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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)128号 判決

一 請求の原因一、二(特許庁における手続の経緯及び本件商標の構成、指定商品、登録出願日、設定登録日並びに審決の理由の要点)は当事者間に争いがなく、審決の理由の要点1ないし4も当事者間に争いがない(以下、便宜、別紙(三)に示すとおり、本件商標の黒色直角三角形状部分をA、B、上部から順次白抜き矢尻状部分をC、黒色矢尻状部分をD、白抜き矢尻状部分をE、黒色二等辺三角形状部分をFといい、引用各商標の上部の矢尻状図形を甲、下部の矢尻状部分を乙という。)。

二 取消事由に対する判断

本件商標と引用各商標がいずれも特定の称呼、観念を生じるものでないことは当事者間に争いがないから、その類否は外観上見誤られるおそれがあるか否かによつて決すべきである。そこで、両者の外観上の類否について判断する。

1 まず、原告が本件商標と引用各商標において、共通する基本的構成と主張する矢尻状部分(前者のC、E、後者の甲、乙部分)を別紙(一)(本件商標)及び(二)(引用各商標)により対比すると、本件商標にあつては上部に配されたC、下部に配されたEとも白抜きであり、CはEより大きく、鋭角的形状であるがEは扁平な鈍角的形状であるのに対し、引用各商標にあつては、上部に配された甲、下部に配された乙とも黒く塗られ、大きさ、形状が同じであること、上部に配されているCと甲とを比べると、底部切込部の角度(下縁線により形成される角度)はCが約九〇度、甲が約九五度で近似するが、Cの上部先端部は僅かに欠けているものの両縁線を延長して形成される頂角は約五〇度と推認されるのに対し、甲の頂角は約八〇度であり、全体としてCの方が甲より鋭角的な印象を受けること、下部に配されているEと乙を比べると、Eは頂角が約一二〇度、底部切込部の角度が約一五〇度で、乙(前記のように大きさ、形状とも甲と同じ)に比し著しく扁平であること、高さ(下部両先端を結んだ線から頂点までの長さ)はEがCの約四分の一であるのに対し、甲は乙と等しいこと、それぞれの位置関係を比べると、甲と乙の縁線はいずれもほぼ平行関係にあり、乙が甲の底部切込部に接近し深く食い込み甲の下縁線と乙の上縁線が矢印状を形成する状態で配置されているのに対し、CとEの縁線は平行関係になく、両者の下部の両先端がいずれもきわめて近接しEはCの下部縁線により形成される二等辺三角形の内部にあつてEの上縁線とCの下縁線により矢尻状(D)を形成し、その頂部をCの底部切込部に向ける状態で配置されているが、Cの底部切込部に対するEの食い込みはそれほど深くはないことが認められる。

以上の対比によれば、CとE、甲と乙はともに上下に配置され矢尻状とはいいながら、前者は白抜き状であるのに対し後者は黒塗りである点や、大きさ、形状、配置関係において顕著に異なつていることは明らかであるから、両者は非類似というべきである。

2 更に進んで本件商標と引用各商標の要部についても、別紙(一)及び(二)により対比検討する。

本件商標について、C、Eのほか、Cの両側にCの頂部をはさみ左右に対称的に配置され、直角部分に若干丸みをもたせた黒色直角三角形状部分(A、B)、CとEとの間の黒色矢尻状部分(D)、Eの下部の黒色二等辺三角形部分(F)を加えて、その外観を総合的に観察すれば、本件商標は右のA、B、D、Fの黒色部分と、C、Eの白抜き部分を一体とした隅丸状の四辺形状からなる幾何学的図形として、白抜き部分と黒色部分を上下、左右とも交互に調和よく組合せたもので、全体が不可分的にその要部を形成していると認めるのが相当である。

これに対し、引用各商標では、同じ大きさで、同一形状の甲、乙二つの図形のみで構成され、これを上下に方向性を同じくして配し、乙の頂点が甲の底部切込部に食い込むように配置した点に要部があると認められる。

右に認定した両者の要部を対比すれば、その間に顕著な差があることは明らかであるということができる。

3 ところで、原告は、本件商標の要部が黒色四辺形状の内部の白抜きの二層の矢尻状部分(C、E)にあるとするとともに、その余の黒色部分は白抜きのための背景にすぎないから、外観観察においてはこれを捨象すべきである旨主張する。

しかしながら、C、Eが本件商標の要部であるとの主張が採用し難いこと、その黒色部分(A、B、D、F)を仮に背景であるとしても、それが本件商標の構成要素であることは、前記2に認定したところから明らかであり、別紙(一)によれば、特に右黒色部分については、その配置上白抜き部分との対比において不可避的に視覚上認識されるのであるから、これを全く捨象して本件商標を観察することは誤りである(前記1の対比判断も白抜き部分である本件商標のC、Eについては、各黒色部分を捨象して行い得ないことは明らかである。)。

また、原告は、原告主張の要部を採用すべき理由として、本件商標の出願当時、引用B商標は自動車について既に著名な商標であつたから、これを知る需要者が本件商標に接するときは二層の矢尻状部分であるC、Eに注意を引かれる点をも挙げているが、本件商標と引用B商標の要部を対比しても、また矢尻状部分に相当する本件商標のC、Eと、引用B商標の甲、乙だけを対比しても、その類似性を認めがたいことは前記1に認定したとおりであり、また、一般論としてはとも角、我が国における引用B商標の著名度が、自動車の需要者が本件商標を見た場合に、直ちに二層の矢印状部分に注意を引かれる程度にまで達していたか否かについては、その著名性を立証するものとして原告が提出する原本の存在及び成立に争いのない甲第五号証の一ないし五五、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第六号証の一ないし六によつても、にわかには断じ難いというほかないから、右の点も前記認定を左右するものではない。

更に、原告は、前記のとおり本件商標の登録出願前、引用B商標が著名な商標であつたとする点を、離隔的観察の場合の類否判断について有利に援用しているが、これが著名であればあるほど引用各商標に対する世人の印象はより鮮明となり、離隔的観察の場合においても、かえつて、前記したような本件商標との相違を明確に識別し得ることになるものと考えられることを考慮すると、必ずしも右の点が両者の類似性を強めるものともいえない。

このほか、原告は、仮に、本件商標から原告主張のような「二層の矢尻状図形」と異なる印象が生じ得るとしても、原告主張のような外観が生じることもまた否定できないから、これと引用各商標が類似するものである以上、本件商標と引用各商標は類似するものである旨主張するが、前記1で認定したところによれば、本件商標の二層の矢尻状部分であるC、Eと引用各商標の甲、乙を対比しても両者は類似するということはできず、仮に本件商標につき原告主張のような外観が生じたとしても(その場合でも、不可避的に視覚に入る黒色部分を捨象することができないことは前記のとおりである。)、両者を誤認混同することはないものというべきである。

4 以上のように、本件商標と引用各商標とは、外観上見誤られるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は商標法四条一項一一号に該当するものではなく、また、そうである以上、非類似の商標であつてもこれと混同を生じさせるような特別の事由につき何ら主張、立証のない本件においては、本件商標が同項一〇号や一五号にも該当しないものであることも明らかである。

5 以上認定説示したところによれば、審決の認定判断は相当であるから、原告主張の取消事由は理由がない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編注1〕本件における特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点は左のとおりである。

一 被告は、構成を別紙(一)のとおりとし、指定商品を第一二類「輸送機械器具、その部品及び附属品(他の類に属するものを除く。)」とする登録第一七〇五六二四号商標(昭和五三年三月八日登録出願、昭和五九年八月二八日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、原告は、昭和六一年七月二一日、被告を被請求人として、本件商標の商標登録無効の審判を請求したところ、特許庁は、右請求を同年審判第一五五三二号事件として審理したうえ、昭和六三年二月四日、「本件審判の請求は、成り立たない。」(出訴期間として九〇日附加)との審決をし、その謄本は、同年三月二日原告に送達された。

二 審決の理由の要点

1 本件商標の構成、指定商品、登録出願日及び設定登録日は前項記載のとおりである。

2 これに対し、請求人(原告)が引用する登録九二九四六六号商標(以下「引用A商標」という。)は、第九類の耕うん機械器具、栽培機械器具、収穫機械器具、植物粗製繊維加工機械器具、動力機械器具、動力伝導用ベルトその他の動力伝導装置、その他本類に属する商品を指定商品として、昭和四六年九月一七日に設定登録されたものであり、同じく請求人が引用する登録九三八二二四号商標(以下「引用B商標」という。)は、第一二類「輸送機械器具、その他部品及び附属品」を指定商品として、同年一一月二七日に設定登録されたもので、いずれも別紙(二)のとおりの構成よりなり、現に有効に存続しているものである。

3 請求人は、「本件商標の登録はこれを無効とする。」との審決を求め、その理由として、本件商標と引用商標は前記構成よりなるところ、(イ)本件商標と引用商標は、たとえ白、黒の対比が逆であるとはいえ、外観構成上最も重要な二つの山形を上下に配してなる着想、構図等その構成の軌を一にするもので、時と所を異にして観察するとき外観上相紛れるおそれのある類似の商標であり、かつ、その指定商品も類似するものといわざるをえないから、本件商標は商標法四条一項一一号に該当し、また、(ロ)請求人は引用商標を附して自動車を世界的に広く販売してきたもので、日本においても昭和二八年以降営業活動を展開し、その結果、引用商標はその製品の優秀性とあいまつて需要者間に広く認識されるに至つたところ、前記した商標の類似性よりして、本件商標をその指定商品に使用するときは、引用商標を想起せしめ、請求人の取扱いに係る商品であるかのごとく混同の生ずるおそれがあり、著名商標保護上国際的信頼にもかかわるものであるから、本件商標は商標法四条一項一〇号又は一五号にも該当するもので、したがつて、その登録は商標法四六条一項一号の規定によつて無効とされるべきであると述べた。

4 被請求人(被告)は、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を求めると答弁し、その理由として、引用商標が矢印を上下平行に単独で配置してなるにすぎないのに対し、本件商標は縦長四角形の黒の地色の中に四つの「A」をデザインしたもので、白抜き部分にしてもその形状配置等顕著に相違するから、両者が外観上類似するとは到底考えられないし、外観上全く非類似のものである以上、現実の使用において引用商標と誤認混同を生じるおそれはないと述べた。

5 そこで審理するに、本件商標は、別紙(一)に示すとおり黒塗りの縦長四辺形状の図形の中に一杯にさまざまな角度の矢印状の図形(最下層は三角形状)を白黒交互にコントラストよく四層に積み重ねたかのごとくであり、全体として各構成部分が調和よく一体の幾何図形を形成しているものであるのに対し、引用商標は、同一の矢印状の図形を上下にかつ平行的に表してなる簡潔な構成よりなるもので、白黒のコントラストよりなる色調の差、各構成部分の表現の差、そしてこれらを含めた全体的外観構成上の顕著な差異により、両商標を時と所を異にして観察するも、外観上互いに相紛れるおそれのない別異の商標と認めざるを得ないものである。

なお、請求人は、本件商標の一部を抽出したうえで両商標の類似を主張し、白と黒の色調を異にしても類似するとした審決例をあげているが、前記理由に照らしてその主張は採用し得ない。

また、引用商標が自動車につき著名な商標であるとしても、両商標が外観上明らかに異なる非類似の商標と認められるものである以上、これをその指定商品に使用するも商品の出所につき混同を生ずるおそれはないものとみるのが相当である。

6 したがつて、本件商標は商標法四条一項一〇号、一一号、一五号のいずれにも該当するものではないから、同法四六条一項一号の規定により、その登録を無効とすべきものではない

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙(一)

<省略>

別紙(二)

<省略>

別紙(三)

<省略>

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