東京高等裁判所 昭和62年(行ス)7号 決定 1987年9月30日
抗告人
株式会社学習研究社
右代表者代表取締役
古岡滉
右代理人弁護士
青山周
宮本光雄
中町誠
相手方
総評全国一般全学研労働組合
右代表者執行委員長
安西剛
主文
原決定を取り消す。
相手方の参加申立を却下する。
参加申立に関する費用は第一、二審とも相手方の負担とする。
理由
一抗告人は、「原決定を取り消す。相手方の参加申立を却下する。抗告費用は相手方の負担とする。」との裁判を求め、その抗告の理由は、別紙抗告状記載のとおりである。
二当裁判所の判断
(抗告の理由一、二について)
1 原審が抗告人を原告、東京地方労働委員会を被告とする東京地方裁判所昭和六一年(行ウ)第一四九号不当労働行為救済命令取消請求事件の第三回口頭弁論期日(昭和六二年六月二日)において相手方の行政事件訴訟法二二条一項に基づく訴訟参加の申立を許可したことは記録上明らかである。
2 右訴訟参加は、参加しようとする第三者が当該訴訟の結果により権利を害される場合に許されるものであり、かつ、右にいう訴訟の結果とは、判決主文における訴訟物自体に関する判断の結果をいうものと解すべきところ、労働委員会の不当労働行為救済命令は、使用者に対し不当労働行為排除に必要な一定の作為又は不作為を内容とする公法上の義務を課する処分にすぎないのであつて、労働組合たる相手方に対し何らかの権利を付与するような性質のものではなく、また、救済命令取消訴訟における訴訟物は、労働委員会による救済命令自体の違法性の存否に限られるから、相手方組合がその判決により権利を害されることはないものというべきである。
3 そうすると、相手方は行政事件訴訟法二二条一項の第三者に当たらないから、本件参加申立は理由がない。
三したがつて、相手方の本件参加申立は、不適法として却下すべきところ、これを許可した原決定は不当であるから取消しを免れず、これが取消しを求める本件抗告は理由がある。
よつて、原決定を取り消し、相手方の参加申立を却下し、参加申立費用は第一、二審とも相手方に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官舘忠彦 裁判官牧山市治 裁判官小野剛)
別紙 抗告の趣旨
原決定を取り消す。
相手方の本件参加申立を却下する。
抗告費用は相手方の負担とする。
との裁判を求める。
抗告の理由
一、原決定の趣旨
相手方の本件参加申立は、これを許可する。
二、原決定の違法性
(一)相手方総評全国一般全学研労働組合(以下相手方という)は、本件について、行政事件訴訟法第二二条第一項にもとづいて訴訟参加の申立をなし、東京地方裁判所は昭和六二年六月二日この申立を許可した。
(二)しかし、同二二条の規定により訴訟参加の申立をすることが許されるのは、訴訟参加をする者が「訴訟の結果により権利を害される第三者」であることを要し、単なる事実上の利益(反射的利益)や経済上の利益が、ここでいう「権利」に含まれないことは言うまでもない。
(三)しかるに不当労働行為救済命令は、使用者に対し不当労働行為排除に必要な一定の作為又は不作為を内容とする公法上の義務を課する処分にすぎないのであり、労働組合たる相手方に対しこの義務に対応する公法上の権利を付与するものではないし、いわんや労使間の私法上の権利義務関係を確定するものではないから、相手方が本件の判決によってその「権利を害される」ことは全くありえないのである。(同旨 東京地決昭和四六年二月六日判時六二八号八四頁、東京高決昭和五四年八月九日労民集三〇巻四号八四七頁、学説として新・実務民事訴訟講座一一巻「労働訴訟」原島克己論文「緊急命令の問題点」三一六頁、裁判実務大系5「労働訴訟法」吉野孝義論文「訴訟参加」五一八頁、判例コンメンタール「行政事件訴訟法」二二〇頁各参照)
換言すれば、本件の審理対象である労働委員会の救済命令の主文は、使用者たる抗告人に対し、公法上の義務として賃金カット相当分を労組員個人に支払うよう命じているのであるが、これを以って主文所定の労組員が該金員の私法上、公法上の権利を取得している訳ではないのである。
更に、本救済命令による公法上の義務の履行先とさえされていない相手方たる労組が本救済命令によって、公法上、私法上の権利を取得するいわれのないことは一層明らかである。
従って、相手方が、本件訴訟の結果により、「権利を害される」可能性はそもそもありえないのである。
(四)以上の通り、本参加申立を許可した原決定は、行訴法第二二条の解釈を誤ったことは明白であるから、民訴法六六条の準用により本抗告をなし、(本不服申立の適法性については、「条解行政事件訴訟法」五八三頁、「注釈行政事件訴訟法」二〇六頁各参照)抗告の趣旨記載の裁判を求める次第である。