東京高等裁判所 昭和62年(行コ)89号 判決 1988年9月06日
東京都中央区日本橋本町一丁目一番八号
控訴人
丸静商事株式会社
右代表者代表取締役
谷口好雄
右訴訟代理人弁護士
矢島惣平
同
長瀬幸雄
同
久保博道
東京都中央区日本橋堀留町二丁目六番六五号
被控訴人
日本橋税務署長
野見山雅雄
右指定代理人
野崎守
同
大原豊実
同
藤田忠志
同
島田明
右当事者間の法人税更正処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
1 申立
控訴代理人は、「一 原判決を取り消す。二 被控訴人が控訴人の昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度の法人税について昭和五九年四月二八日付けでした更正(裁決による一部取消し後のもの)のうち、所得金額二億六二六八万〇二四六円、法人税額九六五九万五二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定(前同)のうち、過少申告加算税額三〇万一九〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項と同旨の判決を求めた。
二 主張
原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決四枚目表七行目の「その旨」の次に「の」を加え、同七枚目表末行の「別紙三」を「別紙四」と、同裏二行目の後の「3」を「同3」と、同九枚目表一行目から二行目にかけての「きめ」を「決め」と、同一一枚目表一行目の「二重課税」から五行目までを「役員賞与の免除益は、二重課税になるならばすべての場合に益金の額に算入すべきでなく、また二重課税にならないならばすべての場合に益金の額に算入しなければならない。通達をもつて業況不振等の場合に限定して不算入とし、課税に差別をつけた取扱いをするのは租税法律主義に違反する。」と、末行の「含む」を「営む」と、同一二枚目表八行目から九行目にかけての「賞与」を「賞与金」とそれぞれ改め、同八枚目表四行目の「本件役員賞与金については、」を削る。)。
三 証拠関係
記録中の原審及び当審の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所も控訴人の本訴請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほかは原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決一四枚目裏三行目の冒頭に「(一)」を加え、五行目の「とおり」の次の「、」を削り、末行の「甲第一」の次に「号証」を、同一五枚目表一行目の「四号証、」の次に「原本の存在及び成立について争いのない」をそれぞれ加え、同四行目の「(一)」を「(1)」と、同裏七行目の「(二)」を「(2)」と、同一六枚目表三行目の「(三)」を「(3)」と、同裏四行目と「(四)」を「(4)」と、八行目の「(五)」を「(5)」とそれぞれ改める。
2 同一七枚目表五行目の「(六)」を「(6)」と改め、同裏七行目から八行目にかけての「二一二三万円を」を「二一二三万円につき本件通達を援用して」と改め、同行の「減額」の前に「これを」を加え、同九行目の「申告事実」を「申告の事実」と、末行の「(七)」を「(7)」とそれぞれ改める。
3 同一八枚目表一〇行目の「(八)」を「(8)」と、「税理士をして」を「税理士として税務事務に従事して」と、同裏四行目の「知つて」を「知悉して」とそれぞれ改め、五行目から同一九枚目裏四行目までを削る。
4 同一九枚目裏五行目の冒頭に「(二)(1)」を加え、末尾の「(四)」を(一)(4)と、八行目の「(一)ないし(三)」を「(一)(1)ないし(3)」と、一〇行目の「とき」を「時」と、末行の「原告に」から同二〇枚目表二行目の末尾までを「控訴人が不用意に右記載をしたとみる余地もないではないし、仮に控訴人に右誤解があつたとしても、本件総会決議において支払額が確定していないことが当事者間に争いのないことは前示のとおりであるから、右記載は本件支給決議の存在を否定するに足りるものではない。」とそれぞれ改める。
5 同二〇枚目表三行目の冒頭に「(2)」を、六行目の冒頭に「(3)」を、末行の「七日」の次に「付け」をそれぞれ加え、「、しかし」から同裏五行目の末尾までを「が認められるが、他方同署長が後に判断を改め、昭和六〇年一〇月三一日付けで右源泉所得税の納税告知を行つたことが認められ、これと控訴人が右還付請求をしたのが本件審査請求後であることとを併せ考えると、右還付請求の経緯が本件支給決議の存在の認定につき負に働くとはいい難い。」と改める。
6 同二〇枚目裏六行目の冒頭から一〇行目の末尾までを「(4)また、当審証人小林茂生の証言によれば、甲第一一、一二号証は控訴人の総勘定元帳、元帳であり、控訴人においては振替伝票を集計した日計表、振替伝票に基づきそれぞれ別個に記帳されるものであるところ、これら帳簿には本件支給決議の前後を通じ「役員賞与金」という勘定科目中に本件役員賞与金が記帳されていることか認められるが、本件支給決議後に本件役員賞与金の源泉所得税処理のため作成された振替伝票である前掲甲第一三、一四号証、乙第一号証においては、未払役員賞与金として処理されており、本件役員賞与金としては未払いであつたため、右各帳簿の記載においては漫然従前の記載を踏襲したものとみられないではなく、右各帳簿の記載のみから、本件役員賞与金の確定がされなかつたとすることは困難である。」と改める。
7 同二〇枚目裏末行の冒頭から同二一枚目表三行目までを削り、四行目の冒頭に「(5)」を加え、「ところで」を「なお、」と改め、同裏八行目の冒頭に「(三)」を加え、「他に」から一〇行目の末尾までを次のとおり改める。
「前記(一)の各事実、とくに<1>本件役員賞与金と源泉所得税との関係を知悉する小川税理士の関与のもとに右税の納付がされたこと、<2>控訴人が本件役員賞与金の支給額の確定を前提として本件免除決議及び確定申告書の提出をしていること、<3>東京国税局の調査に際しての控訴人側の態度、<4>本件役員賞与金支給の動機と本件支給決議の内容、<5>本件議事録の体裁、<6>本件支給決議に係る取締役会の開催を仮装しなければならなかつたと思われる事跡がないことからすれば、本件議事録記載のとおり取締役会が開催されて本件支給決議がされ、各役員ごとの支給額が確定しているものと認めるのが相当である。」
8 同二一枚目裏末行「4」を「3」と、同二二枚目表一行目から同裏九行目までを次のとおり、それぞれ改める。
「前示のとおり本件役員賞与金は各役員ごとの支給額が確定し、控訴人はその額に相当する債務を負担した。そして本件免除決議によりその支払を免れたことにより、控訴人は本件免除益を取得したことになるが、右免除益は法人税法二二条二項の定める益金に該当する。
控訴人は、本件役員賞与金は課税済みの利益処分によるものであるところ、本件免除益も右課税済みの利益との同一性を有しているから、それを益金の額に算入して課税することは二重課税になると主張する。
しかし役員賞与は各役員ごとの支給額が確定すると、当該役員は賞与請求権を取得し、他方会社は確定的に債務を負担することにより経済的に同額の資産が社外に流出することになる。そして役員賞与金の支払が免除されると、会社にとつて免除相当額の資産が増加することになるが、右支払免除による経済的利益は新たに発生したものであつて、右役員賞与金の原資たる課税済みの利益とは別個のものであり、同一の利益ということはできない。また、未払役員賞与につき支払の免除を受けることは、役員賞与金を一旦支払つた後に同額の金員の贈与を受けるのと、経済的には何ら異なるところはなく、債務が確定した以上、支給されたか否かで免除益の益金額算入の可否を決するのは妥当でない。
したがつて、役員賞与の免除益を益金の額に算入して課税することは二重課税に該当するものでしない。」
9 同二三枚目表二行目の「債務として確定しておらず」を「法律上の債務として未発生であつて」と改め、四行目の「免除したとしても」の次に「法律的にも経済的にも」を、五行目の「債務免除は」の次に「法律的に発生した債務を消滅させるものであつて、経済的にも」をぞれぞれ加え、五行目から六行目にかけての「の経済的効果がある」を「会社に債務免除益が発生する」と、同二三枚目表九行目から裏九行目までを「控訴人は、本件通達が一定の基準に該当する場合に限つて役員賞与の免除益を益金の額に算入しないことにしているのは租税法律主義に違反していると主張する。
しかしながら、そもそも本件通達の適用により控訴人に対して本件賦課処分がなされているものではないから、右主張はそれ自体相当でないといわざるをえない。」と、一〇行目の「5」を「4」とそれぞれ改める。
10 同二四枚目表末行の「前掲」の前に「右行政指導による商品取引員の純資産額の確保は商品取引員の事業活動によりもたらされる社会的影響が深刻化することをできるだけ抑制しよとするものてあるのに対し、本件通達における業況の不振とは当該法人自体の倒産等の危険を回避してその存続を図ろうとするものであつて、その目的を全く異にするものであるから、同一尺度をもつて律することは相当ではない。そして」を加え、同二五枚目表一行目の「6」を「5」と、一〇行目「7」を「6」とそれぞれ改める。
二 以上の次第で、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当である。よつて本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 加茂紀久男 裁判官 新城雅夫)