東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)14号 判決
一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨並びに審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
二 取消事由に対する判断
1 取消事由(1)について
(一) 前記当事者間に争いのない本願考案の要旨に、成立に争いのない甲第二号証の一(本願考案の願書並びに添附の明細書及び図面)、同号証の二(昭和五六年九月七日付手続補正書)、同号証の三(昭和六〇年四月三〇日付手続補正書)、同号証の四(昭和六二年一月二九日付手続補正書)、同号証の五(同年六月一一日付手続補正書)を総合すれば、本願考案の主たる目的は、水冷型エンジンの冷却装置について、前記本願考案の要旨のとおりの構成の採用、殊に、エンジンの冷却水ジヤケツトとラジエータとの間に冷却水を循環させるパイプに対して補助タンクを並列状に連結する構成を採用することにより、補助タンクを連結しない場合に比し補助タンクの容量分の冷却水を増加させることにより、装置の全体としての冷却効果を向上せしめるとともに、冷却水中に発生する錆その他の混有異物を希釈する等の作用効果を得ることにあることが認められ、右によれば、本願考案における補助タンクが、原告主張のとおり、要するに冷却水増量用のタンクであることは明らかである(なお、被告は、冷却効果と冷却水量との間には関係がない旨主張するが、程度の問題を措けば、その点を含め、本願考案が目的とする前記のような作用効果が全く期待し得ないものとまで断ずるに足りる証拠はない。)。
(二) これに対し、成立に争いのない甲第四号証(引用例)によれば、引用例には、従来の自動車の冷却装置に関し、「このような冷却系の空気を取り除くために、ウオータージヤケツト1の上部出口側1bと補水タンク4、及びラジエータ2の上部2aと補水タンク4とに空気抜き管7及び8をそれぞれ連結して、冷却ジヤケツト及びラジエータの空気を補水タンクに溜めるようにしている」(引用例二頁一九行ないし三頁四行、なお、別紙(二)図面参照)との記載があることが認められ、右記載によれば、引用例の補水タンクが、冷却系を循環する冷却水から取り除かれた空気を溜めるためのものであることは明らかであり、右の点以外に、引用例中には、補水タンクに関し、冷却水量自体の増量を図る目的を有することを窺わしめるような記載は認められない。
そうであれば、引用例記載の装置における補水タンクは、本願考案の補助タンクにおけるように、冷却水系の冷却水量自体を増加させる目的を有するものでないことは明らかである。
(三) この点に関し、被告は、引用例記載の補水タンクも本願考案の補助タンクと同様、その頂部及び底部が冷却水循環パイプに直接連結されており、ポンプの介在によつて生じた圧力勾配によつて冷却水が循環するものであるから、その点では本願考案の補助タンクと異なるものではないと主張するが、仮に被告主張のとおりであるとしても、被告が引用例記載の装置における補水タンクの具体的な機能等を示すものとして提出する(引用例中には、この点について前記(二)認定の記載以上の記載はない。)成立に争いのない乙第九号証(実願昭四九―五九七〇七号の願書添付の明細書及び図面を撮影したマイクロフイルム)、第一〇号証(実願昭五二―一二三九九号の願書添付の明細書及び図面を撮影したマイクロフイルム)及び第一一号証(実願昭五〇―一七六一九三号の願書添付の明細書及び図面を撮影したマイクロフイルム)によれば、その場合の冷却水の循環の目的は、補水タンクを含む空気抜き回路中で空気を除去された冷却水を再び冷却系に戻すこと及び冷却系を循環する冷却水の水量が減少しないように補給することにあるにすぎないものと認められる。そうであれば、引用例記載の装置における補水タンクが、本願考案におけるように、冷却系の水量を補助タンクの容量分だけ積極的に増量させようとするものでなく、右補助タンクとはその目的、構成、効果において異なつていることは明らかであり、もとより水冷型エンジンの冷却装置において、引用例の補水タンクが本願考案における補助タンクの採択を示唆するものと認めることもできない。
2 そうであれば、審決は、本願考案の補助タンクと引用例の補水タンクとの間の前記相違点を検討することなく、両者が対応関係にあり、両者が実質上異ならないことを前提として爾後の判断をしたものである点で誤りであるというべきであり、かつ、この点の誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、原告のその余の主張について判断するまでもなく審決は違法として取り消されるべきである。
三 よつて、原告の本訴請求を認容する。
〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。
車両に水冷型エンジン並びにフアン付冷却器が装備され、該冷却器の上部とエンジンの冷却水ジヤケツト間は流入パイプで接続され、同冷却器の下部とエンジンの冷却水ジヤケツト間は流出パイプで接続され、これら流路中に介装したポンプにより冷却水を循環自在としたものにおいて、前記車両の車両走行風があたる位置に補助タンクが配置され、該補助タンクの頂部と前記流入パイプとが上部連通パイプで内通状に連絡され、同補助タンクの底部と前記流出パイプとが下部連通パイプで内通状に連絡され、かつ、前記補助タンクの容量は、エンジンの温度を五〇℃以下に維持する容量とされていることを特徴とする水冷型エンジンの冷却装置。(別紙(一)図面参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙(一)
<省略>
別紙(二)
<省略>