に応じ得る生鮮食料品等を産地から集荷し、これを安定供給することが求められる。卸売業者が営利を目的とする商人であることは、控訴人ら指摘のとおりであるけれども、前記の公的規制の下に右集荷・供給の卸売業務を適切に遂行することを通じて、公益目的の実現に寄与する関係にあるといえる。
したがって、中央卸売市場を開設した地方公共団体が、諸般の事情を総合的に勘案したうえで、卸売業者に課せられた右役割を適切に遂行させるための必要性に基づいて、卸売業者に対し相応の補助を行うことは、地方自治法二三二条の二の規定にいう「公益上の必要」があるものと認めるべきである。
ところで、<証拠>によると、千葉青果においては、千葉市中央卸売市場に生鮮食料品を安定して多く提供するためには、全国各地の経済連等の出荷団体から、その産地の生産品の販売を委託するとの指定を受け、この指定を維持することが必要であり、そのために、職員を各地に出張させ、産地の出荷団体に指定及び出荷の要請をしており、旅費日当等の費用が必要であったこと、昭和五四年一〇月に開場した新市場は、被控訴人市の人口急増等に対応するものであり、千葉青果にとっても、以前より多くの産地からの集荷を得ることが要請されており、当然、産地の販売委託の指定を受け、指定を維持するための出張旅費日当その他の経費の増加が予想されたこと、被控訴人市は、新市場においては、急増した人口に対応する集荷が必要であり、そのためには卸売業者が産地対策を十分に行い、活発な集荷活動をすることが重要であると考え、新市場に入場する千葉青果ほかの卸売業者に対し右のような趣旨の産地対策費を補助することにしたこと、その具体的金額については、千葉青果において昭和五四年七月末から同年一〇月までの約三か月間に産地対策のために要した旅費等の合計額(約一七六万円)を基礎として、移転後三年間の分を計算し、その約半分の一〇〇〇万円を補助することにしたこと、千葉青果は、本件入場交付金の交付を受けて、産地対策を行い、その結果、昭和五五年度には指定を受けた団体が四つ増えて三六団体となり、取扱量も、昭和五四年度約九六億円であったものが、昭和五五年度約九七億円、昭和五六年度約一〇八億円、昭和五七年度約一一一億円と漸増したこと、以上の各事実が認められる。控訴人らは、本件入場交付金が千葉青果の赤字補填に使われたと主張するが、そのように認めることはできない。
してみると、産地対策費の補助として支出された本件入場交付金は、その支出の趣旨及び金額において、公益上必要な補助金であったと認めるべきであり、これを違法ということはできない。この点に関する控訴人らの主張は採用することができない。
四控訴人らは、本件入場交付金の支出は、一切の補償をしないとの被控訴人市の行政施策に違反し、信義誠実の原則にもとるものである旨主張する。
しかし、右主張は採用することができない。その理由は、原判決理由四5(原判決五〇枚目裏四行目から同五一枚目裏三行目まで)の説示と同一であるから、これを引用する。
五控訴人らは、本件入場交付金の支出については、補助金の支出として条理上要求される補助金適正化法所定の手続が全くとられていないので違法である旨主張する。
前記認定事実及び弁論の全趣旨によると、被控訴人市は、本件入場交付金について、通常の支出と異ならない手続で支出したものであり、補助金適正化法で要求されている事後報告をさせたり、流用防止の措置をとったりはしていないことが認められるけれども、そのことだけで右支出を違法とすることは法律上の根拠を欠くというほかない。
したがって、控訴人らの主張は採用することができない。
六控訴人らは、新市場に入場した千果千葉中央青果株式会社と株式会社京葉中央卸売青果市場に対しても同時に入場交付金を支出しなかったのは、不公平かつ恣意的な運用であるから、本件入場交付金の支出は違法である旨主張する。
しかし、右主張も採用することができない。その理由は、原判決理由四7(原判決五二枚目表五行目から同裏一二行目まで)の説示と同一であるから、これを引用する。
第五本件補償金の支出の違法性について
一控訴人らは、本件補償金についても、予算流用措置によって支出したものであり、また、一切の補償をしないとの行政施策に反して支出したものであるから、いずれの理由からも違法である旨主張する。
しかし、右主張は採用することができない。その理由は、原判決理由五1(原判決五三枚目表二行目から同一二行目まで)の説示と同一であるから、これを引用する。
二控訴人らは、本件補償金の支出については議会の議決(地方自治法九六条一項一二号の準用)を経ていないから違法である旨主張する。
しかし、右主張も採用することができない。その理由は、原判決理由五6(原判決六七枚目裏四行目から同六八枚目表二行目まで)と同一であるから、これを引用する。
三控訴人らは、本件補償金の支出は、損失補償の要件を欠き違法である旨主張するので、以下検討する。
1 千葉市中央卸売市場業務規程六一条一項によると、卸売業者は、当該業者が使用する市場施設(市場内の用地及び建物その他の施設)の位置、面積、使用期間その他の使用条件について市長の指定を受けて市場施設を使用できるものとされ、同六三条一項によると、市場施設の使用者は、市長の承認を受けずに市場施設に建築、造作若しくは模様替えを加え、又は市場施設の原状に変更を加えてはならないと定められている。
そして、前記引用にかかる認定事実と<証拠>によると、千葉青果は、昭和三六年七月の旧市場の開場以来、市場施設の使用について右市長の指定を受け、一年ごとにその更新を繰り返してこれを使用してきたこと(右一年の期間は、その経過により当然に使用を終了させるという趣旨のものではなかった。)、その間、千葉青果において市場内に新たな設備等を設置する必要が生じたときは、必要に応じて新たな指定を受け又は原状変更の承認を受けて、自己の費用負担でこれを設置してきたほか、必要な備品、器具類も自費で取得して使用してきたこと、昭和五四年一〇月の市場の移転に際しては、千葉市中央卸売市場設置条例の改正により市場の位置等が変更されたことに伴い、千葉青果に対して新市場の市場施設についての使用指定がなされたが、千葉青果が旧市場施設に設置した設備類や旧市場で使用していた備品、器具類のうち新市場に移転できないもの又は新市場では使用できないものについては、廃棄又は処分するほかなくなったこと、そこで、被控訴人市は、市場の移転が公益上の必要性に基づき被控訴人市により一方的に行われるものであることを考慮し、地方自治法二三八条の五第四項の規定の趣旨にかんがみ、右設備、備品等の廃棄又は処分により生じる千葉青果の損失を補償することとし、一部の移転補償を含めて本件補償金を支出したものであることが認められる。
2 ところで、本件のように地方公共団体が中央卸売市場を移転した場合に、旧市場施設の使用指定を受けていた卸売業者が自己の費用で設置し又は取得した設備、備品等のうち新市場に移転ができないものに対する補償の要否に関し、卸売市場法及びその付属法令は明文の規定を設けていない。
もっとも、業務規程六三条二項は、「使用者が市長の承認を受けて、市場施設に建築、造作若しくは模様替えを加え、又は市場施設の原状に変更を加えたときは、市長は、使用者に対し返還の際原状回復を命じ、又はこれに代わる費用の弁償を命ずることができる。」と定め、同六四条は、「使用者の死亡、解散若しくは廃業又は業務許可の取消しその他の理由により使用資格が消滅したときは、相続人、清算人、代理人又は本人は、市長の指定する期間内に自己の費用で当該施設を原状に復して返還しなければならない。ただし、市長の承認を受けた場合は、この限りでない。」と定めている。しかし、右六三条二項の規定は、市場施設を返還することとなった場合に原状回復を命ずることができることを定めたにすぎないものであって、公物の使用終了に当たり原状回復を命じ得るからといって直ちに損失補償の義務がないといえないことは、例えば道路法七一条二項、七二条、河川法七五条二項、七六条一項、海岸法一二条二、三項、都市公園法一一条二項、一二条等が帰責事由のない使用者に対しても原状回復命令を発し得るとする一方で、これによる損失補償の義務を認めていることに照らしても肯定されるところである。また、業務規程六四条の規定は、市場施設の使用資格が消滅した場合の返還義務を定めたものである。したがって、これらの規定を根拠として、行政上の必要から市場施設の使用が終了した場合にも一切損失補償を要しないと解することはできない。
また、千葉市公有財産規則二三条は、「行政財産の目的外使用の許可は、使用目的、使用期間、使用料並びに使用料納付の方法及び時期のほか、次の各号に掲げる事項をその条件として付するものとする。ただし、特にその使用の目的により必要でないと認めるものについては、省略することができる。」と定め、各号の中の一号で、「許可の取消しをした場合において生じた損失については、一切補償をしないこと。」を規定している。これは、市長の制定した行政規則であるから、法律に反しない限りにおいて有効であることはいうまでもないところ、地方自治法によると、地方公共団体の普通財産の貸付及び一定の場合(同法施行令一六九条、一六九条の二)に許される行政財産たる土地についての貸付又は地上権の設定については、その貸付期間中に公用又は公共用に供するための必要により貸付契約を解除したときに、使用者に対する損失補償を認めている(二三八条の五第四項、二三八条の四第二項)が、行政財産の目的外使用許可の取消(二三八条の四第四項、六項)について補償を認めた規定はない。しかし、国有財産法は、普通財産の貸付について地方自治法二三八条の五第四項と同旨の規定を設けて損失補償を認めている(二四条二項)一方、行政財産の目的外使用許可(一八条三項)による使用についても右規定を準用しているのであり(一九条)、損失補償の要否について、国有の行政財産の使用許可の場合と公有の行政財産の使用許可の場合とを別異に取り扱うべき合理的理由は見出し難いから、公有の行政財産の目的外使用許可の取消の場合にも、国有財産法の右規定の類推適用により損失補償を求めることができる場合があると解するのが相当である(最高裁昭和四九年二月五日判決・民集二八巻一号一頁参照)。したがって、右公有財産規則の規定は、これに抵触しないように限定して解釈され運用されるべきであり、右規定のゆえに行政財産の使用が一切損失補償の対象たり得ないとは到底いえない。
3 卸売市場法及び業務規程の下において、農水大臣の許可を受けた卸売業者に対して市長が市場施設の使用指定をするのは、行政財産たる市場施設をその本来の目的及び用途に従って公の用に供するためであり、これによって卸売業者に私法上の使用権を付与するものではないから、その法的性質は、行政財産の目的外使用の許可と同じではない。また、卸売業者は、農水大臣の許可により中央卸売市場において卸売業務を行う資格を取得するのであり、市場の移転に伴い市長の使用指定の対象施設が旧市場から新市場の市場施設に変更されたとしても、形式上は、旧市場の市場施設の使用許可の取消がなされたものとみる余地はない。
しかし、前記1で判示した経過からすると、市長の使用指定を受けた千葉青果が旧市場の市場施設内において適法に設置し又は取得して卸売業務に使用していた設備、備品等が、市場の移転という被控訴人市の公益上の行政措置により、新市場に移転するか廃棄又は処分するほかなくなったことは明らかである。この点に着目すれば、行政財産の使用を許可された者が公益上の必要に基づいて許可を取り消されたことにより、当該使用権自体の喪失とは別に、投下資本を失うこと等によるいわゆる付随損失を被ることになった場合と異ならないということができる。
たしかに、市場施設を使用する卸売業者は、前記のように、各種の公的規制の下で生鮮食料品等の集荷・供給等の業務を遂行することを通じて、地方公共団体が設置した中央卸売市場の公益目的の実現に寄与するものであり、その限りにおいて、卸売業者は地方公共団体に属する公的機能の一部を実質的に分担するものであるといってよい。一般に、私人による行政財産の使用が通常は目的外使用の形式で許されるのに対し、卸売業者による市場施設の使用について同じ形式が用いられていないのは、このためでもあると解される。しかしながら、卸売業者の地位が、行政財産の目的外使用を行う私人と同一ではないにしても、そのことから更に進んで、卸売業者をあたかも公務に従事する公務組織の構成員であるかのように目して、その市場施設の使用関係を地方公共団体から単なる便宜供与ないし恩恵を受けるのと同視することは適切ではない。卸売業者はもともと商人であり、自己の負担と危険において卸売業務に参入するものであって、地方公共団体が設置した市場施設以外の業務上必要な設備、備品等は自らの費用により設置し又は取得するものであることを考慮すると、卸売業者が市場施設を使用する地位自体について施設に内在する公益上の制約を免れないことはともかくとして、少なくとも自らの経済的負担において設置し又は取得した設備、備品等の財産権の保護に関しては、特段の事情がない限り、行政財産の目的外使用を許された一般私人の立場と特に区別して取り扱うべき実質的、合理的な理由はないと考えられる。
したがって、公益上の必要に基づく市場の移転に伴い卸売業者が使用する市場施設の指定が変更された結果、旧市場において卸売業者が設置し又は取得した設備、備品等に生じたいわゆる付随損失については、憲法二九条の趣旨と公平の原則に照らし、前記国有財産法一九条、二四条により行政財産の目的外使用の許可が取り消された場合に認められる損失補償と同様の補償を求めることができるものと解するのが相当である。
4 控訴人らは、市場施設は開設者が設置して卸売業者等に使用させることが基本となっており、卸売業者が市場施設を原状変更して自己の営業に必要な物件等を設置することは、市場施設の利用に付随して例外的に卸売業者等の負担と責任においてなされるものであり、その廃棄損等に対する補償を請求できる権利はない旨主張し、また、卸売業者は、市場に入場を許可されているだけでも一種の特典を与えられているから、行政上の必要からその使用が制約されることがあっても、一定の限度まではこれを受忍すべき内在的制約があり、市場の移転は卸売業者にとっても利益になるのであって、移転に伴う廃棄損等の損失をもって、公益のための特別の犠牲ということはできず、損失補償を要しない旨主張する。
卸売市場法及び業務規程の定めを通覧すると、市場施設の使用については、開設者が卸売業務に必要な基本的市場施設を設置し、卸売業者等にこれを使用させて使用料を徴収するという関係になっている。しかしながら、実際に市場において卸売の業務を行うに当たっては、開設者の設置したもの以外の設備、備品等を必要とすることは明らかであり、そのために市場施設の原状変更の承認手続等が認められており、本件において千葉青果が設置した物件等の内容からも窺えるように、卸売業者がその設置又は取得のために相当の経費を投下する実例もあり得るものと考えられる。したがって、卸売業者による設備、備品等の設置又は取得について、これを専ら卸売業者の個人的都合のみによる例外的なもの(控訴人の言及する公営住宅の入居者による模様替え又は増築はこれに近い。)とみて、卸売業者に責任のない使用関係の終了の際にも損失補償を求める権利がないとする考え方は採り得ないものというべきである。また、卸売業者は、中央卸売市場に入場し、市場施設を使用して卸売業務を行うことができるのであるが、その反面、使用料を負担し、数々の公的規制にも従わなければならず、市場の移転によって利益を受けるといっても、他方で使用料の増額を伴い、あるいは新たな設備、備品等の投資もしなければならない。控訴人らの主張する卸売業者の地位の特典あるいは市場移転による受益なるものをもって、前記の付随損失に対する損失補償を否定することはできない。
5 控訴人らは、市場移転計画が発表された後に千葉青果が設置し又は取得した設備、備品等は、もともと移転を知りながら設置又は取得したものであり、旧市場施設の廃止により失われる設備等のほとんどは新市場において完備されており、千葉青果が回復困難な実害を被ることはないうえ、右設備等の設置の前提となる市場施設に対する使用指定は、その期間が市場移転時までに限定されていたものであるから、右設備、備品等に対する補償は要しないものというべきである旨主張する。
前記認定のとおり、千葉市中央卸売市場の移転は、昭和四三年ころから検討が始まり、昭和四八年から昭和四九年にかけて移転計画が決定され、以後これに基づき工事が実施され、昭和五四年一〇月に新市場が開場したものであるが、本件補償金の対象となった設備等は、原判決添付の別表「千葉青果(株)廃棄損等補償内訳」(以下「補償内訳表」という。)から明らかなとおり、その大部分が移転計画の決定後に設置又は取得されたものである。
ところで、既に述べたとおり、卸売市場法による中央卸売市場開設者と卸売業者との基本的な関係は、開設者が卸売業務に必要な市場施設を設置し、卸売業者の使用する市場施設を指定して使用させ、使用料を徴収するというものであるが、右市場施設以外にも卸売業務に必要な設備、備品等が卸売業者によって設置又は取得されることもあり得る。そして、そのように卸売業者によって設置又は取得されるのは、通常業務上の必要性が高いからであり、中には、市場の移転計画が確定していることを知っていても、設置しなければ当面の卸売業務に著しい支障が生じるものがあることが考えられる(設置者が卸売業者からの右設備等の設置のための原状変更申請等を承認したことは、特別の反対事情がない限り、右必要性が存したことを推認させるものである。)。したがって、そのような設備等については、移転時期が到来すれば使用できなくなることが予測できたとしても、それだけで他の設備等と区別すべき理由はなく、市場の移転に伴う廃棄損等に対する補償を要するものと解するのが相当である。新市場においては、卸売業者が旧市場に設置した設備等のほとんどが完備されているとしても、それに対応する使用料が徴収されることを考えると、そのことをもって、損失補償不要の理由とすることはできない。
これを本件についてみると、<証拠>によると、補償内訳表記載の各物件等は、いずれも千葉青果が卸売業務を遂行する過程で必要が生じて設置し又は取得したものであることが認められる。もっとも、右証人田中信夫は、右各物件等の設置に当たっては、被控訴人市から来たるべき市場移転を理由に難色を示されたが、千葉青果側のたっての希望をいれてもらって原状変更承認等を受けたものであり、その際、市場移転時には原状回復する旨の誓約書を差し入れたから、当時、千葉青果の代表者であった同人としては、市場移転時に右各物件等の廃棄損等の補償をしてもらえるどころか、千葉青果の費用でこれらを除去しなければならないと考えていた旨供述するけれども、右誓約書差入れの事実を認めるに足りる証拠はなく、また、<証拠>に照らし、各物件等の設置のための原状変更承認等がなされた際に、市場の移転に関連して特別の条件が付されたような形跡もなく、かえって後記認定のとおり、千葉青果が昭和五〇年八月に被控訴人市の承認を得て建設した青果部仲卸売場建物につき昭和五四年三月に所有権を放棄する代償として被控訴人市から補償を受けている事実が存することなどにかんがみると、右供述のうち、損失補償に関する自己の認識を表した部分はともかく、それ以外の部分は採用できないものというべきである。
6 控訴人らは、他の地方公共団体等における市場移転の際の補償事例からみても、千葉青果に対する補償は必要でないことが肯定される旨主張する。
被控訴人市が、市場の移転に伴う補償問題に備えるため、他地における補償事例の調査を行ったことは前記認定のとおりであるところ、<証拠>によると、調査した事例は、いずれも中央卸売市場を新たに設置し、地方卸売市場で営業していた業者を整理統合して卸売業者として入場させたという事案であり、五例のうち一例を除き、卸売業者に対し、補償金又は補助金を支出したものであることが認められる。本件は、既に存在した中央卸売市場を移転する場合の補償が問題となっている事例であり、移転に際し入場した新規業者は、あくまでも任意の選択によったものであるから、右認定の事例とは事案を異にする。また、<証拠>によると、平成元年五月に東京都中央卸売市場神田市場が同太田市場に移転した際には、卸売業者から一切の補償の要求がなく、何らの補償もしなかったことが認められるが、同中央卸売市場における卸売業者の使用関係の実態は明らかにされておらず、本件における補償の要否を判断する根拠とすることはできない。
7 以上述べたとおりであって、他に特段の事情は認められないから、本件補償金の支出が損失補償の要件を欠くとはいい難く、控訴人らの主張は採用することができない。
四控訴人らは、補償内訳表記載の各物件等を個々的にみると、損失補償をすべきでないものが含まれている旨主張する。
これに対する当裁判所の認定、判断は、以下に訂正付加するほかは、原判決理由五5(原判決五六枚目裏九行目から同六七枚目表三行目まで)の説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決五八枚目表一〇行目の「前掲甲第一〇五号証の一ないし八」から同裏四行目までを次のとおり改める。
「<証拠>によると、右物件等の中には、設置の際の市場施設の使用指定又は原状変更承認において、業務規程六三条二項、六四条の規定に基づく原状回復義務を履行することの条件が付されていたもののあることが認められるが、右各規定は、前記のとおり市場移転のような場合に損失補償が不要であることを定めたものとは解されないのであり、右指定又は承認の際に右規定に従うことが条件とされたとしても、それによって千葉青果が本件の損失補償請求権を放棄したと認めることもできない。」
2 原判決五九枚目表一一行目の「約一九〇万円」を「一九五万円」と改める。
3 原判決六〇枚目裏七行目の「原則として、」、同八行目から九行目までの「、特段の事情のない限り」、同一一行目の「補償について」をいずれも削除し、同六一枚目表二、三行目以下の「千葉青果ら」から同五行目の「至極当然の理である。」までを「本件下屋の構造、規模をもあわせ考えると、右補償の際に、千葉青果らが無償で下屋の所有権を放棄するなどしたものとはたやすく認め難く、また、下屋に対する補償問題を解決済みとしたと認めるべき事情もないから、被控訴人市としては、市場移転の際に、右下屋について廃棄損を補償すべきであったといえる。」と改める。
4 原判決六二枚目表六行目から同裏七行目までを以下のとおり訂正する。
「以上によると、原審証人安達幹男の証言どおり、昭和五四年三月の補償の際には、仲卸売場建物本体は、千葉青果の所有であるが、下屋は、その建築費用を支出した千葉青果と千葉青果卸売協同組合との共有であるため、本体についてのみ補償したものと認めるのが相当であり、したがって、本件補償により下屋につき二重の補償がなされたとはいえない。
なお、右認定のとおり、下屋に対する補償額算定においては、千葉青果の取得額が二五万円、千葉青果卸売協同組合の取得額が一七〇万円とされていて、建築費用支出額の割合とは異なっているものの、その合計額は建築費用総額に一致しており、<証拠>によると、下屋の補償につき千葉青果及び千葉青果卸売協同組合の両名から特段の異論は出なかったことが認められるから、市場の移転までの間に、両者間において下屋の持分を右取得額の比率とする旨の合意ができていて、被控訴人市は、これに基づき廃棄損補償をしたものと推認されるのであり、この点についても違法はないというべきである。」
5 原判決六三枚目表八行目の「石油ストーブ」から同九行目の「こと」までを「昭和五六年四月二三日の検証時において、石油ストーブは室内に設置され、サイバー防犯器は青果業者事務所内の金庫上に置かれており、これらの物件が昭和五四年一〇月の市場移転時に使用されていなかったことを疑うような状況ではなかったことが認められる。」と改める。
6 原判決六三枚目裏八行目の「するに、」の次に「成立に争いのない甲第九五号証、」を加える。
7 原判決六六枚目裏四行目の「被告市から」から同五行目までを「被控訴人市は、これにつき、市場の移転に伴い卸売業務の遂行上の必要な負担であると判断し、電算機リース解除補償の名目で、実質的には、千葉青果が負担することになった右損害金相当額を補助することにした。」と改め、同六七枚目表二行目の「ことからすれば、」の次に「もしリース契約を解除しない場合には、被控訴人市としては、その移転経費を補償しなければならないので、電算機リース解除補償の中には、」を加える。
五控訴人らは、補償金額の算定に当たっては、当該物件の正常な取引価格を基準として定められるべきであるのに、本件においては、千葉青果の資産台帳上の簿価を算出して定められており違法である旨主張する。
本件補償のうち、廃棄損補償の対象となったものは、市場の移転により廃棄せざるを得なくなった旧市場施設の設置物件等なのであり、仮に売却するとなれば、旧市場施設から取り外し又は解体しなければならないものであって、通常の譲渡性があるものとは考え難く、これについて取引価格を求めることは困難といわなければならない。むしろ、取得価格を基準とし、減価償却の方法により現存価格を求める方が合理的である。現に、原審における各鑑定の結果によると、本件物件のうち、バナナ加工室機械、車庫について、昭和五四年一〇月末日当時の適正な価格を求めた各鑑定においては、いずれも取引価格を求める方法によらず、設置ないし建築当時の取得価格を基準に定率法により減価償却して適正価格を求め、あるいは、右時点での再調達価格を算出し定額法により減価修正して適正価格を求めていることが認められるのである。
なお、<証拠>によると、バナナ加工室機械についての右鑑定は、被控訴人市の算定方法と同じ方法を用いながら、本件の補償金額(六二九万四八九一円と一四〇万四五九〇円の合計七六九万九四八一円)よりかなり低額の五一八万一〇〇〇円という価格を算定しているが、その差異は、被控訴人市が千葉青果の経理において耐用年数が八年とされているのに従って算定したのに対し、右鑑定が耐用年数を六年としたために生じたことが認められるところ、<証拠>によると、バナナ加工室機械というのは、機械部分のみならず、加工室の外壁、床、天井等の施設を含むものであることが認められるので、バナナ加工室機械については、前記減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第二の「三六九 前掲の機械及び装置以外のもの並びに前掲の区分によらないもの」が適用され(なお、耐用年数の適用等に関する取扱通達一―一―六参照)、耐用年数は八年とすべきであるから、本件補償の算定は相当と判断される。
したがって、控訴人らの主張は採用することができない。
第六本件各支出の目的について
控訴人らは、本件各支出は、千葉青果が純資産基準額割れを起こしたことについて、被控訴人市が、監督官庁である農水省から監督責任を追及されることを回避するため、市場移転を口実に、支出の要件を検討することなく千葉青果に対し補助金及び補償金を支出し、純資産基準額の回復を企図したものであって、その目的の不当性が重大であって違法である旨主張する。
まず、千葉青果が純資産基準額割れを起こした経緯と本件各支出による純資産基準額の回復についての事実関係についてみると、現判決理由六1(原判決六九枚目表一一行目から同七二枚目裏三行目まで)で説示するとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決六九枚目表一一、一二行目の「第一〇八号証の三ないし六、同号証の一三」を「第一〇八号証の三、五、六、一〇、一三」と、同裏四、五行目の「七ないし一二、一四ないし一八、二〇ないし二三、二五ないし三八」を「四、七ないし九、一一、一二、一四ないし二三、二五ないし三八」と改め、同一〇行目の「田中信夫」の次に「、当審証人細野一善」を加え、同七二枚目表八行目の「仲介手数料七八〇万七一三一円」を「仲介手数料等」と改める。)。
右認定事実によると、被控訴人市は、本件各支出によって千葉青果の純資産が法令による純資産基準額まで回復することを十分に認識しながら本件各支出を行ったことが認められるけれども、既に述べたとおり、被控訴人市は、本件補償金(電算機リース解除補償を除く。)について損失補償の要件があるとして、入場交付金及び電算機リース解除補償については補助金を交付する公益上の必要があるとして各支出したものであるところ、いずれについても客観的にそれぞれの要件を満たすものであることが認められるのであるから、被控訴人市において支出の要件を検討することなく千葉青果の純資産基準額の回復を目的として本件各支出をしたと認めることはできない。してみると、その支出により千葉青果の純資産基準額が回復することを認識していたとの一事により、右支出が違法になるものとは解されない。
したがって、控訴人らの主張は採用することができない。
第七結論
以上のとおり、本件各支出は違法といえないので、控訴人らの被控訴人四名に対する請求はいずれも理由がなく、したがって、被控訴人四名に対する勝訴を前提とする被控訴人市に対する請求も理由がない。
よって、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官佐藤繁 裁判官岩井俊 裁判官坂井満)