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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)118号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨、本件審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 そこで、本願第一発明についての原告主張の取消事由について検討する。

1 本願第一発明の構成及び作用効果について

成立に争いのない甲第四号証(本願明細書)によれば、次の事実が認められる。

(一) 構成

本願第一発明の構成は、本願発明の要旨第1項記載のとおりであるが、その構成要件を分節すれば次のとおりである。

A 下腹部を覆う腹部片と、左右両臀部を覆う臀部片と、股間部を覆う股間片とよりなる下着を製造するにあたり、腹部片の上部両側に左右方向にのびた突出部を、臀部片の上部両側に左右方向でかつ斜め上方向にのびた突出部をそれぞれ形成し、これら突出部の端縁を同じ長さにするとともに各片の中心線に向つて上方に傾斜せしめ、しかも臀部片の上縁を同片の中心線上が最もへこんでいる彎曲形状となし、

B 相互に縫い合わすべき臀部片の下端および股間片の一端の間に、これらを突き合わせた状態において臀部片および股間片の中心線に対し左右対称でかつ中心線に向つて巾が漸増した間隙を生ぜしめるように、臀部片の下端を凹形状に形成し、腹部片および臀部片の両突出部をこれらの端縁において縫い合わせ、かつ臀部片の下端を股間片の一端に上記間隙がなくなるようにして縫い合わせるとともに、

C 下着の着用時臀部片と股間片の縫合部が左右両臀部間のほぼ最下端に位置するように臀部片および股間片を形成する。

D ことを特徴とする立体的パンテイ、ブリーフなどの下着の製造法。

(二) 作用効果

(1) 下腹部を覆う腹部片と、左右両臀部を覆う臀部片と、股間部を覆う股間片とよりなる下着を製造するにあたり、腹部片の上部両側に左右方向にのびた突出部を、臀部片の上部両側に左右方向でかつ斜め上方向にのびた突出部をそれぞれ形成し、これら突出部の端縁を同じ長さにするとともに各片の中心線に向つて上方に傾斜せしめ、しかも臀部片の上縁を同片の中心線上が最もへこんでいる彎曲形状となしたから、下着は、着用時腹部片の突出部に縫い合わせた臀部片の左右方向でかつ斜め上方向にのびた突出部が、臀部の後方への張り出しにより引張られて下にさがり、これらの上縁が彎入形状となされた臀部片の上縁とともに水平―直線状となるとともに、臀部片の両側突出部の降下に伴い、臀部片に後方へ張り出した左右両臀部の上部分を密着状に包むゆとりが生じる形態となる。

また腹部片および臀部片の突出部の端縁を同じ長さにするとともに各片の中心線に向つて上方に傾斜せしめたから、臀部片の両側突出部の降下に拘らず、突出部の縫合部分が腰部に密着状にそうようになる。

(本願明細書(補正)21頁三行目から22頁九行目)

(2) 相互に縫い合わすべき臀部片の下端および股間片の一端の間に、これらを突き合わせた状態において臀部片および股間片の中心線に対し左右対称でかつ中心線に向つて巾が漸増した間隙を生ぜしめるように、臀部片の下端を凹形状に形成し、臀部片の下端を股間片の一端に上記間隙がなくなるようにして縫い合わすから、臀部片の中心線上に縦のくぼみが形成されるとともに、その両側にふくらみが形成せられる。

そして下着の着用時臀部片と股間片の縫合部が左右両臀部間のほぼ最下端に位置するように臀部片および股間片を形成したので、下着は、着用時臀部片の中心線上が最も強くかつ中心線から両側方に行くにしたがつて、漸次弱く股間片側に引張られ、臀部片が左右両臀部間の谷にくいこみ状に密着し、この部分で下着が人体に係合状となつて腰の屈伸運動その他の人体の動きにより下着のずれ動きが生じず、臀部の底にたるみやしわも発生しない形態となる。

さらに臀部片に形成せられた縦のくぼみの両側にあるふくらみが、両側突出部の降下により生じた臀部片のゆとり部分と連なり、球状に張出した左右両臀部にそつて密着状にしつかりとこれらを包み込む。したがつて、下着は立体的な臀部の形態にフイツトして美しい外観を呈する。

(同22頁一〇行目から24頁二行目)

2 取消事由1について

(一) 第二引用例についての認定の誤りについて

(1)「後股上布の縫合線の左右端が股下布の後縫合線の左右端に対応して位置されており、」との記載について

ア 原告は、本件審決の右認定は、第二引用例の第1図から明らかなように、後股上布11の縫合線の左右端は、股下布21の縫合線の左右端から大きく離れて股下布の後縫合線の中心寄りに存在しており、両縫合線の左右端は対応していないから誤りである旨主張する。

イ 成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例には、次の記載があることが認められる。

(ア) 後方の股下布の後縫合線は、後センター26を有する緩弧曲線状に裁断され、後股上布の股下布との縫合線は略V字喰い込み裁断によつて股下布の緩弧曲線より中央縫合点18をやや深いV字形に裁断した(2頁左上欄一三行目から一六行目)

(イ) 後股上布の中央線は、股下で中央縫合点に向つて引張り状にヒツプにフイツトし、股下布の緩弧曲線の後センターは詰り状となり、着用に当つてヒツプポイントはヒツプにフイツトしてヒツプの縦縫ラインによつてゆるみがなく、服装の外見に下着のたるみが現われず、又、股下布と後股上布の後センターが、後股上布とによつて詰り状となるので着用のさいヒツプトツプが外方へ突出すればする程、股下布はその後方緩曲線部が、後センターを中心として喰い込み状となる(2頁左上欄一六行目から右上欄五行目)。

(ウ) 縫成を終ると、前股上布1と後股上布11の縫合線は後方の両ヒツプ上に縦状にヒツプラインを形成し、ヒツプライン上に突出状のヒツプトツプが形成される(2頁左上欄七行目から九行目)。

(エ) 第1図は布の裁断展開図、第2図は構成分解図、第3図は出来上がり縫成図である。

第1図には、後股上布11の縫合線(裾縫V字線)15の左右端は、股下布21の股下後縫線(膨み後縫曲線、後縫合線)23の左右端から離れて股下布の後縫合線の中心寄りに存在していることが図示され、第2図及び第3図には、後股上布11の縫合線15の左右端と股下布21の後縫合線23の左右端とを対応して位置させ、後股上布11と股下布21とを縫製することが図示されている。

下着着用時における後股上布と股下布の縫合部の位置状態について文言上の記載がない。

第1図には、後股上布11に裾縫V字線(縫合線)15があり、股下布21の膨み後縫曲線(後縫合線)23との間にV字形の間隙が生じることが図示され、また、第2図及び第3図には、後股上布11の裾縫V字線15がほぼ直線ないし緩弧曲線となつており、さらに第3図には、前記間隙を塞ぐように後股上布11と股下布21を引張り寄せて縫製することが図示されている。

ウ 以上の事実によれば、第二引用例の第2図及び第3図には、後股上布11の縫合線15の左右端と股下布21の後縫合線23の左右端とを対応して位置させ、後股上布11と股下布21とを縫製することが図示されているから、本件審決が第二引用例に「後股上布の縫合線の左右端が股下布の後縫合線の左右端に対応して位置されており、」と記載されていると認定したことに誤りはない。

(2)「着用時後股上布と股下布の縫合部が左右両臀部間の下端付近に位置され、」との記載について

ア 原告は、下着着用時における後股上布と股下布の縫合部の位置状態については明細書及び図面に何ら記載するところがない旨主張する。

イ 前記認定のとおり、第二引用例には、下着着用時における後股上布と股下布の縫合部の位置状態について文言上の記載はない。

しかしながら、当業者が、第2図の構成分解図及び第3図の出来上がり縫成図を見れば、着用時における後股上布と股下布の縫合部が、左右両臀部間の最下端に位置するかどうかは別として、左右両臀部間の下端付近に位置されていると想定できるというべきである。

ウ そうであれば、本件審決が第二引用例には「着用時後股上布と股下布の縫合部が左右両臀部間の下端付近に位置され、」と記載されていると認定した点に誤りはない。

(3)「後股上布の縫合線が股下布の縫合線に前記間隙を塞ぐように引張り寄せて縫い合わされた」との記載について

ア 原告は、第二引用例の明細書には右記載は見当たらない旨主張する。

イ 前記認定のとおり、第二引用例の第1図の裁断展開図には、後股上布11に裾縫V字線(縫合線)15があり、股下布21の膨み後縫曲線(後縫合線)23との間にV字形の間隙が生じることが図示され、また、第3図の出来上がり縫成図には、前記間隙を塞ぐように後股上布11と股下布21を引張り寄せて縫製することが図示されている。

ウ そうであれば、本件審決が第二引用例には「後股上布の縫合線が股下布の縫合線に前記間隙を塞ぐように引張り寄せて縫い合わされた」と記載されていると認定したことに誤りはない。

(4) したがつて、第二引用例についての本件審決の認定に原告主張の誤りはない。

(二) 第三引用例についての認定の誤りについて

(1) 原告は、第三引用例の場合も下着着用時の臀部片と股間片の縫合部の位置状態は明細書及び図面に記載されていない旨主張する。

(2) 成立に争いのない甲第七号証によれば、第三引用例には、下着着用時の臀部片と股間片の縫合部の位置状態についての説明は記載されていないが、登録請求の範囲に「後生地3の下部9の下縁9´中央に股片5、6の下縁6´´を縫着して」(1頁右欄二三行目から二四行目)と記載され、また、第2図には臀部片(後生地3)と股間片(股片5、6)の縫合部が図のほぼ最下端に記載されたパンツの背面図が、第3図には同縫合部が図の上部(背面側)に記載された断面図がそれぞれ図示されていることが認められる。

右事実によれば、後生地3の下部9の下縁9´中央に股片5、6の下縁6´´を縫着した箇所(縫合部)は、左右両臀部間のほぼ最下端に位置していると認められるから、文言上の記載がなくても、下着の着用時、臀部片と股間片の縫合部が左右両臀部間のほぼ最下端に位置していると認められる。

(3) そうであれば、本件審決が、第三引用例に「下着の着用時臀部片と股間片の縫合部が左右両臀部間のほぼ最下端に位置するように臀部片及び股間片を形成したパンテイの製造法」が記載されていると認定したことに誤りはない。

(三) 以上のとおり、本件審決には、第二引用例及び第三引用例の認定について原告主張の誤りはない。

3 取消事由2について

(一) 本願発明の「間隙」について

(1) 前記のとおり、本願発明の「間隙」について、本願明細書には、「相互に縫い合わすべき臀部片の下端および股間片の一端の間に、これらを突き合わせた状態において臀部片および股間片の中心線に対し左右対称でかつ中心線に向つて巾が漸増した間隙を生ぜしめるように、臀部片の下端を凹形状に形成し、臀部片の下端を股間片の一端に上記間隙がなくなるようにして縫い合わすから、臀部片の中心線上に縦のくぼみが形成されるとともに、その両側にふくらみが形成せられる。そして下着の着用時臀部片と股間片の縫合部が左右両臀部間のほぼ最下端に位置するように臀部片および股間片を形成したので、下着は、着用時臀部片の中心線上が最も強くかつ中心線から両側に行くにしたがつて、漸次弱く股間片側に引張られ、臀部片が左右両臀部間の谷にくいこみ状に密着し」と記載されている。

(2) 右事実によれば、本願第一発明の臀部片と股間片との間に生じた「間隙」の構成は、間隙の形状が、「漸増する間隙」であつて、間隙の位置が「左右両臀部間のほぼ最下端に位置する」ように形成されており、また、本願第一発明の「間隙」の機能は、「臀部片の中心線上に縦のくぼみが形成されるとともに、その両側にふくらみが形成せられ」、「下着は、着用時臀部片の中心線上が最も強くかつ中心線から両側方に行くにしたがつて、漸次弱く股間片側に引張られ、臀部片が左右両臀部間の谷にくいこみ状に密着」するものと認められる。

(二) 第二引用例の「間隙」について

(1) 前記のとおり、第二引用例の間隙は、「後股上布の股下布との縫合線は略V字食い込み裁断によつて股下布の緩弧曲線より中央縫合点18をやや深いV字形に裁断した」ものであつて、V字状の形状から、中央線に向つて幅が「急増する間隙」であり、また、「後股上布の中央線は、股下で中央縫合点に向つて引張り状にヒツプにフイツトし、股下布の緩弧曲線の後センターは詰り状となり、着用に当つてヒツプポイントはヒツプにフイツトしてヒツプの縦縫ラインによつてゆるみがなく、服装の外見に下着のたるみが現われず、又、股下布と後股上布の後センターが、後股上布とによつて詰り状となるので着用のさいヒツプトツプが外方へ突出すればする程、股下布はその後方緩曲線部が、後センターを中心として喰い込み状となる。」、「縫成を終ると、前股上布1と後股上布11の縫合線は後方の両ヒツプ上に縦状にヒツプラインを形成し、ヒツプライン上に突出状のヒツプトツプが形成される。」作用効果を奏する機能を有している。

(2) 右事実によれば、第二引用例の間隙は、縫製後またざき状に左右に開かれた後股上布11の裾縫V字線15の両側部分が、ヒツプライン上に突出状のヒツプトツプを形成するためのゆとりを下側からもたせる機能を有すると認められる。

(三) 周知事実として引用した甲第八号証ないし第一〇号証の「間隙」について

(1) 成立に争いのない甲第八号証によれば、米国特許三、〇一六、九〇〇号明細書には、着用者の腰部から股間部までを包み、二つの脚部開口部を備えたぴつたりフイツトする両股パンツ型下着であつて、この下着は、腰部の少なくとも一部を囲む比較的幅の狭い連続中央部を有する上後部パネルと、一枚の下後部パネルとからなり、上後部パネルは、主に水平方向に伸縮自在であり、垂直方向では実質上伸縮性に乏しく、下後部パネルは、主に垂直方向に伸縮自在であるが、水平方向では実質上伸縮性に乏しく、また下後部パネルは、上後部パネルの比較的幅の狭い部分より下着の実質上広い面積を占め、両パネルは、一方の脚部開口部から下着の上後部を横切つて他方の脚部開口部に至る弓状縫い目によつて接合せられ、これにより下後部パネルの垂直方向の伸縮が上後部パネルの水平方向の伸縮に、斜めの線に沿つて変えられるものをクレームとし、第1図には、下後部パネル(臀部片)12の下縫合用縁とガセツトパネル(股間片)13の後縫合用縁との間に、下後部パネル12の下縫合用縁の長さがガセツトパネル13の後縫合用縁の長さより長い三日月形の間隙が図示されていることが認められるが、詳細な説明の欄には、右三日月形の間隙について何らの説明もないことが認められる。

右事実によれば、右三日月形の間隙は、下後部パネル12の下縫合用縁の長さがガセツトパネル13の後縫合用縁の長さより長いため、両者を縫い合わせるためにはガセツトパネルの後縫合用縁を引張りながら縫い合わせなければならず、縫い合わせた後には下後部パネルの下部にしわが生じ、着用時には下後部パネル下部にゆとりが生ずることが推認されることから、甲第八号証の下着は、下後部パネル12とガセツトパネル13とにより左右の両臀部を合わせて一つの球として覆う機能を有していると解するのが相当である。

したがつて、甲第八号証の下着は、本願第一発明のように下着の着用時左右両臀部間の谷に食い込み状に密着することはないというべきである。

(2) 成立に争いのない甲第九号証によれば、実公昭四五―一二一六〇号公報には、「従来の生理用パンテイの股間片は第4図に示す如く細長い布片が両端に行くに従つて拡開し且その前後両端A、Bが夫々彎曲突出し……股間部片がたるむ……欠点がある。」(1頁1欄二〇行目から二五行目)、「本案は……第4図に示す股間部片の前後両端を点線で示す如き逆弧状に切除し」(1頁1欄二九行目から三一行目)、「本案生理用パンテイは従来のものより第4図に示す股間部片の斜線部分の長さ丈け短くなるので第3図の如く人体(鎖線で示す)にはいた場合股間部片2の縫着部2は脚出口11の周囲のゴム帯13に引かれて略水平になる」(1頁2欄二四行目から二九行目)と記載されており、第1図には、尻部布片1との間に太鼓状の間隙が生じていることが図示されている右考案生理用パンテイの裁断片の展開平面図が、第4図には、従来の股間部片と右考案の股間部片の両端の相違が記載されている平面図が、それぞれ記載されていることが認められる。

右事実によれば、甲第九号証の生理用パンテイの「間隙」は、臀部片(尻部布片)と股間片(股間部片)との縫合部がいずれも内側に彎曲している太鼓状であつて、股間部片をたるませないで人体に密着する機能を有するものであり、本願第一発明のように下着の着用時左右両臀部間の谷に食い込み状に密着するものとは技術的意義を異にするというべきである。

(3) 成立に争いのない甲第一〇号証によれば、昭和一二年実用新案公告第六三四九号公報には、「本案ハ……仕立後股部トノ接触ヲ良好トナシ決シテ弛ミヲ生セシムル憂ナシ」、「本案ハ股間部ニ対向縁ヲ夫々彎状ニ刳抉セル襠片9ヲ縫着セル為メ仕立後脚出口付近ニハ自然ノ凹凸ヲ生シ着用スレハ克ク人体ニ密着シ不恰好ナル皺ヲ生セサル」と記載されており、第四図には、後片2と襠片9との間に太鼓状の間隙が生じている裁断図が記載されていることが認められる。

右事実によれば、甲第一〇号証の「間隙」は、臀部片(後片)と股間片(襠片)との縫合部がいずれも内側に彎曲している太鼓状であつて、股間片をたるみなく人体に密着する機能を有するものであり、本願第一発明のように下着の着用時左右両臀部間の谷に食い込み状に密着するものとは技術的意義を異にするというべきである。

(4) 以上のとおり、本件審決が、周知事実の例示として引用した甲第八号証ないし甲第一〇号証の各「間隙」は、本願第一発明の「間隙」と技術的意義を異にするものである。

(四) 被告は、本願第一発明でいう「間隙」は、左右対称で中心線に向かつて幅が漸増するものであれば足り、形状は別段問わないから、甲第八号証のような三日月状はもちろんのこと、甲第九号証や甲第一〇号証のように股下布を鼓状(逆たいこ状)として間隙を生じさせる態様も包含しており、したがつて、右甲号各証の周知事実から「間隙について本願第一発明のようにすることは当業者にとつて任意に設計変更できる範囲にある」といい得る旨主張する。

確かに、本願第一発明の要旨には、「相互に縫い合わすべき臀部片の下端および股間片の一端の間に、これを突き合わせた状態において臀部片および股間片の中心線に対し左右対称でかつ中心線に向つて巾が漸増した間隙を生ぜしめるように、臀部片の下端を凹形状に形成し」と規定しているものの、その「間隙」がどのような形状か特定していない。

しかしながら、前記のとおり、本願第一発明の間隙は漸増する間隙であるのに対し、第二引用例のそれは急増する間隙である点で構成上相違する上、第二引用例は「ヒツプライン上に突出状のヒツプトツプを形成するためのゆとりを下側からもたせる」ものであつて、本願第一発明とは機能上も相違し、しかも、周知事実の例示として引用した甲第八号証ないし甲第一〇号証の各間隙も前記のとおり本願第一発明のそれとは技術的意義を異にするものである。

したがつて、本願第一発明の間隙は、第二引用例の間隙とは構成及び機能において明確に相違しており、また、甲第八号証ないし第一〇号証とも技術的意義を異にしているので、右甲号各証の周知事実から「間隙について本願第一発明のようにすることは当業者にとつて任意に設計変更できる範囲にある」とはいえない。

(五) 以上によれば、本件審決が、間隙について周知事実を勘案すると本願第一発明のようにすることは当業者にとつて任意に設計変更できる範囲にあるとした判断は誤りである。

4 取消事由3について

(一) 本願第一発明の作用効果は前記1(二)で認定したとおりであり、第二引用例の作用効果は前記2(一)イ(イ)で認定したとおりである。また、本願第一発明の間隙と第二引用例の間隙とは、前記のとおり、その機能及び技術的意義が相違している。

(二) 被告は、本願第一発明は、その構成要件Aが第一引用例と一致しており、左右両臀部を密着状に包むとの効果に関して、第一引用例のそれと相違するものとは解されず、また、その構成要件B、Cが第二引用例(あるいはこれと第三引用例)と一致しており、臀部片が左右両臀部間の谷に食い込み状に密着するとの効果に関し、第二引用例のそれと相違するものとは解されない旨主張する。成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例には、腹部包囲部及び臀部包囲部の上部両側に左右方向でかつ斜め上方向にのびた突出部を形成し、これら突出部の側部繋部縁部を同じ長さにするとともに各部の中心線に向つて上方に傾斜せしめ、しかも腹部包囲部及び臀部包囲部の上縁を両側の中心線上が最もへこんでいる彎曲形状となし、腹部包囲部及び繋部包囲部の両突出部をこれらの側部臀部縁部において縫い合わせた立体的なパンテイが記載されていることが認められ、外方に突出した左右両臀部を包む生地のゆとりを臀部片の上側から得ている構成要件Aについては、本願第一発明と第一引用例とは技術思想を共通にするものであると認められる。

しかしながら、本件審決が「間隙が第二引用例に記載されたものと本願第一発明との間に差異がある」と認定しているとおり、構成要件Bについては、第二引用例と本願第一発明の間隙に差異がある上に、前記のとおり、第二引用例あるいは第三引用例と本願第一発明の間隙とは、その機能及び技術的意義が相違しているから、被告の主張はその前提において失当である。

(三) また、被告は、第二引用例の間隙は本願第一発明の間隙と同様、臀部片たる後股上布が股間片たる股下布に対し左右対称で、中心線に向つて幅が増加している態様のものであるから、後股上布が臀部の谷へ食い込み密着する基本原理に本願第一発明のそれと相違する訳がない旨主張する。

確かに、臀部片と股間片との間の間隙が、左右対称で、中心線に向つて幅が増加している態様のものである場合には、臀部片が左右両臀部間の谷に食い込み状に密着する原理は、本願第一発明の場合と第二引用例の場合とで差異があるものではない。

しかしながら、外側に突出した左右両臀部を包む生地のゆとりを、本願第一発明では臀部片の上側から得ているのに対し、第二引用例では、後股上布の下側から得ている点に両者の根本的な相違があり、これが両者の作用効果の差となつて現れるものであるから、本願第一発明の作用効果が第二引用例に記載されたところから特段の差異は認められないとはいえず、したがつて、本願第一発明の作用効果においても第二引用例に記載されたところから特段の差異は認められないとした本件審決の判断は誤りといわざるを得ない。

5 取消事由4について

(一) 本件審決は、

(1) 下着の着用時臀部片と股間片の縫合部が左右両臀部間のほぼ最下端に位置するように臀部片及び股間片を形成した点も、第二引用例及び第三引用例に記載されているように周知の事実であること、

(2) 作用効果においても第二引用例に記載されたところから本願第一発明と比べて下着が人体に密着する点について差異が認められないこと等を勘案すると第一引用例に記載された股間片に第二引用例に記載された方法を適用して本願第一発明のようにすることは当業者ならば容易になし得ると判断している。

(二) しかしながら、右2の判断は、前記のとおり誤りであり、しかも、外方に突出した左右両臀部を包む生地のゆとりを臀部片の上側から得ている第一引用例の技術と、後股上布の下側から得ている第二引用例の技術とは元来結び付かないものである。

したがつて、第一引用例に記載された股間片に第二引用例に記載された方法を適用して本願第一発明のようにすることは当業者ならば容易になし得るとした本件審決の判断は誤りである。

6 以上によれば、本件審決は、「間隙」について周知事実を勘案すると本願第一発明のようにすることは当業者にとつて任意に設計変更できる範囲であると判断を誤り、本願第一発明の作用効果においても第二引用例に記載されたところから特段の差異は認められないと判断を誤り、さらに、第一引用例に記載された股間片に第二引用例に記載された方法を適用して本願第一発明のようにすることは当業者ならば容易になし得ることであると判断を誤つた結果、本願第一発明は、第一引用例ないし第三引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものと誤つて判断したものであるから、本願第二発明についての審決取消事由について判断するまでもなく、本件審決は違法であり、取消しを免れない。

三 よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

1 下腹部を覆う腹部片と、左右両臀部を覆う臀部片と、股間部を覆う股間片とよりなる下着を製造するにあたり、腹部片の上部両側に左右方向にのびた突出部を、臀部片の上部両側に左右方向でかつ斜め上方向にのびた突出部をそれぞれ形成し、これら突出部の端縁を同じ長さにするとともに各片の中心線に向つて上方に傾斜せしめ、しかも臀部片の上縁を同片の中心線上が最もへこんでいる彎曲形状となし、相互に縫い合わすべき臀部片の下端および股間片の一端の間に、これらを突き合わせた状態において臀部片および股間片の中心線に対し左右対称でかつ中心線に向つて巾が漸増した間隙を生ぜしめるように、臀部片の下端を凹形状に形成し、腹部片および臀部片の両突出部をこれらの端縁において縫い合わせ、かつ臀部片の下端を股間片の一端に上記間隙がなくなるようにして縫い合わせるとともに、下着の着用時臀部片と股間片の縫合部が左右両臀部間のほぼ最下端に位置するように臀部片および股間片を形成することを特徴とする立体的パンテイ、ブリーフなどの下着の製造法(以下「本願第一発明」という。)。

2 下腹部を覆う腹部片と、左右両臀部を覆う臀部片と、股間部を覆う股間片とよりなり、かつ着用時腹部片の上縁が腹部の膨らみの頂点より下に位置する深さの浅い下着を製造するにあたり、腹部片および臀部片の上部両側に左右方向でかつ斜め上方向にのびた突出部をそれぞれ形成し、これら突出部の端縁を同じ長さにするとともに各片の中心線に向つて上方に傾斜せしめ、しかも腹部片および臀部片の上縁を両片の中心線上が最もへこんでいる彎曲形状となし、相互に縫い合わすべき臀部片の下端部および股間片の一端の間に、これらを突き合わせた状態において臀部片および股間片の中心線に対し左右対称でかつ中心線に向つて巾が漸増した間隙を生ぜしめるように、臀部片の下端を凹形状に形成し、腹部片および臀部片の両突出部をこれらの端縁において縫い合わせ、かつ臀部片の下端を股間片の一端に上記間隙がなくなるようにして縫い合わせるとともに、下着の着用時臀部片と股間片の縫合部が左右両臀部間のほぼ最下端に位置するように臀部片および股間片を形成することを特徴とする立体的パンテイ、ブリーフなどの下着の製造法(以下「本願第二発明」という。)。

(以下、本願発明につき、別紙本願発明図参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙本願発明図(その1)

<省略>

別紙本願発明図(その2)

<省略>

別紙第一引用例図 省略

別紙第二引用例図

<省略>

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