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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)132号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第二号証及び甲第三号証によれば、本願発明は、撮影レンズの合焦状態を光電的に検出し、その検出値に基づき撮影レンズの繰出し量を制御する自動焦点整合装置を備えたカメラ、特に合焦検出不能時にカメラの不必要な動作を阻止する手段を設けた自動焦点整合装置付きカメラに関するもの(昭和六〇年九月七日付け手続補正書第二頁第八行ないし第一四行)であつて、<1> 従来の自動焦点整合装置を備えたカメラは、合焦状態検出不能時にはシヤツタのレリーズを阻止し、焦点の合わない写真が撮られるのを防止するものであるが、撮影レンズや走査ミラーを繰り出してみなければ撮影の可否が分からず、合焦状態検出不能時にも無駄な動作をカメラにさせることになり、電力も無駄に消費されるという欠点があつた(同第二頁第一五行ないし第三頁第一二行)との知見に基づき、撮影レンズの合焦状態の検出を撮影レンズの駆動に先立つて光電的に行い、測距あるいは合焦検出が不能で自動焦点調節が不能な場合それを判別して撮影レンズの駆動を禁止すると共に警告表示を行うようにして右欠点を除去することを目的として(同第三頁第一三行ないし第一九行)、<2> その要旨とする特許請求の範囲記載の構成(同第一頁第六行ないし第二頁第六行)を採用し、<3> 右構成を採用したことにより、「撮影レンズが合焦位置に繰り出されるとレンズがその位置に停止され、一方、撮影レンズが合焦位置にあることによつてはじめてシヤツタがレリーズされるようになるので、制御信号が得られぬ時は、撮影レンズが無駄に繰出されることなく、シヤツタもレリーズされない。」(同第四頁第一一行ないし第一六行)及び「被写体が暗いとき或は被写体のコントラストが低いときは撮影レンズ駆動が一切行われず、無駄な動作をカメラに行わせることを避けることができる。」(同第二一頁第六行ないし第九行)等の作用効果を奏するものであることが認められる。

2 原告は、審決は、第一引用例記載の技術内容を誤認した結果、第一引用例記載の発明は本願発明の要旨とする判別器及び撮影レンズ起動手段を有しない点で本願発明と相違することを看過した旨主張する。

そこで、第一引用例記載の技術内容について検討すると、成立に争いのない甲第四号証によれば、第一引用例記載の発明は、カメラ用の測距儀の改良に関するもの(第一頁左下欄第一七行、第一八行)であつて、<1> 従来の投光型測距儀では、光源に大電力を必要とし携帯用機器に適用することが困難であり、距離信号源としての光線をこれ以外の光線と無関係に抽出する手段がなく、このため光源からの光線を変調する等の複雑なノイズ分離対策を必要とした(同頁左下欄第一九行ないし右下欄第一〇行)との知見に基づき、距離設定に要するエネルギを少なくすると共に特別のノイズ分離対策を不要とすることを目的とし(同頁右下欄第一一行ないし第一三行)、<2> 特許請求の範囲(1)記載の構成、すなわち「光源より照射された光線の被検体からの反射光を、被検体の距離に対応する複数領域に分割した受光体に導き、撮影レンズをフオーカスさせながら反射光が当つた受光体を選択して距離を検知することを特徴とするカメラ用の測距儀」(同頁左下欄第四行ないし第九行)との構成を採用し、<3> 右構成を採用したことにより、「フイルムの巻上げ、シヤツタの巻上げ等と同時に機械的に巻上げレバーで距離設定を行うことが可能となり、サーボモータの如き電力を消費しないから、距離設定に要するエネルギを極度に小さいもので済ませることができる。又距離信号とノイズ信号の合成信号をダイオードを介して記憶すると共に、この記憶値を前記ダイオードで完全にアイソレート可能とし、この記憶値とその後のノイズ信号との差出力により距離検出を行なうようにしたから、何ら特別なノイズ分離対策を必要としない。」(第三頁左上欄第一九行ないし右上欄第一〇行)等の作用効果を奏するものであることが認められる。

そして、前掲甲第四号証によれば、第一引用例に本願発明の要旨とする「前記光電検出手段から前記正常な信号が出力されたときそれを示す判別信号を出力する判別器と、この判別器からその判別信号が出力されたときは撮影レンズ駆動を開始させ、その判別信号が出力されないときは撮影レンズ駆動を禁止する撮影レンズ起動手段」が記載されているとの審決の認定に関連する第一引用例の記載個所を列挙すると次のとおりであつて、ほかに右技術的事項に関する記載は存しないことが認められる。

(イ) 「今測距操作スイツチを兼用するシヤツタレリーズ釦6を押し下げると、光源電源回路23が閉じて光源4より光線が照射される。その光源は被検体9に当つて反射し、受光系レンズ5を通り被検体9に対応した受光体(距離l1の場合は受光体8a、距離l2の場合は受光体8b)に当り、その距離が検知される。光線を検知した受光体8bはそれに応じて出力を生じ、その出力が記憶回路20に一瞬にして記憶される。この記憶が完了した段階で制御スイツチ24が作動し、これに連動してレバー17が反時計方向に回動してフオーカスレバー13の係止を外す。これによりフオーカスレバー13はバネ18の作用で撮影レンズ3を繰出し始める。このときフオーカスレバー13に取付けられた走査端子19は、受光体8a~8nに対応して設けられた接片T1~Tn上を順次に走査し始める。」(第二頁右上欄第一七行ないし左下欄第一五行)

(ロ) 「第3図の実施例ではフオーカスレバー13をバネ18で作動させるものであるが、第6図はこのフオーカスレバー13をモータで駆動するようにした他の実施例である(中略)今受光体の一つが光線を検知し、この検知が記憶回路20に一瞬にして記憶された後、制御スイツチ24が閉じてモータM(第4図)を電源Eに接続する。これによりモータMが駆動して歯車36を回転させると、ラツク歯車32も時計方向に回転し、走査端子19は接片T1~Tn…上を順次に摺動し、同時にフオーカスレバー13を撮影レンズ2の繰出す方向に作動させる。」(同頁右下欄第一二行ないし第三頁左上欄第七行)

(ハ) 第3図(別紙図面(二)参照)には、受光体8a~8nの各々と、記憶回路20と、判別回路21と、制御スイツチ24と、係止レバー17と、フオーカスレバー13との間の接続又は係合関係が図示されている。

(ニ) 「走査端子19が被検体9から反射した光線を検知した受光体8bに対応する接片T2を選択したとき、(第4図から明らかな如く光線を検知した受光体8bを含む回路の出力端子T2に信号が出力されているため選択できる)判別回路21は記憶回路20に記憶された受光体8bを検知し、電磁石22のスイツチを閉じる。」(第二頁左下欄第一九行ないし右下欄第五行)

(ホ) 「なお第3・6図のいずれの実施例においても、カメラからの被検体9の距離が近すぎて、受光体が被検体9から反射した光線を検知できなかつた場合は、撮影レンズ2の焦点を至近距離に合せるように構成しておくを可とする。」(第三頁左上欄第一一行ないし第一五行)

第一引用例の前記(イ)、(ロ)、(ハ)の記載によれば、第一引用例記載の発明は、受光体8a~8n(本願発明の「光電検出手段」に相当する。)から光線検知出力(本願発明の「正常な信号」に相当する。)が出力されたとき、右検知出力が記憶回路20に記憶され、この記憶の完了段階において、制御スイツチ24、レバー17、フオーカスレバー13の動作により、又は制御スイツチ24、モータM、歯車36、ラツク歯車32、フオーカスレバー13の動作により、撮影レンズ3を繰り出し始める(本願発明の「撮影レンズ駆動を開始させる」に相当する。)ものであるが、右(イ)、(ロ)、(ハ)には、光電検出手段から正常な信号が出力された場合の各部の動作に関する記載が存するだけで、光電検出手段から正常な信号が出力されなかつた場合に各部でどのような動作が行われるのかの点についての記載も示唆も存しないから、右記載を根拠に、第一引用例記載の発明が右正常な信号が出力されたことを示す判別信号を出力する判別器を具備し、かつ、右判別器から右判別信号が出力されたときは撮影レンズ駆動を開始させ、一方、右判別信号が出力されないときは撮影レンズ駆動を禁止するように動作するものということはできない。また、第一引用例の前記(ニ)の記載は撮影レンズ2の繰出し動作が開始された後の各部の動作を示すものであつて、同様に右認定の根拠となるものではない。

かえつて、第一引用例の前記(ホ)の記載は、第一引用例記載の発明が本願発明の要旨とする判別器及び撮影レンズ起動手段を具備しないことを理由づけるものである。すなわち、右(ホ)の記載は、焦点合わせの操作に関連した撮影レンズ2の一つの設定形態を示すものであつて、右焦点合わせが行われる条件又は行われない条件についての直接的な記載でないが、右記載中に「受光体が被検体9から反射した光線を検知できなかつた場合」との前提があることからみて、被検体9から反射した光線をいずれか一つの受光体がその他の受光体よりも充分な光量を受けることができなかつたか、あるいは全ての受光体が光量をほとんど受けることができなかつたとき、すなわち「光電検出手段から正常な信号が出力されなかつた」ときのことを述べていることは明白であるから、右前提の記載に続く「撮影レンズ2の焦点を至近距離に合わせるように構成しておく」という撮影レンズ2の設定は、当然に「受光体が被検体9から反射した光線を検知できなかつた場合」、すなわち「光電検出手段から正常な信号が出力されなかつた」ときであると理解される。

ところで、第一引用例に示される測距儀を始めとして焦点合わせ時撮影レンズがカメラ本体内でその軸方向に移動する方式のカメラにおいて、最も遠距離点の被写体に対する撮影レンズの焦点合わせの適合位置は、撮影レンズがカメラ本体内に一番引つ込んだ状態、すなわち被写体から一番遠い状態の位置のところであり、一方、最も近距離点の被写体に対する撮影レンズの焦点合わせの適合位置は、撮影レンズがカメラ本体内から一番繰り出した状態、すなわち被写体から一番近い状態の位置のところであることは技術常識である。

そして、第一引用例記載の発明においても、別紙図面(二)(第3図等)に示されているように、撮影レンズ2の焦点合わせの操作が開始される前の位置、すなわち、撮影レンズ2の初期位置は、最も遠距離点の被写体に対して焦点合わせができる位置のところ、すなわち、カメラ本体内で撮影レンズ2が一番引つ込んだ状態、いわば、被写体から一番遠い状態の位置のところであることは明白であり、したがつて、焦点合わせの操作が行われたときに撮影レンズ2が最も近距離点の被写体に対して焦点合わせができる位置のところは、撮影レンズ2がカメラ本体内から一番繰り出した状態、いわば被写体に一番近い状態の位置のところであることは、前記技術常識からみて明白である。

以上の技術的事項を踏まえて前記(ホ)における「光電検出手段から正常な信号が出力されなかつたとき、撮影レンズ2の焦点を至近距離に合わせるように構成しておく」との記載個所をみると、「光電検出手段から正常な信号が出力されなかつた」ときであつても、撮影レンズ2は、「光電検出手段から正常な信号が出力された」ときと同様に、初期位置(カメラ本体内に一番引つ込んだ状態の位置のところ)から繰り出されるが、撮影レンズ2の適正な焦点合わせの位置が検出されないため最終繰出し位置(カメラ本体内から一番繰り出した状態の位置のところ)まで連続的に繰り出され、最終的にそこで停止するものであると理解される。

そうであれば、第一引用例記載の発明は、本願発明の要旨とする「光電検出手段から正常な信号が出力されたときそれを示す判別信号を出力する判別器」及び「この判別器からその判別信号が出力されたときは撮影レンズ駆動を開始させ、その判別信号が出力されないときは撮影レンズ駆動を禁止する撮影レンズ起動手段」を備えたものということはできない。

この点に関して、被告は、ある発明の進歩性の有無の判断のために対比する引用例記載の技術内容を認定するに当たつては、当該発明との関係において、当業者が引用例から上位概念の技術的思想を理解できるときには、右技術的思想を引用例の技術内容として認定できることを前提として、判別回路21は「記憶回路20に受光体8a~8nの出力が記憶されたかどうかを信号線を介して判別し、記憶されていた場合、出力信号を出力し該出力信号により信号線を介して制御スイツチ24を作動させる」ものであり、制御スイツチ24は「判別回路21から出力信号が出力されたとき、レバー17とフオーカスレバー13を介して撮影レンズ2の繰出しを開始させ、判別回路21から出力信号が出力されないときは、撮影レンズ2の繰出しを行わないようにする」ものであると理解できる旨主張する。

発明の進歩性の有無の判断のために対比する引用例記載の技術内容を認定するに当たつて、当業者が引用例記載の技術的事項から上位概念の技術的思想を理解できるときは、その技術的思想を引用例の技術内容として認定すること自体は判断の手法として誤りではないが、このことを踏まえて第一引用例記載の技術内容を検討しても、前掲甲第四号証によれば、その第3図(別紙図面(二)参照)には、受光体8a~8nと記憶回路20との間、記憶回路20と判別回路21との間、判別回路21と制御スイツチ24との間に電気的接続がなされていることが図示されているが、判別回路21が受光体8a~8nの出力が記憶回路20に記憶されたか否かの判別の動作を行う旨の記載も示唆もなく、また、制御スイツチ24については、前記第3図に判別回路21と制御スイツチ24との間に電気的接続がなされていることが図示されており、制御スイツチ24がレバー17とフオーカスレバー13を介して撮影レンズ2の繰出し動作を開始させることが記載されているが、右撮影レンズ2の繰出し動作を、判別回路21から出力信号が出力されたときに開始させ、右出力信号が出力されないときに開始させない旨の記載も示唆も存しないことが認められる。

したがつて、判別回路21は、「受光体8a~8nの出力が記憶回路20に記憶されたか否かを信号線を介して出力する」ものではないから「右出力により信号線を介して制御スイツチ24を作動させる」ものでもなく、また、制御スイツチ24は、「判別回路21から出力信号が出力されたとき、レバー17とフオーカスレバー13を介して撮影レンズ2の繰出しを開始させる」ものでも、「判別回路21から出力信号が出力されないとき、撮影レンズ2の繰出しを行わない」ものでもないから、被告の前記主張は採用できない。

そうであれば、第一引用例には「光電検出手段から正常な信号が出力されたときそれを示す判別信号を出力する判別器と、この判別器からその判別信号が出力されたときは撮影レンズ駆動を開始させ、その判別信号が出力されないときは撮影レンズ駆動を禁止する撮影レンズ起動手段」が記載されているとの審決の認定は誤りであり、審決は、第一引用例記載の右技術内容を誤認した結果、本願発明の要旨とする判別器及び撮影レンズ起動手段の構成が第一引用例記載の発明に存しないことを看過したものである。

3 原告は、本願発明と第一引用例記載の発明との相違点(1)の審決の判断につき、本願発明の技術的意義を看過誤認した結果、本願発明の要旨とする光電検出手段の作動に関する限定を格別の意義が認められないと誤つて判断した旨主張する。

本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は前記1<1>ないし<3>のとおりであり、これに対して、第一引用例記載の発明は、本願発明の要旨とする「光電検出手段から正常な信号が出力されたときそれを示す判別信号を出力する判別器」と、「この判別器からその判別信号が出力されたときは撮影レンズ駆動を開始させ、その判別信号が出力されないときは撮影レンズ駆動を禁止する撮影レンズ起動手段」とを具備しないものであること前述のとおりであるから、本願明細書に記載されているように、従来のカメラが有する欠点、すなわち合焦状態検出不能時であつても、撮影レンズや走査ミラーの繰出し操作を行い、無駄な動作をカメラに与えるだけでなく電力も無駄に消費されるものに該当し、本願発明のカメラが奏する、制御信号が得られぬ時は、撮影レンズが無駄に繰り出されることなく、シヤツタもレリーズされない、被写体が暗いとき或は被写体のコントラストが低いときは撮影レンズ駆動が一切行われず、無駄な動作をカメラに行わせることを避けることができる、という前記1<3>認定の作用効果を奏し得ないことが明らかである。

そして、本願発明の要旨とする「被写体が暗いときあるいは被写体のコントラストが低いときを除いて」との点は、「光電検出手段」の動作を限定しているものであるが、右光電検出手段が「被写体が暗いときあるいは被写体のコントラストが低いときを除いて」被写体距離あるいは被写体に対する撮影レンズの合焦状態を示す正常な信号を出力するという限定された動作をすることによつて始めて、判別器には、右光電検出手段から正常な信号が出力されたときそれを示す判別信号を出力させるようにし、かつ、撮影レンズ起動手段には、右判別信号が出力されたときは撮影レンズ駆動を開始させ、右判別信号が出力されないときには撮影レンズ駆動を禁止するように構成し、もつて前記1<3>認定の作用効果を達成させるようにしたものであるから、本願発明における「被写体が暗いときあるいは被写体のコントラストが低いときを除いて」との限定には十分な技術的意義があるというべきである。

この点に関して、被告は、本願発明は、撮影レンズの合焦状態を示す正常な信号が得られない場合は、単に撮影レンズの駆動を禁止するというものであつて、その際の被写体の状況によつて特別な撮影レンズの駆動禁止を行うものではないから、前記限定は、本願発明がパツシブタイプのものに係ることを単に示しているにすぎず格別な技術的意義を有しない旨主張する。

しかしながら、本願発明は、撮影レンズの合焦状態を示す正常な信号が得られないときには、判別器及び撮影レンズ起動手段に対して前記認定の駆動をさせるように構成したものであるから、単に撮影レンズの移動を禁止したものではなく、いわば右判別器及び撮影レンズ起動手段の採用によつて特別な撮影レンズの駆動禁止を行つているものというべきである。

したがつて、前記限定は、本願発明がパツシブタイプであることを示すにすぎないものではなく、かつ右限定には格別な技術的意義があるから、被告の前記主張は理由がない。

また、被告は、第一引用例の前記(ホ)の記載は、「被写体の距離が近すぎて」撮影レンズの合焦状態の検出ができない場合の合焦対策を述べているにすぎず、右記載をもつて従来の自動焦点機構の構成を示すものとはいえない旨主張する。

しかしながら、第一引用例の(ホ)の記載は、前記2認定のとおり、撮影レンズの合焦状態の検出ができないときの対策を述べているといえるものの、撮影レンズ2の焦点を至近距離に合わせるためには、撮影レンズ2をその初期位置から最終繰出し位置にまで移動させる必要があり、この場合に、撮影レンズ2の右移動は撮影レンズ2の焦点合わせ動作に伴つて行われるとみるのが最も自然であるから、撮影レンズを初期位置から最終繰出し位置まで移動させた際に「被写体の距離が近すぎる」ために右移動中どの位置においても合焦状態の検出ができなかつた場合における対策を述べているものというべきである。そして、右記載が第一引用例記載の発明の自動焦点機構における焦点合わせの操作の際の撮影レンズ2の一つの設定形態を示すものであつて、前掲甲第四号証を検討しても、第一引用例にこれと異つた設定形態についての記載が認められない以上、第一引用例記載の発明の自動焦点機構における焦点合わせの操作機能は、本願明細書に記載されている従来例のカメラの奏する機能と同等のものであることは明白であるから、被告の前記主張は理由がない。

したがつて、本願発明における「被写体が暗いときあるいは被写体のコントラストが低いときを除いて」の点は、その要旨である「光電検出手段」の構成にとつて必要な動作の限定事項であり、また、右限定によつて始めて前記1<3>認定の作用効果を達成できるものであるから、審決が相違点(1)について、「本願発明が光電検出手段のみを問題にしていることからすると、被写体からの光が光源の照射による反射光によるものか自然光によるものかにかかわりなく、光電検出手段で光電的に検出し得れば足りることであり、「被写体が暗いとき(中略)を除いて」と限定したことによる格別なる意義は認められない」と判断したのは、誤りというべきである。

4 以上のとおりであつて、審決は、第一引用例記載の技術内容を誤認した結果本願発明の要旨とする判別器及び撮影レンズ起動手段の構成が第一引用例記載の発明に存しない点を看過し、かつ、本願発明における「被写体が暗いとき(中略)を除いて」との光電検出手段の作動に関する限定の技術的意義を看過誤認した結果本願発明と第一引用例記載の発明との相違点(1)についての判断を誤つたものであつて、その余の取消事由について判断するまでもなく、違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

被写体距離あるいは被写体に対する撮影レンズの合焦状態を光電的に検出し、被写体が暗いときあるいは被写体のコントラストが低いときを除いて、被写体距離あるいは被写体に対する撮影レンズの合焦状態を示す正常な信号を出力する光電検出手段と、この光電検出手段からの信号に応じて撮影レンズの駆動位置制御を行い撮影レンズを被写体に対する合焦位置に設定する制御手段とから成る自動焦点整合装置と、撮影レンズが合焦位置に至つたときにこれに伴なつてシヤツタレリーズ作動を行うシヤツタレリーズ装置とを有するカメラにおいて、撮影レンズ駆動に先立つて前記光電変換手段に前記検出を行わせる操作スイツチと、この操作スイツチの操作により前記光電検出手段から前記正常な信号が出力されたときそれを示す判別信号を出力する判別器と、この判別器からその判別信号が出力されたときは撮影レンズ駆動を開始させ、その判別信号が手力されないときは撮影レンズ駆動を禁止する撮影レンズ起動手段とを備えたことを特徴とするカメラ(別紙図面(一)参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

<省略>

<省略>

(以下省略)

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