東京高等裁判所 昭和63年(ラ)801号 決定
同抗告人は、原決定が抗告人田倉のした入札を有効とした上、抗告人山崎に対して売却不許可としたのは違法であると主張するので、先ず、抗告人田倉のした入札の効力について判断する。
本件記録によると、次のとおり認められる。
原審裁判所は、本件競売事件(横浜地方裁判所昭和六〇年(ケ)第七九六号)の競売物件である原決定添付別紙物件目録記載の物件番号1ないし12の物件につき期間入札に付し、右物件中1の物件についてはそれのみを個別売却とし、その余の2ないし12の物件はこれを一括売却とした。第一次の入札には右全物件につき入札がなく、第二次の入札により1の物件のみ売却され、昭和六三年四月二二日売却許可決定がなされ、既に配当手続きも終了した。一方、2ないし12の物件については、第三次の入札に付されたところ(入札期間昭和六三年一〇月七日から同月一四日まで。開札期日同月二一日午前一〇時。売却決定期日同月二八日午後一時)、同年一〇月二一日開札の結果、右期間入札に応じて入札した者は、抗告人山崎と抗告人田倉の二名であったが、抗告人山崎の入札書は物件番号その他所定の記載はすべて正確(入札価額金四三八五万円)であるのに対し、抗告人田倉のそれは、物件番号欄に本来「2―12」と記載すべきところ、「1―12」と記載されており、その他の記載事項は正しく(入札価額金五五一八万八〇〇〇円)、本件売却における保証の額は八七六万円と定められていたが、この点についても正しく記載されている。しかるところ、執行官は、抗告人田倉の右入札については、入札物件の同一性に問題があるとして、これを無効とし、抗告人山崎を最高価買受申出人と定めて、同人にその旨を告知した。ところが、原審裁判所は、変更された昭和六三年一一月一一日の売却決定期日において、抗告人田倉の入札書に右のような誤りがあるとしても、「2―12」の物件が一括売却と定められている以上、入札書の記載は売却対象物件の全部を指すものと容易に判断されるから、抗告人田倉の入札は右物件番号欄の記載の誤りにも拘らず有効とみるのが相当であるとした上、執行官の右措置には最高価買受申出人の決定に誤りがあるので違法であるとし、抗告人山崎に対し、売却不許可決定をした。以上のとおり認められる。
以上の認定によれば、抗告人田倉のした入札(以下、本件入札という)には、入札書に物件番号の誤記があったことが明らかである。
民事執行手続において、入札は、その性質上重要な行為(通常の不動産売買の買受け申込みに該当する。)であり、書面による厳格な要式行為である(民事執行規則三八条、四七条、四九条参照)から、入札書を記載するには、慎重でなければならず、それゆえ、開札された入札書の文言の解釈も、その記載自体を形式的に審査して、所定要件を具備するかどうかを判定すべきものと解するのを相当とする。けだし、入札の右の方式に鑑み、その効力の判断に当り、執行機関が入札後において、その個々の具体的瑕疵の程度、性質等を点検審査しながら、個別にその効力を判断していくということは、手続混乱防止の観点からしても、それ自体当を失して実際的でなく、むしろ、形式的審査により有効無効を判断することの方が、結局は、手続の円滑、安定、適正に合致するからである。本件のような期間入札の場合、開札前には入札書の誤記の是正等形式的審査の機会がなく、開札後において初めて入札書を点検し得るに過ぎない場合はなおさらのことといわなければならない。本件入札は、入札書中物件番号の記載に過誤のあることが明らかであるところ、それは、一見軽微ではあるが、入札時点における入札人の認識如何についての判断に迷う余地も皆無ではなく、そのような疑問の存する限りはその効力を否定し、手続の更に進行した後日においてこれが有効無効の紛争の種となることを予防する方が手続の遂行上実際的であり、その手続の円滑と安定上望ましいといえる。叙上の見地に照らし、本件入札は、民事執行規則三八条二項三号に違反する無効なものであると判断する。
もっとも、本件入札については、前認定の具体的事情からして、これを有効として取り扱うべきだとする見解も十分にあり得る。けだし、一般健全な物件希望者の競売への参加の道を開いている民事執行法の制度及び関係者の執行手続への信頼保持の点に徴しても、単なる誤記にとらわれることなく、他に格別の支障の生ずる恐れのない以上、できる限り有効なものとして取り扱うことの方が合理的であるとも考えられるからである。しかし、本件において、かような見解に立つとき、例えば、物件番号の記載が、「1―11」又は「1―13」、あるいは「2―11」又は「2―13」とあったような場合に比して、これらを如何に処理するか、その判断基準が曖昧にならざるを得ず、又、それにもまして、入札者が一人のみの場合であればともかく、他に何らの過誤もない入札者がいるとき、その者が後順位となり、自ら、過誤ある記載をした者の方が優先する結果となり、公平の観点からも妥当を欠くこととなり兼ねない。本件において、控訴人山崎はまさに何らの過誤もない入札者である訳である。
以上により、抗告人田倉のした入札は、無効というべきであり、これを有効とした上、抗告人山崎に対し売却不許可をした原決定は違法であるから取り消すべきものである。抗告人山崎の抗告は理由がある。
しかして、本件入札は、執行官により無効とされ、その保証金も既に抗告人田倉に返戻されて、その入札行為は解消され、他方、抗告人山崎の入札は現に最高価買受申出人のそれとして存続していることは記録上明らかであるから、執行裁判所としては、同抗告人につき他に売却を不許可とすべき事由のない限り同抗告人に対する売却許可決定をすべき状態にあるというべきところ、抗告裁判所でよりも、執行裁判所である原審において、本件抗告申立以後の事由の発生の有無をも含めて右売却不許可事由の有無を更に審査した上、売却の許否を決定するのを相当とするから、その趣旨において本件を原審に差し戻すこととする。
(菅本 高木 秋山)