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東京高等裁判所 昭和62年(行コ)8号 判決 1991年8月08日

神奈川県川崎市麻生区王禅寺一四四一-三一

控訴人

後藤寧郎

右訴訟代理人弁護士

原山庫佳

右訴訟復代理人弁護士

高橋裕次郎

右訴訟代理人弁護士

渡邊隆

桜井健夫

荒関哲也

神奈川県川崎市高津区溝ノ口四〇六番地

被控訴人

川崎北税務署長 大澤敏男

右指定代理人

渡邊和義

上賢清

仲田光雄

砂川功

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  控訴人は、「(1)原判決を取り消す。(2)控訴人の昭和四八年分所得税について被控訴人が昭和五一年六月三〇日付けでなした再更正処分及び過少申告加算税付加決定処分のうち分離長期譲渡所得の金額を八五九八万一五九〇円として計算した額を超える部分を取り消す。(3)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり補正するほか、原判決事実摘示(原判決二丁表七行目から一五丁表一〇行目まで。別紙一ないし三を含む。)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決八丁表七行目の次に改行し、次のとおり加える。

「控訴人が清算契約に基づき保証債務を履行したことは次の事情からも明らかである。

(1)  控訴人が清算契約により確定的に取得することになった小野田町の土地の価格は、白井町の土地と合わせて昭和四八年四月当時、少なくとも一億五〇〇〇万円くらいであり、なお価格の上昇が見込めたもので、事実昭和五〇年当時には一億八〇〇〇万円を超えていたのである。控訴人自身も当時二億円と評価していたから、控訴人が共同事業の結果生じた債務一億五七〇〇万円(前記一億七七〇〇万円のうち二〇〇〇万円は、控訴人が共同事業外で購入した土地の資金分であるからこれを控除する。)を履行したとしても、控訴人にとって有利なものであった。しかも、控訴人は、共同事業が継続中に、北辰産業や東成産業から保証料、旅費等様々な名目で約七〇〇〇万円もの金員を受け取っていた。

(2)  控訴人は、原判決添付の別紙三の5ないし7の土地を東洋技研の玉木、田所らが控訴人に無断で売却し、しかも清算金をも支払えなかったため、玉木らにおいて小野田町の土地等の持分権を放棄したものであると主張する。しかし、控訴人は共同事業の具体的な執行をすべて東洋技研に任せており、玉木らが無断売却したとはいえない。また、右売却代金は土地購入のための借入金の返済や造成費等の経費の支払いに充てられたものであり、控訴人に損害を与えたとはいえない。そうでないとしても、控訴人の受けた損害は、右売却による転売利益の二分の一に相当する約二二〇〇万円にすぎず、右売却の事実は清算契約成立の妨げとなるものではなかった。

(3)  また、控訴人は、東洋技研が控訴人から預かっていた五一〇〇万円を流用し、その返還ができなくなったことが当時判明したことから、このような状況下で清算契約が成立することはありえないと主張する。たしかに、控訴人は、山下裕、松井慶尚と静岡県小笠郡大須賀町所在の土地を購入し、転売利益を上げるため税金対策上西川美水の名義を利用して売却を行い、その代金をいったん東洋技研の口座に預けた。しかし、その後控訴人と東洋技研の間で、東洋技研の受け取る報酬を控除した残金五一〇〇万円を東洋技研が毎月一五〇〇万円ずつ控訴人に分割返済することが合意され、現に昭和四八年三月六日には約定どおり控訴人に一五〇〇万円が支払われている。しかも、右土地の売買は共同事業外の取引である。控訴人は、同年三月二九日控訴人が回収した六二〇万円を控除した残金につき別途清算することとして、玉木にゴルフ会員権を担保として差し出させ、早期の返済を約束させていたもので、右東洋技研口座への預金の問題は本件清算契約の成否に関わりがなかった。

(4)  控訴人は、東京地方裁判所昭和四八年(ワ)第五三三五号求償金請求事件等の訴訟において玉木に対する求償金三〇〇〇万円の請求が認容されたことから、右債権を保全するため、石川正子に対し詐害行為取消請求等の訴訟を提起したが(東京地方裁判所昭和六〇年(ワ)第一九六〇号等)、昭和六二年一二月二四日訴訟上の和解が成立した。この和解において、控訴人は、利害関係人として参加した東洋技研との間で、昭和四八年四月三〇日清算契約により、控訴人が水戸信用金庫等からの前記借入金一億七七〇〇万円の返還債務を免責的に引き受け弁済し、その代償として東洋技研は小野田町の土地が控訴人の所有であることを認めるとの合意がなされたことを相互に確認している。」

2  同一〇丁表三行目の次に改行し、「なお、東洋技研名義でなされた林株式会社、石川正子からの合計九五〇〇万円の借入れは、東洋技研と控訴人との共同事業の結果生じたものであるから、東洋技研と控訴人が折半して負担すべきものであり、控訴人が東洋技研に求償できる金額も借入金額の二分の一が限度である。」を加える。

3  同一三丁裏五行目の「両土地の価格は、」の次に「小野田町の土地が都市計画法上の市街化調整区域に指定され、建物新築、建築物の改築につき県知事の許可を要するところ、既存の建物は無許可の簡易建物であり、また、右許可を受けられる見込みもなく、坪当たり金二万円として金五五〇〇万円程度と評価するのが相当で、白井町の土地と併せても」を、同一四丁裏一行目の「損害」の次に「(当時の右土地の価格は金九五〇〇万円であった。)」をそれぞれ加える。

4  同一四丁裏一一行目の「流用した。」の次に「すなわち、控訴人は、他二名とともに昭和四七年ころ、静岡県小笠郡大須賀町横須賀字樹木谷七二一の七、一三ないし一七畑合計約八万平方メートルを代金五〇〇〇万円で買い受け、翌四八年二月ころ第一ホテル不動産株式会社に代金一億四五〇〇万円で転売し、右売買差益金九五〇〇万円のうち金七〇〇〇万円を、東洋技研の欠損を補うため、一時東洋技研に預けていたところ、東洋技研が勝手に流用し、控訴人に返還できなくなったもので、控訴人は玉木に売買の仲介手数料として右差益金の二割に当たる金一九〇〇万円を支払う約束であったから、これを控除すると実質的には金五一〇〇万円が流用されたこととなった。」を加え、同一五丁表一行目の「このことが」を「東洋技研が前記無断売却をして代金を費消したことや右流用金の返還ができないことが」に改める。

5  同一五丁表六・七行目の「昭和四八年三月三〇日に作成されたものであるところ、」を「、昭和四八年三月三〇日から同年四月二日にかけて、控訴人が前記の無断流用等の事実を知って、債権を保全するため東洋技研等から徴求したものであり、」に改め、同一〇行目末尾の次に「控訴人と玉木らの間で多数の文書が作成されながら、清算契約についてこれを直接裏付ける書類が作成されていないことは、清算契約が存在しなかったことを示すものである。なお、控訴人が別件の詐害行為取消請求訴訟において、被控訴人主張の和解をしたことは認めるが、右和解は、東洋技研に資力がなく、玉木の唯一の資産であった土地が石川正子の所有名義に移転登記されたためその抹消を求めていたところ、玉木の右土地を処分して金銭解決による和解をしたいとの要望をいれ、清算契約をした事実はないものの、裁判所の勧告に従いやむを得ず右要望に応じたものである。」を加える。

第三証拠

証拠については、本件記録中の書証目録、証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、本件土地の譲渡に所得税法六四条二項の特例の適用は認められず、控訴人の昭和四八年分所得税の分離長期譲渡所得の金額は少なくとも一億六九一一万〇一四〇円を下ることはなく、右と同額を右所得とする本件処分に違法はないと判断する。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決の理由(原判決一五丁裏四行目から五〇丁表四行目まで。)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一七丁裏三行目の「第八一号証」から同四行目の「除く。)」までを「第一一五号証の一、二、第一一七号証の一、二(ただし、後記措信しない部分を除く。)」に改め、同六行目の「甲第四二号証、」の次に「第八一号証(ただし、後記措信しない部分を除く。)」を、同八行目の「第六三号証の二、」の次に「第七六号証、第一〇一号証の一、二、第一〇九、第一一〇号証(ただし、後記措信しない部分を除く。)、」を、同一一行目の「存在を含む。)、」の次に「当審における控訴人本人尋問(第一回)の結果により成立を認める甲第一二六号証、」をそれぞれ加え、同一八丁表二・三行目の「証人山田芳香」を「証人山田芳春」に改め、同九・一〇行目の「(ただし、後記措信しない部分を除く。)、」を削除し、同一一行目末尾に「、当審における控訴人本人尋問(第一回)の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)、」を加える。

2  同二四丁表一〇行目の「勧めるままに、」の次に「右土地上の立木を伐採して整地し、道路を設けて」を加え、同二五丁表六行目の「これは」から同八・九行目の「設立したりしたこと、」までを「昭和四三年一二月に控訴人が借主になって千葉銀行成田支店から借り入れた金四〇〇〇万円(ただし、うち一〇〇〇万円は歩積預金で実質は三〇〇〇万円であり、元駒場の土地に極度額四〇〇〇万円の根抵当権を設定したほか控訴人所有の勝田台の土地にも担保権を設定した。)、北辰産業が借主になって株式会社大成建設ほか二社から各二〇〇〇万円を借り入れた合計六〇〇〇万円(小野田町の土地に代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記手続きをし、右各債務を被担保債務とする抵当権を設定し、勝田台の土地にも担保権を設定した。)、昭和四四年一〇月に北辰産業が借主になって東京相互銀行から借り入れた一〇〇〇万円(小野田町の土地に代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記手続きをし、極度額二〇〇〇万円の根抵当権を設定した。)のうちから支払われ、右北辰産業の借入れにつき控訴人が保証をしたこと、」に同一〇行目の「及び」を「の登記簿上の所有名義は控訴人と控訴人の妻貴美子とし、」にそれぞれ改め、同丁裏一一行目の「右土地購入代金は」から同二六丁表二行目の「負担させられたこと、」までを削除し、同丁表九行目の「東成産業とされたものであること、」を「東成産業とし、控訴人が負担した代金約八〇〇万円は、出資金として東成産業が控訴人に分割して返済したこと、」に、同丁裏一・二行目の「約一二〇〇万円であるが」から同三行目の末尾までを「約一二〇〇万円であったが、昭和四七年ころまでには出資金としてすべて東成産業や東洋技研から控訴人に返済されたこと、」にそれぞれ改める。

3  同三〇丁表四・五行目の「取得したものであるが、」から同六・七行目の「担保に供したりなどしたことから、」までを「取得し、土地共同事業に要する費用以上に北辰産業や東成産業が営業資金として借り入れた金員についても控訴人が担保提供、保証を行っていたため、北辰産業や東成産業において借入金の金利を負担したほか、」に改め、同丁裏二行目の「共同購入土地の」から同三・四行目の「九五〇〇万円にもなって来ているうえに、」までを削除し、同三一丁裏五行目の「中止する」を「中止し、企業活動をやめさせる」に改める。

同三二丁裏二行目の「昭和四六年一〇月三〇日、」の次に「北辰産業の業務、特に過去に実施した水門工事の補修、管理業務を承継するため、」を、同三行目の「会社であり、」の次に「実質上玉木が経営し、」をそれぞれ加える。

4  同三二丁裏一〇行目の「土地を」の次に「代金に登記費用等を加えた」を加え、同三三丁表一行目の「四五年五月」から同六行目末尾までを「四五年一一月ころ元駒場の土地を代金三八六〇万円で、昭和四六年五月ころ榎戸の土地を代金一三六五万円で売却したほか、昭和四七年二月に三榎の土地を代金約六三八六万円で、同年九月ころ下志津の土地を代金一五〇〇万円で、昭和四八年一月に芝山の土地を代金一〇三八万円でそれぞれ売り渡し、右各売買の代金が合計約一億四一四九万円になった。そして、元駒場の土地及び榎戸の土地の各売却代金の合計五二二五万円から土地購入の代金、費用(二八三六万八七八〇円)や造成費等(二四七万五〇〇〇円)を控除した残金の二分の一に当たる一〇七〇万三一一〇円が同年一一月ころまでに分割して控訴人に支払われ、右両土地については共同事業の清算がなされた。もっとも、右両土地以外の売却土地についての利益清算はなされず、右各売却代金は、北辰産業や東成産業の借入金の返済、控訴人に対する保証料名義等の金員の支払いに充てられた。そして、前記大成建設株式会社ほか二社からの合計六〇〇〇万円の借入金債務は、北辰産業が昭和四六年一〇月ころ返済し、同年一一月に右借入れのため設定された抵当権等の登記も抹消され、東京相互銀行の前記根抵当権設定登記等も昭和四七年七月に抹消されたが、昭和四八年一月当時、なお、千葉銀行に対し約一九五〇万円の債務が残されており、その他、東成産業には勝田台の土地に担保を設定して借り入れた両総信用金庫に対する三〇〇〇万円、松田重造に対する四〇〇〇万円、小野田町の土地を担保に借り入れた株式会社恒産(淡路商事)に対する三五〇〇万円の各債務等多額の債務があり、玉木は、控訴人の保証で、水戸信用金庫から一億円を借り入れて返済し、ただし、借入れは新陽産業株式会社が行い、右借入金も一時に全額が交付されないため、その間だけ他から短期の借入れをすることとし、勝田台の土地に設定された担保をすべて解除し、小野田町の土地についても別途借入れを行って担保を解除しようと考え、控訴人とも協議したうえ控訴人の保証を得て、前記のとおり東洋技研が水戸信用金庫(借主は新陽産業株式会社)、林株式会社、石川正子から借入れを行い、債務を弁済し、これまで設定されていた担保を解除し、改めて右借入金債務につき担保、すなわち、石川正子に対しては小野田町の土地に抵当権、水戸信用金庫、林株式会社に対しては勝田台の土地に抵当権をそれぞれ設定したこと、」に改め、同三三丁裏六・七行目の「なお、」から同九行目の「相当すること、」までを削除し、同一一行目の「土地共同事業を」から同三四丁表七行目末尾までを「東洋技研が右借入金の返済ができないことから、共同事業を終了させ、その清算をすべきことが話し合われ、東洋技研は小野田町の土地と白井町の土地についての権利を放棄し、小野田町の土地上にはプレハブのコンクリート二次製品製造工場及び付属施設が設けられていたことから、玉木は控訴人に対し右土地について何らの権利がないことを確認し、他方、控訴人が保証し、小野田町の土地や勝田台の土地が担保提供されていた前記の借入金については控訴人が弁済する旨の合意がなされたこと、」に改める。

5  同三四丁表八行目の「右清算契約」を「右話合い」に改め、同丁裏九行目の冒頭から同一〇行目の「他方、」までを削除し、同一一行目の「(約一億三六〇〇万円)」を「(約一億四一四九万円)」に、同三五丁表一行目の「約五三〇〇万円」を「約五八四九万円」に、同八行目の「右清算時までに」を「これまでに」にそれぞれ改め、同丁裏二行目の「更には、」から同三行目の「負担させるなどしていたこと、」まで、同六行目冒頭から同一〇行目の「前記清算契約をしたものであること、」までをそれぞれ削除し、同一一行目の「東洋技研の」から同三六丁表三行目の「超える場合には、」を「小野田町の土地、勝田台の土地の担保解除に要する金額は一億五七〇〇万円を超えないことを互いに確認し、仮に控訴人が右担保解除のため右額を超過する金員の支払いを要した時は、」に改める。

同三六丁裏一行目の「昭和五五年に至って」の次に「控訴人が同金庫からの借入金の内金六七〇〇万円を同年から昭和五九年まで各年一二月一五日限り五回に分割して支払って残債務の免除を受ける旨の」を加え、同九行目冒頭から同三七丁表七行目末尾まで、同八行目の「前記清算後の」をそれぞれ削除する。

6  同三七丁裏四行目の「甲第八一号証の」から同七行目末尾までを「右認定の事実によれば、東洋技研と控訴人の間で、昭和四八年三月末ころから同年四月末ころ、前記のとおり控訴人が小野田町の土地と白井町の土地を取得することによって、前記借入れの保証債務の履行をしても、東洋技研に対し何らの請求をしない旨の被控訴人主張の清算契約があったものと認められる。すなわち、右に認定したところによれば、控訴人は、将来開発の見込みがある千葉県方面の農地や山林を工場用地の名目で取得し、これらを転売して利益を上げるため、玉木を勧誘し、北辰産業と右の取得及び転売を行う共同事業を始めた。当初は控訴人と北辰産業で出資、利益を共に折半する約束であったが、実施段階になると主として北辰産業や東成産業の借入金で土地を購入し、両社が購入土地の造成、管理、転売に当たっていたものであり、控訴人は、主として右借入れにつき保証や担保提供による援助を行った。そして、北辰産業や東成産業の事業上の地位を承継した東洋技研が多額の債務負担に耐えられなくなったことから、控訴人と東洋技研の実質上の経営者である玉木は共同事業の廃止、清算を考えるようになり、昭和四八年三月末ころから同年四月末ころにかけて、控訴人と玉木が話合い、控訴人が共同事業により取得した小野田町の土地と白井町の土地を確定的に取得し、玉木は右両土地について何らの権利がないことを確認し、他方、控訴人が保証し、小野田町の土地や勝田台の土地が担保提供されていた林株式会社、石川正子からの借入金及び東洋技研が実質的な借主というべき水戸信用金庫からの借入れについては控訴人が弁済することになった。右共同事業によって取得した土地は、いずれもその資金を北辰産業や東成産業が負担したものであったから、控訴人が右話合いで確定的に取得することとなった小野田町の土地、白井町の土地を合わせると、その価値は控訴人が右借入れのため設定された担保解除のため要すると考えていた一億五七〇〇万円に十分匹敵するものであった。しかも、控訴人は、右話合いがなされた昭和四八年三月ごろまでに清算金や保証料、旅費等の名目で少なくとも二〇〇〇万円を超える金員を受領しており、小野田町の土地と白井町の土地を確定的に取得することで一切の共同事業による債務を清算することは、控訴人に格別の不利益を与えないばかりか、控訴人にとって得策であったものである。以上のような共同事業の経緯に関する諸事情や控訴人と玉木との話合いの内容に照らし、被控訴人主張の清算契約がなされたと認めるのが相当である。

もっとも、控訴人は原審(第一回ないし三回)及び当審(第一、二回)における本人尋問において右清算の合意があったことを否定する趣旨の供述をし、甲第八一号証、第一一七号証の一、二、乙第一〇九、第一一〇号証(いずれも控訴人の本人尋問調書)中には同旨の記載があるが、いずれも措信することができない。」に改める。

7  同四一丁裏一〇行目の「一ないし三が存在する。」を「一ないし三、第一二四号証の一、第一二六号証が存在し、原審及び当審における控訴人本人尋問(各第一回)の結果中にはこれに沿う供述部分がある。」に、同四二丁裏二行目の「認められることからも、」を「認められる。また、甲第六五号証の記載によると、昭和四九年五月三〇日、控訴人と妻貴美子が千葉県企業庁長に白井町の土地を代金二〇八万八一七二円で売り渡しているが、右売却は、千葉県が施行する新住宅市街地開発法に基づく千葉北部地区宅地造成事業に協力して行ったものであり、右代金は、控訴人の取得価格をも下回るものであって時価を反映するものではない。したがって、」にそれぞれ改める。

8  同四三丁裏一一行目から同四五丁裏一〇行目までを次のとおり改める。

「そして、甲第八一号証、第一一六号証、第一一七号証の一、二、乙第一一〇号証の各記載、原審及び当審(各第一回)における控訴人本人尋問の結果中には右趣旨に沿う部分があり、右証拠によれば、玉木らが控訴人の事前の了解を得ることなく、原判決の別紙三記載の5ないし7の土地の売却を行い、売却による清算金を控訴人に交付していなかったことを認めることができる。しかしながら、前認定のとおり、控訴人は右売却土地の購入に当たり購入資金について担保提供、保証の役割を負ったにとどまり、資金を借り入れ、その金利を負担して右売却土地の購入に当たったのは北辰産業と東成産業であり、その造成や管理、転売は東成産業、東洋技研が行い、売却代金は右土地購入を含む事業のため生じた債務の返済に充てられたものであって、各購入代金(合計約三二二〇万円)と転売代金(合計約八九二〇万円)との差額が約五七〇〇万円であるところ、購入資金の借入れのための金利、造成管理の費用を考慮すれば、元駒場の土地等を売却した時と同様の清算を行ったとしても、控訴人が取得すべき転売利益に相当する額は、右差額の五七〇〇万円を下回り、前記控訴人が取得した小野田町の土地と白井町の土地の時価はこれを大幅に上回るものである。したがって、控訴人の右売却益に対する配分請求権相当の損害を填補する意味で東成産業等が小野田町の土地と白井町の土地の権利を放棄したとは認めがたく、前記のとおり、右売却やその清算金が交付されていないことをも踏まえてすべてを清算する旨の合意が成立したと認められるのであって、控訴人の主張に沿う右各証拠は採用することができない。」

9  同四六丁表四行目の「しかし、」の次に「成立に争いがない甲第一二三号証、」を、同丁裏七行目の「玉木」の次に「や東成産業の田所弘」をそれぞれ加え、同九・一〇行目の「東洋技研が取得し、」を「東洋技研の預金口座に入金され、」に、同四七丁表一行目の「七〇〇〇万円」から同三行目の「税金相当分」までを「の二割に当たる報酬金」にそれぞれ改め、同八・九行目の「断定することはできない。」の次に「したがって、東洋技研が右五一〇〇万円を共同買受人である控訴人と業者二名に返済できなかったとしても、控訴人と東洋技研の間で右事情が前認定の清算の合意をする妨げになったとは直ちに認めがたい。」を加える。

二  以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求は、理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大石忠生 裁判官 犬飼眞二 裁判官大島崇志は、転補のため署名、捺印できない。裁判長裁判官 大石忠生)

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