東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)137号 判決
事実及び理由
一 請求の原因1ないし3(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び審決の理由の要点)は、当事者間に争いがなく、審決の理由の要点2摘示の引用例記載の考案の内容、同3摘示の本願考案と引用例記載の考案との一致点及び相違点(1)、(2)も当事者間に争いがない。
1 取消事由(1)について
(一) 相違点(1)について
右当事者間に争いのない本願考案の要旨、引用例記載の考案の内容及び両考案の一致点に成立に争いのない甲第二号証(本願の出願当初の実用新案登録願書類)、第三号証(引用例である実用新案公報)及び第四号証(本願考案に係る昭和六三年四月八日付手続補正書)を総合すれば、本願考案及び引用例記載の考案はいずれも、V字溝入りの可撓性板材の考案に係り、利用者の意図するジグザグ状等の形状に折り曲げることのできる可撓性の板材を提供することを基本的な目的とし、可撓性のシートの両面に板材を接着するとともに、右板材に右シートに達するがこれを傷付けない程度のV字溝を複数条平行に開設するとの共通の構成を採用することにより、それぞれ右目的に相応する作用効果を奏したものであること、両考案において右のように板材を折り曲げることができるのは、主として溝の底のシートの可撓性に由来するものであること、そして、引用例の可撓性板材においても、アコーデオン扉等として、反復継続して、折り曲げられ平面状に伸ばされるような使用形態が予定されているものであることが認められる。
ところで、シートの強靭性に関しては、本願考案においても、単に「強靱で」との限定が付されているのみで、それが具体的にどの程度のものであり、どのような構成により実現されるかは明らかでなく(前掲甲第四号証によれば、本願考案の明細書全体を見ても、その具体的構成については、一実施例に関する説明中に「布、不織布等の強靭で可撓性に富んだシート(2)」(明細書五頁五行ないし六行)との記載がみられるのみである。)、その技術的意義は、可撓性板材が反覆継続したジグザグ状等の折曲げに耐え得ること、すなわち本来の用途に耐え得るといういわばこの種の考案には当然の前提とされていること以上を出でないものというべきである。他方、引用例記載の考案においても前記のような折曲げ等を反覆継続する使用形態が予定されているものである以上、敢えて明示的な記載がなくても、そのバツクシートが右の意味での相応の強靭性を有することは、技術課題として当然の前提とされているものと認めて差支えない。
そうであれば、引用例記載の考案において、可撓性あるバツクシートについて、本願考案におけるように、更に「強靭な」との限定を付す程度のことは、審決認定のとおり、当業者のきわめて容易に想到し得るところであつて、その点に何らの困難性もないものといわざるを得ない。
原告が指摘する引用例中の「特殊樹脂加工を施した紙のような単に可撓性を有するバツクシート」の点については、前掲甲第三号証によれば、引用例の明細書における考案の詳細な説明中に、一実施例に関し、「バツクシート3は例えば特殊樹脂加工を施した紙のようなしなやかな材料からできているから、溝4の底にバツクシートだけを残している部分はここで合板材を折り曲げることが可能となる。」(2欄二三行ないし二七行)との記載のあることが認められるところ、右記載に徴すれば、これが板材の折曲げに資する「可撓な」シートの材料の一例として挙げられているものにすぎず、他の種類のものを排斥するものでないことは明らかであるのみならず、「特殊樹脂加工を施した」という点に着目するときは、単に可撓性のみでなく強靭性についても配慮したものと推測し得るところであるし、他に反覆継続した折曲げの点において、原告が主張するように本願考案が引用例記載の考案に比し特別顕著な効果を奏することを認むべき証拠もないから、引用例記載の考案は強籾性を有しない旨の原告の主張は理由がないというほかない。
(二) 相違点(2)について
(1) 本願考案における「その木理が直交するように複数の天然木単板が積層されてなる積層板材」がいわゆる「合板」として家具、建具、キヤビネツト等に使用されること及び右「合板」が木理が直交しているため狂いが生じないことが本願出願前周知であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三(一九六〇年二月二九日発行の日本合板工業組合「合板」編纂委員会編「合板」)によれば、合板は、通常、木材を薄くむいた板の繊維方向(木目の方向)を一枚毎に直交させて積層接着させたものであること、木材の一枚板(単板)では木目と直角方向の収縮、膨張による反りやねじれ等の狂いが生じやすいのに対し、これを合板とすると、表板の木目の方向とこれに直角の方向とが板厚構成のうえでバランスがとられ、両者の収縮、膨張が互いに牽制されて狂いがほとんど生じなくなるものであることが本願出願前において周知であつたことが認められる。
(2) ところで、引用例記載の考案においても、その板材として木材板(木材、ハードボード等の板の表面に合成樹脂の薄い化粧層を有するものであることにつき当事者間に争いがない。)が使用されるものであるから、その反りやねじれ等の狂いの発生防止という本願考案におけると同様の課題が存することは明らかであり、これを建具等に用いられるものである前記のような周知の合板とすることにより、右課題を解決することは、前記(1)の事実に照らし当業者にとつてきわめてたやすいことと認められる。したがつて、引用例の板材を本願考案におけるような「その木理が直交するように複数の天然木単板が積層されてなる積層板材」(合板)に代えることは、審決指摘のとおり、周知材料の選択にすぎず、当業者のきわめて容易に想到し得るものであることは明らかである。
この点について、原告は、本願考案においては、その板材を右のような構成にすることにより木材の欠点である反りやねじれ等の発生を防止するという特別顕著な作用効果を奏し得たものである旨主張するが、その主張の作用効果は、前記周知の合板自体の有する利点そのものであり、当業者のきわめて容易に推測し得るものであることが明らかであつて、何ら格別のものとはいえないから、原告の右主張も採用の限りでない。
(三) したがつて、取消事由(1)は理由がない。
2 取消事由(2)について
(一) 原告は、相違点(1)、(2)に係る構成を含めた本願考案の各構成要素の協働により、特別顕著な作用効果を奏し得たものである旨主張するところ、原告がその作用効果として具体的に主張する「全体的に何度もの折曲げに耐え得る耐久性に富んだ」可撓性板材が得られるとの効果はシート自体によりもたらされるものであるし、「反りやねじれ等の発生をほぼ完全に防止することができ、木質感や自然感があつて美麗な」可撓性板材が得られるとの効果は、板材として「その木理が直交するように複数の天然木単板が積層されてなる積層板材」を用いる構成としたこと自体によりもたらされるのであり、それぞれ各別に奏される効果であつて右各構成要素が協働することにより奏される効果とは認められず、かかる効果は引用例記載の考案に前記1(二)(1)に述べた合板に関する周知事項を適用することにより得られる総和以上のものとも認めることもできない。他に、本願考案の各構成要素の協働により、右の総和を越えた特有かつ顕著な作用効果の発生することを認めるべき証拠もない。そして、前認定説示のとおり、相違点(1)、(2)はいずれも当業者の容易に想到し得るものであり、かつ、これらを組み合わせることについても何らの困難性もないものと認められることを考慮すると、本願考案は、これを全体としてみても、引用例に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に着想し得るものであることが明らかというべきであるから、これと同旨の審決の認定判断は正当であつて、何ら誤りはない。
(二) したがつて、取消事由(2)も理由がない。
3 よつて、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとする。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
強靭でしかも可撓性に富んだシートと、その木理が直交するように複数の天然木単板が積層されてなる積層板材とを含み、前記シートの片面あるいは両面に、前記積層板材を積層接着するとともに、該積層板材に前記シートに達するがそれを傷つけない程度のV字溝を複数条平行開設したことを特徴とするV字溝入り可撓性板材。