東京高等裁判所 昭和63年(う)150号 判決 1988年4月21日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人手塚正枝が提出した控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
一控訴趣意第一及び第二について
所論は要するに、原判示第四のタイヤ四本の窃盗は未遂であるのに、これを既遂と認定して刑法二四三条を適用しなかつた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び法令適用の誤りがある、というのである。
そこで、記録を精査して検討するに、原審が取り調べた関係各証拠によると、本件窃盗の場所である中古車駐車場は、道路に面していて、出入り口に門扉等の設備はなく、道路からの出入りが自由であつたうえに、その時刻も、被害者側の監視や警戒が手薄な午前一時二〇分ころという深夜であつたこと、被告人は右出入り口近くの道路上に、エンジンをかけたまま車を止め、共犯者のAを見張り役として車内に待機させたうえ、その出入り口から右駐車場に入り、駐車していた普通乗用自動車から、タイヤレンチなどを使つて、次々に四本のタイヤを取り外し、まずそのうち二本を抱きかかえるようにして、Aが待ち受ける車に運び込もうと、右出入り口の方に戻りかけたところ、たまたま飼い犬の鳴き声に不審を感じ、同駐車場に隣接する自宅から見回りにやつてきた被害者に発見すい何されたため、右タイヤの全部をその場に放置して逃走したことなどの各事実が明らかである。
そして、右の各事実を総合すると、被告人らは、右タイヤ四本を完全に手中に収めることができなかつたとはいえ、これを被害者の支配内から自己の支配内に移していたものということができるから、本件窃盗を既遂と認めた原判決は正当であつて、原判決に所論のような事実の誤認や法令適用の誤りがあるとは認められない。従つて、論旨は理由がない。
二控訴趣意第三について
所論は要するに、被告人を懲役一年に処した原判決の量刑が重過ぎて不当である、というのである。
しかし、記録によると、被告人は原判示の窃盗などの累犯前科のほかにも、窃盗の前科一犯を有し、その刑の仮出獄中に、原判示のように四回にわたり、従前同様の窃盗を繰り返したものであつて、犯情は甚だ芳しくなく、その刑事責任は決して軽いとはいえない。
従つて、本件各犯行中に、共犯者のAからせがまれて敢行したものがあること、盗品の大半が被害者に還付されていることなどの所論指摘の諸事情を十分に考慮しても、原判決の量刑が重過ぎて不当であるとは認められない。本論旨も理由がない。
よつて、刑訴法三九六条、一八一条一項但書により、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官坂本武志 裁判官田村承三 裁判官泉山禎治)