東京高等裁判所 昭和63年(ネ)2423号 判決
本件保証契約当時、本件貸金債務が弁済期にあったことは、当事者間に争いがなく、原審における証人五十嵐秀雄の証言及び控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、控訴人は訴外会社から依頼を受けて本件保証をしたことが認められる。そうすると、本件保証契約時には、すでに主たる債務の弁済期が到来しているから、民法四六〇条二号の適用の有無が問題となる。同規定がその掲記の要件に該当する保証人に主たる債務者に対する事前求償を認めるのは、一般に、それが当該保証人の保護に役立ち、保証人と主たる債務者との間の公平にかなうためであると解されるが、当該保証人と主たる債務者との間に密接な関係があり、保証人よりも他の債務者等利害関係人の保護を優先させることが必要であるなどの特段の事情が認められる場合には、右規定が適用されないものと解するのが相当である。
そこで、これを本件についてみるに、前記のとおり、本件保証契約の締結に先立つ昭和六一年二月二六日訴外会社につき会社整理の申立てが受理されるとともに、弁済禁止の本件保全処分及び監督命令の各決定がなされ、控訴人が翌二七日までに右保全処分決定の謄本の交付を受けていた事実に、成立に争いのない乙第四号証、同第九号証、前掲控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を合わせ考えると、訴外会社は控訴人一族の同族会社であり、右保全処分決定当時、訴外会社の代表取締役西尾公は控訴人の弟であり、控訴人は取締役の地位にあったこと、また控訴人は、訴外会社に対する会社整理開始手続の申立てとともに、右保全処分の申立てをした者であり、会社整理手続中、訴外会社の資産を管理し、訴外会社の多数債権者に対し債務の支払いについて公平な支払いを確保するよう努めるべき立場にあった者であって、右保全処分について十分に熟知していて、本件保証契約を締結したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
このような事情の下において、控訴人に訴外会社に対する事前求償を認めるときは、実質的に右保全処分の趣旨を潜脱する結果を招き、会社整理手続の実施を困難にするばかりでなく、訴外会社の他の債権者に対し極めて不公平な結果となる(これらの点は、控訴人の自認するところでもある。)。右のような特段の事情が認められる本件の場合、控訴人は、保証人として、訴外会社に対して事前求償権を有しないものと解するのが相当である。
したがって、事前求償権を有することを前提として本件保証契約を無効とする控訴人の主張は、到底採用することができない。
(猪瀬 山中 武藤)