大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(う)162号 判決

本件飲酒検査に用いられた北川式SD型飲酒検知管は,無水クロム酸を硫酸溶液に溶かし更に金属塩からなる安定剤を加えた試薬を粒子の大きさを揃えた珪藻土に吸着させ,その乾燥させた粒子の一定量を内径2.8ミリメートルを超え2.9ミリメートルに満たないガラス管に均一な密度に充填し,アルコールを含む呼気を一定量吸引通過させ,試薬がアルコールにより還元され硫酸クロムが生成し青い着色層が形成されたとき,その着色層の長さから呼気試料中のアルコール含有量を測定しようとするもので,計測結果が正確であるためには,検知管そのものの精密度や正確性に問題がないことのほか,呼気採取袋や真空式呼気採取器などの機器類に異常がないこと及び機器の操作その他一連の検査手順に手落ちがないことなどが要求される。

本件検知管は,約1キログラムの試薬から1ロット約8000本が製造され,ロット毎に試薬の仕上がりが微妙に異なるため,1リットルあたりのアルコール濃度が0.20ミリグラム,0.35ミリグラム,0.55ミリグラムの3種の試料気体を各12本の検知管に通し,着色層の長さを調べてその試薬の指示値を定め,これに適合した濃度目盛りを施し,社内検査を行って合格したものにつき更に神奈川県衛生研究所においてJIS・z9015抜取検査方式に準じた性能検査をし,このすべてに合格したものが市場に供給されているのであるが,その製造に際しては,ガラス管の内径が一定のものを選定し,珪藻土の粒子を揃え,ロットごとの試薬の仕上がりを均質にし,その均一量をガラス管に均一密度に充填するなど,細心の注意を払って作業が進められ,とりわけ試薬の性能に関しては,充填前に1回の予備検査,充填後に1回の中間検査を行い,その結果を踏まえて各検知管に当該ロットに適合した濃度目盛りを付した後更に1ロットから80本をランダムに抜取って最終検査を行い,これら社内検査に合格したものから更に400本をランダムに抜取り,それを神奈川県衛生研究所に持参し,同研究所はうち80本をランダムに抜取ってその44本につき試験をしていること,以上の各検査方法はいずれも,ランダムに抜き取られた前記本数の検知管につき,アルコール濃度が清浄空気1リットルあたり0.20ミリグラム,0.35ミリグラム,0.55ミリグラムの3種の試料気体(神奈川県衛生研究所ではそのほか更にアルコール分零の対照気体)を吸引通過させ,ガスクロマトグラフとの併行試験をし,ガスクロマトグラフの測定値と検知管の指示値との相関関係を最小2乗法で算出して得られた回帰式が,予め数多くの実験の結果に基づいて定められた管理区間に収まり,かつ,相関係数が0.99以上の場合を「適合」とするもので,これらの検査方法に格別の問題が認められないこと,過去に行われた多数の検査結果を通観すると,アルコール濃度が高くなるにつれて検知管の指示値にバラツキや偏りが多くなる傾向が認められるが,試料気体1リットルあたりのアルコール濃度が0.20ミリグラムの辺りでは,ガスクロマトグラフとの併行試験の結果を観察しても,そのバラツキや偏りが原因となって不適合とされた事例は殆どないこと,加えて,ガスクロマトグラフ値が0.25ミリグラムのところで検知管の指示値の平均値が0.20ミリグラムを示す点を中心として管理区間が設定されているので,回帰式が管理区間の中央に収束すればするほど右濃度付近においては指示値の平均値が真の値より20パーセント低い値に接近するもので,この点からしても,アルコール濃度が呼気1リットルあたり0.25ミリグラム付近において検知管の指示値が真の値より過大に表示されるようなことは,特定の検知管に特別の異常でもあれば格別,通常ではまず起こり得ないといえること,しかして,本件検知管は,その有効期限(昭和61年7月25日)及び濃度目盛番号(SD-6)からみて,昭和60年8月ころ製造された整理番号SD60064のうちの1本と認められるが,このロットに関する光明理化学工業株式会社及び神奈川県衛生研究所の各検査結果によれば,本製品の回帰式は管理区間のほぼ中央に収束し,相関係数は1.00となり,アルコールの真の値が0.25ミリグラムのとき平均して0.19ミリグラムの指示値を示すという性能を有すること,更に,当審における鑑定人丸茂義輝の鑑定の結果ならびに同人の当公判廷における供述によれば,本件検知管の充填剤の密度,珪藻土の形状,重量,検知管の内径等,発色に影響を与えると考えられる因子を分析し,本件検知管とほぼ同時期に製造された使用済みの検知管や最近製造された未使用の検知管と比較検討した結果,これらの検知管と本件検知管とで特段変わった点を見出すことができず,本件検知管が,特別の異常がある製品であったとは認められないことがいずれも認定でき,以上の各事実を総合すれば,処罰限界である呼気1リットルあたり0.25ミリグラムのアルコール濃度の周辺における本件検知管の性能,精密度,正確性等について格別の問題はなく,ガスクロマトグラフ値が呼気1リットルあたり0.25ミリグラムに満たないのに検知管の測定値が0.26ミリグラムを示す可能性は全く考えられないに近いということができる。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!