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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)1140号 判決 1989年11月29日

控訴人 上野晄代

清水珠代

右両名訴訟代理人弁護士 宮崎正明

山口元彦

被控訴人 株式会社三星

右代表者代表取締役 日高芳夫

右訴訟代理人弁護士 金住則行

加藤朔郎

主文

一  原判決中、控訴人らに関する部分を取り消す。

二  被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、第二審とも、被控訴人の負担とする。

理由

一  請求原因1ないし5の主張事実に対応する、当裁判所が認定した事実は、次のとおり付加、訂正及び削除するほかは、原判決理由一ないし四(七丁裏五行目冒頭から一一丁表五行目末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決(以下同じ)八丁表二行目から三行目にかけての「(被告)」を削り、四行目の「旧建物」の前に「同女が賃借していた」を加え、同行目の「(借地)」を削り、末行から同丁裏一行目にかけての「三つ葉商事株式会社」の次に「(以下「訴外会社」という。)」を、二行目の「承諾」の前に「右建物建て替えについての」をそれぞれ加える。

2  一〇丁表四行目の「そうすると、」の次に「日出子と倉友幸夫が本件建物の建築費用を現実にどのような割合で負担したかにかかわらず、右両者の合意により、」を加える。

3  一〇丁裏一〇行目の「負担しており、」の次に「その他に後記二1(一)記載の債務、さらに友人等から数百万円の債務を負担し、他方、」を加え、同末行の「、したがつて」から一一丁表五行目末尾までを「が認められる。」と改める。

二  そこで、詐害行為の成否につき検討する。

1  ≪証拠≫並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  倉友幸夫と日出子との間で、前記持分移転の合意がなされた昭和六一年五月当時、本件建物には①債権額七〇八〇万円、抵当権者を住宅金融公庫、連帯債務者を倉友幸夫及び日出子とする抵当権設定登記、②債権額五〇〇〇万円、根抵当権者を渋谷信用金庫、債務者を訴外会社とする根抵当権設定登記、③債権額三〇〇〇万円、根抵当権者を東京信用保証協会、債務者を訴外会社とする根抵当権設定登記、④債権額三二〇〇万円、根抵当権者を渋谷信用金庫、債務者を倉友幸夫とする根抵当権設定登記、⑤債権額一〇〇〇万円、抵当権者を有限会社鈴や電話店、債務者を訴外会社とする抵当権設定登記が、また、倉友幸夫持分には、債権額五〇〇万円、根抵当権者を有限会社鈴や電話店、債務者を訴外会社とする根抵当権設定登記が、それぞれ経由されており、その具体的な債権額(概数)は、住宅金融公庫が四九二七万円、東京信用保証協会が元本二一〇〇万円、利息損害金が一三一万円、渋谷信用金庫が元本七六四〇万円、利息損害金が一九五二万円、有限会社鈴や電話店が元本一一〇〇万円、利息損害金が一六五万円で、右元利合計金は一億八〇一五万円に達していた。

そのうちの約半額は本件建物の建築費用に充当されたが、残りの半額は倉友幸夫もしくは訴外会社の使用に充てられていた。

(二)  日出子は、倉友幸夫との間で、同人の本件建物に対する持分移転の合意をした際に、本件建物に担保が設定されている右倉友幸夫及び訴外会社独自の債務も含めて、すべて日出子において負担し、これを立替弁済することを約束し、右持分移転の登記を経由した日から約一か月経過した昭和六一年七月一六日、訴外株式会社東海銀行から一億七〇〇〇万円の融資を受け、これをもつてそれまで本件建物に担保設定されていた債務をすべて弁済し、同月一八日、新たに同銀行のために本件建物に同金額を債権額とする抵当権を設定した。

2  昭和六一年五月当時の借地権価格を含めた本件建物の価格は、右1(二)の事実と≪証拠≫及び弁論の全趣旨を総合すれば、三億円を下らないものと推認される。しかしながら、右価格は、あくまでも借地権価格を含む評価であり、その借地権は日出子が単独で有するのであるから、倉友幸夫が持分を有する本件建物のみの価格は、当初の建築費用一億二八〇〇万円を下回ることはあつても、これを超えないことが明らかであり、これを基準にして同人の有する本件建物の持分の価格を算定すると、その一〇分の七に当たる八九六〇万円ということになる。ちなみに、≪証拠≫によれば、同年度の本件建物の固定資産税の課税標準価格は七九三九万四二〇〇円であることが認められるから、右評価額を基準にすれば、右持分の価格は、一〇分の七に当たる五五五七万余円ということになる。建物の価格の性質にかんがみて、その時価は、多少の上下はあるとしても、右価格を大幅に上回るということは考えがたい。

3  右の事実によれば、本件持分移転行為がされた当時、本件建物の倉友幸夫の持分上には第三者が物的担保を有しており、その被担保債権額が前示持分の価格を上回つていたことが明らかであり、本件全証拠によつても、右持分につき一般債権者の共同担保に充てられるべき剰余価値があつたとは認めらない。のみならず、倉友幸夫は、同人及び同人が経営する訴外会社に対する担保債権者に弁済するため、その有する本件建物の持分を日出子に移転し、日出子は、これを取得する代償として、倉友幸夫及び同人が経営する訴外会社に対する担保債権者への弁済という形で、その持分の価格を遙かに超える出捐をし、それによつてそれらの債務を現に消滅させているのであり、このことは、右倉友幸夫の有する持分移転の対価が優先権を有する債権者への弁済に充てられた場合と同視できるものというべく、このような場合には、一般債権者の共同担保を減少することにはならず、また、そうである以上、倉友幸夫及び日出子に詐害の意思があつたとは認められないから、本件持分移転の行為は、詐害行為には当たらないと解するのが相当である。

三  そうすると、被控訴人の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないから、これを棄却すべきものである。

よつて、被控訴人の請求を認容した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人らに関する部分を取り消し、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求を棄却する

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 前島勝三 富田善範)

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